EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY行政書士法人 People Advisory Services 木島祥登
行政書士として18年以上にわたってイミグレーションサービスを提供している。特に、グローバル企業やスタートアップ企業に対してインバウンド・アウトバウンド・イミグレーションをカバー。昨今は、富裕層向けのイミグレーションサービス(Citizenship by Investment)など幅広いイミグレーションサービスを提供している。2021年よりEY行政書士法人 パートナー。著書(共著)に『Q&A 外国人をめぐる法律相談』(新日本法規出版)などがある。
要点
2020年1月、日本国内で初めて新型コロナウイルス感染症の感染者が確認されて以来、日本政府はさまざまな水際対策を打ち出してきました。21年1月13日、日本政府は、全世界からの外国人について、極めて限定的な特段の事情がない限り新規入国を認めないこととしました(水際対策強化に係る新たな措置(7)※1)。
他国と比較しても厳しい水際対策は、同年11月に見直され、11月8日から商用・就労目的の短期間(3カ月以下)の滞在者および長期間の滞在者の新規入国について、受入責任者※2の事業を所管する省庁(業所管省庁)から指定された誓約書および活動計画書を含む申請書式を日本国内に所在する受入責任者から当該業所管省庁へ提出し、当該業所管省庁から事前に審査を受けた場合には、「特段の事情」があるものとして認めることとなりました(水際対策強化に係る新たな措置(19)※3)(以下、水際対策19)。EY行政書士法人がEY税理士法人とともに実施したサーベイ(「海外赴任者・税務等実態調査結果 ~第2回 ビザ・水際対策・海外出張・外国籍社員の受け入れ~」)にて、水際対策19を受けた取組みを尋ねたところ、約50%の企業が「手続き方法を理解したが煩雑であるため行っていない」「知ってはいたが、手続き方法への理解が不足しているため開始していない」と回答しており※4、外国人を受け入れる企業にとっては、実質的には使い勝手の悪い仕組みでした。水際対策19は、オミクロン株の流行を受けて3週間後に停止されることとなり(水際対策強化に係る新たな措置(20)※5)、実際に水際対策19のスキームを通じて入国できた外国人はわずかでした。
本年3月1日から、外国人の新規入国については、受入責任者の管理のもと、観光目的以外の新規入国がようやく認められることとなりました(水際対策強化に係る新たな措置(27)※6)(以下、水際対策27)。水際対策27における外国人の新規入国の流れは次のとおりです※7。
① 受入責任者は、入国前に、厚生労働省の入国者健康確認システム(ERFS)にログインの上、オンラインで事前申請し、外国人の新規入国者に関する情報等(待機場所を含む)の入力、誓約事項の同意等を行います。
② 必要事項の入力後、受付済証(PDF)が発行され、受入責任者は受付済証をダウンロードし、入国予定者に送付します。
③ 入国予定者は、各在外公館に受付済証を呈示の上、査証申請書類一式を提出します。これを受けて、各在外公館は、審査を行った後、査証を発給します。
④ 入国後、入国者に対して、MySOS(入国者健康居所確認アプリ)を通じた健康状態、位置情報確認等が行われるとともに、受入責任者は、待機施設での待機や健康状態の確認や、入国者が有症状、陽性の場合の医療機関への連絡など、必要な管理・支援を行うことになります。
入国者数の上限も、22年4月10日以降は、1日1万人となり外国人の新規入国がさらに進むことが期待されています。
また、本年6月以降については、岸田文雄首相が、「水際対策をG7並みに緩和する」と発表しています。詳細について公式な発表はありませんが、①受入責任者の管理の下、入国者の受入を行うという基本的な枠組みは変更せず、②観光目的を含む幅広い目的の入国を認め、③1日の入国者数を2万人とするといった枠組みになる可能性があります。
水際対策27は、水際対策19と比較すると、外国人の新規入国に係る手続きが簡素化されていますが、幾つかの問題点が浮かび上がっています。
ERFSを利用するためには、日本の受入責任者に所属している受入責任者担当者がIDを申請する必要があります。この点につきまして、複数の受入責任者担当者がIDを取得することが可能であり、かつERFSにログインすると、同一の受入責任者に所属している他の受入責任者担当者が申請した登録状況を閲覧できる状態になっています。
例えば、ある受入責任者担当者が、水面下で交渉を進めている海外の買収先企業の経営陣の来日や、今後行われる株主総会で選出される新しい取締役等経営陣の来日などの機微な情報が他の受入責任者担当者の目に触れる事態が生じています。また、受入責任者は、誰が受入責任者担当者としてIDを取得しているか把握することができません。したがって、これらの秘匿性をどのように保護するかが大きな課題となっています。
受入責任者は、受入責任者担当者を一部に限定した上で、出張者の受入れに関する社内フローを見直し、受入責任者の責務を十分に理解した受入責任者担当者がオンライン登録を集中管理する方法を導入する必要があります。
水際対策27の要諦の1つは、受入責任者が入国者を管理することが1つの条件となることです。受入責任者は、前述のとおりERFSを通じてオンライン登録を行いますが、その際に誓約事項※8の同意等を行います。受入責任者が誓約事項に違反した場合、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、当該受入責任者の企業・団体等の名称が公表され得るとともに、当該受入責任者からの「外国人新規入国オンライン申請」を以後受け付けないことがあり得ます。
受入責任者担当者が、これらの誓約事項をよく理解せず、入国者の入国前に必要な案内をしないケースや、例えば待機期間中に土日祝日を含めて毎日健康状態の確認することを怠るケースなど、誓約違反が生じることを避けなければなりません。受入責任者は入国者に対して、入国前にブリーフィングを行う等誓約違反が生じないよう受入責任者担当者への周知徹底を行う必要があります。
現在、全ての外国籍の方につき、再入国者の場合を除き、入国前に査証の申請が必要です。そのため、多くの会社では、部門や国際人事、秘書室等がそれぞれにERFSのIDを取得した上で、査証申請の準備を行っています。しかし、査証申請は、申請先の在外公館によって事前予約の要否、代理申請の可否、査証申請書以外の必要書類が異なりますので、事前の調査や書類作成の手続きが必要になり、国際人事などへの問い合わせが集中する事態が発生しています。今後、水際対策が続くと、スムーズな受入れだけではなく、個人情報や企業活動に係る機密情報、誓約違反や検疫法等の法令違反が生じないような受入れ態勢の整備を進める企業が増えていくものと思われます。
水際対策27は、外国人の新規入国をできるだけ簡素な方法で認めています。しかし、受入責任者の必要十分な管理が行われることが大前提です。受入責任者の誓約違反によって企業名を公表された場合のレピュテーションリスクは甚大です。シンプルに見える水際対策27ですが、誓約事項や種々の手続きを確実に理解し、入国者に周知するためには専門家のサポートが欠かせない状況です。受入責任者においては、今一度受入体制等を見直すことが、さまざまなリスク回避につながるものといえます。
※1 corona.go.jp/news/pdf/mizugiwataisaku_20210113_02.pdf
※2 「水際対策強化に係る新たな措置(27)」Q&A 問5「入国者を雇用する又は入国者を事業・興行のために招へいする企業・団体等をいいます」
※3 www.mhlw.go.jp/content/000851998.pdf
※4 EY調査、新型コロナウイルスの水際対策による企業活動への影響の大きさが鮮明に
ey.com/ja_jp/news/2022/03/ey-japan-news-release-2022-03-07
※5 www.mhlw.go.jp/content/000883241.pdf
※6 www.mhlw.go.jp/content/000901649.pdf
※7 「水際対策強化に係る新たな措置(27)」Q&A 問1-11
※8 entry.hco.mhlw.go.jp/doc/commitment_form.pdf
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行から各国でさまざまな水際対策が導入され、日本も長期間にわたり外国人の新規入国を原則として認めない政策を続けてきました。2022年3月1日から、観光目的を除く外国人の新規入国を原則として認めることとなりましたが、幾つかの問題点が浮かび上がっており、企業は対応に追われています。
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