EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
第8回、第9回と、法令の条文にDCF(Discounted Cash Flow)の明示的規定がない場面でのDCFの適用事例を3つのパターンに分けて解説しました。今回は法令の条文にDCFの明示的規定がある場合の解説を行います。
令和元年税制改正で、独立企業間価格の算定方法の一つとしてDCF法が追加されました。より具体的に述べると、租税特別措置法施行令39条の12第8項6号に次のとおりDCF法が定められました(下線は筆者によります)。
「国外関連取引に係る棚卸資産の販売又は購入の時に当該棚卸資産の使用その他の行為による利益(これに準ずるものを含む。以下この号において同じ。)が生ずることが予測される期間内の日を含む各事業年度の当該利益の額として当該販売又は購入の時に予測される金額を合理的と認められる割引率を用いて当該棚卸資産の販売又は購入の時の現在価値として割り引いた金額の合計額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法」
上記のDCF法に係る規定は令和2年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用されています。実務上、無形資産の売買や事業再編における事業譲渡などの場面でDCF法と同等の方法を適用することが予想されます。
「改正税法のすべて 令和元年版」(大蔵財務協会、2019年)、594ページ
納税者にとって困るのが、上記の条文はDCF法適用の際の3つの計算要素である「予測期間」、「予測利益」及び「割引率」について抽象的に定めるだけなので、その具体的な内容が必ずしも明確ではないという問題です。例えば、「合理的と認められる割引率」と言われても、納税者と税務調査担当官とでは合理性の基準が異なる可能性も否定できません。
このように具体性を欠く条文内容であるために、将来の税務調査において否認されないようにするためにどうすればよいのかという課題が生じます(なお、DCF法の応用編ともいえる令和元年税制改正で導入された「特定無形資産取引」に係る税務調査対応等については次回取り上げます)。
否認されないための一つの方法は、事務運営指針4-13(ディスカウント・キャッシュ・フロー法の取扱い)がDCF法適用の際の留意事項を記載しているので、そこに記載された解説内容を検討することが考えられます。しかし、そこには、例えば「予測利益の金額が、国外関連取引に係る信頼性が確保された事業計画等の情報に基づいて計算されたものかどうかを検討する」という記載がありますが、事業計画の「信頼性が確保された」といえるためには具体的にどのようなものである必要があるのかといった疑問が生じます。
そこで、より重要になるのが独立の専門家の助力を得ることだと考えられます。事業計画については、独立の専門家による客観的な立場からの内容検証を経ることによって「信頼性」を高め、これを確保することが可能になります。また、適用を考えている割引率が「合理的と認められる」か否かについても、専門家であれば多くの事例を通じて専門的知見を有しているので、独立の立場から「合理的と認められる」か否かを客観的に判断することが可能です。
また、令和元年税制改正の結果、取引時の現在価値として割り引いた金額の合計額を算出するための書類等がいわゆる同時文書化の対象となりましたので、この文書作成の際にも独立の専門家の助力を得ることは有益です。
EY Tax controversy team
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