EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
加藤 圭介、平川 浩光、山澤 伸吾、久保 慎悟
2025年3月期第1四半期決算は、改正された四半期開示制度に基づく初めての四半期決算であり、また、改正法人税等会計基準及び実務対応報告第46号が原則適用となります。
そこで、本稿では、2025年3月期第1四半期及び半期決算上の留意事項として、改正四半期開示制度と当該改正四半期開示制度下での初めての四半期決算に係るポイントについてQ&A方式で解説するとともに、新会計基準等の解説などの2025年3月期第1四半期及び半期決算のトピックをQ&A方式で解説します。
- 改正四半期開示制度編
Q1 改正四半期開示制度の概要
Q2 第1・第3四半期決算短信
Q3 中間財務諸表に関する会計基準
- 改正四半期開示制度下での初めての四半期決算に係るポイント編
Q4 中間決算に引き継がれる第1四半期の会計処理
Q5 企業内の組織構造の変更等への対応
Q6 期首又は第1四半期に実施しておくべき会計処理等
Q7 四半期財務諸表や中間財務諸表の会計方針の変更の可否
- 2025年3月期第1四半期及び半期決算のトピック編
Q8 為替相場の変動
Q9 2025年3月期から原則適用される会計基準等
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 | 本文中の略称 |
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 | 金融商品会計基準 |
企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」 | 四半期会計基準 |
企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」 | セグメント会計基準 |
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」 | 連結会計基準 |
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 | 法人税等会計基準 |
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 | 収益認識会計基準 |
企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」 | 中間会計基準 |
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」 | 減損適用指針 |
企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」 | 四半期適用指針 |
企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」 | 退職給付適用指針 |
企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」 | 中間適用指針 |
実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」 | 実務対応報告第46号 |
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 | 外貨建取引等実務指針 |
会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」 | 資本連結実務指針 |
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」 | 金融商品会計実務指針 |
監査・保証実務委員会実務指針第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」 | 連結範囲取扱い |
会計制度委員会研究報告第14号「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」 | 比較情報研究報告 |
金融商品取引法 | 金商法 |
連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則 | 連結財規 |
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 | 財規 |
改正四半期開示制度編
Q1. 改正四半期開示制度の概要
四半期開示制度の見直し(金商法の改正、財規等の改正、取引所の四半期決算短信制度の改正)の概要を教えてください。
A1.
(1) 概要
2023年11月20日の臨時国会において、四半期開示制度の廃止を含む「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)(以下「改正金商法」という。)が可決成立しています。
この改正金商法の成立によって、企業開示制度の見直しが行われ、四半期報告制度が廃止されることになりました。具体的には、この改正により、2024年4月1日以後に開始する四半期会計期間から四半期報告書制度は廃止され、上場会社には半期報告書の提出が義務付けられます。そして、第1・第3四半期開示については、四半期決算短信に一本化されることになります((図表1)参照)。
なお、2024年4月1日より前に開始した四半期会計期間については、従来どおり、四半期報告書の提出が求められます。
図表1 四半期開示制度の見直しの全体像
(2) 改正の目的
法改正にあたっては、デジタル化の進展等の環境変化に対応し、金融サービスの顧客等の利便の向上及び保護を目的とするものであることが明示されています。改正の背景にある課題の1つとして、企業経営や投資家の投資判断においてサステナビリティを重視する動きがみられ、企業開示においても中長期的な企業価値に関連する非財務情報の重要性が高まっていますが、一方で、金商法に基づく四半期報告書と取引所規則に基づく四半期決算短信ではその内容に重複がみられ、コスト削減や効率化の観点から見直すべきとの指摘があったとされています。
