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グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の解説


情報センサー2021年8月・9月合併号 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 大竹勇輝

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、石油・ガス開発業等の監査業務や非監査業務に従事している。


Ⅰ はじめに

本稿では、2021年3月30日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から公表された実務対応報告公開草案第61号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下、本公開草案)の概要及びグループ通算制度が税効果会計に及ぼす影響について解説します。

なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

 

Ⅱ 本公開草案の公表の経緯及び目的

20年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)(以下、改正法人税法)において、従来の連結納税制度が見直され、22年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度に移行することとされました。連結納税制度を適用する場合の会計処理及び開示については、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下、実務対応報告第5号)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下「実務対応報告第7号」という。また、以下、実務対応報告第5号と実務対応報告第7号を合わせて「実務対応報告第5号等」という)を定めていますが、グループ通算制度への移行に伴い、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定める必要が生じたことから、ASBJにおいて検討を行い、今般、本公開草案が公表されました(本公開草案第1項、第2項、第35項)。

 

Ⅲ グループ通算制度の概要

現行の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体(納税申告書の作成主体をいう(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)第4項(1)。)とする制度です。各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されます。損益通算のほか、グループ全体の特定繰越欠損金以外の繰越欠損金の合計額を連結納税会社の損金算入限度額の比で配分した金額を、連結納税会社において損金に算入される欠損金の通算等をグループ全体で行うことで、単体納税に比べてグループ全体の法人税額が減少する効果が期待されます。しかし、連結納税制度については、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットがありました。

この点、損益通算等のメリットを残しつつ、制度の簡素化を図るため、グループ通算制度へ移行することとなりました。グループ通算制度の概要は<表1>のとおりであり、連結納税制度と比較については、<表2>のとおりです。


表1 グループ通算制度の概要

表2 連結納税制度とグループ通算制度の比較

Ⅳ 本公開草案の概要

1. 範囲

本公開草案は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することが提案されています。

また、本公開草案は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含めて取り扱わないことが提案されています(本公開草案第3項)。

2. 会計処理

連結納税制度とグループ通算制度では、全体を合算した所得を基に納税申告を親法人が行うか、各法人の所得を基にそれらを通算した上で納税申告を各法人が行うかなどの申告手続は異なりますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであるとされています。このため、本公開草案の開発にあたっての基本的な方針は次のとおり提案されています(本公開草案第39項)。

連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲する。

すなわち、基本的に会計処理及び開示に影響するのは、税務上の連結納税制度からグループ通算制度に変更されたことによる影響であり、会計基準上の取扱いは従来の連結納税制度の際に定められていた取扱いを踏襲することが提案されています。

(1)法人税及び地方法人税に関する会計処理

連結納税制度では、連結納税制度を適用する各会社の連結法人税の個別帰属額(各連結法人の個別所得金額に連結所得に対する法人税率を乗じて計算した金額と加算及び減算調整額等を加減した金額)が計算され各社に配分されており、実務対応報告第5号等では、連結法人税の個別帰属額は各社の課税所得に対する法人税及び地方法人税として負担すべき額であることから、連結法人税の個別帰属額を「法人税、住民税及び事業税」と同様に取り扱うこととしていました(本公開草案第42項)。

グループ通算制度における通算税効果額は、グループ通算制度を適用したことによる税額の減少額であり、連結納税制度における連結法人税の個別帰属額と同様に法人税に相当する金額であるとされています(本公開草案第43項)。

このため、通算税効果額についても、連結納税制度における連結法人税の個別帰属額の取扱いを踏襲し、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うことが提案されています(本公開草案第7項)。

(2)税効果会計に関する会計処理

① 税効果会計を適用する上での会計処理の単位

グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられ、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位」に対して税効果会計を適用することが提案されています(本公開草案第46項)。

② 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順については、連結納税制度における取扱いを踏襲し、通算税効果額の影響を考慮し、期末における将来減算一時差異の解消見込額(将来加算一時差異の解消見込額との相殺後)を一時差異等加減算前通算前所得の見積額、損益通算による益金算入見積額の順に相殺し、相殺し切れなかった額は、特定繰越欠損金以外の繰越欠損金として損金算入のスケジューリングに従って回収が見込まれる金額と相殺することが提案されています(本公開草案第11項、第12項)。

また、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断を行うにあたっての企業の分類についても、連結納税制度における取扱いを踏襲し、次のとおり取り扱うことが提案されています(本公開草案第13項)。

  • 通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位(以下、通算グループ全体)の分類と通算会社の分類をそれぞれ判定する

