EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター/サステナビリティ開示推進室 公認会計士 小川 智之
主に消費財メーカーの監査業務に従事。現在は会計監査業務に加え、クライアントサービス本部サステナビリティ開示推進室の業務を担当している。
要点
2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、22年4月の東証再編後にプライム市場の上場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実を求めています。
今回、22年7月31日現在の日経225対象銘柄全体および、そのうち主に食品業、飲料業を営む消費財企業13社について、有価証券報告書、コーポレート・ガバナンス報告書、統合報告書等およびこれらの報告書でリンク先が示されている企業のウェブサイトを調査対象として、EYにて調査対象媒体のTCFD開示動向を集計し、分析しました。
なお、文中における意見は全て筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③においてサステナビリティについての取組みの記載が求められています。多くの消費財企業ではコーポレート・ガバナンス報告書において自社のサステナビリティに関する基本的な考え方を示すと共に、TCFD対応を含む詳細な情報については、他の開示文書または自社のウェブサイトを参照させる形式を取っています。また、より詳細な情報については、ウェブサイト、統合報告書、サステナビリティレポートなど、企業によって単独または複数の媒体を選択して開示を行っています。
なお、消費財企業においては、改訂コーポレートガバナンス・コードの適用以前よりTCFD開示を積極的に行っている傾向がありますが、これはサプライチェーン全体への影響が大きく、経営戦略に与える影響が大きいことが背景にあるものと考えられます。
TCFD提言の要素である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの視点で具体的にどのような開示が行われているかを分析しました。
消費財企業においては、サステナビリティ委員会等の気候変動対応に関する業務推進組織が存在し、気候変動関連のリスクと機会について定期的に取締役会に報告する体制を備えている傾向があります。
このうち、業務推進組織の責任者をCEOが務める企業が69%となっており、CEOを責任者として全社的な取組みに位置付けている企業が多くなっています。
加えて、61%において、気候変動関連目標に対するパフォーマンスが社内報酬制度と関連していることを明示しており(<図1>参照)、日経225対象銘柄全体の26%と比較してもその割合が高く、取組みに対する経営管理者の動機付けがなされていることがうかがわれます。
他方、気候変動に関わりのある外部専門家からなるアドバイザリーボードを利用していると開示している企業は7%にとどまっています。
TCFD提言では、気候変動によるリスクと機会が企業にもたらす財務的影響についての情報開示を求めており、多くの企業で国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する情報を根拠として、1.5℃/2℃シナリオ、4℃シナリオの複数シナリオによる分析を行っています。
消費財企業において識別されたリスクのタイプは<図2>のとおりです。なお、1つの企業で複数のリスクを識別している場合があるため、母数の合計が13以上となっています。カーボンプライシングに関しては、業種にかかわらず識別されるリスクであると考えられる一方で、消費財企業としては、異常気象(急性)、資源の調達を識別しているケースが多く、この中には水害等による生産拠点への影響、主要原材料の収量の減少等が含まれています。
財務的な影響については、61%が何らかの形で定量的な記載を行う一方で、定性的な開示にとどまる企業、財務的影響について開示がない企業も35%存在しています。定量的な開示があるケースについては、純損益に与える影響がマイナスとなっている開示が多く、リスクに比べ機会の定量的な開示が少ないものと考えられます。
気候変動リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて記述することとなりますが、消費財企業においては全ての企業で気候変動リスクに関する社内での評価プロセスが記載されている一方、社内での評価基準を開示している企業は8社、統合型リスク・マネジメント・プロセスで気候関連要因が他のリスクと機会とともに検討されている企業は7社となっています。ただし日経225全体では社内の評価基準の開示が30%程度にとどまっていることと比較すると、評価軸の記載に関しても積極的な開示が行われているということができます。
文章による記述または図表を用いて、評価基準年度、削減目標とターゲット年度を明示した上で、長期においてネットゼロを達成するという開示パターンが12社において見られました。CO2排出量に関しては、スコープ1・2までの開示を行っている企業が5社、スコープ3までの開示を行っている企業が5社となっており、削減目標の開示と併せて、日経225全体と整合的な結果になっています。
消費財企業においては、日経225対象銘柄全体の開示傾向と比較して、TCFD提言における「ガバナンス」における組織体制、「戦略」に関する定性的な情報の開示、「指標と目標」における削減目標に関して、多くの企業でその取組みが進められていることがわかります。
今後は、機会に関する財務的な影響、削減目標におけるアクションごとの目標設定など、より具体的な内容に関しても開示が進んでいくものと考えられます。
コーポレートガバナンス・コードの改訂により、プライム市場の上場企業においては気候変動について自社に及ぼす影響を分析し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)または同等の情報開示が進んでいます。サプライチェーンの全体に気候変動の影響が大きいと想定される消費財企業において、開示全般、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標のそれぞれの観点でどのような開示がなされているのかについて、その内容を分析します。
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消費者の要求は、より複雑かつ多様なものへと変化しています。そのため、消費財・小売企業は、現在の成功と将来の成長との間で適切なバランスを見いださなければなりません。
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