モビリティ(海外赴任)コラム:インドGST課税の背景

昨今新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響が平常化している中、コロナ以前のように、従業員の海外赴任を検討している会社も多いのではないでしょうか。

赴任先の国を決める際、企業においては、人件費等のコスト面や、その国の文化や法令を精査することは肝要です。また、国によっては、これまでの法令が突然変更されることもあるため注意が必要です。

今回は、インドにおけるGST課税(Goods and Service Tax:物品・サービス税)に関するアップデートについてご紹介します。インド当局は、2022年5月にNOS社(Northern Operating Systems Pvt. Ltd)の出向者給与の立替精算について、GST課税の対象とする旨の最高裁判決を下しました。NOS社からNOSインド社への出向者はインド法人との雇用関係があり、給与の精算については、過去の類似判決に鑑みても、GST課税の対象にならない旨を主張しましたが、課税とする判決が下されました。詳細は2022年6月3日付EY Japan税務アラート「インド最高裁、グループ会社間の従業員の出向をService Taxの課税対象とする見解を支持」をご参照ください。

このようなインド税務当局(Central Board of Indirect Taxes and Customs:以下CBICという)の動きに対し、多くの日系企業や団体が連携し、さまざまな情報収集をしている中で、CBICから下記の追加の回答がありました。
 

(1)対象サービスMSS(Manpower Supply Services)について

GST課税対象とみなされるMSSとは、サービス課税の観点から、海外の会社からインドの会社に出向者として赴任する従業員が供給するサービスである。

(2)GST課税の遡及対応について

GST課税裁判決が確定した2022年5月以降発生分に関して、GST課税が実行されるだけではなく、2022年5月以前の過年度においても遡って課税する。

(3)過年度リバースチャージ方式で納付されたGST税額に対するITC(Input Tax Credit)の適用について

条件(CGST Act 2017, Section 16,17&18の要件など)に一致するようであればITCの適用が可能。

(4)遡及されるGST課税に対し利息や延滞税が生じる

最高裁判決は、出向者の役割や出向規程、出向の実態面などを複合的に検証した結果に基づくものであり、インドへの出向者の日本払い給与・手当をインドへリチャージしている場合、必ずしもGSTが課税されるわけではありません。一方、「形式よりも実態(Substance over form)」が重要視されるため、現状においては、出向者の日本払い給与・手当に対するGST課税を確実に回避するのは非常に困難な状況です。

直近ではGST課税に対する企業の対応として、納付したGST税額は要件に一致すれば、Creditとして控除が可能となるため、利息や延滞税の賦課を避けるためにも期日通りに納付するケースも見受けられます。
しかしその場合、インドでは厳しく指摘されるPE認定リスクを引き起こす可能性もあるため、方針についてはインド現地法人と日本本社との間で、事前に協議されることをお勧めします。

GSTの納付を行う場合においても、事前にGST課税によるCash Flowの最終的な影響を検討し、出向者と出向先インド法人における雇用契約書、出向先インド法人および出向元の会社間の出向契約書などの形式面についてもGST課税を踏まえ、事前に検討することが肝要です。

お問い合わせ先

川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

島田 茉莉子 マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです