EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
令和元年税制改正で、独立企業間価格の算定方法の一つに、DCF法が追加されました。DCF法は、会社の将来利益(フリー・キャッシュ・フロー)を、将来の不確実性を割引率として、現在価値に割引計算する企業価値の算出方法をいいます。この方法は、フリー・キャッシュ・フローやリスク評価などに多分な見積もりの要素が入るため、恣意性は一般的に高くなり、税務にはなじまないとの見解が多くあったところです。よって、DCF法の明文規定が税制改正で入ったことの税務実務に対する意味合いは大きいように思います。
また、従来の実務としても、バリュエーションの方法としてDCF法が広く認められている中で、税務上の評価の局面においてDCF法を使った評価を行っても問題がないのか、不適切な評価として当局から否認されないかなどの不安を持っている納税者も多くいらっしゃいます。
そこで今回から3回続けて、当局が、DCFの考え方(以下、「DCF」)を使用する局面を、公表事例をもとにまとめてみたいと思います。
当局がDCFを使用する局面は、大要以下のように分類できます。
まず「法令規定の有無」のところですが、そもそも明文規定があるかどうかです。冒頭で述べたとおり、移転価格の領域で初めて条文規定が入りました。ここから、当局としても当該領域においてはDCFをある意味、積極的に用いることが明らかになったものと思われます。
一方で、当該規定以外の税法の条文にDCFの明示的な内容は入っていません。そのような従来の税務実務の中で、当局がDCFをどのように使用したか、あるいは否定したかを類型化したのが「当局のDCFの用い方」の箇所です。
まず、納税者が評価方法としてDCFを使用して資産を評価したにも関わらず、当局がDCFを使用できない場面であると主張し、それ以外の評価方法を採用する場合があります(パターン①)。
次に、納税者が評価方法としてDCFを使用して資産を評価した場合に、当局としてDCFが使えない場面であるとの主張は行わず、当該DCFとは異なるDCFによる評価額を主張する場合があります(パターン②)。要するに、納税者の用いたDCFには論理や仮定に問題があるとして、当該DCFによる評価額を否定するというアプローチです。
最後に、納税者がDCF以外の方法を用いて資産の評価をしている場合に、当局がDCFを使用して資産評価を行う場合があります(パターン③)。3つのパターンのうち、最も積極的に当局がDCFを使用する場面といえます。
以上、法令規定がない領域で当局の対応は①~③の3つです。ではどのような場合に、各対応がなされるのでしょうか。結論から言えば、それは法令・通達に評価の方法がどのように規定されているかによります。次回以降では、「参考事案」に記載の具体的な事案を用いて、どのような場合に当局が①~③の対応をするのかをお伝えしたいと思います。
EY Tax controversy team
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