EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿では、SBT for Nature ガイダンスv1.0の概要について説明します。
要点
科学的根拠に基づく自然に関する目標(Science Based Targets for Nature、以下「SBT for Nature」)は、自然に関する科学に基づいた目標設定のためのフレームワークであり、Science Based Targets Network(以下「SBTN」)により開発が進められています。SBTNは、経済システムを変革し、われわれの大気、水、土地、生物多様性、海洋といったグローバル・コモンズを保護することを目的として、60以上の組織の専門家により形成されています。
2020年に企業向け初期ガイダンスが発行されたのち、目標設定方法の詳細を提供するため、公開協議や外部専門家の審査等を経て、23年5月に技術ガイダンスv1.0が発行されました。
SBTs for Natureの概要については、以下の記事も参照ください。
TNFDベータv0.3版発行:推奨される科学的根拠に基づく自然関連の目標(SBT for Nature)設定方法
今回のリリースは、あらゆる規模とセクターの企業に、淡水(Freshwater)、陸(Land)、生物多様性(Biodiversity)、海洋(Ocean)についての自然関連の包括的な科学的根拠に基づく目標を設定できるようにガイドする最初の重要なステップであり、今後も開発に沿って、ガイダンスでカバーできる範囲が拡大される予定です。
技術ガイダンスv1.0では、共通ガイダンスとしてステップ1と2、分野ごとのガイダンスに分かれたステップ3(計測・設定・開示)が発行されました。
技術ガイダンスに加え、ステップ1から3にわたって、生物多様性というSBTNの中核課題がどのように関連するかをハイレベルで説明する「生物多様性ショートペーパー」と、目標設定時に従うことが強く推奨される「ステークホルダー・エンゲージメント・ガイダンス」も同時発行されました。今後、企業の実装をガイドするための「コーポレートマニュアル」、メソッドに組み込まれた検証基準の要約文書、および検証済みの目標を正確に伝えるための「クレームガイダンス」が発行される予定です。
共通ガイダンスが発行されたステップ1と2の概要は以下のとおりです。
SBTNを実施する最初のステップとして、自社操業とバリューチェーン全体にわたり、どの環境インパクトに対して、ビジネスのどの部分で、バリューチェーンのどこに目標を設定するかを決定するプロセスであり、ほぼすべての企業に適応することができます。ステップ1はさらに2つのステップに分けられます。
ステップ1の結果に基づき、自然への最も重大な悪影響を効果的に軽減し、プラスの影響の可能性を高めるために、どの目標を設定するか、どの場所と経済活動をターゲットの境界に含めるか、どこで最初に行動するかを決定するプロセスです。ステップ2はさらに4つのステップに分けられます。
SBTiは、気候に焦点を当てた企業向けの科学に基づく目標であるのに対し、SBTNは、安全な未来を保証するためにはさらに多くのことが必要であると認識し、企業にとって、そして究極的には都市にとっても、気候に関連するものだけでなく、環境のあらゆる側面に対して目標を設定する方法を開発しています。
気候はSBTNの枠組みの陸、淡水、海洋、生物多様性に続く5番目の柱であり、温室効果ガスに寄与しているすべての企業は、科学に基づく自然の目標の一部として、SBTiを通じて気候目標を設定することが期待されています。
SBTi |
SBT for Nature |
|
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開始時期 |
2015年 |
2023年 |
運営母体 |
SBTi |
SBTN |
目標設定対象 |
気候変動(温室効果ガス排出量など) |
自然資本。対象分野に以下の5分野が定義されています
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目標水準 |
2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)または1.5℃目標
(パリ協定に基づく) |
ネイチャーポジティブ(Nature Positive)
(SBTNにより定義) |
基準・ガイドライン |
SBTiにより以下が発行されている
など |
SBTNにより以下が発行されている
など |
認証 |
SBTiによる認証スキーム |
パイロットプロジェクトで検証中(結果は2024年公開予定) |
TNFDは、企業がTNFD開示提言を適用して目標を設定する場合、SBTNが開発した手法を使用することを推奨しています。また、設定した目標に向け行動し、進捗と実績を測定することを推奨しています。
TNFDの”Guidance for corporates on science-based targets for nature”は、TNFDとSBTNの共著となっており、SBTs for Nature設定のための5つのステップについて、概説および各ステップで必要となるデータ要件等について説明しています。SBTs for Natureのステップ3またはステップ5まで完了することで、TNFDの開示推奨事項「測定指標とターゲットC」に使用できるとしており、またLEAPの各段階のステップは、SBTNの目標設定に役立つとされています。
TNFD開示提言 |
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戦略B |
自然関連の依存、インパクト、リスク、機会が、組織のビジネスモデル、バリューチェーン、戦略、財務計画に与えた影響、および移行計画や分析について説明する。 |
測定指標とターゲットC |
組織が自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を管理するために使用しているターゲットと目標、それらと照合した組織のパフォーマンスを記載する。 |
TNFD LEAPアプローチ |
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Prepareフェーズ, P2:ターゲット設定およびパフォーマンス管理 |
どのようにターゲットを設定し進捗度を定義・測定するのか。 |
また、TNFD LEAPアプローチとSBT for Natureの手法には、8つの共通アウトプットがあります。いずれかのアプローチを用いる組織が、これら8つの共通アウトプットを作成することができます。
【共同執筆者】
ゴウ シウエイ(Shiwei Gou)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)
シニアコンサルタント
中国出身。京都大学地球環境学博士。景観生態学のバックグラウンドを持ち、世界遺産の文化的景観の保全と評価に関する研究を実施。博士号取得後、民間企業で経営企画部の勤務を経て、2022年にEY新日本有限責任監査法人へ入社し、EHS、環境デューデリジェンス、自然関連情報開示などの幅広く環境・サステナビリティ分野の業務に従事。
古川 真理子
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)
シニアコンサルタント
筑波大学生命環境科学研究科環境科学専攻博士前期課程修了後、国際協力機構(JICA)にて、東南アジアやアフリカ諸国における気候変動対策、廃棄物管理、水環境のプロジェクト等に従事。2023年にEY新日本有限責任監査法人へ入社し、環境デューデリジェンス、LEAPアプローチを含むTNFD開示支援、大規模イベントにおける資源循環分野における業務支援など、幅広く環境・サステナビリティ分野の業務に従事。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
SBTs for Nature v1.0では共通ガイダンスとしてステップ1と2、分野ごとのガイダンスに分かれたステップ3が発行され、今後もガイダンスのカバー範囲は拡大される予定です。気候目標についてはSBTiの手法を活用することが推奨され、SBTs for Natureの手法はTNFDとも共通のアウトプットがあります。
TNFD最終提言v1.0版発行:自然関連財務情報開示のためのフレームワークが決定し、企業にとって把握し、開示すべきものが明確になりました
2023年9月18日にTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)最終提言v1.0版が発行されました。今回のv1.0版で示されたTNFDの全体構成、主な要素、およびベータ版v0.4からの重要な変更点について解説します。
TNFDベータv0.4版発行:目標設定のガイダンス(Annex 4.8)について
自然関連の財務情報開示フレームワークTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表され、多くの付属文書が公表されました。本稿ではそのうち、目標設定に関するガイダンス(Target Setting:Annex 4.8)について概説します。