EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部/品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 吉澤一子
金融事業部において金融機関の会計監査、金融商品会計、バーゼルⅢ関連アドバイザリー等に従事している。品質管理本部IFRSデスク兼務。日本公認会計士協会 銀行業専門委員会資産査定検討部会 専門委員。
国際会計基準審議会(以下、IASB)は、基本財務諸表プロジェクト(以下、本プロジェクト)に関連して、2019年12月に公開草案「全般的な表示及び開示」(以下、公開草案)を公表し、20年9月末までコメントを募集しました。
本稿では、本プロジェクトの中核テーマである純損益計算書の小計及び区分表示の一般モデルに関する公開草案の提案に対するコメント及び、本稿執筆時点(21年4月9日)までのIASBの暫定決定の概要を紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
公開草案における純損益計算書に関する提案は、主に次の内容により構成されており、対応する質問へのコメントを求めるものとなっています。
上記の提案は、コメント提出者から全体的に歓迎されており、今後は、IASBにおいて全ての側面について再審議を行うのではなく、範囲を絞った議論を行うこととされ、一部については21年3月のIASBにおいて暫定決定されています。以下では、寄せられたコメントの概要及びIASBの暫定決定の内容を紹介します。なお、公開草案の詳細な内容については、当法人のウェブサイトにて公表されている『IFRS Developments 第158号/2019年12月』をご覧ください。
大多数のコメント提出者は、純損益計算書において、全ての企業に対し、営業損益についての小計表示を求めるという提案に賛同しました。営業損益を定義し、表示することは企業間の比較可能性を改善し、有益な情報を提供し得るということが理由として挙げられています。
一方で、首尾一貫した適用と比較可能性を達成するためには、カテゴリーごとの区分の定義や「主要な事業活動」といった用語の定義を含む、さらなるガイダンスが必要であるというコメントも見られました。この提案は、21年3月のIASBにおいて暫定的に決定されました。
公開草案では、他の区分に分類されない全ての収益及び費用を営業区分に分類することを提案しています。提案されている純損益計算書の区分については、<図1>をご参照ください。
この提案に関しても、多くの賛成のコメントが寄せられました。その理由として、適用がより容易であり判断の余地が狭く首尾一貫した適用が可能となり得ること、また、投資及び財務区分を特定する方が営業区分を特定するよりも容易であり、理解可能性が高いといった点が挙げられています。
少数の反対意見の提出者からは、この分類によると、通例ではなく(unusual)、企業の主要な事業活動から生じたものではない収益と費用が営業区分に含まれてしまうことが懸念事項として挙げられています。
この提案に関しても、21年3月のIASBにおいて、営業利益の直接的な定義を開発しないという暫定決定がなされました。審議の中で確認された内容は次の事項です。
21年3月のIASBの暫定決定を受けて、今後の会議では、投資区分及び財務区分の詳細な定義について、議論されることになりました。この議論には、投資及び財務が主要な事業活動である企業(銀行、その他の金融機関)にどのように適用するのかという論点も含まれます。
今後の検討項目としては、次のトピックを取り扱うことが予定されています。
なお、公開草案は、基本財務諸表間の区分の整合性を図ることなく純損益計算書の区分に関する提案を行ったため、純損益計算書の営業、投資及び財務の区分が必ずしもキャッシュ・フロー計算書の定義の区分に対応しているわけではない点を申し添えておきます。
公開草案では、本稿で取り上げた項目の他に、経営者業績指標、分解表示の諸原則ならびに基本財務諸表及び注記の役割、キャッシュ・フロー計算書の修正に関する提案も含まれており、段階的に審議が進められる予定です。このため、プロジェクトの完了時期は現時点では未定ですが、本プロジェクトが完了してIAS第1号「財務諸表の表示」が新たな基準に置き換えられた場合には、日本のIFRS適用企業及び投資家にとっても大きな影響があるものと予想されます。