2024年7月1日
スキルベース組織の未来~日本企業におけるスキルを基軸にした人材マネジメントの在り方を考える~

スキルベース組織の未来~日本企業におけるスキルを基軸にした人材マネジメントの在り方を考える~

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2024年7月1日

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現在、日本では人材不足により、スキルを基軸に採用や人材配置を見直す取り組みが注目されています。企業は、日々新しく進化するスキルにどのように対応すべきか。

EY、Skillnote、SAPの3社は、企業のリーダーたちをお招きし、スキルベースマネジメントの実現に向けたセミナーを開催。先進企業の変革事例をご紹介すると共に、そこから見えてくる示唆をご提供しました。

要点

  • ジョブ型の人材マネジメントが限界を迎え、スキルベースへの転換期が到来。
  • スキルベースの人材マネジメントとは、仕事をモジュール化し、スキルマッチングを通じて最適な役割分担でジョブを遂行できる状態にすること。
  • 人材の流動化や適所適材の課題解決のためにスキルマネジメントシステムを導入した結果、スキルデータに基づく人員計画が可能に。
  • スキルを中心とした戦略的要員計画が進めば、オープンでフェアなキャリアの機会を持てるようになる。その結果、人的資本が最大化される。
(Chapter breaker)
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Session1

スキルベース人材マネジメントの実現に向けた、人材可視化のアプローチ

世界的な人手不足を背景にジョブ型の人材マネジメントが限界を迎えつつある中、日本でもスキルを中心とした人材マネジメントが主流となることが予想されています。企業が人材ポートフォリオを持つことのメリットやスキルベース人材マネジメントが実現した世界について解説しました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

ピープル・コンサルティング パートナー 高柳 圭介

一部の先進企業では、スキルベース人材マネジメントに向けた取り組みがすでに進んでいます。そのひとつとして高柳が挙げたのが、昨年10月、日揮ホールディングスが部長職の役割を3つに分けたという事例です。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・コンサルティング パートナー 高柳 圭介

「これまで部長ひとりが担ってきた多くの職責をスキルベースで分解し、それぞれのスキルにたけた人物をアサインメントすることで、専門性の高い人材がより効率的に部長職を運営できるという取り組みです。仕事をモジュール(細分)化し、スキルマッチングを通じて最適な役割分担でジョブを遂行できる状態にする。これこそが、スキルベース人材マネジメントです」(高柳)

このような考え方がなぜ欧米を中心に流行しつつあるのでしょうか。その背景について高柳は、「ジョブの定義が追い付かないほど移り変わりが激しいこと、そして世界的な人材不足やテクノロジーの進化により、従来のような万能型の人材よりも特定のスキル・経験のある人材を適宜ソーシングしていく時代になってきた」と指摘します。

「今後、日本企業でもスキルの可視化が必須となってくるでしょう。しかし、すべてをモニタリングし可視化することは容易ではありません。そこで期待されるのが、スキルテックの活用です」(高柳)

スキルベースで“見える化”を実現するには、社内の共通言語はもちろん、社外のリソースを模索するための要件も兼ね備えた “汎用(はんよう)的で、統合された”スキルディクショナリーが必要です。

「例えば、AIを用いた動的なスキルディクショナリーでスキルを可視化し、そのスキルを基軸にジョブと人をマッチングする。さらに、従業員個人のスキルプロファイルを自動生成する、トレーニングプログラムと連携するなど、さまざまなことがひとつのプラットフォームの中で実現できるソリューションが登場しています。EYでもSkills Foundry™と呼ばれる巨大なディクショナリーとベンチマークのデータを所有しており、各ジョブで必要とされるスキルセットやコンピテンシーの可視化が可能です」(高柳)

では、スキルベース人材マネジメントが実現した世界とはどのようなものなのでしょうか。

「従業員はスキルに基づいて仕事や報酬が決まり、退職後も自分のスキル情報を持って新たな企業からオファーを受ける。一方で、企業はスキルをベースに要員計画や採用、異動を行うなど、すべての中心にスキルデータのプラットフォームがある世界になっていくと考えています。これまでは事業目標の達成に必要な要員の『数』を算出して要員計画を立てていました。しかしスキルベースの考え方の中では、『数』だけでなく、その役割を担う人材が持っていなければならないスキルからAs-isとTo-beのギャップを“見える化”し、要員計画に反映する必要が出てくるでしょうか」(高柳)

そのような未来に基づけば、企業が人材のポートフォリオを持つことは必須だと言えます。それを裏付けるように、経済産業省による人的資本経営についての報告書「人材版伊藤レポート2.0」の公表に伴い、「(動的な)人材ポートフォリオ」1が人事領域 におけるホットトピックとなっています。

高柳は「ジョブ型の人材マネジメントが限界を迎え、スキルベースへの転換期を迎えている今、人材ポートフォリオ策定の中でもスキル(質)の可視化は必須項目です。ぜひその点を意識して“見える化”を進めていただきたい」と述べ、講演を締めくくりました。

(Chapter breaker)
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Section 2

製造業におけるスキルベースの人材マネジメント最新事例

スキルベースで人材マネジメントを行うには、従業員一人ひとりのスキルを可視化し、記録するシステムが必要です。スキルマネジメントシステムを導入した企業から、スキルデータを活用した人材マネジメントの事例をご紹介いただきました。

株式会社Skillnote  代表取締役 山川 隆史 氏

川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニー 航空宇宙生産本部 生産企画部 工場企画課 服部 一隆 氏

株式会社Skillnoteは、製造業に特化したスキルマネジメントシステム「Skillnote(スキルノート)」を提供しています。すでに150社以上に導入されているこのシステムについて、同社の山川氏は「『Skillnote』にはスキルマップと呼ばれる職場で必要なスキルを並べ、誰がどのようなスキルを持っているのか可視化できる機能を備えています。また、教育・訓練を行った結果を記録し、承認するとスキルマップを自動で更新することもできます。スキルデータを分析・活用することで、人材に関する課題の発見や解決に役立てることができます」と、その詳細を紹介しました。

株式会社Skillnote 代表取締役 山川 隆史 氏

株式会社Skillnote
代表取締役 山川 隆史 氏

2021年よりこのシステムを導入した川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニーでは、昨年4月から航空宇宙部門に所属するおよそ5,000人の従業員全員に対して運用を開始しました。導入に至った背景について、同社の服部氏は次のように述べました。

川崎重工業株式会社

川崎重工業株式会社
航空宇宙システムカンパニー 航空宇宙生産本部 生産統括部 生産企画課
服部 一隆 氏

「ISO9100に対応する適格な人員計画を目的に、業務に必要なスキルと個人が保有するスキルを同時に同じプラットフォームで見たいというニーズがありました。また、スキルや教育記録に関するヒューマンエラーの撲滅、トレーサビリティーの強化、個人が持つスキルデータの活用という理由から、システムの導入を決めました」

川崎重工業がスキルデータを使って目指すのは、人材の流動化と“適所適材”です。

「コロナ禍が明け、航空機の需要は戻ったものの、人手不足による人材の流動化は避けられない見通しです。各人のスキルを最大限に生かすことが切実な課題となる中、人が少ない部署に合わせて人員を配置する必要があります。そこで、その人に合った仕事をさせる“適材適所”ではなく、あえて“適所適材”としています」(服部)

スキルデータの活用シーンとして、服部氏が挙げたものは主に次の3つです。

「1つ目は技能伝承です。ベテランから従業員が減っていく中、失われるスキルを明確にし、確実に伝承していくためには、育成計画をしっかり練らなければなりません。2つ目は変化への対応と最適配置です。先ほどもお伝えしたように、時代の変化によって仕事は増減します。そのため、人材流動を行い、少ない人数で“適所適材”を目指していく必要があります。そして3つ目が、個人のキャリア開発やエンゲージメントの向上です。従業員のやりがい、エンゲージメントを高める企業風土がなければ、会社をけん引していく人材も育ちません。これまでは上司の経験則で一方的に決まっていた人事を、スキルベースで可視化していくことでキャリアパスを明確にする。その実現に向けて現在取り組んでいるところです」(服部氏)

今や航空宇宙カンパニー全体でSkillnoteを導入している川崎重工業ですが、そこに至るまでにはさまざまな苦労や課題があったと服部氏は言います。

「一番の課題は社内の説得や巻き込みでした。当時、紙で記録していたISO9100の監査書類をデータベース化することによってヒューマンエラーを防げるなど、スキルデータのメリットを上層部に説明。上層部の理解を得た上で、会社全体で取り組むという流れをつくりました。そして、まずは私が所属する生産技術部門でスモールスタートし、その効果を実証してから全社に反映するという形をとりました」(服部)

