EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
バイデン大統領は2022年8月16日、インフレ削減法(Inflation Reduction Act of 2022、以下「IRA」)案に署名し、同法が成立しました。IRAには、(1)再生可能エネルギーの導入を後押しし、(2)EV技術の導入を促進し、(3)建物および社会のエネルギー効率を改善させる趣旨の気候・エネルギー関連規定が盛り込まれており、これらに3,690億ドルが投じられます。IRAのエネルギー・気候関連規定は、再生可能エネルギーおよび代替エネルギーの導入ならびに拡大に対する前例のない大規模な投資です。
IRAのエネルギー転換・再生可能エネルギー関連規定:
実行上のポイント:エネルギー転換と再生可能エネルギー投資に関する規定は、開発や投資を促進することが見込まれる一方、新たなルールは非常に複雑なため、恩典を最大限享受するにはルールの理解、各納税者の事業への適用可能性を十分に理解することが大切です。
IRAには、適用可能な多くの税額控除について控除額が2層構造の仕組みが盛り込まれています。具体的には、控除の多くに基本控除額が定められており、納税者が賃金と実習に関する要件を充足する場合、この基本控除額を最大で5倍に引き上げることができます。
原則、賃金要件のもとIRAは、全ての労働者、機械工、作業員について事業期間中(および、修理や増改築については控除期間中)に相場賃金を支払うことを求めています。それとは別に、一定の例外がありますが、実習の使用要件を満たすには、所定の実習生が事業の建設に関する総労働時間の一定割合を働かなければなりません。またIRAは、賃金または実習の使用要件のいずれかを充足しなかった場合も、それを治癒する一定の選択肢を定めています。
実行上のポイント:財務省が規則、Notice等の指針を示してから60日が経過するまでは、納税者は賃金および実習の使用要件を満たしていると「みなされます」。指針の策定・公表のタイミングは予測困難ですので、納税者は規定の充足可否の評価に遅延なく着手しておく必要があります。
IRAは、特定の控除について還付請求という新たな換金選択肢を設けています。新IRCセクション6417のもと「適用対象主体(applicable entities)」(以下参照)は、還付請求を選択できます(還付請求は、再生可能エネルギー事業によって生じた税額控除を、実質、予定納税と同等のものとして扱う)。ただし、これを選択できるのは次のような特定の税額控除に限定されます:
先に述べた通り、還付請求の選択肢は「適用対象主体」しか利用できません。「適用対象主体」は原則、非課税主体、州政府もしくは地方自治体、テネシー峡谷開発公社、インディアン部族政府、アラスカ・ネイティブ・コーポレーションから成ります。ただし、「適用対象主体」の制限について一定の例外が存在し、適格納税者であれば以下について還付請求を選択できます:
IRCセクション45Qに基づく控除に関しては、還付請求の選択は、特定の課税年度中に適用可能主体が初めて事業用途に供した炭素回収装置について個別に適用されます。また、新IRCセクション45Vに基づくクリーン水素控除に関連して還付請求を選択した非課税団体でも政府系でもない納税者は、自己の選択を取り消すことができます(取り消しは5年期間の残りの期間にわたり有効となります)。
手続きに関して言うと、還付請求の選択は原則、(1)各対象施設に個別に適用されます、(2)施設(または対象装置)を事業用途に供した1年目になされなければなりません、(3)上記で説明した特定の納税者に関する期間限定の還付請求の選択を除き、関係する全控除期間にわたり適用されます。控除の中には、還付請求選択の可否が国内調達要件の充足に紐付けられているものもあります。また、パートナーシップまたはS法人が控除要件を満たす施設もしくは資産を直接保有する場合、還付請求はパートナーシップまたはS法人レベルで選択有無を決定する必要があり、還付を受けるのは(パートナーや出資者ではなく)パートナーシップまたはS法人となります。さらに、「過度な還付」を受けた納税者には20%の加算税が課される場合があります。
米国2023国家会計年度(2022年10月~2023年9月)以降、還付額は歳出の強制削減(sequestration)が発動された場合に納税者に恩恵を確保するため、6.0445%ずつ引き上げられます。
IRAには、特定の控除を有償で譲渡を認める規定が盛り込まれています。新IRCセクション6418のもと、適格納税者は、適格控除の全額(または選択において指定した一部の金額)を非関連者へ譲渡することを選択できます。ただし、この譲渡は、現金を対価とする、受取側納税者の益金不算入、支払側納税者の損金不算入という条件があります。また、譲渡は1回限り認められ、一旦部分的に譲渡した控除の残りの金額に関して、後日追加で譲渡することは認められません。
納税者は、控除が確定した課税年度に係る税務申告の期限(延長を含む)までに控除の譲渡を選択する必要があります。また、一度行った選択は取り消すことができません。
新IRCセクション6418に基づく譲渡の選択は次の税額控除について可能です:
IRCセクション45に基づくPTCまたはIRCセクション45Q、45V、もしくは45Yに基づく控除に関する選択は、対象施設ごとに、その施設が事業用途に供された日から10年にわたり各課税年度について(またはIRCセクション45QのCCUSに関しては、炭素回収装置が当該の施設にて事業用途に供された日から12年にわたり各年度について)、個別にする必要があります。
IRAは、還付請求の適用対象主体が控除の譲渡を選択することを認めていません。先に述べた通り、還付請求上の適用対象主体とは、非課税主体、州政府もしくは地方自治体、テネシー峡谷開発公社、インディアン部族政府、アラスカ・ネイティブ・コーポレーションをいいます。「過度な控除の譲渡」には20%の加算税が課される場合があります。パートナーシップまたはS法人の保有する資産に帰する適格控除に関する譲渡選択の判断はパートナーシップまたはS法人レベルでなされなければいけません。
実行上のポイント:新IRCセクション6418は、事業の開発者や出資者が税額控除を換金化できるより多くの選択肢をもたらし、タックス・エクイティ・ファイナンスに代わる選択肢を提供します。ただし、タックス・エクイティ・ファイナンスと異なり減価償却費を換金化しない、または一定のエクイティ・ファイナンス・ストラクチャー下で見られるITC対象資産の時価マークアップの適用がない、などの差異があることから、税額控除の譲渡と従来のタックス・エクイティのプロコンは慎重に判断する必要があります。判断時に主に検討すべき点は、税額控除の譲渡価格と効率的なプロジェクトファイナンス市場の発達が、タックス・エクイティであれば実現されたであろう減価償却費の換金化またはITC対象資産の時価マークアップの恩恵の断念を正当化できるか、となります。
IRAは、次の控除を含む特定の控除について(1年ではなく)3年の繰戻期間を定めています:
従前の法律のもとでは、PTCは基本的に、2021年12月31日より後に着工した事業については利用できませんでした。IRAはPTCに関する着工期限を、2025年1月1日より前に着工した事業へと延長しています。IRAにより、(2025年1月1日より前に着工した)太陽光プロジェクトに関するPTCが復活するほか、地熱事業の着工期限がさらに延長されています。IRAはまた、所定の水力発電および海洋再生可能エネルギー資産について控除率引き下げを廃止しています。
PTCは今後、基本控除額と特別控除額から成る2層構造の控除になります。IRCセクション45に基づくPTCについて1キロワット時当たり2.6セントの2022年公示率上限を享受するには、納税者は原則、(特定の限られた例外がありますが)賃金と実習に関する要件を両方とも満たす必要があります。両要件を満たさない場合は、2022年の基本控除額は1キロワット時当たり0.52セントになります(すなわち、特別控除額上限の20%)。
IRAにはまた、(米国で採掘、生産、もしくは製造された部品が総費用に占める所定の割合に関する)所定の要件を満たす場合において、または(原則、特定のブラウンフィールド用地(環境汚染などの理由で利用されなくなった工業用地)や、石炭、石油、もしくは天然ガスの採取、加工、輸送、もしくは保管に関連する多くの雇用がかつてはあった特定のエリア、または特定の炭鉱場もしくは石炭火力発電所が以前運営・運転されていた人口調査標準地域などから成る)対象「エネルギーコミュニティ」にある所定の施設に関連してIRCセクション45のPTCを10%引き上げることを納税者に認める、PTCに関する国内調達特別控除が盛り込まれています。IRAにはまた、国内調達ルールに関する段階的縮小規定とそれに付随する規定も盛り込まれています。
さらにIRAは、所定の施設用の資金調達に非課税債を使用する場合には、IRCセクション45に基づくPTCの一定の減額を要求しています。
IRCセクション45に基づくPTCの修正は、2021年12月31日より後に事業用途に供された施設に適用されます。ただし次の規定については、2022年12月31日より後に事業用途に供された施設に適用されます:(1)非課税債を資金調達源とする施設、(2)国内調達、(3)特定の段階的縮小規定、(4)エネルギーコミュニティ、(5)水力発電。
実行上のポイント:IRCセクション45に基づくPTCの修正、すなわち、特定の技術の追加、2024年までの延長、そしてテクノロジーニュートラルな控除制度への切り替えは利用価値の高い変更です。資本集約型の産業においては、投資判断とそのリターンについて確実性と予見可能性の高さを確保できることは重要です。
従前の法律のもとでは、2019年12月31日より後に着工した特定の事業についてITCは段階的縮小が始まっていました。IRAにより、2025年1月1日より前に着工した事業の大半についてITCが延長されています(地熱資産については、2035年1月1日より前へと延長されていますが、そうした控除は段階的縮小の対象になります)。着工が2019年12月31日より後、また2022年1月1日より前に事業用途に供されたプロジェクトに関しては、ITCの控除率は26%です。2021年12月21日より後に事業用途に供されたプロジェクトに関しては、ITCの上限額と段階的縮小は原則適用されません。
IRCセクション45に基づくPTCその他の控除と同様、IRCセクション48に基づくITCは2層構造の投資控除になっており(賃金と実習に関する要件が満たされたときは最大特別控除率が適用されます(ただし、IRCセクション45に基づくPTCと同様の例外規定があります))、控除額は次の通りになります:
IRAは、2024年12月31日までに着工したときは、IRCセクション48に基づくITCの適用範囲を「独立型のエネルギー貯蔵施設」「所定のバイオガス施設」「マイクログリッドコントローラー」から成る3つの新しい技術にも広げています。
IRAにはまた、(1)所定の燃料電池資産の定義に(電気化学電池に加えて)電気機械電池を加える定義拡大、(2)エネルギー資産に特定のダイナミックガラスを含めるためのエネルギー資産の定義拡大、(3)貯蔵施設の運営はサービスとして扱うべきことを明確にするためのIRCセクション7701(e)の拡大など、その他の規定も含まれています。
送電に関する30%のITCは残念ながらIRAに盛り込まれていません。IRAの定めるところによると、IRCセクション48に基づくITCは、最大有効電力量が5メガワット以下のエネルギー資産の設置に使用される所定の接続資産以外には適用されません。
IRCセクション45のPTC同様(および同じ要件に従い)、所定の要件を満たす場合または事業が所定のエネルギーコミュニティ内に位置する場合においては、納税者は国内調達に関する10%の特別控除率を適用できます(ただし、所定の要件を満たさないときは、エネルギーコミュニティ関連の特別控除率は2%に引き下げられる場合があります)。IRCセクション48に基づくITC控除はまた、非課税債による調達資金が所定の施設用の資金に充てられたときは、一部減額されます。
IRAはまた、低所得コミュニティに関係して事業用途に供された特定の太陽光および風力施設について特別ルールを設けており、次の控除を定めています:(1)発電量が5メガワット未満で、所定の低所得コミュニティかインディアンの土地に位置する事業に関しては最大10%の特別控除、(2)発電量が5メガワット未満で、所定の低所得者層向け居住用建物事業または低所得者に利益をもたらす所定の事業の一部を成す事業に関しては最大20%の特別控除。
原則、IRCセクション48に基づくITCの修正の多くが、2021年12月31日より後に事業用途に供された施設に適用されます。ただし、独立型のエネルギー貯蔵施設、所定のバイオガス資産、マイクログリッドコントローラー、その他特定の技術に関するIRCセクション48に基づくITCについては、IRCセクション48に基づくITCは、2022年12月31日より後に事業用途に供された資産に適用されます。
実行上のポイント:IRCセクション48に基づくITCへの特定の技術の追加、2024年までの同ITCの延長、およびテクノロジーニュートラルな控除制度への切り替えは利用価値の高い変更です。例えば、独立型貯蔵施設および所定のバイオガス資産の追加は有益な進展であるほか、再生可能天然ガスはほとんどの場合メタンの含有量が96%から98%であるため、再生可能天然ガスへの投資は恩恵を受けると考えられます。資本集約型の産業においては、投資判断とそのリターンについて確実性と予見可能性の高さを確保できることは重要です。
新IRCセクション45Yのクリーン電力PTC
IRAにより、次のいずれかの条件が満たされたときに認められる、納税者が米国で生産した電力(キロワット時)と所定の額の積に相当する期間10年の新PTCが創設されています:(1)発電が所定の施設にてなされ、その電力が納税者によって当該課税年度中に非関連当事者へ販売された、(2)非関連当事者が所有し運転する計量装置が搭載された所定の施設にて発電がなされ、その電力を当該年度中に納税者が販売し、消費し、または貯蔵した。この控除の基本額は発電量1キロワット時当たり0.003ドルで、(本稿にて説明している要件と同様の)相場賃金と見習い使用要件を満たした場合における特別控除率の上限は1キロワット時当たり0.015ドルです(インフレ率に応じて調整されます)。新IRCセクション45Yに基づくPTCの10年の期間は、施設が用に供された時に始まります。
新IRCセクション45Yに基づくPTCは、次の条件を全て満たす所定の施設にて発電されたクリーン電力について利用できます:(1)2024年12月31日より後に用に供された(提案されているIRCセクション45に基づくPTCの廃止時期と一致する)、(2)発電に使用される、(3)温室効果ガスの排出率がゼロ(すなわち、発電において施設が大気中に排出する温室効果ガスの量を、1キロワット時当たりの二酸化炭素換算を求めて(単位はグラム)示したもの、または燃焼もしくはガス化によって発電する施設については正味排出率)。温室効果ガスの排出量には、納税者が回収し、かつ次のいずれかの条件を満たす所定の二酸化炭素は含めません:(1)納税者が確実な地中貯留により処分した、(2)IRCセクション45Q(f)(5)に従って納税者が「利用した」。用に供された日が2025年1月1日より前の施設については、2024年12月31日より後に用に供された新しい設備および追加発電容量に関する特別ルールが適用されます。本控除実施の一環として、財務省が、施設の種類または区分別の温室効果ガス排出率を示す表を毎年公表する予定です。
他の控除同様、本IRAは、「所定の施設」には当該の課税年度または以前の課税年度においてIRCセクション45、45J、45Q、45U、48、48A、または48Eに基づく控除が認められた施設は含まれないと定めており、他の控除との同時適用を認めていません。
所定の施設に認められる新IRCセクション45Yに基づくPTCは、次の(1)または(2)のうちいずれか遅く到来した年の翌年から段階的に縮小されます:(1)2032年、(2)米国における発電による年間温室効果ガス排出量が、2022年の米国における発電による年間温室効果ガス排出量の25%以下になったと財務長官が判断した年。
他の一部の控除同様、新IRCセクション45Yに基づくPTCは、一定の国内調達要件を満たすかまたは所定の施設が「エネルギーコミュニティ」に位置するときは、10%の特別控除の対象になります。また、施設の資金調達に非課税債を使用した場合においては、控除額を減らす他の控除と同様のルールが適用されます。
最後にIRAは、新IRCセクション45Yに基づくPTCの所定の資産は、IRCセクション168に基づく加速償却適用目的では5年資産であると明記しています。
新IRCセクション48Eに基づくクリーン電力投資控除
新セクション45Yに基づくテクノロジーニュートラルなPTC同様、IRAにより、2024年12月31日より後に事業用途に供された(提案されているIRCセクション48に基づくITCの修正の廃止時期と一致する)、温室効果ガス排出率がゼロ以下の所定の発電施設およびエネルギー貯蔵技術について、新IRCセクション48EのもとテクノロジーニュートラルなITCが創設されます。所定の資産は原則、有形動産その他の有形財産で、一定の制限・制約が適用されます。
新IRCセクション48Eに基づくITCは、基本控除率は6%と定められていますが、(本稿にて説明している他の控除同様)相場賃金と見習い使用要件を満たすときは、控除率を30%まで引き上げることができます。また、新IRCセクション45Yに基づくPTCおよびその他特定の控除同様、国内調達要件を満たすとき、または所定の施設もしくは所定のエネルギー貯蔵技術がエネルギーコミュニティに位置するときは、10%の特別控除の対象になります(ただし、特定の労働要件を満たさないときは、特別控除は2%に引き下げられる場合があります)。IRAの定めるところによる低所得コミュニティに位置する特定の太陽光および風力施設については、さらに10%または20%の特別控除を利用できる場合があります。
新IRCセクション48Eに基づくITCは原則、新IRCセクション45Yに基づくPTCと同様の段階的縮小ルールが適用されるほか、施設の資金調達に非課税債を使用した場合においては、控除額を減らす同様のルールが適用されます。財務長官が、特定の適格施設について温室効果ガス排出率が、1キロワット時当たりの二酸化炭素換算で10グラムを超過していると判断したときは、再徴収ルール(recapture rules)が原則適用されます。
最後にIRAは、新IRCセクション48Eに基づくITCの所定の資産は、MACRS上では5年資産であると明記しています。
IRAは、(米国で生産された水素について)新IRCセクション45Vのもとに水素の生産に関する新しいPTCを創設しています。この水素PTCは、2022年12月31日より後に生産される水素に適用され、適用期間は、所定のクリーン水素生産施設が用に供された日から10年です。対象になるには、所定の施設は2033年1月1日より前に着工しなければなりません。納税者が水素PTCの適用を受けるには、そのライフサイクル温室効果ガス排出率が、生産される水素1キログラム当たり二酸化炭素換算4キログラムを超えてはいけません。
他の控除同様、新IRCセクション45Vに基づくPTCは、基本控除率とそれよりも高い最高控除率の2層構造の控除制度になっています。基本控除率は、適格クリーン水素1キログラム当たり0.60ドル(これはインフレ率に応じて調整されます)に(ライフサイクル温室効果ガス排出率に応じて変わる)適用係数を乗じて得た値になります。適用係数は以下の通りです:
最高控除率は基本控除率の5倍で、生産される適格クリーン水素1キログラム当たり3.00ドルが上限です。最高控除率を達成するには、相場賃金と見習い使用要件に関する同様のルールが適用されます。
控除の重複を避けるために、IRAは、当該課税年度または以前の課税年度においてIRCセクション45Qのもといずれかの納税者に控除が認められた炭素回収装置が設置されている施設で生産された適格クリーン水素については、新IRCセクション45Vに基づく控除を認めないと規定しています。
納税者は、クリーン水素生産施設について、新IRCセクション45Vに基づくPTCではなくITCを選択することもできます。また、他の控除同様、施設の資金調達に非課税債を使用した場合における新IRCセクション45Vに基づくPTCの減額に関するルールもIRAは定めています。
マーケットインパクト:水素への投資が世界的にさまざまなペースで進んでいるなか、新IRCセクション45Vに基づく水素に関するPTCは、米国内での水素の生産を増やす目先のインセンティブになることが見込まれます。
IRAは、所定の原子力発電施設にて電力を生産し、納税者が非関連当事者へ販売した分に適用される、新たなゼロエミッション原子力発電控除を新IRCセクション45のもとに創設しています。所定の原子力発電施設とは、次の条件を全て満たす原子力施設をいいます:(1)納税者によって所有され、発電に核エネルギーを使用している、(2)IRCセクション45(d)(1)の定めるところによる先進原子力施設(advanced nuclear power facility)に該当しない、(3)事業用途に供された日が本セクションの制定前である。
他の控除同様、新IRCセクション45Uに基づく税額控除は、1キロワット時当たり0.3セントの基本控除率と(相場賃金と見習い使用要件を充足すると想定した場合の)1キロワット時当たり最大1.5セントの特別控除から成る2層構造の控除制度になっています。控除はまた、0.025ドルに販売電力量を乗じて得た値に対する、電力の生産・販売による総収入の超過額の16%が減額されます。さらに、新IRCセクション45Uに基づく税額控除は、原則2023年12月31日より後に生産され販売された電力に(当該日の後に開始する課税年度から)適用可能になり、2032年12月31日より後に開始する課税年度には適用されません。
2023年1月1日をもって、IRAにより、IRCセクション48Cの対象が以下を含むさまざまな施設に広がります:(1)エネルギー貯蔵用のシステム・部品を製造する施設、(2)省エネ技術の生産に使用される資産、(3)電力系統の近代化装置、(4)温室効果ガスの排出を20%以上削減する設計の装置を製造施設に追加装備する装置、(5)電気車両およびハイブリッド車両。IRCセクション48Cは基本的に、所定の再生可能エネルギー装備(太陽光や風力、地熱、CCUS、燃料電池、マイクログリッドなど)を生産する製造施設への設備の設置や同施設の拡大を行なう事業に関するITCを定めています。
控除を受ける資格を得るには、納税者は、財務省がエネルギー省と協議して運用する競争プロセスによる認定を申請しなければなりません。また事業は、認定から2年以内に用に供されなければなりません。さらに、IRCセクション48Cのもと確保されている控除の総額は100億ドルまでです(うち60億ドルを超える額を特定の人口調査標準地域に位置しない投資へ割り当てることはできません)。
IRCセクション48Cに基づく控除は、基本控除が6%です(ただし、(本稿にて説明している要件と同様の)相場賃金と見習い使用要件を満たす場合、控除率は最大で30%になります)。さらに、IRCセクション48、48A、48B、48E、45Qまたは45Vのもと控除が認められた投資については、IRCセクション48Cに基づく控除は利用できません。
IRAにより、特定の課税年度中に納税者が生産し非関連当事者へ販売した適格部品ごとに適用される新PTCを定める、IRCセクション45Xが追加されます。控除を受ける資格を得るには、納税者は、適格部品の生産・販売の営業または事業を手掛けてなければなりません。原則、「適格部品」とは次のものを指します:(1)太陽エネルギーの部品(太陽電池や太陽光ウエハー、ソーラーグレードポリシリコンなど)、(2)風力エネルギーの部品、(3)インバーター(IRAの説明するところによる)、(4)所定のバッテリー部品(電池やバッテリーモジュールを含む)、(5)対象の主要鉱物(critical mineral)。
新IRCセクション45Xに基づく控除額は、適格部品に応じて大きく異なります。例えば、薄膜太陽電池や結晶性の太陽電池については、控除率は4セントにその電池の容量を乗じて得た値です。他方、太陽光ウエハーについては、控除は1平方メートル当たり12ドルです。新IRCセクション45Xに基づくPTCは、次に従い段階的に縮小されます:(1)2030年中に販売された適格部品については75%、(2)2031年中に販売された適格部品については50%、(3)2032年中に販売された適格部品については25%、(4)2033年以降に販売された部品については控除無し。
米国内で生産されたもの以外は検討の対象にならず、本修正は2022年12月31日より後に生産・販売された部品に適用されます。
従前の法律のもとでは、二酸化炭素隔離に関する控除が認められる適格事業は2026年1月1日より前に着工しなければなりませんでした。IRAはその着工期限を2033年1月1日に延長しました。また、年間回収量要件が次の通りに引き下げられています:
IRCセクション45Qに基づく二酸化炭素分離に関する税額控除は、基本控除率と((先に説明したものと同様の)相場賃金と見習い使用要件を満たす場合に認められる)それより高い特別控除率から成る2層構造の控除制度になっています。IRAのもとでは、適用される控除率は次の通りです:
IRAのもとでは、一定の条件を満たす場合、IRCセクション45Qに基づく税額控除を申請した最初の課税年度の初日に12年の控除期間を開始させることを納税者は選択できます。これは、次の条件が全て満たされたときに、2018年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2018)が成立した日以降に所定の施設にて初めて事業用途に供された炭素回収装置に適用されます:(1)IRCセクション45Qに基づく控除を当該装置について過年度に申請した納税者がいない、(2)回収装置が初めて用に供された後に連邦指定災害(federally-declared disaster)による被害を受けた地域に、当該装置が事業用途に供された施設が位置する、(3)その災害の結果、初めて用に供されたその施設または装置が運転を停止した。
IRCセクション45に基づくPTCやIRCセクション48に基づくITC同様、改正IRCセクション45Qには、施設の資金調達に非課税債を使用したときに控除を減額する同様のルールが盛り込まれています。本修正は原則、2022年12月31日より後に用に供された施設または装置に適用されます(一定の例外はあります)。
実行上のポイント:経済的自立を目指している事業体にとって、控除の増額、年間回収量の引き下げ、着工期限の延長、そして一定の還付請求または譲渡可能性は、CCUS市場において重要なインセンティブとなります。
バイオディーゼル、再生可能ディーゼル、および代替燃料に関するインセンティブの延長
IRAにより、燃料として使用されるバイオディーゼルと再生可能ディーゼルに関するIRCセクション40Aに基づく1ガロン当たり1ドルの控除は2024年12月31日まで延長されます。
IRCセクション6426に基づく燃料に関する控除の延長
IRAにより、IRCセクション6426に基づくバイオディーゼル混合物に関する控除、代替燃料に関する控除、代替燃料混合物に関する控除、代替燃料に対する支払いは2024年12月31日まで延長されます。
第2世代バイオ燃料のインセンティブの延長
IRAにより、IRCセクション40に基づく第2世代バイオ燃料の生産者に対する控除は2024年12月31日まで延長されます。
新IRCセクション40Bに基づく持続可能な航空機燃料に関する控除
IRAにより、2023年1月1日から2024年12月31日までに販売または使用される持続可能な航空機燃料に関する新IRCセクション40Bが創設されます。基本控除額は燃料1ガロン当たり1.25ドルですが、温室効果ガスの排出量が50%未満に削減されるときは、同控除は1ガロン当たり1.75ドルに引き上げられる可能性があります。
新IRCセクション45Zに基づくクリーン燃料の生産に関する控除
IRAにより、低排出の輸送用燃料について、新IRCセクション45Zに基づくクリーン燃料の生産に関する控除が設置されます(IRCセクション45V、IRCセクション45Q、または(水素に関する)IRCセクション48に基づく控除が利用可能な施設を除く)。新IRCセクション45Zに基づく控除は原則、2026年1月1日から2027年12月31日までに所定の施設にて生産された低排出の輸送用燃料について利用できます。
他の控除同様、新IRCセクション45Zに基づく控除は2層構造の控除制度になっています(相場賃金と見習い使用要件を満たす場合に限り、より高い控除額を適用可能)。新IRCセクション45Zの基本控除額は、1ガロン当たり0.20ドル(航空機燃料に関しては1ガロン当たり0.35ドル)に、適用される排出係数(燃料の排出が1MMBtu当たり二酸化炭素換算75キログラム未満のときは、係数は100%)を除して得た値で、特別控除額は1ガロン当たり1ドル(または航空機燃料に関しては1ガロン当たり1.75ドル)です。
IRCセクション30Dに基づくクリーン車両に関する控除
IRAにより、IRCセクション30Dに基づく「所定のプラグイン電気駆動モーター車両に関する新控除」が「クリーン車両控除」に変わります。クリーン車両控除では、2033年1月1日より前の課税年度中に納税者が使用に供した新クリーン車両について、支出した額と同額ベースで連邦所得税が減額されます。本制度のもとでは、納税者は最大7,500ドルの控除を受けられます。
本控除を申請するには、以下の条件を満たしている必要があります:(1)納税者はクリーン車両を使用し始めている、(2)納税者は転売目的でクリーン車両を取得できない、(3)クリーン車両は所定のメーカーによって製造されたものである、(4)クリーン車両の最終組立は北米でなされている。
クリーン車両のバッテリーおよび部品に含まれる各主要鉱物に関する調達源要件が満たされる限り、IRCセクション30Dに基づく控除は最大7,500ドルまで認められます。控除は2つの部分に分けられます。納税者は主要鉱物について最大3,750ドルの控除を受ける資格を得ることができます。この控除額は、米国で採取され(もしくは米国が有効な自由貿易協定を締結している国で採取もしくは処理され)または北米で再生処理された主要鉱物の割合によって決まります。適用割合は、2024年より前に用に供された車両については40%で、この時期が遅くなるにしたがい割合も高くなります。納税者はまた、米国で製造または組み立てられたバッテリー部品の価額が適用割合以上であることを条件に、バッテリーの部品についても最大3,750ドルの控除を受ける資格を得ることができます。適用割合は、2024年より前に用に供されたクリーン車両については50%で、この時期が遅くなるにしたがい割合も高くなります。
この控除を受けるには、車両の小売価格に関する上限(例えば、ワゴン車、SUV、ピックアップトラックについては80,000ドル、セダン型その他については55,000ドル)ならびに納税者の調整後総所得に関する上限が適用されるほか、懸念される外国の事業体(foreign entities of concern)からバッテリーの部品または主要鉱物を調達した車両については本控除を受けられません。さらに納税者は、一定の要件を満たすことを条件に、適格販売会社へ控除を譲渡することを選択できます。また、一定の控除取り戻しルール(recapture rules)も適用されます。
IRCセクション25Eに基づく中古クリーン車両に関する控除
IRAにより、2033年1月1日より前に中古クリーン車両(2年以上古い車両)を取得した納税者が、同車両を用に供した課税年度中に連邦税額控除を申請することを認めるIRCセクション25Eが追加されます。控除額は、(1)4,000ドルと(2)販売価格の30%のうち、いずれか少ない方の額になります。この控除は、25,000ドル以下で販売されたクリーン車両について3年ごとに利用でき、納税者の調整後総所得に応じて可否が決まります。
IRCセクション45Wに基づく所定の商用クリーン車両に関する控除
IRAにより、2033年1月1日より前に取得された所定の商用クリーン車両に関する新しい控除を定めるIRCセクション45Wが創設されます。控除額は、(1)ガソリンまたはディーゼルの内燃機関駆動ではない車両の基準価額の30%、または(2)そうした車両の増分費用(すなわち、比較対象車両の価格に対するそうした車両の購入価格の超過分)のうち、いずれか少ない方の額になります。IRCセクション45Wに基づく控除は、重量が14,000ポンド未満の車両については7,500ドルまで、それ以外の車両については40,000ドルまでという上限が設けられています。
IRCセクション30Cに基づく代替燃料補給資産に関する控除の延長
IRAにより、所定の代替燃料車両用の燃料補給のための資産に係るコストの30%について控除を認めるという、IRCセクション30Cに基づく代替燃料補給のための資産控除の対象が、2033年1月1日より前に事業用途に供された資産に延長されます。さらに、特定の賃金と見習い使用要件を満たすときは、減価償却可能な代替燃料車両用の燃料補給のための資産も30%の控除が受けられます。それ以外の場合は、減価償却可能な代替燃料車両用の燃料補給のための資産の控除は6%が上限になります。減価償却可能な代替燃料車両用の燃料補給のための資産に関する控除は100,000ドルを超えることができません。その他の代替燃料車両用の燃料補給のための資産に関しては、上限は1,000ドルです。さらに、この控除の上限は、一つの場所にある所定の代替燃料車両用の燃料補給のための資産すべてに適用されるのではなく、所定の代替燃料車両用の燃料補給のための資産1点ごとに適用されます。
IRAに規定される多くの恩典の適用検討時には、今後公表されるであろう財務省規則・指針に注意を払う必要があります。投資判断時にはIRAによる新規定の恩典等を定性面ばかりでなく定量的なモデリングに基づき慎重に分析する必要があります。
秦 正彦 シニア・テクニカル・アドバイザー
大平 洋一 パートナー
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