情報センサー

グループ通算制度に関する会計・税務


情報センサー2021年12月号 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 石川 仁
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、化学メーカーや製薬業の監査業務に従事している。
 
EY税理士法人 ビジネス・タックス・アドバイザリーグループ 公認会計士・税理士 中島高宏
グループ通算制度・連結納税制度の導入支援やコンサルティング業務、法人税申告業務や国内・国際税務アドバイザリー業務に従事している。

Ⅰ はじめに

2022年4月1日以後開始する事業年度より連結納税制度からグループ通算制度に移行されます。また、21年8月12日にグループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを明らかにする目的で、企業会計基準委員会(ASBJ)から実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」が公表されました。

本稿では、グループ通算制度自体や実務対応報告第42号の内容を踏まえて、グループ通算制度を適用するにあたって留意すべき税務上、会計上の論点について整理します。なお、本稿における意見にわたる部分は筆者らの私見であることを予めお伝えします。また、本稿で用いる会計基準等の略称は<表1>のとおりです。

 表1 本稿で用いる会計基準等の略称

なお、グループ通算制度の概要については、本誌20年11月号及び本誌20年12月号でも、前後編として2号連続で紹介していますので個々の制度に関する説明はそちらをご参照ください。また、実務対応報告第42号の概要については、本誌21年8月・9月合併号※1をご参照ください。

 

Ⅱ グループ通算制度を新たに適用する場合の税務上及び会計上の取扱い

1. グループ通算制度の承認申請に関する税務手続

グループ通算制度は22年4月1日以後開始する事業年度より適用され、移行に伴い連結納税制度は廃止されます。

単体納税の法人がグループ通算制度の適用を受ける場合には、最初にグループ通算制度を適用する事業年度の開始の日の3カ月前までに承認申請書を親会社の所轄税務署に提出する必要があります(法法64の9②)。3月決算法人で単体納税の法人がグループ通算制度を初年度から適用するためには、21年12月末までに承認申請書の提出が必要となります。

国税庁長官は、承認又は却下の処分をする場合には、その申請をした親法人に対し書面によりその旨を通知します(法令131の12①)。

承認申請書の提出後、グループ通算制度を適用しようとする最初の事業年度の開始の日の前日までに国税庁長官による承認又は却下の処分がなかった場合には、その開始の日において承認があったものとみなされます(以下、みなし承認)(法法64の9⑤)。3月決算法人がグループ通算制度を新たに始めるためには、22年3月31日までに承認の処分を受けるか、22年4月1日にみなし承認を受けることになります。グループ通算制度の承認の処分があった場合、通算親法人及び通算子法人となる法人の全てが、グループ通算制度の規定の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日から通算制度を開始します(法法64の9⑥)。

一方、すでに連結納税制度を適用している法人がグループ通算制度に移行する場合には、特段の手続は不要であり、22年4月1日以後に開始する事業年度から自動的にグループ通算制度に移行することになります(改正法附則14①)。グループ通算制度に移行せず、単体納税に戻る場合には、グループ通算制度へ移行しない旨の届出を22年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに提出しなければなりません(改正法附則29②、改正規附則5①)。連結納税制度は原則として一度適用をしてしまうとやむを得ない事情がない限り取りやめを行うことができませんが、グループ通算制度移行時の経過措置として新制度に移行しないことを選択できる手段が設けられています。すでに連結納税制度を適用している3月決算法人については、グループ通算制度に移行しない場合には、22年3月31日までにグループ通算制度へ移行しない旨の届出書を提出する必要があります。

2. 適用時の会計上の取扱い

実務対応報告第42号では、グループ通算制度を新たに適用する場合(連結納税制度から移行する場合については後述の適用時期に関する記載を参照)には、グループ通算制度の適用の承認があった日又は承認があったものとみなされた日の前日を含む連結会計年度及び事業年度(四半期(連結)会計期間を含む)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用するとされています(実務対応報告第42号21項)。上記のとおり、適用の承認がある場合にはグループ通算制度の適用初年度の開始日の前日までに国税庁長官により承認されるため、また、適用の承認又は却下の処分がなかった場合にはその開始の日において承認があったものとみなされるため、却下の処分がない限りは、承認の有無によらず、グループ通算制度の適用初年度の前年度からグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用することとなります。