このような状況を背景に、報告の頻度を見直すことにより企業の負担を軽減し、より長期的な視点での投資家とのコミュニケーションを促進することが改正の主要な目的とされています。
(3) 適用範囲
改正金商法により影響を受ける会社は以下のとおりです。
- 金商法24条の5第1項の表の1号に掲げる上場会社等
- 金商法24条の5第1項ただし書きにより、同項の表の1号に掲げる上場会社等と同様の半期報告書を提出する3号に掲げる非上場会社※
※ 3月期決算会社の2024年4月以後開始する事業年度から、非上場企業の半期報告書においても、新半期報告書の選択適用が可能(金商法24条の5第1項及び附則3条1項)。なお、銀行等(特定事業会社)の半期報告書の制度(中間監査)は変更はない
(4) 主要な改正点
今回の四半期開示制度の主要な改正ポイントの概略は以下のとおりです。
① 四半期報告書制度の廃止
金商法24条の4の7及び24条の4の8の削除により、上場会社が四半期ごとに四半期報告書を提出する義務が廃止されます。これにより、第1・第3四半期については、四半期ごとの詳細な財務情報の公開が義務ではなくなり、第2四半期に係る四半期報告書は、半期報告書としての報告に変更されることになります。
② 四半期決算短信の拡充
第1・第3四半期については、四半期決算短信の開示に一本化されます。これを受け、セグメント情報、キャッシュ・フロー計算書に関する注記事項など、開示内容の追加が証券取引所の規則により義務付けられることになります。
③ 四半期に係る会計監査人のレビュー
従来の四半期報告書においては、四半期財務諸表について監査人のレビューが義務化されていましたが、第1・第3四半期の四半期報告書が廃止されることにより、法定のレビューは半期報告書のみとなります。
第1・第3四半期の決算短信に対する監査人のレビューは原則任意とされていますが、会計不正等により、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合には、監査人のレビューが証券取引所の有価証券上場規程施行規則により義務となります(金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等のポイント)。
(5) 改正金商法の適用時期
改正金商法の適用は、2024年4月1日以後に開始する四半期会計期間からとなります(改正金商法附則2条1項)。ただし、2024年4月1日より前に開始した四半期会計期間については、従来どおり、四半期報告書の提出が求められます。したがって、決算期によって四半期報告書が廃止され四半期決算短信に統一される時期、及び新たに定められた半期報告書の提出が求められる時期が異なるため、留意が必要です((図表2)参照)。
図表2 決算期別の改正法の適用時期
(6) 開示制度と適用される会計基準及び開示規則
制度見直し後の半期報告書は、ASBJ所管の中間会計基準及び金融庁所管の開示に関する法令(財務諸表等規則関係)に基づき作成することになります。一方で、四半期決算短信については、取引所規則に基づき作成されますが、その詳細については、現行の四半期会計基準を参照する形となりました((図表3)参照)。
図表3 四半期開示制度見直し後に適用となる会計基準
① 金融庁(開示府令、財務諸表等規則等)
金融庁は、四半期報告書制度の廃止に関する規定の施行に伴い、関係政令・内閣府令等の規定を整備するため、2024年3月27日に「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令」等を公布しています。
これにより、従前の四半期(連結)財務諸表は、第1種中間(連結)財務諸表に改正され、従前の中間(連結)財務諸表は、第2種中間(連結)財務諸表に改正されました。第1種中間(連結)財務諸表が含まれる半期報告書は、改正前の第2四半期(連結)財務諸表が含まれる第2四半期報告書と同程度の記載内容となっています。
また、今回の改正においては、財務諸表等規則、四半期財務諸表等規則及び中間財務諸表等規則の一体化が行われており、(図表4)のような再編が行われています。これは、連結財務諸表規則、四半期連結財務諸表規則及び中間連結財務諸表規則についても同様となります。
図表4 財務諸表等規則等の再編
② 東京証券取引所(四半期決算短信)
東京証券取引所では、2023年12月18日に、「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等について」を公表し、2024年3月28日に有価証券上場規程等の改正が行われました。
第1・第3四半期に係る決算短信の開示内容の詳細は(Q2)をご参照ください。
③ ASBJ(中間会計基準)
ASBJにおいて、改正後の金融商品取引法上の半期報告書制度に対応する会計基準等について検討が行われ、2024年3月22日に、中間会計基準及び中間適用指針が公表されています。
この中間会計基準の詳細は(Q3)をご参照ください。
Q2. 第1・第3四半期決算短信
制度見直し後の第1・第3四半期決算短信の開示内容及び有価証券上場規程等の一部改正の概要を教えてください。
A2.
(1) 概要
東京証券取引所では、2023年11月22日に、「四半期開示の見直しに関する実務検討会」における検討を踏まえ、「四半期開示の見直しに関する実務の方針」をとりまとめ、公表しています。また、2023年12月18日には、「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等について」を公表し、2024年3月28日に有価証券上場規程等の改正が行われました。
また、有価証券上場規程等の改正にあわせて、四半期決算短信等の様式の改訂内容や作成にあたっての留意事項を取りまとめた「決算短信・四半期決算短信等作成要領等」(以下「作成要領」という。)の改訂を公表しています。
