中国、中央政府が公表した一連の個人所得税政策 他

中国JBS‐中国税務及び投資速報(日本語要約版)2023年8月

税務法規

1. 個人所得税

・中央政府が公表した一連の個人所得税政策

概要

個人の税負担軽減を目的として、中央政府は専門付加控除の基準額引き上げや個人所得税優遇政策の実施延長などを含む、一連の個人所得税政策を公表しました。
各制度の内容は、下表の通りです。

規定

内容

専門付加控除の基準額引き上げ


国発2023年13号「個人所得税の専門付加控除の基準額引き上げに関する通知」

国家税務総局公告2023年14号「個人所得税に係る専門付加控除の基準額引き上げの実施に関する公告」

  • 子女教育専門付加控除の基準額(3歳から大学院博士課程までの教育につき適用)は、子供1人につき毎月1,000人民元から2,000人民元に引き上げ。
  • 3歳未満の乳幼児養育専門付加控除の基準額は、乳幼児1人につき毎月1,000人民元から2,000人民元に引き上げ。
  • 高齢者扶養専門付加控除の基準額は、毎月2,000人民元から3,000人民元に引き上げ。
  • 上記の改正は2023年1月1日に遡及(そきゅう)して適用。

2024年1月1日に失効が予定されていた個人所得税優遇政策の実施延長


財政部、国家税務総局公告2023年29号「外国籍個人の補助金・手当に係る個人所得税政策の実施延長に関する公告」

  • 外国籍個人の関連手当に係る個人所得税政策は2027年12月31日まで延長。
  • その間、居住者条件を満たす外国籍個人は、個人所得税の専門付加控除(例:子女教育、継続教育など)を享受するか、住宅手当・語学訓練費・子女教育費などの手当に対する免税を享受するかのいずれかを選択することができる。


財政部、国家税務総局公告2023年30号「年一回性賞与に係る個人所得税政策の実施延長に関する公告」

  • 現行の居住者の年一回性賞与に係る個人所得税政策(年一回性賞与額を12カ月で除した金額に基づき適用税率及び速算控除額を確定する分離計算)は2027年12月31日まで延長。


財政部、国家税務総局公告2023年32号「個人所得税総合所得の確定申告に係る関連政策の実施延長に関する公告」

  • 2024年1月1日から27年12月31日まで、個人所得税総合所得の確定申告に係る関連政策の実施を延長。
  • 居住者が総合所得を取得し、かつ源泉徴収義務者が法に基づき源泉徴収を行っていない状況ではない場合において、以下の条件のいずれかに該当するときは、個人所得税総合所得の確定申告の免除が可能。
    • 年度の総合所得収入額が12万人民元を超えず、かつ確定申告による追加納税が必要な場合。
    • 年度確定申告による追加納付税額が400人民元未満の場合。


財政部、国家税務総局公告2023年31号「遠洋船員の個人所得税政策の実施延長に関する公告」

  • 2027年12月31日まで、一納税年度内に船上での航行時間が累計183日を満たした遠洋船員は、その取得した賃金給与収入を50%減額した上で、課税所得額に計上し、法に基づき個人所得税を納付。

粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の実施延長に関する通知(財税2023年34号)

概要

2023年8月18日、財政部と国家税務総局は財税2023年34号通達(以下「34号通達」)を公布し、2024年1月1日から27年12月31日までの間、粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策を引き続き実施することを明らかにしました。

従って、広東省・深セン市は中国本土と香港との個人所得税の税負担差額(既に納付した税額が課税所得額の15%で計算した税額を超える部分)について、大湾区珠江デルタ9都市で働く国外(香港・マカオ・台湾を含む)のハイエンド人材及び不足人材に対して補助金を拠出し、かつその補助金に係る個人所得税は免除されます。

大湾区珠江デルタ9都市の関係者及び雇用主は、34号通達及び各市が公表する通達を把握し、より詳しい情報を取得する必要があります。

なお珠江デルタ9都市とは、広東省の広州市・深セン市・珠海市・佛山市・恵州市・東莞市・中山市・江門市・肇慶市を指します。

2. 増値税

・「増値税小規模納税者に対する増値税減免等の政策に関する公告」(財政部、国家税務総局公告2023年19号)

概要

小型薄利企業と個人事業主の発展をさらに支援するため、財政部及び国家税務総局は2023年8月1日付で、財政部、国家税務総局公告2023年19号(以下「19号公告」)を公布し、小規模納税者の増値税減免政策を2027年12月31日まで継続しました。主な内容は次の通りです。

  • 月間売上高10万人民元以下の増値税小規模納税者は、増値税を免除する。
  • 増値税小規模納税者において、税率3%を適用する課税売上高には、税率1%で増値税を課税する。予定税率3%を適用する増値税予定納税項目には、予定税率1%で増値税を課税する。

この小型薄利企業とは、国の制限・禁止業種以外の業種に従事し、かつ次の条件を同時に満たす企業を指します。

  • 年間課税所得額300万人民元未満
  • 従業員数300人未満
  • 資産総額5,000万人民元未満

現行の増値税関連規定に基づき、「増値税予定納税項目」とは、納税者が複数の地域をまたがって(その機構の所在地以外の県<市・区> )、建築サービス・不動産販売・不動産リース等の特定のサービスを提供することを指します。例えば、上海の納税者が北京で建築サービスを提供する場合、建築サービスの発生地である北京の主管税務機関へ税金を予納する必要があります。