なお、適用の承認を受けていない場合であっても、翌年度よりグループ通算制度を適用することが明らかな場合であって、かつ、グループ通算制度に基づく税効果会計の会計処理が合理的に行われると認められる場合には、これらを満たした時点を含む連結会計年度及び事業年度(四半期(連結)会計期間を含む)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものと仮定して、税効果会計を適用することができるとされています(実務対応報告第42号21項ただし書き)。

ただし、実務対応報告第42号の原則適用時期は、22年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされているため(実務対応報告第42号31項)、早期適用しない限り、22年4月1日からグループ通算制度に移行する場合であっても、22年3月期においてグループ通算制度を適用するものと仮定して、税効果会計を適用することとはならない点に留意が必要です。なお、税効果会計に関する会計処理及び開示については、22年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の期末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用できるとされています(実務対応報告第42号31項ただし書き)。この点、あくまで期末からの早期適用が認められているものであり、十分な周知期間を確保することや、年度内における首尾一貫性を確保することから、四半期会計期間からの早期適用は認められていません。

ここまでの適用時の会計上の取扱いについてまとめると、<図1>のとおりです。

 図1 3月決算法人を前提とした移行ケースごとの実務対応報告第42号に基づく税効果会計の適用時期

ここで、3月末決算法人であれば、実務対応報告第42号を原則適用した場合、23年3月期の期首から適用となります。この場合、23年3月期の第1四半期である22年6月第1四半期において、実務対応報告第42号適用に伴い税効果会計への影響が生じるのであれば、当該影響を織り込む必要があります。この点、仮に四半期における繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い(企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」16項、17項)を採用している場合には、経営環境等に著しい変化が生じていない等の一定の要件を満たせば、前年度末に検討した将来の業績予測等を用いて繰延税金資産の回収可能性を簡便的に判断することができますが、適用影響がある場合には、当該影響を織り込むことになり、実務上22年6月決算手続が煩雑になることも想定されます。

特に、23年3月期より単体納税制度(単体申告)からグループ通算制度へ移行することを予定している会社の場合には、実務対応報告第42号適用に伴い、繰延税金資産の回収可能性の判断における企業の分類について、「通算グループ全体の分類」と「通算会社の分類」のいずれか上位の分類に応じて回収可能性を判断することになりますので(詳細は後述のⅤ 2.参照)、仮に「通算グループ全体の分類」が「通算会社の分類」より上位の場合には企業の分類が変わることも考えられるため、税効果会計へより影響を与え得るとも考えられます。

一方で、上記のとおり実務対応報告第42号を22年3月期の期末から早期適用することにより、22年3月期において税効果会計に係る影響を取り込むことができます。

したがって、原則適用することにより22年6月の第1四半期決算において実務対応報告第42号適用による税効果会計に係る影響を取り込むのか、早期適用することにより22年3月期に当該影響を取り込むのか、適用に向けての準備状況や22年6月決算実務へ与える影響も勘案の上、予め検討しておくことが有用であると考えられます。

 

Ⅲ グループ通算制度における申告納付手続及び財務諸表における表示

1. グループ通算制度における申告・納付と通算税効果額について

グループ通算制度では、各通算法人が自らの所得金額及び法人税の額について申告を行うこととされています(法法74①)。連結納税制度では、連結親法人が連結法人税確定申告書を提出していましたが、それぞれの通算法人が確定申告書を提出することになる点が大きく異なります。

また、連結納税制度においては、法人税の納付は連結親法人が所轄の税務署に納めることとされており、各連結法人で法人税の負担額として帰せられ、又は法人税の減少額として帰せられる金額である連結法人税の個別帰属額として認識していました。

グループ通算制度の場合には申告と同様に各通算法人が所轄の税務署に納めることとなります。したがって、申告・納付手続に関しては、連結納税制度よりも単体申告に近似しているものと考えられます。なお、通算親法人の電子署名をしてe-Taxにより通算子法人の申告を行うこともできるとされますので、連結納税制度から移行する法人がこれまでと同様の申告・納付手続を行うこともできます。

グループ通算制度や連結納税制度を導入するメリットとして、ある法人の所得とある法人の欠損を相殺することにより、グループ全体の所得金額を減少させる効果という点が挙げられます。また、試験研究費が発生しているものの、単体申告では自社では課税所得や法人税額が生じないため、試験研究費の税額控除制度が適用できなかった場合でも、通算グループ全体では課税所得や法人税額が発生することにより、税額控除を適用できるといったメリットが挙げられます。