(2) 第1・第3四半期決算短信の開示内容
第1・第3四半期に係る決算短信の開示内容については、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告で示されていた方向性を踏まえ、四半期報告書で開示されていた事項のうち、投資家の要望が特に強い事項を四半期決算短信に追加し、開示を義務付けることとされました。開示を義務付ける事項は、(図表5)のとおりですが、現行の四半期決算短信から、サマリー情報に「レビューの有無」の記載を追加するとともに、添付資料の四半期財務諸表等において、「セグメント情報等の注記」及び「キャッシュ・フローに関する注記(任意に四半期キャッシュ・フロー計算書を開示する場合を除く。)」を追加しています。
また、開示が義務付けられる事項以外についても、原則として、上場会社が投資者ニーズを適切に把握し、投資者ニーズのある事項に関して積極的に開示することが重要とされています。このため、会社情報適時開示ガイドブックにおいて投資判断に有用と考えられる情報を例示し、投資者ニーズに応じた自発的な開示を促すこととされました。この投資判断に有用と考えられる情報の具体例は(図表5)をご参照ください。
図表5 第1・第3四半期決算短信の開示内容
(*1)日本基準、IFRS、米国基準で取扱いに差は設けず一律義務付け。四半期会計期間に係る連結損益計算書及び連結包括利益計算書は省略可
(*2)決算説明資料など決算短信以外での開示を行うことも可。その場合、該当書類を参照すべき旨・参照方法を記載
出典:株式会社東京証券取引所上場部 「四半期開示の見直しに関する実務の方針」、www.jpx.co.jp/news/1023/bkk2ed0000002ovx-att/bkk2ed0000002oz7.pdf (2023年11月26日アクセス)を基にEY作成
(3) 四半期財務諸表等の作成方法
四半期財務諸表又は四半期連結財務諸表(以下「四半期財務諸表等」という。)については、有価証券上場規程施行規則の別添として定める「四半期財務諸表等の作成基準」(以下「四半期作成基準」という。)に準拠して作成するものとされています((Q1)図表3参照)(有価証券上場規程404条2項、有価証券上場規程施行規則405条1項)。
この四半期作成基準は、ASBJの四半期会計基準等に準拠するなどして作成することとされており、制度見直し前の四半期財務諸表等の作成実務を踏襲できるように規定されています。
なお、作成要領において、四半期財務諸表等における項目の別掲基準などの表示に係る取扱いについては、第1種中間財務諸表等での取扱いを準用するものとされ、財規等が準用されることになります。
図表6 四半期財務諸表等の作成基準の概要
また、四半期財務諸表等の作成については、2つの財務報告の枠組みのいずれかに基づいて四半期財務諸表等を作成することになります。
1つ目の財務報告の枠組みは、四半期作成基準4条1項に従い、四半期会計基準等に準拠して「適正表示」による財務報告の枠組みにより作成するものとなります。この場合には、従前の四半期報告書と同様の内容の四半期財務諸表等を作成することになります。
もう1つの財務報告の枠組みは、四半期作成基準4条1項に準拠して四半期財務諸表等を作成するとともに、四半期作成基準4条2項を適用し、東京証券取引所が開示を義務付ける事項(図表5の財務諸表及び注記事項を参照)以外の事項について記載を省略する、「準拠性」の枠組みとなります。開示負担の軽減や効率化の観点から改正された四半期開示制度の趣旨を踏まえると、実務上は多くのケースが、この省略規定を適用する「準拠性」の枠組みとなることが考えられます。
なお、それぞれの枠組みにおける監査人のレビューについては、前者の枠組みに基づき四半期報告書と同様の四半期財務諸表等を作成する場合には適正表示に関する結論となり、後者の枠組みに基づき四半期財務諸表等を作成する場合には準拠性に関する結論となります。
(4) 第1・第3四半期決算短信の開示タイミング
制度見直し後の決算短信について、見直し前と同様に「決算の内容が定まった場合は、直ちにその内容を開示」することとされています(有価証券上場規程404条2項)。このため、第1・第3四半期決算短信については、新制度の半期報告書の法定提出期限に準じて、各四半期終了後45日以内に開示することを原則としています。
なお、レビューを受ける場合の「決算の内容が定まった場合」の考え方については作成要領において定められています。具体的には、レビューが義務づけられている場合には、レビューが完了次第、第1・第3四半期決算短信を開示することを原則としています。
他方、任意にレビューを受ける場合は、レビューが完了する前とするか、又はレビューが完了次第とするか、各上場会社において判断することとされています。
レビューが完了する間に開示する場合、レビュー完了後に改めてレビュー報告書を添付した第1・第3四半期決算短信の開示が必要となります。この場合、レビューが完了する前の1回目の開示においては、サマリー情報の特記事項において、レビュー完了後に第1・第3四半期決算短信の開示を行う旨及び開示予定日の記載が求められています。また、レビューが完了次第行う2回目の開示においては、第1・第3四半期決算短信に頭紙を添付し、レビューが完了する前に開示した四半期財務諸表等からの変更の有無等について説明することが求められています。
(5) 見直し後の第2四半期・通期決算短信
見直し後の第2四半期・通期決算短信については、対応する法定開示が存続することから、法定開示に対する速報の位置付けという現行の取扱いが維持されています。
このため、第2四半期(中間期)については、半期報告書における中間財務諸表等に係る定めを参照して作成した中間財務諸表等を開示することとなり、第1・第3四半期決算短信の作成基準である四半期作成基準や作成要領は適用されないこととなっています。
Q3. 中間財務諸表に関する会計基準
四半期開示制度の見直し後の中間財務諸表の会計処理及び開示はどのようになるのか、中間会計基準の概要を教えてください。
A3.
