モビリティ(海外赴任)コラム:今さら聞けないモビリティ情報 ―海外出向に必要な契約書・合意書とは?―

日本から海外への出向期間中、出向者は出向元である日本本社との間にある雇用契約を継続したまま、出向先の海外現地法人との間に雇用関係が生じることとなります。いわゆる「二重雇用」の状態となるわけですが、出向中は出向先の業務のみに従事することが一般的ですので、日本本社との雇用契約は実質的に休止状態となります。
このように、海外出向期間中は特殊な雇用状況となりますが、当事者である出向者個人・出向元法人(日本本社)・出向先法人(海外現地法人)の間では、どのような契約書・合意書が必要になるのでしょうか?
税務・イミグレーションの観点を中心に、一般的に必要とされる主な契約書・合意書を整理いたします。

① 出向契約書(出向元法人(日本本社)↔出向先法人(現地法人)間)

  • 海外出向者の就労条件や両法人の責任範囲に関する合意事項をまとめた契約書です。
  • 税務の観点からは、海外出向に関しどのような条件・責任・ルール等に基づき出向管理・運用がされているかを形式的に示す重要な書類です。特に、較差補填(出向者コストの負担関係)や現地PE(恒久的施設)認定リスクの論点から、整備しておくことが必須といえます。
② 雇用契約書(出向者個人↔出向先法人(現地法人)間)
  • 出向者個人と出向先である現地法人との間の雇用契約書です。
  • 国によっては、就労許可を取得するためなどに必要とされる場合があり、各国の労働法等に準拠している必要があります。
  • 昨今では、税務上においても、PE認定リスクの論点で反証材料としても有用とみられることから、特にPEリスクの高い国では雇用契約書の必要性が高まる傾向があると考えられます。
③ アサインメントレター(出向者個人↔出向元法人(および出向先法人)間)
  • 各出向者との間で、出向条件(期間、処遇、ミッション、その他出向中の諸条件)の合意を確認するための書類です。
  • 外資系企業ではアサインメントレターを作成することが一般的ですが、日系企業では作成しているケースは少ないです。
  • 個々人の個別事情が多様化している昨今において、出向開始時点で諸条件を書面合意しておくことの重要性が高まっており、アサインメントレターを導入する企業も増加傾向にあります。

以前は出向辞令を出すだけの運用をする企業も多くいましたが、税務・イミグレーション上の必要性などから、出向契約書を作成する企業も増えてきました。税務は実態が重要とされますが、余計な税務調査への波及やあらぬ疑いを持たれないためにも、形式面(=契約書等)の整備は優先順位を上げて取り組むべき課題といえます。

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川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

白澤 賢 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです