公認会計士 伊藤 毅
(3) 暫定的な会計処理の確定の取扱い
企業結合に関する取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後1 年以内に配分する必要があります。(企業結合会計基準第28項)
ただし、企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます。
暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合、改正前では、企業結合年度の財務諸表がすでに確定しているため、企業結合年度に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分の見直しが行われたときの損益影響額を、企業結合年度の翌年度において、原則として、特別損益(前期損益修正)に計上することとされていました。
改正後では、国際的な会計基準と同様に、比較情報の有用性を高める観点から、追加的に入手した情報等に基づき企業結合年度の翌年度に、暫定的な会計処理が確定した場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行うこととされました(企業結合会計基準(注6)、第104-2項)。よって、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額も取得原価が再配分されたものとして処理されます。
当該企業結合年度の翌年度の財務諸表と併せて表示する企業結合年度の財務諸表は、暫定的な会計処理による取得原価の配分額の見直しが反映された後の金額により算定されます。
暫定的な会計処理の例
<前提条件>
- A社がB社を吸収合併した
- 合併によりA社が発行した株式の時価は200
- 企業結合日 ×0年10月1日
- 決算日 3月31日
- 暫定的な会計処理の内容
時期 | 内容 |
×1年3月期 | 企業結合日の識別可能な無形資産の時価の算定のみ完了していないため、暫定的な会計処理として無形資産を認識せず、取得原価200とB社の純資産100の差額100をのれんとして計上した。なお、当該のれんの償却年数は10年とした。 |
×2年3月期 | 無形資産の時価の算定は×2年第一四半期に完了して40と評価した。これにより取得原価の配分は確定した。なお、当該無形資産の償却年数は5年とした。 |
- 企業結合日(×0年10月1日)におけるB社に関する財務諸表項目
暫定的な会計処理の確定をしない場合における各期の無形資産及びのれんの金額
企業結合日にさかのぼって暫定的な会計処理の確定をする場合における各期の無形資産及びのれんの金額
<改正前>
暫定的な会計処理が確定した×2年度の有報において、比較年度である×1年3月期に暫定的な会計処理の確定の影響を遡及的に反映させない
<改正後>
暫定的な会計処理が確定した×2年度の有報において、比較年度である×1年3月期に暫定的な会計処理の確定の影響を遡及的に反映させる
なお、企業結合年度の翌年度の財務諸表と併せて表示する企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しが反映されている場合、当該企業結合年度の翌年度の財務諸表と併せて表示する企業結合年度の財務諸表の1株当たり当期純利益及び潜在株式調整後1株当たり当期純利益や、1株当たり純資産額は、当該見直しが反映された後の金額により算定されます(EPS会計基準第30-6項、EPS適用指針第36-3項)。
改正内容をまとめると、以下の表のようになります。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
会計処理 (暫定的な会計処理の確定が、企業結合年度の翌年度において行われた場合) |
確定処理をすることの損益影響額は、企業結合年度の翌年度において特別損益(前期損益修正)に計上 (⇒確定処理をした期の財務諸表で調整をする) |
企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映 (⇒比較情報の修正をする) |
注記 | - | 比較情報の1株当たり情報に暫定的な会計処理の確定による影響を反映させる |
(4) 表示方法に関する改正
① 表示科目の改正
各財務諸表の表示科目について、以下のように表示が変更されます。
改正前 | 改正後 | |
連結貸借対照表 | 少数株主持分 | 非支配株主持分 |
連結損益計算書 | 少数株主損益調整前当期純利益 | 当期純利益 |
少数株主利益 | 非支配株主に帰属する当期純利益 | |
当期純利益 | 親会社株主に帰属する当期純利益 | |
包括利益計算書 | 少数株主に係る包括利益 | 非支配株主に係る包括利益 |
② 暫定的な会計処理の確定の処理が改正されたことに伴う株主資本等変動計算書の改正
企業結合会計基準に従って暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われ、当該年度の株主資本等変動計算書のみの表示が行われる場合には、期首残高に対する影響額を区分表示するとともに、当該影響額の反映後の期首残高を記載します。(株主資本会計基準第5-3項)
4. 適用時期
適用時期は次のように整理されます。(企業結合会計基準第58-2 項、連結会計基準第44-5 項及び事業分離会計基準第57-4項)
早期適用する場合 | 早期適用しない場合 | 遡及処理等 | |
① 支配が継続している場合の連結子会社に対する親会社の持分変動 | 平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から | 平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から | 過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金及び利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する。 ただし、本会計基準が定める新たな会計方針を、適用初年度の期首から将来にわたって適用することもできる。※ 平成25年改正会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。 |
② 取得関連費用の取扱い | |||
③ 暫定的な会計処理の確定の取扱い | 平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から | 平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から | 平成27年4月1日(早期適用の場合は平成26年4月1日)以後開始する事業年度の期首より前に実施された企業結合の暫定的な会計処理が、平成27年4月1日(早期適用の場合は平成26年4月1日)以後開始する事業年度において確定したときの損益影響額は、従前の取扱いにより特別損益に計上する。 |
④ 当期純利益の表示及び少数株主持分から非支配株主持分への変更 | 早期適用不可 | 平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から | 当期の連結財務諸表に併せて表示されている過去の連結財務諸表の組替えを行う。 |
※ 改正基準適用前の非支配株主との取引及び取得関連費用についてについて、長期にわたり相当程度の情報を入手することが必要になることが多く、そうした場合は実務的な対応に困難を伴うこととなります。改正会計基準では、原則として遡及修正による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金及び資本剰余金に反映させるとしながら、それが困難である等の条件は付さず、期首から将来にわたって適用することもできるとしています。
3月決算会社の場合の適用時期のイメージ図
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M&Aの会計処理及び開示における要確認ポイント
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