(1) 概要
ASBJにおいて、金商法上の四半期報告書制度の見直しへの対応として、改正後の金商法上の半期報告書制度に対応する会計基準等について検討が行われ、2024年3月22日に、中間会計基準及び中間適用指針(以下、合わせて「中間会計基準等」という。)が公表されました。
また、2024年5月27日に、日本公認会計士協会から、改正資本連結実務指針が公表されています。
(2) 公表理由
(Q1)の通り、2023 年 11 月に改正金商法が成立し、四半期開示制度の見直しとして、上場企業について金商法上の四半期開示義務(第1・第3四半期)が廃止され、開示義務が残る第2四半期報告書を半期報告書として提出することとされました。これにより改正金商法上は半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表(以下、合わせて「中間財務諸表」という。)が開示されることになるため、当該中間財務諸表に係る会計処理及び開示に関する取扱いを定めたものです。
(3) 適用範囲
中間会計基準等は、改正金商法に従い、新たに中間財務諸表を作成する企業に適用されます。具体的には、次の会社が半期報告書制度に基づき作成する中間財務諸表(改正後の財規等における第1種中間財務諸表)に適用されます(中間会計基準4項)。
- 金商法第24条の5第1項の表の1号に掲げる上場会社等
- 金商法第24条の5第1項ただし書きにより、同項の表の1号に掲げる上場会社等と同様の半期報告書を提出する3号に掲げる非上場会社
※ なお、従前より特定事業会社(銀行法、保険業法及び信用金庫法の特定の条項で定める業務に係る事業を行う会社)及び四半期財務諸表を提出していない非上場会社においては中間財務諸表の作成が義務付けられ、当該中間財務諸表には、中間連結財務諸表作成基準、中間連結財務諸表作成基準注解、中間財務諸表作成基準及び中間財務諸表作成基準注解(以下、合わせて「中間作成基準等」という。)が適用されています。これらの会社が作成する中間財務諸表については、引き続き中間作成基準等が適用されることになります(中間会計基準BC10項)。
(4) 開発にあたっての基本的な方針
中間会計基準等の開発にあたっての基本的な方針として、中間財務諸表の記載内容が従前の第 2 四半期報告書と同程度の記載内容となるように、基本的に四半期会計基準及び四半期適用指針(以下、合わせて「四半期会計基準等」という。)の会計処理及び開示を引き継ぐこととしています。
また、期首から 6 か月間を 1 つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従った第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性がある項目((6)参照)については、改正金商法の成立日から施行日までの期間が短期間であることから、会計処理の見直しにより企業の実務負担が生じないよう従来の四半期での実務が継続して適用可能となる取扱いを定めています(中間会計基準BC8項)。
(5) 中間財務諸表の範囲等
中間財務諸表の範囲及び開示対象期間は、中間財務諸表が従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容を基本とすることを踏まえ、(図表7)のとおりとされています。なお、従前の四半期財務諸表等では、期首からの累計期間の開示を基本としつつ、四半期会計期間(3か月間)を任意で開示する場合の取扱いも定められていましたが、中間財務諸表では中間会計期間(6か月間)のみが1つの会計期間となります(中間会計基準6項、7項、8項)。
図表7 中間財務諸表の範囲及び開示対象期間
連結/個別 | 種類 | 開示対象期間 |
中間連結財務諸表 | 中間連結貸借対照表 | 中間連結会計期間の末日及び前年度の末日の要約連結貸借対照表 |
中間連結損益計算書及び中間連結包括利益計算書(※1) 中間連結キャッシュ・フロー計算書 |
中間連結会計期間及び前中間連結会計期間 | |
中間個別財務諸表(※2) | 中間個別貸借対照表 | 中間会計期間の末日及び前年度の末日の要約貸借対照表 |
中間個別損益計算書 中間個別キャッシュ・フロー計算書 |
中間会計期間及び前中間会計期間 |
(※1)1計算書方式による場合は、中間連結損益及び包括利益計算書
(※2)中間連結財務諸表を開示する場合、中間個別財務諸表の開示は不要
(6) 中間会計基準等で個別に検討した項目
中間財務諸表において期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)とすることに伴い、従前の四半期会計基準等に従った会計処理とで差異が生じる可能性がある項目については、個別に検討が行われており、そのうち一部の項目については経過措置を定めています((図表8)参照)。
この個別に検討したものを除き、中間財務諸表の作成にあたって必要な会計処理及び開示について、基本的に四半期会計基準等の定め及び考え方を引き継ぎ、四半期会計期間等の用語を中間会計期間等に置き換えるといった対応がされています(中間会計基準BC19項、BC20項、中間適用指針BC4項、BC5項)。
図表8 中間財務諸表に係る取扱いと四半期会計基準等の取扱いに差異が生じる可能性がある項目とその対応
項目 | 内容 | 経過措置 |
原価差異の繰延処理 | 原価差異の繰延処理を認める(中間会計基準17項) | - |
子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日 | みなし取得日の決算日等には、期首、中間会計期間の末日又はその他の適切に決算が行われた日を含む(四半期決算日を引き続きみなし取得日として適用可能とすることを意図したもの。その他の適切に決算が行われたとは、子会社において中間会計基準に準じた決算が行われたことを想定している(中間会計基準20項、BC18項)) | - |
有価証券の減損処理に係る中間切放し法 | 中間会計期間末に計上した有価証券の減損処理に基づく評価損の戻入れに関しては、中間切放し法と中間洗替え法の2つがある。中間切放し法と中間洗替え法のいずれかの方法を選択適用することができる(中間適用指針4項) | 中間会計期間末における有価証券の減損処理について、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができる(中間適用指針62項) |
棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法 | 年度決算において切放し法を適用している場合は、中間会計期間末において、洗替え法と切放し法のいずれかを選択適用することができる(中間適用指針7項) | 棚卸資産の簿価切下げについて、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができる(中間適用指針63項) |
