2022/23年度オーストラリア連邦予算案 税務アラート(要約版)

概要

本税務アラートでは、日系企業の税務対策およびコンプライアンスに影響を及ぼす可能性がある主な税制措置を、オリジナル税務アラート(英語)から抜粋して日本語で解説します。2022/23年度連邦予算案の経済および全体的な政策に関する解説は EYオーストラリア Webサイト日本語版はこちら)をご参照ください。

この予算案では、赤字額が予想を下回る370億豪ドルと予測していますが、2024年までのGDP成長率が1.5%と低成長になる見込みで、来年は8%近くまでインフレ率が上昇し、実質賃金は2024年まで全く伸びないという極めて厳しい見通しを示しています。同予算案は、新たな政策支出が、インフレリスクが(少なくとも現在の予測では)最も深刻になる今期会計年度に振り分けられないよう、慎重に編成されており、2022~23年の純政策支出は16億豪ドル、直接資本支出は1億3千万豪ドルのみ追加されました。また景気刺激策は、インフレ率が2~3%の目標範囲に収まると予想される2024~25年以降に実施される予定です。

予算案では、保育料の引き下げやその他の施策によって生産性が向上する可能性に言及していますが、特に2024年のGDP成長率が1.5%に大きく鈍化すると予想されることから、製造業やその他の雇用を創出し輸出を促進するセクターへの投資を大幅に増加させるような大きな推進力やインセンティブを見いだすことはできません。

予算案で示された歳入はオーストラリアの構造的な財政赤字と比較して低く、今後、短中期的に大幅な税制改革を行わない限り、オーストラリアの財政状況は不安定なままとなるでしょう。

次回の予算編成が行われる2023 年 5 月までに、政府がこの問題に対処するための長期計画を明確にし、オーストラリアが必要としている自然エネルギーへの大幅なエネルギー転換投資を促進するための何らかのインセンティブが得られることを期待します。
 

国際税(INTERNATIONAL TAX)

多国籍企業向けタックス・インテグリティ・パッケージ

予算案には、労働党が選挙キャンペーン中に発表した「多国籍企業が公正な税額を負担するための」3つの措置に関する詳細が含まれています。これは、2022年8月の財務省のコンサルテーションペーパーと、それに対してEYなどが提出した意見書に沿ったものです。提案されているのは

  • 過少資本の利子控除制限ルールの変更
  • 多国籍企業による無形資産やロイヤリティに関連する支払いにおいて正当な税を負担していない場合、税額控除を制限する新しい規則の導入
  • 「強化された」税の透明性措置の導入

企業構造に関する透明性を向上させるため、誰が最終的に企業や法人を所有または統制しているかを示す受益者所有権の公共登録簿を実施するという選挙公約は、まだ策定されていません。

大規模多国籍企業の利益に対する世界最低実効税率15%を含むOECDの2つの柱に対する主要対策を実施するという選挙公約については、現在協議中です。

多国籍企業向けパッケージ ―― オーストラリアの利息制限法(過少資本税制)の改正

予算案では、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プログラムの下でOECDが推奨するアプローチに沿って、多国籍企業(multinational enterprises: MNEs)の債務控除をEBITDA(金利・税金・減価償却前利益)の30%に制限する過少資本税制を改定するという政府の選挙公約を盛り込みました。現行の過少資本税制では、多国籍企業に対して次の3つのテストが行われています。

  • セーフハーバーテスト(負債が企業のオーストラリア資産の60%を超える場合、負債控除を認めない)
  • Arms' Length Debt Test (ALDT) (オーストラリア企業と同じ事業を営む独立した第三者が借り入れることができたであろう負債額を考慮するもので、コンプライアンスが厳しく、不確実であると考えられている)
  • ワールドワイド・ギアリング・テスト(企業のオーストラリア事業が全世界のグループと同等にギアリングされることを認める)

予算案では、過少資本税制について以下の主要な変更が示されました。

  • セーフハーバーテストとワールドワイド・ギアリング・テストは、共に収益ベースのテストに置き換えられる予定
    • セーフハーバーテストは、EBITDAの30%を上限とする負債控除を適用する収益ベースのテストに置き換えられる予定。債務控除が否認された場合(すなわち、EBITDAの30%を超える債務控除)、翌年度に繰り越すことができる(最長15年間)
    • 収益に基づくグループ比率が適用され、グループ内の企業は全世界におけるグループの純利息費用の利益に対する割合(収益に基づくテストの30%EBITDA比率を超える場合がある)のレベルまで債務控除を請求できるようになる。 これは、ワールドワイド・ギアリング・テストに代わるものである
  • 代替テストとしては維持されますが、ALDTは企業の外部(第三者)債務にのみ適用されるため、国外関連者債務に対する債務控除はこのテストでは否認されることになる

