EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
会計監理部 公認会計士 武澤 玲子
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』(いずれも中央経済社)などがある。
企業会計基準委員会(ASBJ)から、平成30年8月30日に「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」(以下、本意見募集文書」)が公表されました。本意見募集文書のコメント募集期間は、平成30年11月30日までとされています。
本意見募集文書では、「金融商品の分類及び測定」、「金融資産の減損」及び「ヘッジ会計」の主要な論点が分析されていますが、第1回となる本稿では、本意見募集文書の位置付け及び「金融商品の分類及び測定」の概要を解説します。なお、本稿における意見に係る部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
現行の企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)は、平成11年1月に企業会計審議会により設定された「金融商品に係る会計基準」に基づいたものであり、当初の設定以来、抜本的な改正は行われていません。一方、国際的な会計基準である国際財務報告基準(IFRS)及び米国会計基準では、金融商品会計の複雑性を低減すること、及び世界的な金融危機の際における減損の認識への批判に対応するために、「金融商品の分類及び測定」「金融資産の減損」及び「ヘッジ会計」に関する改正が行われています。
ASBJは、わが国の金融商品会計基準の開発(改正)に着手することは、金融危機時以降に改正された国際的な会計基準との整合性を図ることとなり、国内外の企業間の財務諸表の比較可能性向上に寄与し得ると考えています。一方で、金融商品会計について国際的に整合性を図る上では、多くの適用上の課題が生じ得ることから、金融商品会計の開発に着手するか否かを決定する前の段階で、適用上の課題とプロジェクトの進め方に対する意見を幅広く把握するために、本意見募集文書が公表されました。
今回のプロジェクトの範囲に含まれる分野は、以下のとおりです。
なお、「金融商品の認識の中止」については、特別目的事業体の連結範囲と密接に関連する論点であり、将来的に、連結範囲を国際的に整合性のあるものとするか否かの検討に合わせて検討することが適当とされ、今回のプロジェクトの範囲には含められていません。また、以下の点については、会計基準の開発に着手した場合、その開発過程で検討することとされています。
金融資産の分類と測定のうち、有価証券についての日本基準、IFRS、米国会計基準の取扱いは、<表1>のとおりです。
これまでその他有価証券としていた株式については、IFRSでは純損益を通じて公正価値で測定すること(FVPL)が原則ですが、OCIを通じて公正価値測定する方法(FVOCI)を選択すること(OCIオプション)も認められています。ただし、OCIオプションを適用した場合、当該株式の売却時に損益が計上されず、また減損損失が計上されません(ノンリサイクリング処理)。「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」では、ノンリサイクリング処理は当期純利益の総合的な業績指標としての有用性を低下させると考え、わが国における会計基準に係る基本的な考え方と相違が大きいため、「削除又は修正」を行っています。また、OCIオプションが適用できるのは資本性金融商品とされているため、資本性金融商品に該当せず、FVPL測定とされる金融資産がある場合、リスク管理方法を変更する必要が生じる可能性もあります。
また、非上場株式については貸借対照表において公正価値測定が求められていることに伴う、毎決算期に公正価値を測定することの困難さ、管理上の区分による金融資産の組込デリバティブの区分処理が認められなくなり、リスク管理方法に影響を及ぼす可能性があることなども指摘されています。
IFRSでは、金融負債をFVPL測定する方法を指定すること(公正価値オプション)ができる場合があります。公正価値オプションを適用する場合、公正価値の変動のうち負債の信用リスクの変動に起因する金額はOCIに計上することとされていますが、ここでOCIに計上された変動額はリサイクリングが認められません(ノンリサイクリング処理)。Ⅳ 1.(2)で記載のとおり、ノンリサイクリング処理はわが国における会計基準に係る基本的な考え方とは大きく異なります。
また、組込デリバティブの区分処理の要件が日本基準と異なるため、リスク管理方法の変更を検討する必要があると考えられます。
償却原価法の利息の計算にあたっての定額法がIFRS及び米国会計基準では認められておらず、システムの改修等を行う必要があると考えられます。
日本基準では、その他有価証券に分類される外貨建債券の為替換算差額は、純損益、OCIのいずれに計上することも認められていますが、IFRS又は米国会計基準を適用することで、会計処理が異なる場合、リスク管理方法の変更を行う必要があると考えられます。