EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
IFRSに準拠して財務諸表を作成している企業は、新たに公表される基準書や解釈指針書を確認して、その影響を調査し会計処理及び表示・開示を検討する必要があります。IFRSの改訂は、IFRSの基本原則に関する重要な改訂から年次改善プロセスに含まれるような比較的軽微な改訂まで多岐にわたりますが、財務諸表作成者はこれらの動向を常に把握しておく必要があります。
本稿では、2022年3月期から強制適用される基準の改訂について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
22年3月期から強制適用される基準改訂の内容は以下の通りです。本稿では、Ⅲ以降でこれらの基準改訂について詳述します。
IASB(国際会計基準審議会)は、20年8月27日に「金利指標改革-フェーズ2(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正)」を公表しました。フェーズ2の改訂の公表をもってIASBの金利指標改革への対応プロジェクトは完了となっています。
本改訂は、金利指標改革に伴い、銀行間調達金利(IBOR)が代替リスクフリーレート(RFR)に置き換えられる時点で財務報告に及ぼす影響を会計処理するに当たっての救済措置を定めています。
本改訂は、金利指標改革に直接起因する契約条件やキャッシュ・フローの変更を、市場金利の変動と同じように、変動金利の変動として扱うよう求める実務上の便法を定めています。この実務上の便法が使用できるためには、IBORからRFRへの移行が経済的に同等の基準で行われている必要があります。
信用スプレッドや満期日の変更など、その他の変更が同時に行われている場合には、それらの変更を評価し、当該変更が大幅に異なるものである場合には、金融商品の認識を中止します。一方、当該変更が大幅に異なるものではない場合、更新した実効金利(EIR)を用いて金融商品の帳簿価額を再計算し、条件変更による利得又は損失を純損益に認識します。
実務上の便法は、IFRS第4号の適用企業が、IFRS第9号の適用免除を選択(すなわち、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」を適用)している場合にも求められ、また、IFRS第16号「リース」については、金利指標改革によるリースの条件変更にもその適用が求められます。
本改訂は、金利指標改革に起因する条件変更の場合には、ヘッジ関係を中止することなくヘッジ指定及びヘッジ文書を修正することを容認しています。容認される修正としては、ヘッジ対象リスク自体をRFRを参照するように再定義することや、RFRへの参照を反映するようにヘッジ手段及び(又は)ヘッジ対象についての記述を修正することなどが挙げられます。当該修正は、金利指標改革により求められる条件変更が行われた報告期間の末日までに完了させる必要があります。
移行時に発生する可能性がある利得又は損失は、IFRS第9号及びIAS第39号の通常のヘッジ非有効性の測定及び認識に関する規定を通じて処理されます。
キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の累計額はRFRに基づくものとみなされます。当該キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金は、RFRに基づくヘッジ対象たるキャッシュ・フローが純損益に影響を与えるのと同じ期間において、純損益に振り替えられます。
また、IAS第39号に定められるヘッジ有効性の遡(そ)及的評価については、RFRへの移行時、企業はヘッジごとに、公正価値の変動累計額をゼロに再設定することを選択できます。
本改訂は、指定された金融商品グループに含まれる項目(マクロ・キャッシュ・フロー・ヘッジ戦略の一部を構成する項目)に対しても、金利指標改革により直接的に条件変更が求められることになったものについては救済措置を定めています。当該救済措置によって、そのようなヘッジ戦略を中止せずに引き続き維持することが可能になります。ヘッジ対象グループに含まれる金融商品は、それぞれ異なるタイミングでIBORからRFRへ移行することになるため、ヘッジ対象リスクとしてRFRを参照する金融商品により構成される各サブグループへ、それぞれ順次移されることになります。
金融商品がRFRに移行するにつれ、ヘッジ関係を複数回にわたって変更する必要が生じる場合があります。フェーズ2の救済措置は、ヘッジ関係がIBOR改革に直接起因して変更される都度適用されます。フェーズ2の救済措置は、IBOR改革により求められる金融商品及びヘッジ関係に対する変更が全て行われた時点で終了します。
本改訂は、RFR参照金融商品がリスク要素のヘッジとして指定される場合に「独立して識別可能」の要件を満たさなくてもよいとする一時的な救済措置を定めています。本救済措置により、企業は、ヘッジの指定時点で、RFRリスク要素が向こう24カ月の間に独立して識別可能になると合理的に見込んでいる場合、「独立して識別可能」の要件は満たされているとみなすことができます。
IFRS第7号「金融商品:開示」は以下を追加しています。
本改訂は強制適用であり、早期適用も認められます。ヘッジ関係が金利指標改革で必要となった条件変更のみを理由として中止されており、したがって、仮にその時点でフェーズ2の改訂が適用されていたならば、ヘッジ関係が中止されることがなかった場合には、ヘッジ関係を復活させなければなりません。なお、本改訂は遡及適用されますが、過年度の修正再表示は求められません。
新型コロナウイルス感染症の拡大及び世界各国の政府の対策を受け、多くの借手が何らかの形態の賃料減免を貸手から受けています。このような賃料減免はさまざまな形態が見られますが、例えばリース料の減額を受けられる借手は、それがリースの条件変更に該当する場合、改訂前のIFRS第16号では条件変更の会計処理を行います。しかし、このような状況下でリースの借手が大量のリース契約について条件変更に該当するか検討して会計処理を行うことは困難であるため、IASBは一定の場合に簡便的に処理することを認める基準改訂を行いました。リースの借手は簡便法を適用する場合、賃料の減免等がリースの条件変更に該当するかどうかを検討する必要はありません。
上記適用要件の期日は、もともとは「21年6月30日以前」とされていましたが、感染拡大が想定された期間を超えて続いていることから、21年改正により、「22年6月30日以前」へと延長されることとなりました。
簡便法は、新型コロナウイルスの感染拡大に直接起因する賃料減免であり、かつIFRS第16号第46B項に定める以下の全ての条件を満たすものにのみ適用されます。
近年、IFRS第9号、IFRS第15号及びIFRS第16号といった新基準の適用が続いていましたが、22年3月期は大型の新基準の適用はなく、上記のような既存の基準の改訂の適用となっています。しかし、関連する取引が発生した場合には、正しい会計処理を行うとともに会計方針や求められる注記も適切に開示することにかわりはないため、IASBやIFRS解釈指針委員会の基準改訂動向について注視しつつ事前の準備と検討が重要となります。
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