新たなリース基準「借手の会計処理(減損との関係)」

新たなリース基準「借手の会計処理(減損との関係)」


情報センサー2016年12月号 IFRS実務講座


IFRSデスク 公認会計士 米国公認会計士 小山智弘


Ⅰ はじめに

前回(本誌 2016年11月号)は、IFRS第16号「リース」(以下、新基準)における借手のリース開始日の会計処理について解説しました。今回は、リースの借手の会計処理について、特に減損との関係について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。
 

Ⅱ 借手の会計処理の全体像

新基準では借手は、リース対象の資産を使用する権利である使用権資産と、借手が貸手に支払うリース負債を貸借対照表に認識します。
使用権資産の期末の処理は、公正価値による測定なども選択できますが、本稿では通常用いられる原価に基づく処理を扱います。その場合には、使用権資産をその取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した金額で測定します。この際の減価償却には、IAS第16号「有形固定資産」を適用し、減損に際してはIAS第36号「資産の減損」(以下、IAS第36号)を適用します。

(<図1>参照)

図1 借手の会計処理の全体像

Ⅲ 新基準と減損会計

IAS第36号は、有形固定資産や無形資産の減損について定めています。この減損会計では最終的に、資産の回収可能価額(例えば使用価値)が、帳簿価額より小さい場合に減損が認識されます。従って、資産の回収可能価額が小さいほど、又は帳簿価額が大きいほど減損が認識されやすいと言えます。
この減損検討の際には、資産を独立したキャッシュ・インフローを生成する最小のグループである資金生成単位にまとめます。新基準適用により新たに認識される使用権資産もIAS第36号の適用範囲に含まれ、この資金生成単位を構成します。
このように減損の対象資産に使用権資産が加わることで、資金生成単位の帳簿価額が増加するため、減損が生じるリスクも増加するのではないかと言われることがあります。以下では、このような使用権資産と減損の関係を考えます。
減損会計における回収可能価額として多く用いられる使用価値は、資金生成単位から生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値です。将来キャッシュ・フローは、将来のキャッシュ・インフローからキャッシュ・アウトフローを差し引いて計算されます。
従来の基準であるIAS第17号「リース」(以下、IAS第17号)を適用していた場合には、借手のオペレーティング・リースに係るリース支払額がキャッシュ・アウトフローに含まれていました(設例:ケース1)。
一方の新基準では、リース契約に係る支払額は、リース負債と使用権資産という形により貸借対照表に認識されます。従って、リース支払額はすでに貸借対照表に認識されている減損検討対象の使用権資産に転化しているため、減損検討における使用価値を計算する際のキャッシュ・アウトフローには含まれません。このため、新基準ではIAS第17号のオペレーティング・リースにより会計処理していた場合に比べて、使用権資産の分だけ帳簿価額が増加しますが、同時にリース支払額が含まれなくなるため使用価値も増加することになります(設例:ケース2)
従って、新基準適用に伴って新たに使用権資産を認識することのみをもって、減損リスクが増加するわけではないと言えます。
以下の設例は、ケース1(IAS第17号のオペレーティング・リースで処理した場合)とケース2(新基準で処理した場合)を比較しており、結果として算定される減損額は5百万円で変化しないことを示しています。

設例

Ⅳ おわりに

新基準では、リースの借手は使用権資産とリース負債を貸借対照表に認識することになるため、企業の資産と負債は増加します。本稿では、新たに使用権資産が認識されることのみをもって、即座に減損リスクの増加に結びつかないことを解説しました。
ただし、例えば、使用権資産の測定に用いられるIFRS第16号による割引率と、減損検討に用いられるIAS第36号による割引率に関する定めが異なることにより、減損金額が影響を受けることは考えられます。本稿ではこのような影響は取り上げませんでしたが、想定しておく必要があります。

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2016年12月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。