EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
品質管理本部 会計監理部
公認会計士 髙平 圭
公認会計士 松下 洋
公認会計士 横井貴徳
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
2020年3月期より、原則適用となる会計基準及び早期適用可能となる会計基準(執筆時点で公開草案であるものを含む)、法令は<表1>のとおりです。
本稿ではこれらを中心に20年3月期決算に当たっての留意事項を解説します。また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開示時期は<表1>のとおりです。なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。
18年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(以下、DWG報告)の提言を踏まえ、19年1月31日に開示府令改正が公布・施行され、有価証券報告書等の記載内容の見直しが行われています。本稿では、20年3月期の有価証券報告書から適用される項目について解説します。
DWG報告の提言に基づく各項目の改正の内容は、次のとおりです。
※ 19年3月期有報において経過措置(従前の規定の適用可)を適用していた場合、当期より適用
DWG報告の提言を受け、金融庁より19年3月19日に「記述情報の開示に関する原則」(以下、本原則)が公表されました。本原則は、ルールへの形式的な対応にとどまらない企業の取組みを促し、開示の充実を図ることを目的として作成されました。また、同日に、企業全体の開示のレベルの向上を目的として、企業が充実した開示を行うための参考となる好事例をまとめた「記述情報の開示の好事例集」(以下、好事例集)が公表されています。なお、好事例集は随時更新が行われるものとされており、同年11月及び12月に更新されています。本原則の各論における項目と好事例集の項目の対応関係は、<表2>に記載のとおりです。
19年12月12日に開示府令の改正案が公表され、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、指定国際会計基準を適用する企業の開示負担の軽減等を図ることを目的とした改正が提案されています。具体的には、IFRS任意適用企業における主要項目についての日本基準との差異に関する事項(当該差異の概算額等)について、継続的な開示を廃止し、IFRS適用初年度においてのみ、当該事項を記載することが提案されています。本改正は、公布日から施行され、20年3月期の有価証券報告書から適用されることが提案されています。
企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から、19年10月30日に見積開示会計基準案及び遡及基準改正案が公表され、下記が提案されています。現在審議中であり、最終基準化された場合には文言等が変更になる可能性がある点には、ご留意ください。
21年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することとし、公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用できることが提案されています。
会計上の見積りについて包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が当該原則(開示目的)に照らして判断することを企業に求めることとされています。当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することが提案されています。
開示する項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものとし、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債が識別されるとされています。ただし、次の項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、開示を妨げないとする提案がなされています。
識別した項目について、会計上の見積りの内容を表す項目名として注記し、あわせて次の注記を求める提案がなされています。
上記のうち、その他の情報については、開示目的に照らして判断するとされていますが、次の項目が例示されています。
連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって(4)のその他の情報に代えることができるとされ、この場合、連結財務諸表における記載を参照できることが提案されています。
21年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとし、公表日以降終了する事業年度の年度末から早期適用できることが提案されています。
また、遡及基準改正案を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しないものの、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記することが提案されています。
重要な会計方針の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあり、当該開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同様であるとすることが提案されています。
関連する会計基準等の定めが明らかでない場合とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合とすることが提案されています。
<表3>のとおり、19年7月4日にASBJより、時価算定会計基準等が公表されるとともに、同日付けで日本公認会計士協会(以下、JICPA)の金融商品実務指針等が改正されています。
原則適用は、21年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされています。
ただし、20年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から、また、20年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができます。なお、これらのいずれかの場合には、時価算定会計基準と同時に改正された金融商品会計基準及び棚卸資産会計基準についても同時に適用する必要があります。
時価算定会計基準が定める新たな会計方針は、原則として将来にわたって適用することとされています。この場合、その変更の内容について注記するとされています。
ただし、時価の算定に当たり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間の全てに遡及適用できるとする経過措置が定められています。
新たに設けられた金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記について、適用初年度の比較情報の開示は不要とされています。また、時価がレベル3の時価に分類される金融資産及び金融負債の期首残高から期末残高への調整表については、時価算定会計基準を年度末の財務諸表から適用する場合には、適用初年度は省略可能とされています。
金融商品とトレーディング目的の棚卸資産の時価に適用されます。なお、時価算定会計基準は、時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うこととされています。
また、投資信託の時価の算定については、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、会計基準公表後おおむね1年をかけて検討を行うこととし、それまでは現行の取扱いを踏襲することができるとされています。また、組合等への出資の時価注記の取扱いについても、投資信託の取扱いを改正する際に明らかにすることとされています。
「時価」とは、算定日において市場参加者で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とされています。また、資産及び負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によることとされています(容認規定あり)。
現行のその他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めは廃止されました。ただし、減損を行うか否かの判断に当たっては引き続き用いることができるとされています。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなります。
時価は、インプット(市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる仮定)と評価技法を用いて算定されます。時価の算定に当たっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いることとされ、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます。
そして、算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します。なお、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類することとなります。
時価のレベルに関する概念を取り入れたことにより、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。しかし、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています。
金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記することになります。基本的にはIFRS第13号「公正価値測定」の開示項目との整合性が図られていますが、一部の開示項目についてはコストと便益を考慮し取り入れられていません。なお、重要性が乏しいものは注記を省略することができ、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表においては記載することは要しないとされています。
18年3月30日に収益認識会計基準等が公表されました。原則適用は22年3月期の期首からとされていますが、20年3月期の期首から早期適用することができます。
また、顧客との契約から生じる収益に関連して、主に表示及び注記事項を改正するために、収益認識の開示に関する公開草案が公表されていますが、20年1月10日までに寄せられたコメントを踏まえた検討を行った上で、最終的な会計基準等として公表される予定です。
収益認識の開示に関する公開草案は、収益認識会計基準等の適用日を踏襲し、22年3月期の期首から原則適用となり、21年3月期の期首から早期適用することができますが、20年3月期は早期適用が認められていません。
従って、本稿では、収益認識の開示に関する公開草案の内容を含めておらず、収益認識会計基準等の早期適用時の論点のうち、適用初年度の取扱いと表示及び注記について解説します。
収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用することとされています。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています。この適用初年度の有価証券報告書上の取扱いをまとめたものが<図1>です。
収益認識会計基準においては、新たに契約資産及び契約負債の表示に関する定めが設けられています。契約資産と契約負債の定義は<表4>のとおりです。契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示し、これらを区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとされています。
ただし、収益認識会計基準を早期適用する場合においては、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができるとされています。
また、収益認識会計基準を早期適用する場合には、わが国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができるものとされています。
顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記することとされています。
また、収益認識会計基準の適用は会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するため、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」10項に従い<表5>の注記が必要となります。
18年9月14日に改正された18年改正実務対応報告18号等は、19年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から原則適用されています。
在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」(以下、IFRS9)を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合、売却損益及び減損損失の累計額は、その他の包括利益に表示され、純損益への組替調整は行われません。このため、これらの組替調整が、改正実務対応報告18号等における修正項目として追加されています。
19年6月28日に19年改正実務対応報告18号が公表され、IFRS及び米国会計基準における新しいリース基準であるIFRS第16号「リース」(以下、IFRS16)及び米国会計基準会計基準更新書第2016-2号「リース」(以下、ASC842)を19年改正実務対応報告18号の当面の取扱いにおける新たな修正項目としないこととされました。
IFRS16は19年1月1日以後開始事業年度から、ASC842は公開企業においては18年12月15日より後に開始する事業年度、非公開企業においては20年12月15日※より後に開始する事業年度から原則適用されます。連結子会社等におけるIFRS16又はASC842の適用による影響が連結財務諸表上も重要性がある場合には、連結財務諸表において会計方針の変更の注記が必要となります。
実務対応報告18号は会計処理を定めるものであり、連結財務諸表の表示、注記は原則として連結財務諸表に関する会計基準や連結財務諸表規則等に従うとされていますが(実務対応報告公開草案第44号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)」に対するコメント コメント対応(2))、わが国における会計基準や開示規則上、連結子会社等がIFRS16又はASC842を適用したときの表示に関する明文の規定はありません。従って、各企業において、従来の表示方法や注記等との整合性や重要性等を踏まえ、適切な表示方法等を検討する必要があると考えられます。
19年1月16日に、ASBJより改正企業結合会計基準が公表され、19年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用され、対価が返還される条件付取得対価の会計処理が明確化されました。
対価が返還される条件付取得対価の会計処理は、対価の交付を行う場合と基本的に同様の会計処理とされています。
改正企業結合会計基準の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。
なお、改正企業結合会計基準の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理の従前の取扱いについては、改正企業結合会計基準の適用後においても継続することとし、会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされています。
19年12月20日に令和2年度税制改正大綱が閣議決定され、企業グループ全体を一つの納税単位とする現行の連結納税制度に代えて、企業グループ内の各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行う「グループ通算制度」が導入されることとなりました。
これを受けて、ASBJは、連結納税制度の見直しの対応として以下の事項を検討しています。
実務対応報告第5号等の改廃を行うまでは、令和2年度税制改正前の税法規定に基づき税効果会計を適用できるとする特例的な取扱いを定めるとともに、当該取扱いを適用した場合、その旨の開示を求めることが検討されています。
19年12月11日に「会社法の一部を改正する法律」(以下、改正会社法)が成立し、同月11日に公布されました。公布日(19年12月11日)から1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日(20年後半頃から21年前半頃)から施行されますが、次の事項については、公布の日から3年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日(22年から23年頃)から施行されます。従って、20年3月期の決算に直接的な影響はありません。
改正会社法の主な概要は、<表6>のとおりです。
※当初公表より、適用開始日が1年延期されている。