EU加盟国、「第2の柱」グローバルミニマム課税ルールの導入指令を全会一致で採択

  • 2022年12月15日、欧州連合(EU)加盟国は書面による手続きを経て、ミニマム課税指令を全会一致で採択した。
  • 加盟国は2023年12月31日までに本指令に基づいた国内法を制定する。
  • EU加盟国において、所得合算ルール(IIR)は、2023年12月31日以降に開始する事業年度に適用される。軽課税支払ルール(UTPR)は、本指令の規定の下で、2024年12月31日以降に開始する事業年度に適用される。

エグゼクティブサマリー

2022年12月15日、EU理事会は、EU域内の多国籍企業(MNE)グループおよび大規模国内グループに対するグローバルミニマム課税水準を確保する指令(以下、「本指令」)を全会一致で採択しました。

今回採択された本指令の条文は、EU議長国であるチェコから2022年11月25日に公表されたです。前回の2022年6月21日の妥協案における条文と今回採択された版とを比べると、EUの各機関による法律上の文言のレビューに基づく編集のみが加えられています。

EU加盟国は2023年12月31日までに本指令に基づいて国内法を制定することとなっており、2023年12月31日以降に開始する事業年度に当該ルールが適用されます。ただし、軽課税支払ルール(UTPR)は、2024年12月31日以降に開始する事業年度に適用されます。

詳細解説

背景

2021年12月22日、欧州委員会は、EU域内で活動する多国籍企業グループに対するグローバルミニマム課税水準の確保に関するルールを設ける指令の法案を公表しました1。この指令草案は、税源浸食と利益移転(BEPS)に関するG20/OECD包摂的枠組みによって合意され、2021年12月20日に公表された第2の柱のグローバルミニマム課税(グローバル税源浸食防止:GloBE)に関するモデルルール2を、自国の国内法に導入するための共通の枠組みを加盟国に提供するものでした。この指令草案は、GloBEルールがEU法に従い調整されるとともに、EU単一市場の特性を考慮した形でEU全域にわたり協調的な方法で導入されるよう促すことを意図していました。

2022年初め以降、EU加盟国の間では本指令をめぐる交渉が進められてきました。当該法案は今年の3回のECOFIN会合で採決に付されましたが、全会一致の合意には至りませんでした。これらの会合における採決の結果は以下のとおりです。

  • 3月15日のECOFIN3:22カ国が賛成、4カ国(エストニア、マルタ、ポーランドおよびスウェーデン)が反対
  • 4月5日のECOFIN4:26カ国が賛成、ポーランドが反対
  • 6月17日のECOFIN5:26カ国が賛成、ハンガリーが反対

直近の2022年12月6日のECOFIN会合では、本指令に関する全会一致は、ハンガリーによって阻止されました。

EU加盟国による全会一致の採択

継続的な交渉の結果、最終的に12月12日に妥協案がまとまり、12月15日に、EU加盟国は、本指令の採択に加えて、以下の内容を含む声明を承認しました。

  • 第1の柱の諸要素(多国間条約を含む)をめぐって進行中の作業の完了と成功に対する加盟国のコミットメントの再確認。
  • 外国における所得合算ルール(IIR)の同等性の評価における欧州委員会への権限移譲は、特別立法手続き(すなわち、加盟全27カ国の全会一致)により採択される他のEU税法の文脈において、権限移譲の前例と解釈されるべきではないことの強調。

同日に開催された欧州理事会(すなわち、EU加盟国首脳)の会合で採択された結論には、2つの柱に言及した以下のような一節が盛り込まれました。

欧州理事会は、2021年10月に合意されたとおりに第1の柱と第2の柱の双方を導入するという欧州連合の決意を想起し、欧州委員会が第1の柱の多国間条約(MLC)をめぐって進行中の交渉を監視するとともに、第1の柱の解決策に関する合意がなされない場合には、2023年末までに提案を提示することを求める。

本指令の内容

本指令は、年間売上高が7億5,000万ユーロ以上の大規模多国籍企業に対するミニマム実効課税を導入するものです。本指令は、連動する2つのルール、すなわち所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)で構成される仕組みを定めています。ある特定の国・地域において多国籍企業(MNE)グループの所得に適用される実効税率が15%を下回ると低課税国・地域とみなされ、「トップアップ税」が課税されます。

この仕組みにおいて、EU加盟国に所在するあらゆるMNEグループ親事業体は、低課税を受けているすべてのグループ事業体(当該親事業体自体を含む)について、かかる事業体がEU域内に所在するか域外に所在するかに関わりなく、かかる事業体からの配賦割合に従って計算されたIIRトップアップ税を支払う義務を負います。UTPRはIIRのバックストップ(安全策)の役割を担うものであり、例えば最終親事業体(UPE)が適格IIRを適用していないEU域外の国・地域に所在する場合や、かかる国・地域が適格IIRを運用しているにもかかわらずUPEおよびその現地子会社が低課税を受けている場合に適用されます。UTPRの下で、トップアップ税のあらゆる残余額は、UTPRを適用している国・地域に所在するMNEグループ構成事業体の間で配賦されます。

本指令はモデルルールの内容におおむね従っていますが、以下を含むいくつかの具体的な違いや追加事項があります。

  • 導入スケジュール:包摂的枠組みによって合意されたスケジュールでは2023年に第2の柱ルールの発効が計画されていたが、EU加盟国は当該ルールの適用時期を2023年12月31日以降に開始する事業年度とすることで合意し、税務当局および納税者にさらなる1年間の準備期間が与えられた。
  • 対象範囲の大規模純国内グループへの拡大:本指令では、グループ合計年間売上高が7億5,000万ユーロ以上の大規模純国内グループに対象範囲が拡大されている。この範囲拡大の目的は、国内とクロスボーダーの間における差別的な取扱いを排除し、EUの基本的自由の遵守を確実にすることである。
  • •適格国内トップアップ税の適用の選択:加盟国は、自国内に所在する構成事業体に対する国内トップアップ税の適用を選択することができる。この選択により、低課税国・地域において発生したトップアップ税を、IIRを通じてUPEのレベルで徴収するか、またはUTPRを通じて他のグループ事業体のレベルで徴収する代わりに、自国内にてトップアップ税を賦課および徴収することが可能になる。加盟国がこの選択により国内トップアップを課した場合、他の加盟国において計算されるトップアップ税(該当する場合)の金額は、適格国内トップアップ税の金額分減額される。
  • IIRの国内構成事業体への拡大:包摂的枠組みによって合意されたモデルルールのコメンタリーでは、IIRの適用を国内事業体に拡大することが認められている。本指令にはこの拡大が盛り込まれており、親事業体は、当該親事業体自体および同じ加盟国に所在する低課税構成事業体に対してIIRの適用を認める旨が規定されている。この範囲拡大は、大規模国内グループへの拡大と同様に、国内とクロスボーダーの間における差別的な取扱いを排除し、EUの基本的自由の遵守を確実にすることを目的としている。また、この拡大により、同じく国内の利益を捕捉するものである国内トップアップ税の必要性が低下する可能性がある。
  • IIR/UTPRの適用延期の選択:第2の柱の対象範囲に含まれるグループのうち、国内に最終親事業体を置くグループの数が12以下である加盟国は、2023年12月31日以降に開始する連続する6事業年度について、IIRおよびUTPRを適用しないことを選択できる。ただし本指令では、かかるグループの構成事業体に対し、他の加盟国が、2023年12月31日以降に開始する事業年度についてUTPRを適用すべきであると明示的に規定している。
  • 第三国のIIR制度に係る評価の枠組み:本指令は、適格IIRと同等とみなされるルールを導入済みである第三の国・地域のリストを決定するために第三国の制度を評価する権限を欧州委員会に与えている。欧州委員会の評価は「委託法令(delegated acts)」に定められる予定である。
スケジュールおよび今後のステップ