一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理 | 著しく変動していないと考えられる場合には、前年度末の決算において算定した貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる(中間適用指針3項) | 第1四半期の貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、第1四半期の貸倒実績率等の合理的な基準を使用して中間会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高を算定することができる(中間適用指針61項) |
未実現損益の消去における簡便的な会計処理 | 前年度から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、前年度の損益率や合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる(中間適用指針28項) | 第1四半期から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、中間会計期間末における未実現損益の消去について、第1四半期における損益率を使用して計算することができる(中間適用指針64項) |
① 子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日
連結会計基準(注5)において、支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の決算日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの決算日に支配獲得、株式の取得又は売却等が行われたものとみなして処理することができるとされています。
四半期会計基準では、その決算日には四半期決算日を含むとされていましたが、改正後の金商法において四半期決算が廃止されることから、四半期決算日をみなし取得日として認めないとした場合は、従前の四半期会計基準に基づいた会計処理と異なる結果となり得るため、個別に検討が行われました。
そして、年度又は中間会計期間より支配獲得日に近い特定の期日に決算が行われる場合には、当該決算日をみなし取得日とすることが否定されるものではないと考えられ、みなし取得日の決算日等には、期首、中間会計期間の末日のほか、その他の適切に決算が行われた日を含むこととされています(中間会計基準第20項及びBC17項)。
ここで、四半期会計基準における四半期決算日が、「その他の適切に決算が行われた日」に変更がされていますが、これは四半期決算日を引き続きみなし取得日として適用可能することを意図したものであり、従来の四半期の実務を見直すことを意図したものではないとされています(中間会計基準BC18項)。このため、例えば、上場会社が取引所規則に基づく四半期決算短信を開示している場合に、第2四半期に行われた子会社の取得について、みなし取得日を年度の期首とすることは、従来の四半期の実務と異なることになるため想定されていないと考えられます。
また、その他の適切に決算が行われたとは、子会社において中間会計基準に準じた決算が行われたことを想定しており(中間会計基準BC18項)、月次決算日までみなし取得日とすることを意図したものではないと考えられます(企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等に対するコメント No.8参照)。
なお、中間会計基準等の公表に伴い、日本公認会計士協会の資本連結実務指針についても改正が行われ、その他の適切に決算が行われた日についても決算日に含まれることが明確化されています。
② 有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法の経過措置
有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法について、公開草案では、経過措置を設けた経緯から四半期適用指針に基づいて四半期切放し法を適用していた場合という経過措置適用の条件が記載されていました。しかし、中間会計基準等の適用初年度においては、従来作成していた財務諸表(四半期財務諸表)と異なる財務諸表(中間財務諸表)を新たに作成することから、従前の四半期財務諸表において採用していた会計方針(年度の会計方針との首尾一貫性が求められる会計方針を除く。)との継続性は求められないため、当該記載は削除されています(中間適用指針BC2項)。
ただし、従来と異なる会計方針を採用する場合には、遡及適用と同様の対応が必要となるなどの留意点があり、その詳細は(Q7)をご参照ください。
(7) 適用時期
中間会計基準等は、改正金商法24条の5第1項の規定による半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用されます(中間会計基準37項)。
なお、適用初年度においては、開示対象期間の中間財務諸表等について中間会計基準等を遡及適用することとされています(中間会計基準38項)。
(8) 今後の基準開発の方向性
中間会計基準等は、改正後の金商法の成立日から施行日までの準備期間が非常に短い中で、短期的な対応として、改正後の金商法に従って新たに中間財務諸表を作成する場合の会計処理及び開示について定めています。
一方、今般の法改正により、金商法上は中間財務諸表のみを作成することになりますが、上場会社においては四半期決算短信が提出されるため、引き続き3か月ごとに決算が行われることになります。四半期決算短信については取引所規則に従うこととされていますが、上場会社の観点からは四半期決算短信と中間財務諸表は連続したものとして作成することから、同じ会計基準等に基づいて中間決算と四半期決算を行うべきであるとの意見が聞かれていました。
これらを踏まえ、ASBJは本会計基準等の公開草案の公表時に、今後の基準開発の方向性についてコメントを募集しました。
コメントでは、本会計基準等と四半期会計基準等を統合した期中財務諸表に関する会計基準等を開発し、企業の報告の頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則を採用するという提案に賛成する意見と、提案に反対し中間財務諸表にも現行の四半期会計基準等をそのまま適用できるように改正するという代替案を提案する意見等が聞かれています。
いずれの意見も本会計基準等と四半期会計基準等を統合することには反対していないものの、統一の方法に関しては様々な意見があるため、ASBJではこれらの意見を踏まえて、今後検討を行う予定としています。
なお、金商法上は四半期報告書制度が廃止されますが、上場会社においては引き続き取引所規則に基づき第1・第3四半期決算短信の報告が行われるため、今後、期中財務諸表に関する会計基準等の開発が行われるまでの間、四半期会計基準等は適用を終了しないことが予定されています。
改正四半期開示制度下での初めての四半期決算に係るポイント編
Q4. 中間決算に引き継がれる第1四半期の会計処理
第1四半期の会計処理は中間決算に引き継がれると理解しています。中間決算に引き継がれることを前提とする第1四半期の会計処理として、留意すべき事項を教えてください。
A4.
(Q3)において、中間財務諸表に係る取扱いと四半期会計基準等の取扱いに差異が生じる可能性がある項目として説明した項目は、中間会計基準等の経過措置等の定めに従い、第1四半期に行われた会計処理を基礎として中間財務諸表が作成されることになります。例えば、有価証券の減損処理の場合、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができるため、第2四半期で追加の減損処理が必要になった場合を除き、第1四半期で行われた減損処理が、そのまま中間財務諸表に引き継がれることになります。
このため、中間財務諸表のレビューにおいて、すでに公表された第1四半期の決算短信の誤りが発覚する等の問題を避けるために、第1四半期においてレビュー報告書を提出しない場合でも、これらの処理が適切に実施されるように、第1四半期の時点で確認しておくことが必要と考えられます。
また、子会社の取得又は売却やグループ内組織再編、退職給付制度の変更や固定資産の減損といった臨時・特殊な会計処理が第1四半期に行われる場合についても、同様の留意が必要と考えられます。
加えて、新会計基準は通常、期首からの適用となります。例えば、法人税等会計基準の改正は、税金費用の計上区分に関して遡及適用を行わない場合でも、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金等に加減するとされており、第1四半期に会計処理を行うことになる点にも留意が必要です(法人税等会計基準第20-3項ただし書き)。
Q5. 企業内の組織構造の変更等への対応
年度初めに企業が組織構造を変更しました。当該組織構造の変更に関連する会計処理として、留意すべき事項を教えてください。
A5.
(1) セグメント区分の変更
企業の管理手法が変更されたことに伴い、報告セグメントの区分方法を変更する場合には、前年同四半期累計期間について、変更後の区分方法により作り直したセグメント情報の開示が求められており、当該開示が困難な場合には、前年度の区分方法により作成した当四半期累計期間の情報を開示することも認められています(セグメント会計基準第27項)。
年度初めにおいて、企業内の組織変更等が行われることも多いことから、第1四半期においては、組織変更や管理手法の変更の有無を確認するとともに、変更がある場合には、その変更が報告セグメントの区分方法に影響するか否かを検討する必要があります。
また、収益認識に関する注記における収益の分解情報については、各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を注記する必要があり、また、既存のセグメント情報におけるセグメントの区分が収益を分解する区分に適うと判断される場合には収益の分解情報に関する注記を兼ねる場合もあることから(収益認識会計基準第80-11項、第172項)、報告セグメントの区分方法を変更した場合には、収益認識に関する注記にも影響が及ぶ可能性があることに留意する必要があります。
(2) 固定資産の減損におけるグルーピング
固定資産の減損におけるグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うこととされており、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることとされています(減損適用指針7項)。この取扱いは、四半期も年度も同様です。
当期に行われた資産のグルーピングは、原則として、翌期以降の会計期間においても同様に行うとされていますが(減損適用指針9項)、グルーピングは経営の実態が適切に反映されるよう配慮して行う必要があり(減損適用指針7項)、事業の再編成による管理会計上の区分の変更、主要な資産の処分、事業セグメントの区分方法の変更など、事実関係が変化した場合には、グルーピングの変更が行われるものとされています(減損適用指針74項)。ただし、管理会計上の区分を形式的に変更すれば、連動してグルーピングの見直しが行われるわけではなく、グルーピングの見直しのためには、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が実態として変化していることが必要です。
第1四半期において、組織変更等に伴いグルーピングの基礎となる事実関係が変化した場合には、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位の実態を踏まえて、グルーピングの見直しを検討する必要があります。
Q6. 期首又は第1四半期に実施しておくべき会計処理等
期首又は第1四半期に実施しておくべき会計処理等について、留意すべき事項を教えてください。
A6.
以下に示す項目は、期首又は第1四半期で実施されることが通常であり、中間決算においてこれらを実施しようとしても、適時性の観点等から困難になる場合が考えられるため、第1四半期において漏れが生じないように検討しておく必要があります。また、第1四半期において期中レビュー報告書をを発行しない場合でも、これらの会計処理等が適切であるどうかを第1四半期の時点で確認しておくことが必要と考えられます。
(1) 自発的な会計方針の変更
会計方針は、原則として、事業年度を通じて首尾一貫していなければならないとされています。このため、第2四半期以降における自発的な会計方針の変更は、当該四半期会計期間において発生した特殊の事情、例えば直前の四半期会計期間の末日までには考慮する必要がなかったが、当該四半期会計期間に至って考慮せざるを得ない状況が発生した場合等に限って認められます(監査・保証実務委員会実務指針第78号「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」9項)。
自発的な会計方針の変更を行うのであれば、通常は、第1四半期において実施すべきと考えられることに留意するとともに、第1四半期決算時点で、適時性を含む正当な理由の適切性を確認しておく必要があると考えられます。
(2) 退職給付会計における長期期待運用収益率
当年度の退職給付費用の計算に用いられる長期期待運用収益率は、当期損益に重要な影響があると認められる場合のほかは、見直さないことができるとされています(退職給付適用指針31項)。見直しを行う時期は明記されていないものの、期待運用収益は、期首の年金資産の額に長期期待運用収益率を乗じて計算することとされているため(退職給付会計基準23項)、原則的に期首に見直しを行うものと考えられます。したがって、第1四半期決算において、長期期待運用収益率の見直しの要否を検討する必要があると考えられます。
長期期待運用収益率は、年金資産が退職給付の支払に充てられるまでの時期、保有している年金資産のポートフォリオ、過去の運用実績、運用方針及び市場の動向等を考慮して設定することとされています(退職給付適用指針25項)。長期期待運用収益率の見直しを検討するにあたっては、前年度の運用利回り実績も1つの考慮要素となりますが、直近の運用実績だけに基づき短期的に見直しを行うようなものではなく、長期的な観点で検討することが求められる点に留意が必要です。
なお、どのような場合であれば「当期損益に重要な影響がある」と認められるのかについては、退職給付会計基準等では示されていないことから、各社において重要性に関する合理的な基準を設定するものと考えられます。
(3) 連結の範囲
親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めなければならないとされていますが、資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができるとされています(連結会計基準13項、(注3))。
連結範囲の重要性の判断にあたっては、量的側面と質的側面の両面で判断されるべきであり、量的な重要性が乏しいという判断だけで連結の範囲から除外することができない子会社も存在する可能性があります(連結範囲取扱い3項)。例えば、(図表9)にある子会社については、量的な重要性が乏しい場合であっても、原則として非連結子会社とすることはできません(連結範囲取扱い4-2項(2))。
図表9 原則として非連結子会社とすることができない会社
① 連結財務諸表提出会社の中・長期の経営戦略上の重要な子会社
② 連結財務諸表提出会社の一業務部門、例えば、製造、販売、流通、財務等の業務の全部又は重要な一部を実質的に担っていると考えられる子会社。なお、地域別販売会社、運送会社、品種別製造会社等の同業部門の複数の子会社は、原則としては、その子会社群全体を1社として判断するものとする。
③ セグメント情報の開示に重要な影響を与える子会社
④ 多額な含み損失や発生の可能性の高い重要な偶発事象を有している子会社
出所:連結範囲取扱い4-2項(2)を基に作成
ここで、第1四半期には重要性がない子会社でも、年度末までに重要性が高まることが見込まれているような場合には、そのような質的側面に鑑みて、第1四半期から連結の範囲に含めることが考えられます。なお、比較情報研究報告Q4のAでは、非連結子会社として取り扱っていた子会社について、第2四半期連結累計期間から重要性が高まったため、連結子会社として取り扱うことになる場合でも、当該子会社の期首からの損益を取り込むこととされています。しかし、このようなケースは、第1四半期には予測できなかったような事態が第2四半期以降に発生し重要性が高まった場合(例えば、第2四半期において、連結子会社が災害等により損失を被った影響で、非連結子会社としていた会社の重要性が相対的に高まった場合)等の例外的なケースであると考えられます。
このため、第1四半期において連結の範囲を検討する際には、第1四半期末における状況だけでなく、年度末までに重要性が高まる可能性のある子会社がないかという点も考慮して、慎重に検討する必要があります。
(4) 子会社の決算日の変更
子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができるとされていますが(連結会計基準第16項、(注4))、決算日の統一などの理由から、子会社の決算日の変更を行う場合があります。
このような場合、決算日の変更は会計方針の変更に該当しないことから比較情報にその影響は反映しませんが、四半期報告制度や次年度以降の比較情報の有用性等を考慮すると、会計方針の変更の取扱いに準じて、やむを得ない場合(期中に期ズレの子会社を取得した場合等)を除き、親会社の第1四半期決算から変更を行うことが適当と考えられています(比較情報研究報告Q6)。
Q7. 四半期財務諸表や中間財務諸表の会計方針の変更の可否
四半期財務諸表や中間財務諸表の会計方針の変更について、留意すべき事項を教えてください。
A7.
中間会計基準の適用初年度においては、従来作成していた財務諸表(四半期財務諸表)と異なる種類の財務諸表(中間財務諸表)を新たに作成することになると考えられるため、適用初年度において従前の四半期財務諸表において採用していた会計方針(年度の会計方針との首尾一貫性が求められる会計方針を除く。)と異なる会計方針を採用する場合には、会計方針の変更に該当せず新たに会計方針を採用することになると考えられます(中間会計基準BC24項、令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方No.59~61)。
このため、例えば、有価証券の減損処理について、従前は四半期切放し法を採用していた企業については、基本的には、中間切放し法を採用することになると考えられますが、今回の制度改正を契機に、中間洗替え法を採用しようとすることも考えられます。ここで、中間会計基準等においては、適用初年度の中間財務諸表の作成に際して、自主的に前年度の四半期において適用していた会計方針と異なる会計方針を採用しない限り、前年度の第2四半期財務諸表と同様の会計処理により作成することが可能であると考えられることから、中間会計基準等の適用にあたり特段の経過措置は設けられていません(中間会計基準第38項、BC22項、BC23項)。このため、従前の四半期財務諸表において採用していた会計方針と異なる会計方針を採用する場合には、遡及適用と同様に、過去から同様の会計処理を採用していたものとして、新たに中間財務諸表を作成することになると考えられます。
また、従前の四半期財務諸表において採用していた会計方針と異なる会計方針を中間財務諸表において採用しようとする場合には、期首から新たな会計方針を適用することになり、結果として、第1四半期決算における四半期決算短信についても中間財務諸表において採用する会計方針により作成することになると考えられます。この点、取引所規則に基づく四半期決算短信については、従前の四半期会計基準等の定めが参照されることから、第1四半期決算において、自発的な会計方針の変更の取扱いとなり、正当な理由が必要になると考えられるため、この点も留意が必要となります。
2025年3月期第1四半期及び半期決算のトピック編
Q8. 為替相場の変動
為替相場の変動が、固定資産の減損や外貨建有価証券の減損に与える影響として、留意すべき事項を教えてください。また、為替相場の変動を受けて実施したヘッジ取引について、ヘッジ会計を適用する場合に留意すべき事項を教えてください。
A8.
(1) 固定資産の減損
① 減損の兆候
資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、継続してマイナスとなる見込みである場合や、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合には、減損の兆候となるとされています(減損適用指針12項、14項)。また、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合として、材料価格の高騰や、製・商品店頭価格やサービス料金、賃料水準の大幅な下落、製・商品販売量の著しい減少などが続いているような市場環境の著しい悪化が例示されています。このため、例えば、為替相場の変動の影響に伴い、仕入価格が高騰し、営業損益のマイナスが続くことが見込まれるような場合や、材料価格の高騰が続いているような場合には、減損の兆候に該当する可能性があるため、為替相場の変動が将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。
② 外貨建ての将来キャッシュ・フローの見積り
将来キャッシュ・フローの見積りにあたり、売価や原材料仕入価格の見積りは、翌期以降の変動見込みを反映させる必要があります。また、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合、減損適用指針18項及び19項に基づいて算定された外貨建ての将来キャッシュ・フローを、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算し、減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前将来キャッシュ・フローに含めるとされています(減損適用指針20項、35項)。このため、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合には、将来の為替相場の予想等により作成した予算レートにより円換算するのではなく、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算することとされている点に留意する必要があります。
(2) 外貨建有価証券
時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下の事実が生じている場合に、評価額の引下げが必要ですが、著しい下落又は低下の判断は、外貨建てで行うとされています。また、外貨建有価証券について時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合には、当該外貨建有価証券の時価又は実質価額は、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額によるとされています(外貨建取引等実務指針18項、19項)。
このため、円安の状況下で円貨建てでは50%程度以上の下落又は低下がない場合であっても、著しい下落又は低下の判断は外貨建てで行うこととされていますので、外貨建てで50%程度以上の下落又は低下がある場合には、評価の切下げを行うことになります。この場合には、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額が評価額となります。
なお、3月決算の親会社が12月決算である在外子会社の正規の決算を基礎として連結財務諸表を作成している場合であっても、親会社の個別財務諸表における当該在外子会社の株式(外貨建有価証券)の評価は、あくまで親会社の決算日である3月末における評価であることから、当該在外子会社の決算日以降、親会社の決算日である3月末までに当該在外子会社の財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明した場合には、当該影響を加味して外国通貨による実質価額を算定することになる点に留意が必要です(金融商品実務指針92項)。この場合、当該外国通貨による実質価額を親会社の決算時の為替相場により円換算することになります。
(3) ヘッジ会計
急激な為替相場の変動を受けて、新規のヘッジ取引を行う場合もあると考えられます。ヘッジ取引にヘッジ会計を適用するためには、以下の一定の要件を充たすことが必要とされている点に留意が必要です(金融商品会計基準第31項)。
- ヘッジ取引時において、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客観的に認められること(いわゆる「事前テスト」)
① 取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
② 企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、取引がこれに従って処理されることが期待されること - ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること(いわゆる「事後テスト」)
より具体的には、事前テストとして、企業は、ヘッジ取引開始時に、以下の事項について正式な文書によって明確にしなければならないとされています(金融商品会計実務指針第143項)。
- ヘッジ対象のリスク(為替変動、金利変動、価格変動等)
- ヘッジ対象のリスクに対してどのような種類のヘッジ手段を用いるか
- ヘッジ手段の有効性に関する事前の予測
- 相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法
また、事後テストとしてのヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動との間に高い相関関係があったかどうかのテスト、すなわちヘッジ有効性の評価については、企業は、決算日には必ず実施する必要があり、少なくとも6か月に一回程度は実施する必要があります。加えて、このようなヘッジ有効性の評価は、文書化されたリスク管理方針・管理方法と整合性が保たれていなければなりません(金融商品会計実務指針第146項)。
Q9. 2025年3月期から原則適用される会計基準等
2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となる会計基準等の概要について教えてください。
A9.
2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度において、法人税等会計基準等の改正及び実務対応報告第46号が原則適用となります。
なお、中間会計基準等については、改正後の金融商品取引法24条の5第1項の規定による半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間からの適用になります(Q6参照)。
(1) 法人税等会計基準等の改正
法人税等会計基準等の改正における、主な改正点は以下の2点です。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税) (「2024年3月期 決算上の留意事項」Q15参照)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果 (「2024年3月期 決算上の留意事項」Q16参照)
改正の内容は、適用初年度以降に影響するだけでなく、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として過去のすべての期間における影響を算定する必要があることから、詳細について「2024年3月期 決算上の留意事項」のそれぞれのQ&Aをご確認のうえ、遡及適用の影響を把握してください。
(2) 実務対応報告第46号
実務対応報告第46号は、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示を定めたものであり、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等について、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上することと定めています。
なお、四半期財務諸表及び中間財務諸表においては、対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができるとされています。ただし、年度においては実務対応報告第46号と同時に公表された補足文書も参考にして合理的に見積り計上する必要があるため、早期の分析や関連する情報を入手する体制の構築を進める必要があります。
実務対応報告第46号の詳細については、「2024年3月期 決算上の留意事項」のQ21をご確認ください。