グループ通算制度を適用することにより減少した法人税相当額について、グループで金銭の授受が行われることがありますが、これを「通算税効果額」といいます(法法26④)。例えば、他の通算法人の欠損の金額と損益通算することで法人税が減少した通算法人は、他の通算法人に対して損益通算した欠損の金額に対する法人税相当額を支払うことが考えられます。この通算税効果額の計算方法については、法令上は規定されていませんが、「グループ通算制度に関するQ&A(令和2年6月)(令和2年8月、令和3年6月改訂)」の問58で紹介されている計算方法を参考に計算することになります。なお、通算税効果額について、資金の精算を行うかどうかは任意とされています。

連結納税制度とグループ通算制度で納付手続及びグループ内の資金の授受について比較すると<図2>のように示されます。

図2 グループ通算制度と連結納税制度の申告・納付イメージ

2. 法人税及び地方法人税に関する表示

(1) 連結納税制度を適用する場合の表示

連結納税制度では、連結納税親会社(連結親法人)が申告・納付を行います。連結納税親会社では、連結納税親会社に係る連結法人税の個別帰属額及び地方法人税の個別帰属額を損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示するとともに、連結法人税及び地方法人税として納付すべき額を貸借対照表の「未払法人税等」に含めて表示することとされていました。また、連結納税子会社(連結子法人)に係る連結法人税の個別帰属額及び地方法人税の個別帰属額については、各連結納税子会社に対する「未収入金」及び「未払金」として表示することとされていました(実務対応報告第5号Q17のA1(2)①)。一方、連結納税子会社では、連結納税子会社に係る連結法人税の個別帰属額及び地方法人税の個別帰属額を損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示するとともに、同額を連結納税親会社に対する「未収入金」又は「未払金」として計上することとされていました(実務対応報告第5号Q17のA1(2)②)。

(2) グループ通算制度を適用する場合の表示

グループ通算制度を適用する場合の法人税及び地方法人税に関する会計処理及び表示については、実務対応報告第42号に定めのあるものを除き、法人税等会計基準の定めに従うこととされています(実務対応報告第42号6項、24項)。グループ通算制度では、各社がそれぞれ申告・納付を行うため、各社が申告・納付を行う税額については、法人税等会計基準に従い、「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示するとともに、「未払法人税等」として計上することになります。

また、申告・納付に加えて、通算グループ内で通算税効果額の授受が任意で行われますが、通算税効果額の表示については、連結納税制度における個別帰属額の表示に係る取扱いが踏襲されています(実務対応報告第42号57項、58項)。すなわち、通算税効果額は、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととされており(実務対応報告第42号7項)、法人税及び地方法人税を示す科目である「法人税、住民税及び事業税」に含めて損益計算書に表示することとなります。また、通算税効果額に係る債権及び債務は、未収入金や未払金などに含めて個別財務諸表における貸借対照表に表示することとされています(実務対応報告第42号25項)。

<図2>の数値を前提にした会計処理を<表2>に示しています。損益計算書の税金費用については、各社とも連結納税制度とグループ通算制度とで同じ金額となっています。一方、親会社P社においては貸借対照表科目の計上金額が両制度で異なることとなり、また、子会社S1社においてはグループ通算制度では「未払法人税等」と「未払金」に分かれて負債計上されます。このように、申告・納付方法の違いから、会計上も計上科目及び金額が変わることになるため、連結納税制度からグループ通算制度に移行する会社では、この点に留意が必要と考えられます。

表2 <図2>の数値例に基づく会計仕訳

Ⅳ 修正及び更正における遮断

1. 遮断措置

通算グループ内の各通算法人が当初申告後に修正申告をし、更正処分を受ける場合、原則として、他の通算法人の課税関係に影響を及ぼさない措置が講じられています(法法64の5⑤)。

これは連結納税制度の課題として、連結グループ内の一法人の所得金額の計算を誤った場合、連結グループ内の全法人について再度調整計算を行う必要があり、当初申告後に修正申告や税務調査等による更正処分がなされた後の納税者及び課税庁の事務負担が大きかった点に考慮した、制度の簡素化を図るための措置となります。