予算案では、金融機関は改定された過少資本税制の適用を受けないとしています。

改定された過少資本税制は2023年7月1日以降に開始する課税年度から適用されます。納税者にとっては改定対応するための期間が非常に短いものとなります。

経過措置については言及されていないため、既存の借入契約にも適用されると思われます。 したがって、債務者は、これまで全額損金算入が可能であった既存の借入金に係る支払利息が、この新規則によってどのような影響を受けるかを早急に検討する必要があります。

予算案は、以下を含むいくつかの重要な点については言及しませんでした。

  • 余剰の債務可能額の繰越(企業の実際の純債務控除額が許容上限を下回る場合)が可能かどうかについて。今回の規則案では認められていないと思われる
  • 大規模なインフラや不動産プロジェクトについて、何らかの特別規定が設けられるかどうか

保険業界は、改定された過少資本税制の対象から除外される可能性があります。

多国籍企業向けパッケージ ―― 無形資産に関する支払いや低税率または無税の国・地域に支払われたロイヤリティの控除を否定

本予算案には、Significant Global Entities (SGEs)が無形資産について2国間に渡る支払いを行う場合、オーストラリアでの控除を認めないという政府の選挙公約に基づく政策も含まれています。

租税回避防止措置は、オーストラリア国内のSGEs(全世界の売上高が10 億ドル以上の企業)である企業が、直接または間接的に、低税率または無税の国・地域で無形資産に関連する支払いを行った場合に適用されます。この措置は、2023 年 7 月 1 日以降に行われる支払いに適用されることが提案されています。

具体的には、租税回避防止措置は以下のような支払いに適用されます。

  • 15%以下の税率が適用される国・地域に対する支払い

もしくは

  • 十分な経済的実体がないのに、税制優遇のあるパテントボックス制度のある国・地域へ支払われる場合

同予算案では、この規則の適用範囲についての詳細は限られています。「無形資産」に対する支払いという定義に、無形資産および/またはロイヤリティに対する支払いとして特徴づけられていない場合や、または組み込まれた型の支払い(ATOの納税アラートTA 2018/2 - 無形資産に関する活動および支払いの誤分類TA 2020/1 - ノンアームズレングス <non-arm’s length> の取り決めと 無形資産のDEMPEでカバーされている取り決めなど)が含まれるかどうかは不明です。

また、この措置が間接的な支払いにどの程度適用されるのか、オーストラリアの支払者が行う必要のある追跡はどの程度なのかも不明です。それによりコンプライアンスに多大なコストがかかる可能性があります。

さらに、この措置は「租税回避防止規則」として説明されていますが、この措置に目的テストが含まれるかどうか、また、この措置が税法上の租税回避防止規則の一部を構成することが提案されているかどうかは不明確です。この場合、オーストラリアの二重課税協定(Double Tax Agreements: DTA)からこの規則が切り離される可能性があります。「租税回避防止規則」という用語の使用や、「十分な経済的実質」(現行の租税回避防止規則で定義されている用語)が使用されていることから、この規則を租税回避防止規則の中に含める意図があることを示唆しています。

この措置が提案という形で発表されたのは、残念なことです。オーストラリアの税法には、今回の措置が対象とする構造や活動に対処するための大きな権限や租税回避防止規定が既に含まれています。さらに、この措置案は、税制に左右されない通常の商業上の取り決めにも適用される可能性があります。この措置は、オーストラリアへの投資を抑制する可能性があり、正当な商業活動を行う企業のコンプライアンスコストを制限することに反することは明らかです。また、この措置はオーストラリアの DTA への責任と義務に反する可能性があります。

多国籍企業向けパッケージ ―― 多国籍企業の税の透明性

政府の広範な多国籍企業向けタックス・インテグリティ・パッケージの一部として、特定の企業に対し、2023年7月1日以降に開始する課税年度の情報を一般に開示することを要求する、税の透明性向上措置が予算案に含まれました。

税の透明性向上措置では、以下のことが要求されます。

  • SGEsは、ATOによる情報開示のために、国ごとの特定の税務情報及び税務への取り組みに関する声明文を作成する必要がある
  • オーストラリアの上場・非上場企業は、子会社の数とその税務上の所在国に関する情報を開示しなければならない
  • 20万豪ドル以上のオーストラリア政府との契約への入札者は、最終的な本社事業体の税務上の所在国を提供することで、税務上の所在国を開示する必要がある

その他の詳細(報告書の形式や詳細な内容など)については、まだ発表されていません。

多国籍企業に対するオーストラリア税の透明性を高めるには、国内およびグローバルな税務ガバナンスの枠組みを強化することが必要です。過去非公開であった税務情報を公開するという今回の要件により、開示情報が裏付けられ、正確で検証されたデータに基づいていることを確認する必要性が高まります。また多国籍企業は、情報開示のために社内のステークホルダーの管理も必要となります。特に、オーストラリアでの開示は、グローバルな税務問題を検討し、会社のグローバルなコミュニケーションと情報公開のプロトコルを検討し、承認する必要があります。また、子会社から必要な情報を取得するために、より多くのリソースが必要となる可能性があります。
 

