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第1章
転換点とは何か?なぜ、転換点は重要なのか。
転換点はどんな変革にも必ずと言っていいほど存在します。転換点を乗り越えることができれば、KPI目標を大幅に上回る成果を達成する可能性が1.9倍高まります。
転換点は、可能性を秘めた局面です。それは、成功率を向上させる可能性や、従業員が自身の力を発揮できる(これは、彼らの感情的体験からも見て取れます)環境をもたらす可能性である場合もあれば、変革プログラム全体を失敗に終わらせる可能性である場合もあります。
ポジティブな転換点では、本質的な問題を解決できる(73%、ネガティブな転換点では33%)だけでなく、変革のスピードが向上する可能性も2.1倍高い(80%対39%)傾向が見られます。目標KPIを上回る成果を創出する可能性についても1.9倍高い(31%対17%)傾向が見られます。さらに、次に実施する変革に対する従業員の適応力や意欲が向上する可能性も1.9倍高い(79%対41%)傾向が見られます。このようなポジティブな影響をもたらす転換点は持続的な変革に対する組織の対応力の向上をもたらします。
一方、ネガティブな転換点の場合、成功率を高めることができないだけでなく、状況の悪化を引き起こすため、変革全体で成果が期待を下回る可能性(50%)は、ポジティブな転換点の31%に比べ、1.6倍高い傾向があります。そして、従業員が「悲しみ」や「落ち込み」などのネガティブな感情を抱く可能性(ネガティブ41%、ポジティブ12%)も3.4倍高くなります。こうした状況は、従業員のウェルビーイングの低下を招き、それが組織全体に悪影響を及ぼすことになりかねません。
転換点は至る所に存在しています。そのため、経営幹部の79%が、いかなる変革も転換点を避けて通ることはできないと考えています。
転換点は、変革プログラムの至る所に潜んでいますが、そのうちの4分の3(75%)は、計画フェーズから実行フェーズ初期にかけて発生します。この時期は、変革に向けた経営幹部の思いを組織全体の行動へと移す段階です。このような初期段階で転換点に積極的に対処すれば、変革プログラムを成功軌道に乗せることができます。これは、転換点を効果的に乗り越えることで、適応性に優れた変革プログラムへと進化させることができるからです。この時点ではまだ、問題の重大な側面が表面化していません。そのため、経営幹部は、喫緊の対応の必要性を認識していないことが多いものです。しかし、問題が深刻になってからでは遅すぎます。経営幹部は、変革に携わる従業員から発せられる感情面の反応を注視し、それに応じた対応を早期に行う必要があります。
何が問題なのか?
なぜ、転換点が生じるのでしょうか。そこには2つのメタ要因が考えられます。1つは、パンデミックや戦争、経済的ショックなどの外的脅威です。こうした事象は、パンデミックによる経済的ショックに代表されるように、相互に関連し合っていることが多く、今日の不安定な時代では発生する頻度が高くなっています。もう1つは、組織内の問題や課題です。これらは、変革の過程で組織内に不整合な状態が生じると表面化します。元々、組織には現状の中で最善の結果を創出する環境が整っています。しかし変革に乗り出すと、その組織は意図的に新しい環境へと移行することになります。こうした移行は、組織をリミナルスペース(遷移状態)とも言われる不整合な状態へと追い込み、さらには、組織の合理的側面(テクノロジー、オペレーティングモデル、インセンティブ、ケイパビリティ)と感情的側面(解決策の所有権、力関係の変化、行動)の両方にバランスの崩れをもたらします。
こうした組織内の不整合な状態や外部環境の不安定さといった問題はどの組織でも直面するものであり、それゆえに、転換点が至る所に存在するという状況が生まれます。
変革プログラムで問題が生じると、従業員の変革ビジョンに対する信念や変革リーダーに対する信頼が低下します。さらには、自分の意見や思いが尊重されていないと感じ、心理的安全性も低下します。こうした変化は、本調査のデータからも明らかに見て取れます。33%の従業員が、指摘した問題点を適切に取り上げてもらえなかったと感じています。その他にも、「懸念事項を伝えても真剣に聞いてもらえなかった」(32%)、「そもそも経営幹部は従業員の見解や考えを求めていなかった」(32%)などの調査結果が明らかになっています。
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第2章
転換点への対応の在り方
転換点を乗り越えられる可能性を高めるために組織が実行すべきこととして、3つのステップがあります。
本調査で、転換点を効果的に乗り越えられる可能性を高める3つのステップが明らかになりました。各ステップは単体でも重要ですが、3つを組み合わせることにより、転換点を乗り越えられる可能性を最大限に高めることができます。
1. 感知する
一つ目のステップは、感知です。問題の発生を迅速に感知し、対応すべきタイミングを見極めることができるよう、変革プログラムに早期検知体制を組み込む必要があります。今回の調査結果からも、経営幹部は従業員の感情や行動の変化に注意を払う必要があることが明らかになっています。それを踏まえると、変革プログラムはKPIの遅行指標のみに依拠するものではなく、先行指標、すなわち「人」にフォーカスしたものである必要があります。重大な問題が生じた際、最初の兆候はKPIの未達や予算の超過といった従来の指標ではなく、従業員の感情や行動に変化が現れます。
