15 分 2024年4月23日
前景に男性のポートレート、背景にはピクセル
CEOが直面する喫緊の課題

変革の難局を成功へのチャンスに変える秘訣とは?

執筆者
Kim Billeter

EY Global and Americas People Consulting Leader

Inclusiveness leader with over 20 years of consulting experience. Mother.

Craig Glindemann

EY Global Consulting Markets Leader

Client advocate. Technologist. Explorer. Human-centered transformation leader. Passionate supporter of neurodiverse hiring and development.

Adam Lee Canwell

EY Oceania Workforce Advisory Leader

Excited to serve as a leader in the PAS business with over 25 years working to transform the businesses of our largest global clients. Problem solver and purposeful leader.

投稿者
15 分 2024年4月23日

人のチカラを原動力に問題に対処するアプローチが確立している変革プログラムでは、転換点を効果的に乗り越えられる可能性が12倍高まることが期待されます。

要点

  • 重大な局面はほとんどの変革に何らかの影響をもたらす。最新の調査では、96%の変革プログラムで転換点が生じている。
  • 転換点は進捗感が停滞感に変わる時に訪れる。停滞感は変革に対する従業員の意欲低下を招き、ひいては主体性の低下をも引き起こす。
  • 人を中心に据えて変革を進めることにより、CEOは重大な局面を効果的に乗り越えられる可能性を高めることができる。このようなアプローチは、変革プログラムの成果を高める上で非常に重要である。

なぜ多くの変革は組織が期待する価値をもたらすことなく失敗に終わってしまうのか。変革が予定通りに進まなくなった時、CEOはどう対処すればよいのか。これらの問いは、何十年もの間、世界中の企業を悩ませてきました。EYでは、こうした問いを解明するために、2021年にオックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールとEY(EYGS LLP)による長期的な共同調査チームを立ち上げました。

調査・分析を開始するに際し、共同調査チームは、「変革プログラムの成功の秘訣は人的要素にある」という仮説を立てました。そして、この仮説は調査を通して立証されました。変革成功の神髄は、従業員が能力を最大限に発揮できる環境です。それは、変革の実現に必要な任務に専心できる環境であり、実験と学習が奨励される環境でもあります。

2022年に実施した調査レポートで、このような環境の醸成を促進する6つのドライバーが明らかになっています。このドライバー全般でリーディングプラクティスを実践すれば、変革の成功率は実践度が平均を下回る組織の成功率(28%)に比べ2.6倍の73%にまで高まることが期待されます。

EYの「CEOが直面する喫緊の課題(CEO Imperative)シリーズ」では、CEOが自社の未来像を再構築する上で役立つ重要な解決策やアクションを提示しています。初回のインタビュー調査の際、経営幹部や取締役が一貫して直面していた問いがあり、その中でもとりわけ重要な問いとして、「事が思わしくない方向へと進んだ時、どのように対処すればよいか」、「どうすれば問題を早期に察知できるのか」などが挙げられました。大規模な変革を経験したことがあるCEOからは、「どうすれば重大な局面を好機に変えることができるか」などの問いも寄せられました。そこで、2回目となる今回の調査レポートでは、これらの問いに焦点を当てています。

ほとんど(96%)の変革で少なくとも一度は、プログラムが意図した通りに進まず、経営幹部が対応を余儀なくされる事態が発生しています。EYでは、このような重大な局面を変革の「転換点」と称しています。転換点にCEOがどう備え、対応するかが変革全体の成否に影響します。

変革を成功に導く変革プログラムは、転換点を予測しそれを乗り越えられるよう構築されています。今回の調査で、こうしたプログラムのメリットが明らかになりました。

  • 変革に携わるすべての組織メンバーが一丸となって問題の解決に取り組むことができるため、変革の勢いが加速する
  • 期待を超える成果を創出する可能性が飛躍的に高まる
  • ケイパビリティが向上し、将来の変革に効果的な組織環境が醸成される

しかしながら、転換点は多くの場合、適切に対処されていないというのが現状です。転換点に直面すると、経営幹部は困惑し、場当たり的な対応へと走ってしまうのかもしれません。このような行動は、社内の混乱や変革プログラムの停滞を招きます。その一方で対照的に、対応が遅すぎるというケースもあります。こうしたケースでは、経営幹部は、少数の幹部だけを巻き込んで、問題の本質や根本的な原因に目を向けることなく、表面的な事象だけにフォーカスした解決策を変革プログラム全体に適用することで事態の収拾を図ろうとする傾向がみられます。どちらの対応も状況を悪化させ、従業員の感情面のウェルビーイングやパフォーマンスの低下を招きます。その結果、変革が成功する可能性も著しく低下します。しかしこれは見方を変えれば、変革の過程で生じる緊張や問題に真摯に向き合い適切に対処しさえすれば、変革プログラムを加速させ、その効果を増大させることができるということを物語っています。

転換点への対処は、いくつかの本質的な人的要因が相まって、思いの外、複雑さを伴います。

CEOは、変革プログラムが順調に進むよう無意識のうちに圧力をかけていることが多い

人は「失敗」することに深い嫌悪感を持っているものです。場合によっては、失敗によって心理的なダメージを受けることもあります。さらに、経営幹部は成功志向の推進者1であることが多く、成功を追求し結果を求め続けています。恐らくCEOは、失敗への恐怖心や成功への志向に駆り立てられ、無意識のうちに「変革プログラムは滞りなく進める必要がある」というメッセージを発信してしまっているのかもしれません。そして、たとえ本質的な問題が発生し状況が悪化していたとしても、ダッシュボード上では順調な進捗状況を求めているのかもしれません。

CEOは、自分が感じている以上に従業員は自身の意見を述べやすいと感じていると思っている

上級管理職が無意識のうちに、自身の部下たちに対して発言を控えさせる雰囲気を醸し出しているということは珍しくありません。ある調査2でも、部下が発言しやすいかどうかについて、上級管理職とその部下との間で大きな見解の相違があることが分かっています。CEOは、自身が感じている発言のしやすさを基準に自分の信念を形成しているところがあります。一方、上下関係の下側に位置する組織メンバーは、そのような楽観的考えに同調していません。彼らは、発言が十分に聞き入れられていないと感じています。このように信頼に対する意識のギャップがあることは、最新のEY Workforce Reimagined Survey(EY働き方再考に関するグローバル意識調査)の調査結果からも裏付けられています。同調査結果によると、「従業員は、上司を信頼し、上司から信頼され、エンパワーされていると感じている」に同意した経営幹部が81%に上ったのに対し、同様に回答した従業員は64%にとどまりました。CEOは、従業員が自分の意見や考えを上長である自分に伝えやすいと感じていないかもしれないという認識に立ち返り、彼らの声や思いを吸い上げる最善の方法を見極める必要があります。

意識ギャップ

81%

「従業員は上司にエンパワーされていると感じている」に同意した経営幹部の割合

64%

上司に信頼され、エンパワーされていると感じている従業員の割合

転換点は成果を高める好機である

こうした問題を克服するには、実験を許容し、生産的な失敗から学びを得ながら変革を進めることができるよう、既存のプログラムを再考する必要があります。そして、CEOは心理的安全性が担保された環境を醸成する必要があるのです。心理的安全性が担保された環境では、組織が複雑さを伴う未知の領域に進んでも、従業員はそれらを直視し、自信を持って意見や考えを述べることができます。

転換点は、回避すべき負の事象ではありません。それどころか、変革を加速させ、より良い成果を上げる好機を提供します。転換点を好機にするには、変革プログラムのアプローチを見直す必要があることが今回の調査からも見て取れます。具体的には、適応力に優れたプログラムを設計し、その進め方についても改める必要があります。経営幹部と従業員が一体となって取り組むことができる変革プログラムが、成功の鍵となります。

共同調査チームは、予測モデリングと詳細なケーススタディの両側面を掘り下げていく中で、転換点を乗り越えるための重要な3つのステップを特定しました。人のチカラを原動力とするこの3つのステップを実践することにより、転換点を機に変革プログラムがより大きな価値を創出する可能性が6%から72%へと12倍高まることが期待されます。

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    上の棒グラフは、変革プロセスで生じる転換点を乗り超えるための3つのステップをすべて実践することにより、変革の成功率が向上する可能性が12倍高まるということを示しています。

転換点を効果的に乗り越えるための3つのステップ:

  1. 感知 – 早期検知体制を確立して、問題の発生を迅速に感知し対応の必要性を見極める。後追い指標と言われるKPIだけに依拠するのではなく、変革に関与する従業員の行動と感情の変化に注視することで、変革プログラムの実行プロセスで生じる異変に気付きやすくなります。
  2. 理解・意味付け – 問題を特定した後、速やかに全変革プログラムの関係者を集め、問題の本質を徹底的かつ迅速に理解する(意味付ける)
  3. 行動 – 本調査プロジェクトの初回調査で特定された6つの変革ドライバーを基に、変革プログラムの枠組みを再構築し、従業員が一丸となって的確に取り組みを進めることができるよう後押しする

上記すべてを実践するには、マインドをリセットする必要があります。CEOは、問題や転換点を恐れたり、否定したりせず、それらは常に存在しているという現実を認識し、変革の加速と成果の向上の機会と捉えることが不可欠です。

  • 本調査について

    本調査は、EYとオックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールによる共同調査プロジェクトの一環であり、今回は2023年6月から7月にかけて、846名の経営幹部と840名の従業員を対象に実施しました。回答者は、Americas(北・中・南米)、アジア太平洋、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)の23カ国16セクターの年間売り上げ10億米ドル以上の企業に所属しています。

    調査対象者の条件は、過去5年間に現在所属している組織で大規模な変革に関わったことがある者、としました。調査の焦点は「転換点」です。ここでは、変革が意図した通りに進まなくなった、あるいは進まなくなりそうだと経営幹部が感じ、成功率や成果を高めるために対応が必要になった時点を1つの「転換点」と定義しています。

    さらに、5つのグローバル企業のケーススタディを実施しました。その中で、経営幹部、中間管理職、一般従業員を対象とするフォーカスグループインタビューも行いました。本ケーススタディの対象企業は以下の通りです。

    • 半導体メーカーのサプライヤーで、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)を活用した業務変革を実施した企業(年間売上高250億米ドル)
    • 新たなEV大型トラックの革新的な開発を目指した自動車メーカー(年間売上高400億米ドル)
    • 人事変革に取り組んだ多国籍銀行(総資産6000億米ドル以上)
    • サステナビリティ変革を推進した小売りチェーン(年間売上高80億米ドル)
    • 組織文化変革を実施した鉱業グループ(総資産555億米ドル)
  • 転換点を効果的に乗り越える秘訣をひも解く方法論

    転換点を効果的に乗り越える秘訣を解明するために、調査回答者が変革プログラムの実行プロセスで転換点を迎える前とその最中に取った40以上の行動について、予測モデルを用いて分析を行いました。そして、最尤(さいゆう)推定による順序ロジスティック回帰モデルを用いて、転換点で変革成功率を大幅に向上させる3つのステップ(感知、理解・意味付け、行動)を特定したのです。各ステップは、複数のアクションで構成されています。

    そして、この3つのステップによって変革成功率がどう変化するのかを推定するために、ブーストラップ法を用いて、実践度別に変革の成功率を比較しました。同比較に際しては、各ステップにおけるアクションの実践度を、「平均以上」(+1標準偏差)、「平均的」、「平均以下」(-1標準偏差)に分けました。

オフィスで腕を組む若い女性のポートレート
(Chapter breaker)
1

第1章

転換点とは何か?なぜ、転換点は重要なのか。

転換点はどんな変革にも必ずと言っていいほど存在します。転換点を乗り越えることができれば、KPI目標を大幅に上回る成果を達成する可能性が1.9倍高まります。

転換点は、可能性を秘めた局面です。それは、成功率を向上させる可能性や、従業員が自身の力を発揮できる(これは、彼らの感情的体験からも見て取れます)環境をもたらす可能性である場合もあれば、変革プログラム全体を失敗に終わらせる可能性である場合もあります。

ポジティブな転換点では、本質的な問題を解決できる(73%、ネガティブな転換点では33%)だけでなく、変革のスピードが向上する可能性も2.1倍高い(80%対39%)傾向が見られます。目標KPIを上回る成果を創出する可能性についても1.9倍高い(31%対17%)傾向が見られます。さらに、次に実施する変革に対する従業員の適応力や意欲が向上する可能性も1.9倍高い(79%対41%)傾向が見られます。このようなポジティブな影響をもたらす転換点は持続的な変革に対する組織の対応力の向上をもたらします。