Ⅲ 1.で、ある通算法人の所得とある通算法人の欠損を相殺することにより、通算グループ全体の所得金額を減少させる点について説明しましたが、これを損益通算といいます。ここでは損益通算を例に遮断の影響について説明します。

<表3>のケースでは、通算法人3社において、S2社で生じた欠損500をP社とS1社で生じた所得と損益通算することによって、P社とS1社の所得を減少させています。

表3 当初申告額

ここでもし、S2社の欠損の金額が500ではなく、正しくは400であった場合には、損益通算の金額も変動するため、<表4>のように、S2社だけでなく、P社やS1社の申告書も修正が必要でした。

表4 これまでの計算方法

S2社の所得金額の誤りの影響を最小限にするため、<表5>のように、P社とS1社に対する損益通算の金額は修正せずに、誤りのあったS2社だけの修正申告又は更正を行うことになります。これを遮断措置といいます。

表5 遮断措置

ただし、どのような修正又は更正であっても遮断措置が適用されるわけではなく、以下の場合には、遮断措置を適用せず再計算を行うこととされています。

【損益通算等の遮断措置が不適用となるケース】

① 以下の (ⅰ)~(ⅲ)のすべての要件を満たす場合(法法64の5⑥、法令131の7①)

(ⅰ)通算事業年度の通算グループ内のすべての通算法人について、当初申告書にその通算事業年度の所得の金額として記載された金額が0であること又は欠損金額として記載された金額があること

(ⅱ)通算事業年度の通算グループ内の通算法人のいずれかについて、当初申告書の添付された書類にその通算事業年度の通算前所得金額として記載された金額が過少であり、又は当初申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前欠損金額として記載された金額が過大であること

(ⅲ)通算事業年度の通算グループ内の通算法人のいずれかについて、次の規定を適用しないものとして計算した場合におけるその通算事業年度の所得の金額が0を超えること

  • 損益通算の全体の再計算

  • 繰越欠損金の通算の全体の再計算

  • 受取配当益金不算入について関連法人株式等の控除負債利子に関する再計算

② 欠損金の繰越期間に対する制限を潜脱するためや、離脱法人に欠損金を帰属させるためにあえて誤った期限内申告を行うなど遮断措置を適用することにより、法人税の額を不当に減少させる結果となると認められる場合

上記①の遮断措置を適用せず再計算が必要となる場合について、具体的な数字を例に説明します。<表6>のケースのように、当初の申告時点では、損益通算によって、通算グループのすべての法人で所得が生じない場合には、上記(ⅰ)の要件を満たします。

表6 当初申告額

ここで、<表7>のように、S2社の欠損の金額が500ではなく、正しくは400であった場合には、通算法人のいずれかの法人で通算前所得金額として記載された金額が過少であったものとして(ⅱ)の要件を満たします。

また、<表7>のように、損益通算の全体再計算を適用しないものとして計算した場合におけるS2社の所得の金額がゼロを超えるため(ⅲ)の要件を満たします。よって、遮断措置が不適用となる3要件を充足するため、<表8>のように再計算を行う必要があります。

表7 遮断措置があった場合

表8 再計算

2. 修更正による税効果会計への影響

ここで、修更正事由があった通算法人の所得等が変更された場合、当該変更後の所得に基づく通算グループ全体の所得も変更され、通算グループ全体の企業の分類に影響が生じ、修更正事由があった通算法人以外の他の通算法人の繰延税金資産の回収可能性にも影響する場合があると考えられます。このような場合で、当該修更正事由が会計上の誤謬(ごびゅう)によるものであると判断した場合、遮断措置によって修更正事由が生じた通算会社以外の通算会社において修更正が生じなかったとしても、それをもって修正再表示を行わないということではなく、遮断措置の有無にかかわらず、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」21項及び税効果適用指針62項に従って修正再表示を行うことになるものと考えられます。なお、金融商品取引法上の有価証券報告書においては、重要な事項の変更等(過去の誤謬など)を発見した場合に訂正報告書の提出が求められていることから、一般的には会計上の誤謬を比較情報として示される前期数値を修正再表示することにより解消することはできず、修正再表示に先立ち、訂正報告書が提出されることにより、修正再表示に係る定めは通常、適用されないものと考えられます。また、会社法上の計算書類において、過去の誤謬を発見した場合には、過去の計算書類における会計上の誤謬の訂正が計算書類に反映されることとなり、具体的な手続としては、当期よりも前の期間に関する誤謬の訂正による影響額を、当期首の資産、負債及び純資産の額に反映することになると考えられます。