事業税(BUSINESS TAX)

産業界へのインセンティブ ―― より強く、よりレジリエントな経済の実現に向けて

政府は、オーストラリアの工業生産基盤を成長・拡大し、環境負荷を低減するため、優先セクターを対象とした複数の施策を通じた産業界への強力な支援策を発表しました。これらの新しい施策の資金を調達するため、政府は、前政権が設立したModern Manufacturing Strategy、Building Better Regions Fund、およびEntrepreneurs’ Programなどの重要な資金プログラムを再編成しました。

これには以下が含まれます。

  • 国家再建基金(National Reconstruction Fund) ―― 政府は今後 7 年間で 150 億豪ドルを投じて国家再建基金を設立し、 オーストラリア経済の多様化と転換を目指すプロジェクトに共同投資する。このファンドは融資、保証、出資を通じて資金を提供し、民間セクターと連携してさらなる投資を促進する。このファンドは、資源、農業、医療科学、再生可能エネルギー、防衛、輸送、企業の事業運営を可能にする技術(Enabling Capabilities)を含む 7 つの優先分野に重点を置く予定である。

  • 地域支援 ―― 政府は、オーストラリアの地方経済の成長と発展を支援するために、7年間で54億豪ドルを投資する。これには Growing the Regions Program と Regional Precincts and Partnerships Program への10億豪ドルが含まれ、これらは競争的補助金と共同パートナーシップ・プログラムを通じて実施される。

  • Powering Australia ―― 政府は、よりクリーンで安価なエネルギーの未来に向けた、「Powering Australia」計画に基づく一連の施策に投資している。これには、送電インフラプロジェクトに投資するための通常の条件よりも優遇された融資と株式への200億豪ドル、地方産業の変革のための19億豪ドル、輸送排出量削減のための2億7,540万豪ドルが含まれる。

  • 重要鉱物資源 ―― 政府は、国家再建基金(National Reconstruction Fund)の下で最大 10 億豪ドルを投資し、重要鉱物資源セクターを支援する。また、技術革新を促進し、プロジェクトの市場投入を可能にするため、今後 4 年間で 1 億 6,030 万豪ドルを投資する。この中には、重要鉱物生産者が技術的・商業的障害を克服するための支援としての9,980万豪ドルが含まれる。
     

雇用税(EMPLOYMENT TAX)

電気自動車控除

予算案では、政府の2つの電気自動車施策に言及しています。

  • 2022 年 7 月 1 日以降において、バッテリー、水素燃料電池、プラグインハイブリッド電気自動車を 2022 年 7 月 1 日以降に初めて保有・使用し、小売価格が低燃費車の高級車基準(2023 年度は8万4,916 豪ドル)より低い場合のフリンジベネフィット税(FBT) 免除 (法案は上院に提出済み)。
  • オーストラリアと自由貿易協定を結んでいない国から対象となる電気自動車を輸入する際の輸入関税を 5%引き下げる。

個人税制(PERSONAL TAXATION)

個人税額控除の新設はなし

予想通り、2024~25年の所得年度から始まる法制化された「ステージ3」減税(2019-20年予算個人所得税軽減策)を含む個人所得税の課税区分に変更はありませんでした。

税務管理(TAX ADMINISTRATION)

ATOのコンプライアンスプログラムの延長

予算案では、ATOの主要な3つのコンプライアンスプログラムを延長するために、政府が追加資金を提供することが発表されました。

個人所得税コンプライアンスプログラム(Personal Income Taxation Compliance Program)、ATOシャドーエコノミープログラム(ATO Shadow Economy Program)、租税回避タスクフォース(Tax Avoidance Taskforce)は、ATOが継続して運営するために追加資金が提供されました。

租税回避タスクフォースは 1 年延長され、重要なことに、今後 4 年間、毎年 2 億豪ドルずつ資金が増額されました。これは、前政権が 3 月に発表した タスクフォース の延長と追加資金の提供に基づくものです。タスクフォースは今後、2025年7月まで活動することになります。この追加投資は政府によるタスクフォースへの大きな投資であり、予算案には今後4年間のタスクフォースの活動から期待される28億豪ドルの収益が詳述されています。ATOが今後数年間、多国籍企業や大規模な公共・民間企業に集中的かつ重点的に取り組むことは明らかであり、それは今回の資金提供の延長や発表された多国籍企業への課税措置からも伺い知ることができます。

シャドーエコノミープログラムと 個人所得税コンプライアンスプログラム にも追加資金が与えられ、それぞれ、シャドーエコノミー のコンプライアンス問題(GST を含む)と、予防・是正活動を含む個人のコンプライアンスに焦点をあてたプログラムを継続する予定です。両プログラムは、合計で 27 億豪ドル以上の収入をもたらすと見積もられています。

 

*英語版と翻訳版に相違がある場合は英語版が優先されます。

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