こうした変化を感知するには、どんな兆候に注意を払うべきかを知り、従業員が発言しやすい環境を醸成し、彼らの声を聞く仕組みを整えることが不可欠です。理想的には、変革プログラムを始動する前に、こうした体制を確立しておくことが推奨されます。
驚くべきことに、調査に参加した経営幹部の72%が兆候にほとんど気付くことができないと回答しています。こうしたことは理解できないわけではありません。大半の変革プログラムでは、多くの人が関与している変革計画を滞りなく遂行させることに焦点を当てているというのが実情だからです。さらに、経営幹部の61%が、問題に対応すべきタイミングや、静観すべきタイミングを見極めることが難しいと感じています。調査インタビューでは、最大の文化的問題のひとつとして、「変革リーダーという立場からすると、自身が渾身的に取り組んでいる変革について、うまく進んでいない、と言われるとかなり防衛的になってしまう」という声も聞かれました。
2. 問題を理解する(意味付ける)
二つ目のステップでは、巻き込むべき適切なリーダーと従業員の代表者を集めて、問題を理解(意味付け)し、今後の方向性を共同で見いだします。ここで言う「理解する(意味付ける)」とは、組織全体から代表メンバーを集めて(しばしば、実際に顔を合わせる機会を設けて)、問題の本質を議論し合い、結果に対する主体性を醸成するということです。次に、その問題の表面的な事象ではなく本質を探ります。これに関するエピソードとして、本調査のインタビューに参加したある企業の事例があります。その企業は多くの問題に直面したため、変革のリーダーがコラボレーションワークショップを開催し、25名のメンバーを集めて問題について話し合いました。その中で、予想外にも、参加者は皆、同じ問題を認識していたそうです。そして、同企業の変革リーダーと集まったメンバーは、ワークショップを通じて、変革の取り組みを根本から再考し、新たなアプローチを見いだしました。
3. 人を中心に据えて行動する
三つ目のステップでは、人を中心に据えて行動することで、変革に伴う特有の問題に対処します。その際に、初回の調査で提示した、変革を成功に導く6つのドライバーを活用することができます。これらのドライバーは、経営陣に対する信頼や変革プログラムに対する確信、変革の成功に不可欠なケイパビリティに対する自信などを再構築する上で効果的な役割を果たすことが期待されます。実際、今回の調査でも、転換点への対応だけでなく、変革の成功率への影響全般においてこの6つの変化ドライバーの重要性が確認されています。
早期に転換点を見越して行動し、組織全体を巻き込んで問題を理解(意味付け)し、6つの変革ドライバーすべてを実践する組織では、そのメリットは計り知れません。転換点を効果的に乗り越えた先には、新たな価値が広がっています。
今回の調査結果に鑑みると、組織は変革プログラムを「進化し続ける動的なプロセス」と捉える必要があるとの結論に至ります。この動的側面を無視したり、元の計画に戻そうとしたりすることは賢明ではありません。転換点に積極的に向き合い、それを効果的に乗り越えることが、変革プログラムの成果向上につながります。
そのためには、組織は変革プログラムに対する考え方を再考し、変革過程で問題に直面するという事実を受け止める必要があります。変革というのは計画通りに進まないものです。転換点はほぼ確実に訪れます。
本稿では、共同調査チームによる最新の調査結果の概要を提示しています。レポート全文では、詳細なケーススタディと共に、どうすれば組織は転換点を早期に感知し、理解・意味付けし、それに基づいて行動を起こし、変革の成果創出を加速させることができるのかについて詳細な洞察を提供します。
本稿の執筆にあたり、以下の方々に協力していただきました。
Michael Wheelock(Ernst & Young LLPのAssociate DirectorでEY Knowledge担当)、AnnMarie Pino(Ernst & Young LLPのAssociate Directorで EY Knowledge担当)、Paul Meijer(Ernst & Young LLPのPartner)、Ron Rubinstein(Ernst & Young LLPのDirectorでEY Brand Marketing and Communications担当)、Ryan Gavin(Ernst & Young LLPのSupervising AssociateでEY Knowledge担当)、Bhavnik Mittal(Ernst & Young LLPのSeniorで EY Knowledge担当)
サマリー
転換点は、可能性を秘めた局面です。それは成功率を向上させる可能性である場合もあれば、プログラム全体を失敗に終わらせる可能性である場合もあります。どんな変革プログラムにも必ずと言っていいほど転換点が訪れます。その時に組織が問題の発生を迅速に感知し、組織メンバーと共にその問題を理解・意味付けし、それを基に適切な状況を構築して行動に移すことができれば、その転換点を機に変革プログラムが成功軌道に乗り、想定を上回る大きな価値を生み出す可能性が12倍高まることが期待されます。