EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Consulting
原山里子
大手外資系テクノロジーカンパニーを経て現職。製造業の企業に対する業務改革、特にモノづくりの領域であるエンジニアリングチェーンに関わるコンサルティング経験が豊富。同社 ディレクター。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Consulting
岡野武司
大手外資系テクノロジーカンパニーを経て現職。製造業の企業に対する業務改革、特にデジタルを活用したSCM改革に関わるコンサルティング経験が豊富。同社 ディレクター。
ドイツが、製造業界全体を刷新する国家プロジェクトとしてインダストリー4.0構想を公表してから約10年が経ちました。その後、各国が似たような取り組みを始め、2017年には日本版インダストリー4.0といえる「コネクテッド・インダストリーズ」が発表されました。
各国名称は違いますが、データとITを活用した製造業の革新という点は共通しており、製造現場のデジタル化は急速に進んでいます。とはいえ、使用するテクノロジーが著しく進化しても、製造現場が品質・生産性の継続的な向上を目指しているという点はいつの時代も変わりはありません。
本稿では、製造現場の生産性向上に寄与する「止まらない工場」実現にむけて、デジタルを活用した設備を止めないためのアプローチについて述べたいと思います。
「止まらない工場」実現に向けて守るべき要素には、ヒト、モノ、情報があります。近年では、IoTを活用し、工場内の施設や装置、働いている人に装着したさまざまなセンサーからデータを収集、可視化することでヒトの健康や安全を守り、モノ=設備のダウンタイムを削減する取り組みを多くの企業が始めています。
設備に関してその取り組みは、大きく以下の2段階に分けられます。
①設備故障発生時の対応時間短縮
設備の稼働状況や生産状況をリアルタイムに可視化することで、設備に異常が起きた時に迅速な対応が可能になり、設備のダウンタイムを短縮することができます。
②設備故障の未然防止
設備の稼働データを蓄積し、部門間で共有、可視化することで、今までは熟練者のみが可能だった変化や予兆に対する「気づき」につながります。それらのデータを蓄積していくことで、現場全体で先回りした保全ができるようになり、稼働の向上につながります。
一方、情報を守るためには、工場設備を支えるサーバーやデータ基盤の可用性の向上、老朽化が進む資産やインフラストラクチャーの品質の維持対策、ネットワークの脆弱(ぜいじゃく)性対策が必要になります。
設備を守り、故障を未然に防ぐためには、ある一定の期間で部品の交換や補修を行う「予防保全」が一般的です。しかし、この方法では、それが本当に正しいメンテナンスのタイミングなのかは分からず、無駄なコストが発生している可能性もあります。
そこで注目されているのが、設備の状態を常に把握し、故障がもうすぐ起こりそうだという予兆を察知して事前にメンテナンスをする「予知保全」です。予知保全が可能になれば、設備のダウンタイムを最小限にできるだけではなく、保全部品や保全要員の最適化が図れるため、経営へ与える効果は非常に大きなものになります。
予知保全の実現には設備稼働データの共有が前提となります。しかし、それぞれの設備データ取得の粒度や種類が標準化されていないため、集めただけでは使えないというそもそもの取得データに問題がある場合や、セキュリティ上共有ができないなどさまざまな理由から工場内のデータを活用しきれていないという現状があります。
また、これらの課題をクリアしても、いざデータを分析しようとすると、データの有効性や結果の評価を実践できる現場担当者が、自身の手で直接データを扱えないことが非常に大きな問題となってきます。
「止まらない工場」の実現には、専門知識をもつデータサイエンティストに頼るのではなく、現場にいながらAIを活用し、データ分析ができる「シチズンデータサイエンティスト」の存在が重要になります。そのためには、データの収集、整形、学習済みモデルによる予測、予測値のデータ連携という機械学習予測のプロセスを自動的に簡易化し、予測結果に基づいた現場担当者のスピーディーな意思決定を支援できるようなプラットフォーム構築が必要です。
予知保全の分析結果を効率的に実現するためのベースとなるのが、企業資産を管理する手法であるEAMです。EAMには、どんな設備がいつ購入され、いつどのような補修がされ、必要な補修部品はどこにあり、誰が補修できるのか、などのあらゆる企業資産情報のデータが蓄積・整備されています。
EAMと、工場設備から集められたリアルタイムの設備稼働情報を組み合わせることで、適切な予防、予知、および先を見越した保守の実現が可能となり、「止まらない工場」のよりいっそうの強化が期待できます。
以上、まとめると、予知保全の推進には以下の3点が有効です。
①IoTを活用して工場内の状況がリアルタイムで可視化されており、熟練者の経験に頼っていた設備の細かな予兆を把握できる。
②分析プラットフォームが整備されており、現場担当者はシチズンデータサイエンティストとしてデータサイエンスの専門家に頼ることなく、好きな時に必要なデータを活用した分析ができ、最適な予知保全のタイミングが見極められる。
③工場内の設備に関するあらゆる情報はEAMに蓄積されており、保全活動そのものが効率的に実施できる。
これらを実現し、有効なサイクルをまわしていくことが、「止まらない工場」実現の第一歩となります(<図1>参照)。
インダストリー4.0以降、製造現場のデジタル化は急速に進み、製造現場の競争力確保の大きな原動力となっています。本稿では、その一つの事例として予知保全のアプローチを紹介しました。
検討を進めるに当たっては、EYにはその実現を支える先進テクノロジー資産に裏付けられた次世代サプライチェーンフレームワーク(Supply Chain Reinvention Framework)があり、多くの企業をご支援しています。