一方、当該修更正事由が会計上の誤謬によるものではないと判断した場合、税効果適用指針154項に基づき、修更正による繰延税金資産又は繰延税金負債に生じた影響額を、法人税等の追徴税額及び還付税額を損益計算書に計上した年度の法人税等調整額に含めて処理することになると考えられます。

 

Ⅴ グループ通算制度を適用する場合の税効果会計に関する取扱い

1. 特定欠損金額と非特定欠損金額

グループ通算制度には、特定欠損金額と非特定欠損金額という2種類の欠損金があります。特定欠損金額は、自社の所得に対してのみ控除可能な欠損金で(法法64の7②)、非特定欠損金額は通算グループの所得と通算可能な欠損金となります。

特定欠損金額は、グループ通算制度の開始や新規の通算法人の加入の場合に単体納税時の法人の繰越欠損金のうち、切り捨てられなかったものをいいます。

非特定欠損金額は、確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額であるため、グループ通算制度開始以後に所得との損益通算を行ってもなお欠損となる場合には、欠損の生じた通算法人において非特定欠損金として翌事業年度以降の通算グループの所得と相殺していくことになります。

2. 税効果会計のポイント

連結納税制度とグループ通算制度は、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであることから、実務対応報告第42号では、基本的に、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号及び実務対応報告第7号の会計処理及び開示に関する取扱いが踏襲されています。このため、連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合は、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する部分を除き、税効果会計への影響はそれほど大きくないことが想定されます。

一方、単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合は、税効果会計に大きな影響が及ぶことも考えられます。以下では、単体納税制度からグループ通算制度に移行する企業を念頭に、グループ通算制度における税効果会計のポイントを解説します。

(1) 税金の種類を区別する必要性

グループ通算制度の対象となるのは法人税及び地方法人税であり、住民税及び事業税はグループ通算制度の対象ではありません。このため、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税とでは、税効果会計における取扱いが異なるため、これらを区別して税効果会計を適用する必要があります(実務対応報告第42号8項)。すなわち、税金の種類ごとに繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があり、また、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率についても、税金の種類ごとに算定する必要があります(実務対応報告第42号9項)。

(2) 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

① 通算税効果額の取扱い

繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順は、基本的には単体納税制度における手順(回収可能性適用指針11項)と同様ですが、通算税効果額の影響を考慮する必要があります。すなわち、将来加算一時差異の解消見込額と相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、まず、通算会社単独の将来の一時差異等加減算前通算前所得の見積額と解消見込年度ごとに相殺し、その後に、損益通算による益金算入見積額(当該年度の一時差異等加減算前通算前所得の見積額がマイナスの場合には、マイナスの見積額に充当後)と解消見込年度ごとに相殺することになります(実務対応報告第42号11項(1))。

数値を用いた具体例を<設例1>に示しています。S1社については、一時差異等加減算前通算前所得の見積額が△350であり、S1社単独の一時差異等加減算前通算前所得では将来減算一時差異と相殺することができません。しかし、S1社の通算前所得△450が損益通算によりP社及びS2社に配分されるとともに、S1社では損益通算による益金算入450が見込まれます。損益通算による益金算入見積額450について、S1社の一時差異等加減算前通算前所得の見積額△350に充当した後の残高100により、将来減算一時差異と相殺することが可能であるため、S1社の個別財務諸表上、将来減算一時差異100は回収可能であると判断されることになります。

設例1 繰延税金資産の回収可能性の判断の手順
② 税務上の繰越欠損金の取扱い

グループ通算制度においては、「特定繰越欠損金(特定欠損金額)」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金(非特定欠損金額)」とで取扱いが異なります。このため、税務上の繰越欠損金に関する繰延税金資産の回収可能性を判断する上では、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」とに分けて、損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上することになります(実務対応報告第42号12項)。