・中華人民共和国増値税法(草案二次審議案)に対する意見募集

概要

2023年8月28日、「中華人民共和国増値税法(草案)二次審議案」(以下「二審案」)は第14期全国人民代表大会常務委員会第5回会議の審議に提出されました。その後、全国人民代表大会の公式サイトは2023年9月1日、二審案の全文を公布し、パブリック・コメントが募集されました。意見募集期間は2023年9月30日までの30日間とされています。

税収確保と実行可能性をさらに高めるため、二審案では以下の修正意見が提出されています。

  • 一部の税収立法授権の規範化
  • 簡易課税が適用される具体的な状況の細分化・明確化
  • 小規模納税者制度の完備化
  • 納税者は未控除税額の処理方式を自主的に選択する権利を有することの明確化
  • 国務院に授権された特別優遇政策の範囲と要求のさらなる明確化
  • 国務院の規定に従い増値税額を証憑書類に個別で明記することの明確化

二審案の第六条では、国務院の規定に従い増値税額を証憑書類に個別で明記することが言及されているものの、この証憑書類の定義が明らかにされていません。業務運営上、証憑書類とは請求書、発票、注文書、契約書などの書類と一般的には考えられますが、これらだけに限定されません。

3. その他

・重点グループの創業や就業をさらに支援する租税政策に関する公告(財政部、国家税務総局、人力資源・社会保障部、農業農村部公告2023年15号)

・自主的に就業する退役兵士の創業や就業をさらに支援する租税政策に関する公告(財政部、国家税務総局、退役軍人事務部公告2023年14号)

概要

重点グループ及び退役兵士の創業や就業をさらに支援するため、関連政府部門は2023年8月1日付で、財政部、国家税務総局、退役軍人事務部公告2023年14号(以下「14号公告」)及び財政部、国家税務総局、人力資源・社会保障部、農業農村部公告2023年15号(以下「15号公告」)を公布し、重点グループ及び退役軍人の創業や就職の支援を継続しています。

この14号公告と15号公告により、企業が下記の人材を採用する場合、実際に採用した人数に応じ、増値税、都市維持建設税、教育費付加、地方教育付加、企業所得税の優遇を定額で順次控除することができます。

  • 全国貧困防止監視及び農村振興と推進情報システムに収録されている貧困脱却者
  • 半年以上の失業者
  • 退役軍人

定額基準は1人当たり年間6,000人民元(上記の貧困脱却者と失業者を採用する場合には最大30%、退役軍人を採用する場合は50%の割増をすることが可能。各省、自治区、直轄市人民政府は各地域の実情に応じてこの範囲内で具体的な定額基準を確定)であり、関連する税金控除額は、当年度しか使用できません。
14号公告及び15号公告の有効期間は2023年1月1日から27年12月31日までであり、既にこの優遇政策による利益を享受した企業も見受けられます。企業、特に労働集約型の業務形態である企業は、現在の状況に基づき、この政策による利益の享受可否の検討が推奨されます。

・外商投資環境のさらなる最適化、外商投資誘致活動の強化に関する意見(国発2023年11号)

概要

外商投資環境をさらに最適化するため、2023年7月25日付で、国務院は国発2023年11号通達(以下「11号通達」)を公布しました。

11号通達では、外資活用の質の向上、外商投資企業の国民待遇の保障、外商投資の保護強化、投資・運営の円滑性の向上、財政・税制面の支援の強化、外商投資促進方法の整備を目的として、一連の措置が提案されています。

また11号通達では、財政・税制面の支援に関する以下の内容が改めて述べられています。

  • 外商投資企業の中国国内における再投資を支持し、源泉所得税の徴収を繰り延べる。
  • 各地域は法定権限の範囲内で、外商投資奨励産業目録の規定に合致する外商投資企業に対して奨励措置を実施する。
  • 外商投資企業に対する税収優遇政策を着実に実施する。例えば、外資研究開発センター向けの税収優遇、外国籍個人が享受できる住宅補助金・語学訓練費・子女教育費などの手当に係る免税優遇政策など。

11号通達において、税収優遇に関する内容は主に現行政策の継続と実行、及び具体的な実行プロセスにおける実施の効率化と利便化の向上が述べられているのみで、重大な調整や新たな税収優遇政策の導入には言及されていません。詳細については、別途、関連部門による具体的な規定の確認が必要です。

お問い合わせ先

北京

西本 靖司/監査

上村 希世子/税務・移転価格

河村 正一/監査

中尾 隆志/税務

大連

駒田 亮 / 監査

上海

高橋 臣一/監査

坂出 加奈/税務・移転価格

入倉 広大/監査

川島 智之/税務

西澤 礼/監査

小島 圭介/税務

星野 友子/監査

万 家駿/法務

高谷 恭平/監査

三宅 亜紀子/Forensics

江 海峰/金融

久保田 順一/TAS

北原 遼一/金融

北原 遼一/金融

広州

長内 幸浩/監査

椎名 厚仁/監査

深圳

浅井 哲史/監査

香港

重富 由香/監査

櫻庭 弘幸/監査

濱﨑 孝陽/監査

長内 幸浩/監査

東京
EY税理士法人 中国デスク

呉 篠

EY新日本有限責任監査法人/Ernst & Young ShinNihon LLC

JBSアシュアランスデスク/JBS Assurance Desk

野口 正邦

八幡 正博

大谷 光尋

近藤 正智

※所属・役職は記事公開当時のものです