中国、事前確認制度年度報告書(2022年)他

中国JBS‐中国税務及び投資速報(日本語要約版)2024年1月

税務法規

1. 移転価格

・中国事前確認制度年度報告書(2022年)

概要

2023年12月19日、国家税務総局は「中国事前確認制度年度報告書(2022年)」(以下「2022年報告書」)の中国語版と英語版を公表しました。中国が事前確認年度報告書を公表するのはこれで14回目になります。

「2022年報告書」では、中国における事前確認(「APA」)の実施手続及び実施状況の説明の他、2005年1月1日から22年12月31日までの事前確認に関する統計データ及び分析も含まれています。22年12月31日までに、中国税務当局はユニラテラルAPA144件、バイラテラルAPA116件を成立させました。22年には、19件のユニラテラルAPA、15件のバイラテラルAPAが成立しました。成立した15件のバイラテラルAPAのうち、アジア諸国(地域)、北米諸国、欧州諸国との間で成立したものはそれぞれ10件、2件、3件です。製造業のAPAが主であり、実態経済に対する租税の役割を明らかにしています。

「2022年報告書」は法的効力を持つものではなく、企業と中国税務当局におけるAPAの基準として使用されるものではないものの、参考として有益な情報となります。税務上の確実性をより高めるため、「2022年報告書」を参照しつつ、中国税務当局とのAPAの締結を検討することも納税者としては一案と考えられます。


2. 個人所得税

・広州市の粤港澳大湾区個人所得税優遇政策実施のための財政補助金に関する行政弁法(2023年改正)(穗財規字[2023]4号)
・広州市の海外人材に対する粤港澳大湾区個人所得税優遇政策に基づく財政補助金申請ガイドライン(2023年)

概要

財税[2019]31号通達(以下「31号通達」「粤港澳大湾区個人所得税の優遇政策に関する通知」)では、2019年1月1日から23年12月31日までの間、大湾区で働く海外ハイレベル人材と緊急不足人材に対して、珠江デルタ9都市1における課税所得の15%を超えて当地で支払う個人所得税額につき、当地の人民政府より財政補助を行い、かつ、この財政補助自体は個人所得税免税とされていました。この財政補助は、財税[2023]34号通達(以下「34号通達」「粤港澳大湾区個人所得税の優遇政策の実施延長に関する通知」)により、この実施期間が27年12月31日まで延長されています。

上記を受け、広州市の関連政府部門は、2023年12月27日付で穗財規字[2023]4号通達(以下「4号通達」「広州市の粤港澳大湾区個人所得税優遇政策実施のための財政補助金に関する行政弁法」)及び「広州市の海外人材に対する粤港澳大湾区個人所得税優遇政策に基づく財政補助金申請ガイドライン(2023年)」(以下「広州ガイドライン」)を公布し、21年度及び22年度の補助金の申請に関する事項を明らかにしました。

その主な内容は、以下のとおりです。

  • 21年及び22年の納税年度において、総合所得及び事業所得を得た申告者又は源泉徴収義務者は、23年12月29日から24年2月29日までに「広東省政務サービスネットワーク」にログインし、補助金の申請及び関連資料の提出を行う。20年納税年度の代替申請は、まとめて処理することができる。
  • 納税者1人当たりの年間個人納税限度額は500万人民元以下。
  • 他都市の個人所得税補助金申請に関する関連規定と同様、広州市の申請者は、20年、21年、22年の各納税年度において、広州市内で合計90日(90日を除く)勤務している必要がある。
  • 補助金額が100万人民元以上の申請者は、「広州市粤港澳大湾区個人所得税優遇政策に基づく個人資金補助申請書」に加え、「個人所得税優遇申告登録書」も記入する必要がある。

4号通達は公布日である2023年12月27日から発効し、27年12月31日まで適用されます。

申請者は、申請書を提出する前に、4号通達及び広州ガイドラインを参照し、個人所得税控除を受ける資格があるか否かの確認が推奨されます。
 

1 珠江デルタ9都市とは、広東省の広州市、深圳市、珠海市、佛山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市を言う。

3. その他

・国家税務総局深圳市税務局によるクロスボーダー案件の事前税務コンプライアンス評価サービスに関するQ&A

概要

「税収徴収管理改革のさらなる深化に関する意見」に基づき、国家税務総局深圳市税務局(以下「深圳市税務局」)は、「クロスボーダー取引の事前税務コンプライアンス評価サービスに関するQ&A」(以下「Q&A」) を公布し、より高い税務の確実性を提供することを目的として、多国籍企業に対するクロスボーダー取引に対する税務コンプライアンス評価サービス(以下「コンプライアンス評価サービス」)を導入しました。

Q&Aの主な内容は、以下のとおりです。

項目

内容

コンプライアンス評価サービスの役割

  • 企業は将来発生するクロスボーダー取引に関して、深圳市税務局に書面を提出し、特別税務調整のリスク度合いに関する評価を求めることができる。

コンプライアンス評価サービスの適用範囲

  • クロスボーダー関連取引における企業とその関連者の機能判断における税務リスク度合い
  • クロスボーダー関連取引における移転価格算定方法の選択における税務リスク度合い
  • 関連者による負債投資と非関連者による負債投資の認識方法における税務リスク度合い

申請方法

  • コンプライアンス評価サービスを申請する企業は、「クロスボーダー取引の事前税務コンプライアンス評価申請書」(以下「評価申請書」)に関連情報を添付の上、深圳市税務局第四税務分局総合業務課へ提出しなければならない。「評価申請書」には、申請取引の種類、申請取引の関係者の概要、申請取引の詳細な説明、主な前提条件、申請者の要求などの記載が必要となる。