③ 回収可能性の判断を行うにあたっての企業の分類

連結納税制度を適用する場合において、連結納税会社の個別財務諸表の繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたっては、「連結納税主体の分類」が「連結納税会社の分類」と同じか上位にあるときは「連結納税主体の分類」に応じた判断を行い、反対に、「連結納税会社の分類」が「連結納税主体の分類」の上位にあるときは、まず自己の個別所得見積額に基づいて判断することになるため、「連結納税会社の分類」に応じた判断を行うこととされていました(実務対応報告第7号Q3のA)。これは、連結納税制度が「単一主体概念」を基礎としつつも、個別の連結納税会社においては会社法等との関係から「個別主体概念」に基づく処理を前提としていることを踏まえ、会計上も個別財務諸表においては「個別主体概念」を重視することが適当であるとの考え方に基づくものと考えられます(実務対応報告第7号Q4のA参照)。

連結納税制度とグループ通算制度とでは、申告手続は異なるものの、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであることから、実務対応報告第42号では、連結納税制度における企業の分類の考え方が踏襲されています(実務対応報告第42号52項)。すなわち、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類については、単体納税制度における考え方(回収可能性適用指針15項から32項)が基礎となりますが、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位(以下、通算グループ全体)の分類」と「通算会社の分類」をそれぞれ判定し、「いずれか上位の分類」に応じて将来減算一時差異に係る回収可能性の判断を行うことになります(実務対応報告第42号13項(1)、(2))。

「通算会社の分類」の判定は、従来の単体納税制度における分類の判定と同様ですが、損益通算や欠損金の通算を考慮せず、自社の通算前所得又は通算前欠損金に基づいて判定する点に留意が必要です(実務対応報告第42号13項(1))。一方、「通算グループ全体の分類」の判定においては、「一時差異等」や「課税所得」、「税務上の欠損金」、「一時差異等加減算前課税所得」等の通算会社ごとに生じる項目は、その合計が通算グループ全体で生じるものとして取り扱い、企業の分類の判定を行うことになります(実務対応報告第42号17項)。

例えば、ある通算会社について、従来の単体納税制度から引き続き、分類3と判定される状況において、通算グループ全体では分類2と判定される場合、当該通算会社の個別財務諸表上も分類2に応じた回収可能性の判断を行うことになるため、単体納税制度と比べて繰延税金資産の計上額が増加することが考えられます。

なお、「通算グループ全体の分類」と「通算会社の分類」のいずれか上位の分類に応じて回収可能性を判断する取扱いは、あくまで、グループ通算制度の対象となる法人税及び地方法人税に係る部分についてのみである点に留意が必要です。具体的なイメージは<表9>のとおりです。

表9 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性に関する企業の分類

(3) 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行いますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。このため、連結財務諸表においては、通算グループ全体に対して、税効果会計を適用することとされており(実務対応報告第42号47項)、連結財務諸表における繰延税金資産は、通算会社の個別財務諸表における計上額を単に合計したものではなく、通算グループ全体として、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順に基づき計上する必要があります。

通算グループ全体について、繰延税金資産の回収可能性の判断を行うにあたっては、回収可能性適用指針第11項の、「将来減算一時差異」は「通算グループ全体の将来減算一時差異の合計」と、「将来加算一時差異」は「通算グループ全体の将来加算一時差異の合計」と、「一時差異等加減算前課税所得の見積額」は「通算グループ全体の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合計」と読み替えた上で、回収可能性の判断を行うこととされています(実務対応報告第42号15項)。具体的には、<設例1>であれば、通算グループ全体の将来減算一時差異900に対して、通算グループ全体の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合計900のため、全額が回収可能と判断されます。

なお、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」とに分けて、損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する点は、個別財務諸表上の取扱いと同様です(実務対応報告第42号16項)。

また、通算グループ全体について回収可能性があると判断された繰延税金資産の金額と、各通算会社の個別財務諸表において計上された繰延税金資産の合計額との差額については、連結上修正することとなります(実務対応報告第42号14項)。<設例1>では差額が生じていませんが、例えば、「通算グループ全体の分類」よりも「通算会社の分類」の方が上位であるため、個別財務諸表において「通算会社の分類」に基づき繰延税金資産の回収可能性の判断を行っている場合、連結財務諸表上は「通算グループ全体の分類」に基づき繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことから、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額が生じ、連結上修正が必要となる可能性があります。

※1 本誌21年8月・9月合併号では公開草案に基づいて解説しているが、最終公表された実務対応報告第42号は、公開草案から基本的に変わっていない。


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2021年12月号
 

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