  • 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性の判断については、通算グループ全体の分類が、通算会社の分類と同じか上位にあるときは、通算グループ全体の分類に応じた判断を行う。また、通算グループ全体の分類が、通算会社の分類の下位にあるときは、当該通算会社の分類に応じた判断を行う

  • 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断において、特定繰越欠損金以外の繰越欠損金については通算グループ全体の分類に応じて判断を行う

③ 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

連結納税制度を適用する場合の連結財務諸表について、実務対応報告第5号等では、連結納税主体を一体とみなした上で、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)第6項に従って、繰延税金資産の回収可能性を判断することとしていました。また、連結納税会社の個別財務諸表における計上額を単に合計するのではなく、連結納税主体として回収可能性を見直すことが適当であるとし、連結納税主体を一体として計算した繰延税金資産の回収可能見込額と、個別財務諸表における繰延税金資産の計上額の合計との差額を連結修正として処理することとしていました。

この点、グループ通算制度においても、(2)①に記載のとおり、連結財務諸表においては通算グループ全体に対して税効果会計を適用することとしています(本公開草案第52項)。このため、連結財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性については、連結納税制度における取扱いを踏襲し、通算グループ全体について回収可能性適用指針第6項から第34項に従って判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は連結財務諸表上修正することが提案されています(本公開草案第14項)。

④ 適用時、加入時及び離脱時の取扱い

グループ通算制度においては、適用、加入及び離脱の承認手続が連結納税制度から原則として変更されておらず、連結納税制度におけるこれらの取扱いを踏襲し、<表3>のとおりとすることが提案されています(本公開草案第21項、第22項、第23項及び第55項)。


表3 適用時、加入時及び離脱時の取扱い

3. 適用時期

原則適用及び早期適用の時期に関する提案は、<図1>のとおりです(本公開草案第31項)。なお、十分な周知時間を確保することや、年度内における首尾一貫性を確保することから、四半期会計期間からの早期適用は認めないことが提案されています。


図1 適用時期

Ⅴ 連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理への影響

前述 IV 2.「会計処理」に記載のとおり、本公開草案の適用に伴って、基本的に会計処理及び開示に影響するのは、税務上の連結納税制度からグループ通算制度に変更されたことによる影響であることから、ここでは、グループ通算制度に変更されたことに伴い会計処理に影響する内容を解説致します。

1. 離脱時の時価評価損益

グループ通算制度においては、通算グループから離脱した法人が主要な事業を継続することが見込まれていない場合等には、その離脱直前の時に有する一定の資産については、離脱直前の事業年度において、時価評価により評価損益の計上が行われることとなります。税務上、グループ通算制度からの離脱時に時価評価された場合、税務上の簿価と会計上の簿価が相違し、一時差異として税効果会計の対象となることから留意が必要です。

2. 特定資産に係る譲渡等損失額の損金算入制限

グループ通算制度の開始時及び加入時において時価評価除外法人が以下の要件を全て満たす場合、適用期間(通算制度の効力が生じた日から同日以後3年経過日と支配関係発生日以後5年を経過する日のうちいずれか早い日までの期間)において生ずる支配関係発生前から保有する資産の実現損を損金不算入(社外流出)することとされています。

  • 通算制度の承認の効力が生じた日の5年前の日又はその通算法人の設立の日のうちいずれか遅い日からその承認の効力が生じた日まで継続して通算親法人

(その通算法人が通算親法人である場合には、他の通算法人のいずれか)との間に支配関係がある場合に該当しない場合

  • 通算制度の承認の効力が生じた後にその通算法人と他の通算法人とが共同で事業を行う一定の場合に該当しない場合
  • 支配関係発生日以後に新たな事業を開始する場合

グループ通算制度への適用時及び加入時においては、<表3>の定めに従い処理されることになりますが、従来、特定資産に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上していた場合、当該資産を売却する際に、一定の要件に該当し、税務上損金に算入されず社外流出として取り扱われることが明らかになった時点で、繰延税金資産を計上することはできなくなると考えられます。

3. 通算子法人株式を他の通算法人に売却した場合の取扱い

連結納税制度においては、連結子法人株式を他の連結子法人に譲渡した場合、売却損益が繰り延べられていました。一方、グループ通算制度においては、通算子法人株式を他の通算法人に売却した場合、譲渡損益を計上しないこととされています。

この点、連結納税制度の場合には、売却損益が繰り延べられることから、当該売却損益に係る一時差異について、個別財務諸表上、税効果会計適用指針第17項の定めに従い、繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されますが、グループ通算制度においては、税務上、当該譲渡損益は社外流出として加減算されることから、この場合、一時差異には該当せず、繰延税金資産及び繰延税金負債は計上されないことになります。


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