本指令の最終版は近日中にEU官報上で公表される見込みです。EU加盟国は2023年12月31日までに本指令の規定を自国の国内法に置き換え、2023年12月31日以降に開始する事業年度にこれらの規定をおおむね適用することとなっています。すなわち、EU加盟国において、所得合算ルール(IIR)は2023年12月31日以降に開始する事業年度に適用される予定です。一方、本指令において、軽課税支払ルール(UTPR)は2024年12月31日以降に開始する事業年度に適用されると規定されています。ただし、IIR/UTPRの適用延期を選択している加盟国に本拠を置く多国籍企業(MNE)グループの構成事業体に対しては、他の加盟国が、2023年12月31日時点でIIR/UTPRを適用するとされていることに注意が必要です。

本指令の序文は、説明および解釈の出所としてGloBE実施フレームワークを挙げるとともに、加盟国はかかる指針を国内法に組み込むことを選択できると述べています。また本指令には、課税水準がセーフハーバーに関する要件を満たしている場合に、ある国・地域においてグループに課されたトップアップ税をゼロとみなす具体的な規定が盛り込まれています。本指令の序文において実施フレームワークのセーフハーバールールが具体的に参照されているように、包摂的枠組みから公表が予定されるセーフハーバー指針は、当該規定を通じて本指令に実質的に組み込まれると思われます。

今後の影響

EUによる本指令の採択は、第2の柱のグローバルミニマム課税における重要な進展を意味しています。他の世界各国もグローバルミニマム課税の導入について検討を開始しており、2023年に第2の柱をめぐるグローバルな立法活動が活発化することが見込まれます。

企業は、EU加盟国による国内法の制定化を注意深く見守ると同時に、EUにおけるGloBEルールの遵守に向けて準備を整えることが重要です。また企業は、事業展開している他の各国についても、動向を継続的に監視する必要があります。自社の税務ポジション、そして自社のデータ、コンプライアンスのプロセスおよびシステムについて、グローバルミニマム課税の変更が及ぼす潜在的な影響を検討しなければなりません。

さらに、欧州委員会は、第2の柱の手法に基づいて計算された実効税率を、対象範囲に含まれる多国籍企業(MNE)が公表することを要求するEU指令を策定する方針を明らかにしています6。本指令が採択済みとなったことで、今後この取組みは勢いを増す可能性があります。

巻末注

  1. 2021年12月22日付EY Global Tax Alert「European Commission proposes tax Directive for implementing BEPS 2.0 Pillar Two Model Rules in the EU」、2022年2月15日付EY Japan税務アラート「欧州委員会、BEPS2.0グローバルミニマム課税ルールに関する指令を提案」をご参照ください。
  2. 2021年12月22日付EY Global Tax Alert「OECD releases Model Rules on Pillar Two Global Minimum Tax: Detailed review」、2022年1月7日付EY Japan税務アラート「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 前編」、2022年1月26日付EY Japan税務アラート「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 後編」をご参照ください。
  3. 2022年3月16日付EY Global Tax Alert「EU Finance Ministers express broad support for compromise text for Pillar Two Directive which includes a one-year delay of the implementation timeline, but no unanimous agreement yet」をご参照ください。
  4. 2022年4月6日付EY Global Tax Alert「EU Finance Ministers continue negotiations to adopt Pillar Two Directive in light of Poland’s remaining objection」をご参照ください。
  5. 2022年6月17日付EY Global Tax Alert「EU Finance Ministers are unable to adopt Pillar Two Directive as Hungary changes position」をご参照ください。
  6. 2021年5月18日付EY Global Tax Alert「European Commission publishes Communication on Business Taxation for the 21st century」をご参照ください。

お問い合わせ先

Joris van Huijstee シニアマネージャー

大堀 秀樹 ディレクター  

※所属・役職は記事公開当時のものです

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