一方、ネガティブな転換点の場合、成功率を高めることができないだけでなく、状況の悪化を引き起こすため、変革全体で成果が期待を下回る可能性(50%)は、ポジティブな転換点の31%に比べ、1.6倍高い傾向があります。そして、従業員が「悲しみ」や「落ち込み」などのネガティブな感情を抱く可能性(ネガティブ41%、ポジティブ12%)も3.4倍高くなります。こうした状況は、従業員のウェルビーイングの低下を招き、それが組織全体に悪影響を及ぼすことになりかねません。

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    上の図表は、変革の過程で転換点がどのように対処され、それが変革の成功率、価値の創出、適応力の向上にどんなポジティブまたはネガティブな影響をもたらし得るのかを示しています。

転換点は至る所に存在しています。そのため、経営幹部の79%が、いかなる変革も転換点を避けて通ることはできないと考えています。

転換点は、変革プログラムの至る所に潜んでいますが、そのうちの4分の3(75%)は、計画フェーズから実行フェーズ初期にかけて発生します。この時期は、変革に向けた経営幹部の思いを組織全体の行動へと移す段階です。このような初期段階で転換点に積極的に対処すれば、変革プログラムを成功軌道に乗せることができます。これは、転換点を効果的に乗り越えることで、適応性に優れた変革プログラムへと進化させることができるからです。この時点ではまだ、問題の重大な側面が表面化していません。そのため、経営幹部は、喫緊の対応の必要性を認識していないことが多いものです。しかし、問題が深刻になってからでは遅すぎます。経営幹部は、変革に携わる従業員から発せられる感情面の反応を注視し、それに応じた対応を早期に行う必要があります。

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    上の4つの図表は、「転換点はほとんどの変革で生じ、ほぼ避けることができないものである」また、「その兆候は見過ごしがちで、対応すべきタイミングについても見極めることが難しい」と経営幹部が感じているということを示しています。

何が問題なのか?

なぜ、転換点が生じるのでしょうか。そこには2つのメタ要因が考えられます。1つは、パンデミックや戦争、経済的ショックなどの外的脅威です。こうした事象は、パンデミックによる経済的ショックに代表されるように、相互に関連し合っていることが多く、今日の不安定な時代では発生する頻度が高くなっています。もう1つは、組織内の問題や課題です。これらは、変革の過程で組織内に不整合な状態が生じると表面化します。元々、組織には現状の中で最善の結果を創出する環境が整っています。しかし変革に乗り出すと、その組織は意図的に新しい環境へと移行することになります。こうした移行は、組織をリミナルスペース(遷移状態)とも言われる不整合な状態へと追い込み、さらには、組織の合理的側面(テクノロジー、オペレーティングモデル、インセンティブ、ケイパビリティ)と感情的側面(解決策の所有権、力関係の変化、行動)の両方にバランスの崩れをもたらします。

こうした組織内の不整合な状態や外部環境の不安定さといった問題はどの組織でも直面するものであり、それゆえに、転換点が至る所に存在するという状況が生まれます。

変革プログラムで問題が生じると、従業員の変革ビジョンに対する信念や変革リーダーに対する信頼が低下します。さらには、自分の意見や思いが尊重されていないと感じ、心理的安全性も低下します。こうした変化は、本調査のデータからも明らかに見て取れます。33%の従業員が、指摘した問題点を適切に取り上げてもらえなかったと感じています。その他にも、「懸念事項を伝えても真剣に聞いてもらえなかった」(32%)、「そもそも経営幹部は従業員の見解や考えを求めていなかった」(32%)などの調査結果が明らかになっています。

屋外にいる真面目な表情のビジネスマン
(Chapter breaker)
2

第2章

転換点への対応の在り方

転換点を乗り越えられる可能性を高めるために組織が実行すべきこととして、3つのステップがあります。

本調査で、転換点を効果的に乗り越えられる可能性を高める3つのステップが明らかになりました。各ステップは単体でも重要ですが、3つを組み合わせることにより、転換点を乗り越えられる可能性を最大限に高めることができます。

1. 感知する

一つ目のステップは、感知です。問題の発生を迅速に感知し、対応すべきタイミングを見極めることができるよう、変革プログラムに早期検知体制を組み込む必要があります。今回の調査結果からも、経営幹部は従業員の感情や行動の変化に注意を払う必要があることが明らかになっています。それを踏まえると、変革プログラムはKPIの遅行指標のみに依拠するものではなく、先行指標、すなわち「人」にフォーカスしたものである必要があります。重大な問題が生じた際、最初の兆候はKPIの未達や予算の超過といった従来の指標ではなく、従業員の感情や行動に変化が現れます。

