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EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
マネージャー 公認会計士 大川 真邦
2023年5月2日に企業会計基準委員会(ASBJ)は企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等(以下、本公開草案という。)を公表しました。「リースに関する会計基準(案)」、同適用指針、その他関連する会計基準等の改正が提案されています(日本公認会計士協会(JICPA)においてもこれを受けて関連する実務指針等の改正提案を公表しています)。ASBJにおいては主として国際的な会計基準1との整合性を図る観点から2019年3月に借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発が着手され、本公開草案の公表に至っています。
本公開草案はパブリックコメント2を経て、会計基準として公表されることになりますが、仮に2024年3月末までに会計基準として公表された場合には原則として2026年4月1日から開始する事業年度の期首からの適用となり、早期適用が2024年4月1日に開始する事業年度の期首から可能になると考えられます〈図表1〉(実務上の負担などの観点から早期適用から原則適用までの期間が2年程度であることが示されています)。3
本稿では本公開草案の概要と影響について解説します。なお、文中意見にわたる記載に関しましてはあくまで筆者個人としての見解であり当法人としての見解ではありません。
なおASBJから本公開草案についての解説動画等が公開されています。本公開草案の理解に有益な内容ですので合わせてご参照ください。
※1 国際会計基準審議会(IASB)は、2016年1月に国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という。)を公表し、米国財務会計基準審議会(FASB)は、同年2月に FASB Accounting Standards Codification(FASB による会計基準のコード化体系)の Topic 842「リース」を公表した。
※2 コメント募集期間は2023年5月2日~2023年8月4日。
※3 本公開草案73号56項において「本会計基準は、20XX 年4月1日[公表から2年程度経過した日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、20XX 年4月 1 日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる。」とされている。
現行の我が国の会計基準においてもファイナンス・リースに関しては売買取引処理が採用されていますが、本公開草案においては借手のすべてのリースについて使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを採用することが提案されています〈図表2〉。当該会計処理モデルによれば、ファイナンス・リースに加え、オペレーティング・リースに関しても資産が計上され、対応する負債が計上されることになります。また計上された資産については減価償却が行われ、支払いリース料については元本相当額と利息相当額に区分し会計処理が行われることになります〈図表3・4〉。そのため、オペレーティング・リースについてもリース期間を見積ることになるなど会計処理に必要となる情報の収集には一層手間がかかることが想定されます。さらに、計上された資産については減損会計の対象となる点についても留意が必要です。これらの影響は、例えば店舗の賃借を多く行っている企業にとって大きくなるものと考えられます4。
上記図表における1993年基準は1993年6月に企業会計審議会第一部会から公表された「リース取引に係る会計基準」、現行基準は2007年3月にASBJから公表された企業会計基準13号「リース取引に関する会計基準」を意味している。
※4 借手においてはオペレーティング・リースが資産計上されることによる影響とともに減損会計への影響も含め自社への影響を分析・検討することが望まれる。減損会計への影響についてはEY Japanが毎月発行している社外報「情報センサー」の2016年12月号、「新たなリース基準「借手の会計処理(減損との関係)」」参照。IFRS第16号を適用した際の借手における減損会計との関係が解説されている。
ey.com/ja_jp/library/info-sensor/2016/info-sensor-2016-12-02
本公開草案においては「リース」について、「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義し、リースの識別に関して、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む契約とし、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに区分して会計処理を行うことが提案されています。契約の名称にかかわらず契約にリースが含まれているかの検討が必要になる点に留意が必要です。これまでリースとして会計処理を行ってこなかった取引についても本公開草案における「リース」に該当する場合もあると考えられます。他社所有の資産であっても、自社が独占的に使用し、その使用方法なども自社が自由に指図できるといった契約について留意が必要です。本公開草案では設例が公表されており、リースを含むかどうかのフローチャートが提示され、他社所有鉄道車両の使用契約、他社所有サーバーの使用契約、他社所有発電所の電力購入契約等にリースが含まれるかの判定に関する設例が設けられています。当該設例を通して、本公開草案の考え方を理解しておくことが重要です。
本公開草案において注記事項が開示目的と合わせて定められています。開示目的は借手又は貸手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と合わせて、リースが借手又は貸手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することであるとされています〈図表5〉。
リース当事者 |
注記事項(重要性が乏しければ省略可) |
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借手 |
①会計方針に関する情報 ②リース特有の取引に関する情報 ③当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報 |
貸手 |
①リース特有の取引に関する情報 ②当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報 |
*具体的な記載内容については適用指針においてに定められている
現行の我が国の会計基準において短期のリースおよび少額なリースについては簡便的な取扱いが認められてきましたが、当該処理については公開草案においても踏襲されています〈図表6〉。
短期リース |
借手のリース期間が12か月以内のリース |
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少額リース |
重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース |
少額リース |
(以下のいずれかを会計方針として選択) ① 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下のリース(現行基準と整合的な定め) ② 原資産の価値が新品時におよそ5千米ドル以下のリース(IFRS第16号と整合的な定め) |
本公開草案においては借手すべてのリースについて資産及び負債を計上することが提案され、リースの定義についても明確化が図られています。賃貸借契約、リース契約を網羅的に把握することに加えて賃貸借契約やリース契約だけでなく、サービスや役務提供の契約についてもリースが含まれている契約がないか検討する必要があります。現行基準のもとでは契約がファイナンス・リース取引に該当するかが主要な検討事項でしたが、契約がリースを含むかどうかがまず重要な検討事項となるものと考えられます。契約の形式だけでなく実質をとらえて判断することが重要です5。そして、リースを含む契約について会計処理(簡便的な取扱いを含む)や開示を行うための情報を収集する必要があります。例えば借手のリース期間については契約書に記載の契約期間になるとは限らず、契約期間の更新条項についての見積りについての検討は相当の労力がかかることも想定されます。それぞれの検討にあたっては関係部署、監査法人等と協議を行い、検討の結果については十分に文書化する必要があります。
特にスタートアップ企業では、いままでにない新しい事業を立ち上げて独自のサービスを提供するようなことも多くあります。そのような新規のサービスには、提供側としての契約に何らかの特定された資産が組み込まれており、リースが含まれると判断される場合には、リースの貸手として当該リース部分を区分して会計処理を検討することが必要なケースも想定されます。
また本公開草案が基準化された場合の適用時期についてはまだ明確とはなっていませんが、上場スケジュールに照らし、自社に重要な影響がある場合(投資家の判断に重要な影響を及ぼす場合等)には財務諸表の比較可能性等の観点から早期適用も含めた検討が望まれます6。
本公開草案による影響7は店舗を多く賃借している企業等オペレーティング・リースが現状多い企業について大きくなることが想定されるところではありますが、一見影響が少ないと考えられる企業でもあっても実際には重要な影響がある可能性もあります。そのため、すべての企業において本公開草案の基準化への動向を注視し、十分な時間を確保の上、検討を行うことが重要であると考えられます8。
※5 無形固定資産のリースについては本公開草案において当該基準の適用が任意とされている点についても留意が必要である(本公開草案73号3項参照)。
※6 例えば、一般的な上場申請においては過去2期間の監査済財務諸表の提出がもとめられ上場承認時には当該財務諸表が公衆に開示されることになるが、原則適用の時期によって、過去2期間に未適用の期間と適用済みの期間とが混在する場合に早期適用をした方が財務諸表利用者にとってわかりやすいといった考え方である。
※7 会計処理が変わることによって、財務指標等への影響(例えば総資産が膨らむことによるROAや支払リース料が減価償却費と支払利息としてPL計上されることによるEBITDAへの影響など)のみならず、借入に関する財務制限条項が負債に関連して定められている場合に条項に抵触してしまう可能性や、個別財務諸表の負債が200億円以上になるような場合には会社法上の大会社に該当し、会計監査人の設置が義務となるといった影響も考えられなくはない。また、影響如何では既存の契約や取引の見直し、新規契約方針の変更といった事業上の影響も想定される。
※8 IPO準備初期においては現行基準自体の適用がなされていないケースも想定されるが今後の上場準備期間や上場後まで見据へ現行基準の適用を進めると同時に本公開草案も注視し、準備を進めることが重要であると考えられる。