評価プロセス

  • 税務部門は、企業が提出した「評価申請書」とその添付書類の受理後5営業日以内に、企業がコンプライアンス評価サービスの適用状況に合致するか否かを判断し、その申請が受理されるか否かの「税務事項通知書」を企業に送達する。
  • 税務部門は、申請を受理した企業に「税務事項通知書」が届いた日から3カ月以内、評価の進捗状況について企業と連絡を取り、分析と評価の最終決定日から10営業日以内に、「税務事項通知書」を「クロスボーダー取引の事前税務コンプライアンス評価意見書」と共に企業に交付する。
  • 評価期間中、税務部門は企業に対し、関連情報の追加提出を求める場合があり、追加提出のための期間は、上記の3カ月の期間には算入されない。状況が複雑な場合、税務部門と企業の合意により、期間を延長することができる。

有効性

  • コンプライアンス評価サービスは、税務部門が申請を受理した「税務事項通知書」を企業に送達した課税年度から3年以内に発生したクロスボーダー取引に適用される。企業が既に行ったクロスボーダー取引が、コンプライアンス評価サービスが適用される取引と同一又は類似している場合、税務部門は、企業の申請により、当該案件にさかのぼって評価意見を適用することができる。

適用対象外

コンプライアンス評価サービスは、以下の場合には適用されない。

  • 申請予定取引が過去年度のクロスボーダー取引と同一又は類似しており、かつ、その過去年度のクロスボーダー取引に関する特別税務調査の調整が未了、又は既に終了している。
  • 申請予定取引が過去年度のクロスボーダー取引と同一又は類似しており、かつ、その過去年度のクロスボーダー事項に係る特別税額調整のリスク管理が未了又は終了している。
  • 申請予定取引がAPAに関する、又は実行に関わる取引である。

深圳市税務局が推進するコンプライアンス評価サービスは、積極的かつ透明性の高い方法でコンプライアンスに取り組む多国籍企業に対し、より確実な税務環境を提供します。

納税者はQ&Aの詳細を把握し、コンプライアンス評価サービスへの適用性を評価することができます。この評価を行う際、納税者は税務上のリスクを自ら明らかにする可能性があるため、綿密な準備が推奨されます。


・改革の更なる深化とクロスボーダー貿易投資利便化の促進に関する通達(匯発[2023]28号)
・クロスボーダー貿易投資のハイレベル自由化パイロットプログラムの拡大に関する通達(匯発[2023]30号)

概要

ハイレベルの金融自由化を推進し、クロスボーダー貿易投資及び融資を促進するため、国家外貨管理局は2023年12月4日、匯発[2023]年28号通達(以下「28号通達」「改革のさらなる深化とクロスボーダー貿易投資利便化の促進に関する通達」)を公布しました。

28号通達では、以下の計9項目の政策措置が列挙されています。

  • 経常項目に関する政策措置は計4項目設けられており、主に特殊な貿易取引における外貨収支の管理のさらなる改善と、初期的に一部の地域でパイロット実施された利便化措置の全国への拡大が挙げられている。
  • 資本項目に関する政策措置は計5項目設けられており、主に資本項目の利便化政策を展開し、一部の資本項目の外貨管理を更新及び最適化するものである。これにはクロスボーダー融資利便化に関するパイロット改革政策の全国的推進や、対外直接投資(ODI)の初期費用規模の制限緩和などが含まれている。

さらに、国家外貨管理局は2023年12月4日、クロスボーダー貿易投資のハイレベル自由化パイロットプログラムの拡大を目的とした匯発[2023]30号通達(以下「30号通達」)を公布しました。パイロット地域2は、上海市、江蘇省、広東省(深圳市を含む)、北京市、浙江省(寧波市を含む)、海南省全域(以下「パイロット地域」)に拡大され、これまでのプログラムで効果を上げてきた外貨利便化政策措置の再現及び促進を目指します。

30号通達では、計5項目の経常項目に関する政策措置を含む計8項目のパイロット政策が列挙されています。パイロット地域の適格かつ法令を順守している銀行は、1回の取引で5万米ドルを超えるサービス貿易等項目の外貨支払について、「サービス貿易等項目の対外支払税務届出表」を事後的に確認できます。この取組みは、より大規模な外貨両替の効率的な処理の促進が期待されます。

別段の定めがない限り、28号通達及び30号通達はその公布日である2023年12月4日から発効されています。関連する事業者は、より詳細な情報を得るために28号通達及び30号通達を把握のうえ、関連の利便化政策の活用が推奨されます。

2 当初のパイロット範囲は、上海自由貿易試験区臨港新片区、広東自由貿易試験区南沙新片区、海南自由貿易港楊浦経済開発区、浙江省寧波市北侖区など。

お問い合わせ先

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和田 慎祐/監査

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駒田 亮 / 監査

上海

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坂出 加奈/税務・移転価格

入倉 広大/監査

川島 智之/税務

高谷 恭平/監査

小島 圭介/税務

馬橋 秀弥/監査

万 家駿/コンプライアンス

江 海峰/金融

三宅 亜紀子/Forensics

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椎名 厚仁/監査

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櫻庭 弘幸/監査

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呉 篠

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野口 正邦

八幡 正博

大谷 光尋 

近藤 正智

※所属・役職は記事公開当時のものです