こうした変化を感知するには、どんな兆候に注意を払うべきかを知り、従業員が発言しやすい環境を醸成し、彼らの声を聞く仕組みを整えることが不可欠です。理想的には、変革プログラムを始動する前に、こうした体制を確立しておくことが推奨されます。

驚くべきことに、調査に参加した経営幹部の72%が兆候にほとんど気付くことができないと回答しています。こうしたことは理解できないわけではありません。大半の変革プログラムでは、多くの人が関与している変革計画を滞りなく遂行させることに焦点を当てているというのが実情だからです。さらに、経営幹部の61%が、問題に対応すべきタイミングや、静観すべきタイミングを見極めることが難しいと感じています。調査インタビューでは、最大の文化的問題のひとつとして、「変革リーダーという立場からすると、自身が渾身的に取り組んでいる変革について、うまく進んでいない、と言われるとかなり防衛的になってしまう」という声も聞かれました。

2. 問題を理解する(意味付ける)

二つ目のステップでは、巻き込むべき適切なリーダーと従業員の代表者を集めて、問題を理解(意味付け)し、今後の方向性を共同で見いだします。ここで言う「理解する(意味付ける)」とは、組織全体から代表メンバーを集めて(しばしば、実際に顔を合わせる機会を設けて)、問題の本質を議論し合い、結果に対する主体性を醸成するということです。次に、その問題の表面的な事象ではなく本質を探ります。これに関するエピソードとして、本調査のインタビューに参加したある企業の事例があります。その企業は多くの問題に直面したため、変革のリーダーがコラボレーションワークショップを開催し、25名のメンバーを集めて問題について話し合いました。その中で、予想外にも、参加者は皆、同じ問題を認識していたそうです。そして、同企業の変革リーダーと集まったメンバーは、ワークショップを通じて、変革の取り組みを根本から再考し、新たなアプローチを見いだしました。

3. 人を中心に据えて行動する

三つ目のステップでは、人を中心に据えて行動することで、変革に伴う特有の問題に対処します。その際に、初回の調査で提示した、変革を成功に導く6つのドライバーを活用することができます。これらのドライバーは、経営陣に対する信頼や変革プログラムに対する確信、変革の成功に不可欠なケイパビリティに対する自信などを再構築する上で効果的な役割を果たすことが期待されます。実際、今回の調査でも、転換点への対応だけでなく、変革の成功率への影響全般においてこの6つの変化ドライバーの重要性が確認されています。

早期に転換点を見越して行動し、組織全体を巻き込んで問題を理解(意味付け)し、6つの変革ドライバーすべてを実践する組織では、そのメリットは計り知れません。転換点を効果的に乗り越えた先には、新たな価値が広がっています。

  • ケーススタディ:転換点への対応の在り方をひも解く

    某グローバル半導体メーカーは、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)を活用して財務機能全体で年間20万時間分の業務を自動化するために変革を開始しました。その成果を最大化するため、同社は変革プログラムを12カ月間で完了することを目指しました。同様のプログラムを実行する場合、他社ではそれよりはるかに長い時間を要します。

    財務部門で変革に向けた取り組みが始動しました。ところが、数カ月もたたないうちに、同部門の管理職と従業員は仕事を失ってしまうのではないか、業務でRPAを使いこなせるかどうか分からない、といった不安を抱き始めました。その後も状況は悪化し続け、変革プログラムのビジョンに対する信念や心理的安全性は部門全体で見る見る低下しました。主要なマイルストーンが未達になる可能性もありました。そして、変革プログラムに携わるすべての従業員が、そのアプローチについて「業務の実態を反映していない」と感じました。財務プロセスの変革にはVanilla社のテクノロジーソリューションが適用されましたが、その設計者は、同社の業務プロセスを十分に理解していなかったのです。このような状況が相まって、従業員は自身が関与している変革において裁量権も発言権もほとんどないと感じるようになりました。

    そこで同社は、転換点を予測し対処するために、以下の3つのステップを実践しました。

    1. 感知する
      経営幹部は、変革プログラムに携わる全メンバーの感情や見解に意識を向けていたため、上記の問題を早期に感知することができました。同社は、特に、態度や行動など非言語的な面の変化に注意を払っていました。
    2. 理解する(意味付ける)
      (変革リーダーと従業員の代表メンバーで構成される)拡張チームが一堂に会して数日間に及ぶ共同ワークショップを開催し、直面している問題について時間をかけて話し合い、理解を深めました。そして、チームが一丸となって変革を進めることができるよう、一人一人の主体性と信念を構築したのです。その結果、問題に対する主体性がチーム全体で醸成され、変革プログラムのミッションに対する信念もメンバー間で再確認することができ、さらに心理的安全性も再び高まりました。
    3. 行動に移す
      拡張チームは、変革プログラムに対する主体性をより広範に強化するために、個々の担当プロセスを含む既存の変革ビジョンを再考し、より明確化しました。そして、変革への関与感や責任感をチーム全体に浸透させるために権限の委譲を拡大したほか、ケイパビリティの構築に大規模に投資して技術的自立の定着を図ったのです。プロセスはチーム間やサプライヤーとの連携を促進するよう設計され、困難を共に乗り越えることでチーム内の絆も深まりました。

    RPAを活用した財務変革に成功し、従業員が総じてポジティブな感情を抱く環境が醸成された今、同社は全社的にRPAを導入・展開するために、新たな変革に乗り出そうとしています。

今回の調査結果に鑑みると、組織は変革プログラムを「進化し続ける動的なプロセス」と捉える必要があるとの結論に至ります。この動的側面を無視したり、元の計画に戻そうとしたりすることは賢明ではありません。転換点に積極的に向き合い、それを効果的に乗り越えることが、変革プログラムの成果向上につながります。

そのためには、組織は変革プログラムに対する考え方を再考し、変革過程で問題に直面するという事実を受け止める必要があります。変革というのは計画通りに進まないものです。転換点はほぼ確実に訪れます。

本稿では、共同調査チームによる最新の調査結果の概要を提示しています。レポート全文では、詳細なケーススタディと共に、どうすれば組織は転換点を早期に感知し、理解・意味付けし、それに基づいて行動を起こし、変革の成果創出を加速させることができるのかについて詳細な洞察を提供します。

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    1. Spreier, Scott, Fontaine, Mary H., and Malloy, Ruth, Leadership Run Amok: The Destructive Potential of Overachievers(Harvard Business Review, June 2006)
    2. Reitz, Megan, Higgins, John, Speak Up: Say what needs to be said and hear what needs to be heard(Pearson Education Limited, 2019, ©Pearson Education Limited 2019, 紙と電子)

     

本稿の執筆にあたり、以下の方々に協力していただきました。
Michael Wheelock(Ernst & Young LLPのAssociate DirectorでEY Knowledge担当)、AnnMarie Pino(Ernst & Young LLPのAssociate Directorで EY Knowledge担当)、Paul Meijer(Ernst & Young LLPのPartner)、Ron Rubinstein(Ernst & Young LLPのDirectorでEY Brand Marketing and Communications担当)、Ryan Gavin(Ernst & Young LLPのSupervising AssociateでEY Knowledge担当)、Bhavnik Mittal(Ernst & Young LLPのSeniorで EY Knowledge担当)

サマリー

転換点は、可能性を秘めた局面です。それは成功率を向上させる可能性である場合もあれば、プログラム全体を失敗に終わらせる可能性である場合もあります。どんな変革プログラムにも必ずと言っていいほど転換点が訪れます。その時に組織が問題の発生を迅速に感知し、組織メンバーと共にその問題を理解・意味付けし、それを基に適切な状況を構築して行動に移すことができれば、その転換点を機に変革プログラムが成功軌道に乗り、想定を上回る大きな価値を生み出す可能性が12倍高まることが期待されます。

この記事について

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Kim Billeter

EY Global and Americas People Consulting Leader

Inclusiveness leader with over 20 years of consulting experience. Mother.

Craig Glindemann

EY Global Consulting Markets Leader

Client advocate. Technologist. Explorer. Human-centered transformation leader. Passionate supporter of neurodiverse hiring and development.

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Excited to serve as a leader in the PAS business with over 25 years working to transform the businesses of our largest global clients. Problem solver and purposeful leader.

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