―目線は常にクライアントファースト
池山:EY Tech MBAではテクノロジー以外にも、リーダーシップについて学びましたね。コミュニケーションが活性化した理由の一つに、このリーダーシップの学びもあると考えます。
原:おっしゃる通り、いくらテクノロジーを駆使し、早期にリスクを検知したところで、それをクライアントにご理解をいただかなければ監査の価値は生まれません。その観点でお話しすると、学んだリーダーシップの中で、ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)に関連した内容が印象に残っています。私は現在、監査事業部で監査業務を行う傍ら、アシュアランスイノベーション本部CoE推進部という部署でプロセスマイニングチームのリーダーをしています。そのチームは会計士のみならず、プロセスマイニングの技術者が大半を占めます。そういった中では監査業務のチームでの仕事とは異なるコミュニケーションが必要になり、どのようにしてチームをけん引し、プロジェクトを成功させ、クライアントに監査の価値を届けるか、DE&Iのプログラムで学んだ多様性の観点を常に意識しました。
―プロセスマイニングでクライアントビジネスの深部へ
池山:プロセスマイニングというワードが出ましたが、なじみのない方もいらっしゃるかもしれません。ご説明をいただけますか。
原:プロセスマイニングは一言で言うと「プロセスを可視化して分析をする」というツールです。監査業務で監査人は通常、企業活動の結果として出てきた数字を見ていますが、プロセスマイニングではその数字が出てきた過程を見ます。途中で間違う可能性があるかどうか、間違いをクライアントが是正できているか、そういった過程をデータ化し、可視化して確認します。今まで手作業でのサンプルベースでしか確認できていなかったものが、プロセスマイニングを行うことで全件のデータを確認することができ、その中で特にリスクがあるところに絞ってクライアントとコミュニケーションすることにより、リスクの早期検知が可能になります。また、結果として資料準備等のクライアントにご対応いただく時間を削減でき、監査効率化につなげることも可能です。プロセスマイニングによる会計監査の高度化については、こちらの記事もぜひご覧ください。
池山:プロセスマイニングで全件のデータ分析を行い検出される項目のうち、具体的にどのようなものはリスクが高いと言えるのでしょうか。
原:クライアントのビジネスの深い理解が必要になるため実務上難しいところですが、例えば購買プロセスでは発注の承認がないというのは典型的な検出事例としてあります。しかし、予算の範囲内であれば承認なく発注ができる業務フロー設計の場合、承認がないこと自体がすぐに問題事項となるわけではありません。また、一見すると承認がないように見えたとしても、そのプロセスに出てこないところで別に承認を経ているケースもあります。プロセスマイニングにおいて取引全件の可視化が可能ですが、それだけではまだ問題事項にたどり着くには十分ではなく、発見した問題事項についてクライアントと監査人で深くコミュニケーションを取ることが必要です。
―監査を通じて入手したインサイトを企業価値向上につなげる
池山:監査における指摘事項にとどまらず、より良い内部統制の構築などの助言にもつながりそうですね。
原:前提として監査業務においてはプロセスマイニングを監査ツールとして利用するため、決算数値が正しいかどうかを確認することが第一優先順位ですが、監査上重要となる問題事項がない場合でも、クライアントの健全な成長、企業価値向上につながるよう、オペレーションあるいはガバナンスの観点から重要であると考えられる事項をお伝えしています。クライアントとしてもデータを有効活用しビジネスに役立てていきたいとお考えと思いますので、監査人としてもEY内のアドバイザリー部門とも連携しながら、クライアントの良きビジネスパートナーとして貢献できることを目指しています。なおデータ活用の一方で、クライアントが持つデータやその活用が増えることで、同時にサイバーセキュリティの重要性も高まっています。監査業務においても、EY新日本では監査クライアント向けのサイバーセキュリティに関する「Cyber in Audit」というサービスを提供しています。高度な内容はサイバーセキュリティの専門家をチームに招集しますが、監査チームにおいてもサイバーセキュリティに関しての基礎的な内容について研修を実施し理解を深めているため、データ活用とともにデータ保全の観点でも気づき事項をクライアントにお伝えできる体制となっています。
―AIを活用した次世代のアシュアランス・プラットフォーム