運用も9割ほど進み、スキルデータに基づく人員計画ができるようになった結果、社内の意識も変わりつつあると服部氏は述べます。

「次のテーマはスキルデータを分析し、人材流動や個人のエンゲージメントを上げていくことです。そこに力を発揮するのが、このSkillnoteというシステムだと思います」(服部氏)

山川氏もまさにそれこそが本日のテーマであるとして、「スキルデータをベースにした人材マネジメントについて、現在多くの企業が課題を持っていると思います。従業員が将来像を思い描きながら成長していけるように、われわれもさらなる貢献をしていきたいと考えています」と述べ、次の講演へとバトンを渡しました。

(Chapter breaker)
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Session3

企業競争力を高めるスキルを軸とした人材・組織マネジメント

日々アップデートされるスキルを適切に管理し、要員計画に反映していく際に有効なのがスキル管理システム。生成AIなど最新のテクノロジーを使った事例と絡めながら、人的資本を最大化するための方法をお伝えしました。

SAPジャパン株式会社

人事・人財ソリューションアドバイザリー 本部長 佐々見 直文 氏

続いて登壇したSAPジャパン株式会社の佐々見氏は、人材不足という深刻な課題についてデータを用いながら次のように解説します。

SAPジャパン株式会社

SAPジャパン株式会社
人事・人財ソリューションアドバイザリー 本部長
佐々見 直文 氏

「日本では79万人のデジタル人材が不足すると言われており、60%以上の大企業がリスキリングに取り組んでいます。しかし、せっかく身につけたスキルでも、3分の1は4年で時代遅れになるというデータがあります。未来のビジネスを支えるワークフォースを構築していくには、最新のスキルニーズを絶え間なくアップデートしながら、スキルを中心とした要員計画を行う必要があるでしょう」

スキル管理には、大きく分けると3つの課題があると佐々見氏は述べます。

「1つ目がスキルカタログの構築と維持。2つ目がその継続や更新。そして3つ目が、スキル情報の活用不足です。しかし最も重要なのは、この3つの課題を把握した上で従業員の成長意欲と将来に向けたビジネスニーズをつないでいくことです」

これらの課題は、現在テクノロジーの力を使って解決できるようになってきています。まず1つ目の課題「スキルカタログの構築や維持」について、佐々見氏は次のように解説します。

「例えば1行で書いた職務定義から生成AIがより詳細なものを作成してスキルカタログに追加したり、従業員の履歴書を読み込ませたりするだけで、求めるスキルと人材が何件合致しているかを自動で判別することが可能です。常に最新のスキルが自動的にデータベースに反映されるため、ポートフォリオの構築や維持に時間を割くこともありません」

そのような環境が構築されれば、2つ目の課題「従業員のスキル情報の継続更新」についてもたやすくなります。

「従業員がプロジェクトに参加したり研修を受けたりすることで学んだスキルや獲得したスキルが、自動的にデータベースに反映されます。また、従業員自身も、自分の現在のポジションに対して、目指す職務に必要なスキルやスキルギャップを明確に把握できるようになります」(佐々見氏)

企業として必要なスキル、従業員が現在持っているスキル、その情報にさらに価値を加えるに必要となるのが、3つ目の課題「スキル情報の活用不足」解決です。

「どのようなスキルを持った人たちが何人必要なのか。戦略的要員計画が定義できれば、企業が目指す方向性と従業員自身が目指すべき方向性が明確になります。また従業員のスキルギャップをどう埋めるべきかも見えてきます。従業員が受けるべき研修がプッシュ型で出てきたり、プロジェクトを通してフィードバックを受けたりできれば、オープンでフェアなキャリアの機会が生まれ、自己効力感も養われるはずです。

このようにスキル管理システムを活用し、自律的キャリアを実現できる環境を従業員のみなさまに提供することは、人的資本の最大化につながります。スキルを軸とした人材・組織マネジメントは、企業経営に大きなインパクトを与えるものになるでしょう」と佐々見氏は述べ、講演を終えました。

1出所:経済産業省「人的資本経営に関する調査 集計結果」、
https://www. meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/survey_summary.pdf

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スキルベース組織の未来

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サマリー

日本ではもともとジョブ型ではなく、スキルベースでの雇用が一般的でした。そう考えると、これから起こることはある種の原点回帰と言えるかもしれません。人材不足の課題をAIやテクノロジーの力を活用しながらどのように解決するのか。大きな転換点を迎えつつある今、人的資本を最大化し、継続できるシステムを構築することが重要です。

この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

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