中国、「深セン税関、国家税務総局深セン市税務局による関連者からの輸入貨物に対する移転価格協同管理に関する事項の通達(深関税[2022]62号)」に関する考察

背景紹介

より良いビジネス環境の構築、納税者のコンプライアンスコストの低減、コンプライアンスの確実性と管理効率の向上のため、中華人民共和国深セン税関及び国家税務総局深セン市税務局は、共同で、「深セン税関、国家税務総局深セン市税務局による関連者からの輸入貨物に対する移転価格協同管理に関する事項の通達」(以下、「当該通達」)を2022年5月18日に公布しました。当該通達は、公布日より施行されています。

当該通達は深セン税関及び税務機関に対し、政府部門を跨ぐ協同管理方式を採用し、「企業による申請」、「協同評価」、「備忘録による締結」のプロセスを通じて、企業が自主的に関連者からの輸入貨物の移転価格に対する評価、登録及び事後調整を担当税関及び税務機関に申請し、企業による移転価格についての予見可能性とコンプライアンスを向上させることを認めています。

当該通達により、協同管理措置を申請するための申請要件、プロセス及び実施などについての内容が明確となりました。主な具体的規定は以下のとおりです。

項目

具体的な規定

協同管理内容

関連者からの輸入貨物に関する移転価格

申請者

税関総署令236号第4条及び国家税務総局公告2016年第64号第4条に規定された条件を満たす企業

  • 実際の輸出入活動に関与しており、且つ税関に登録している対外貿易経営者;かつ
  • 過去3年度において、毎年度、発生した関連者間取引の金額が4,000万人民元以上

受理部門

担当税関(所在している地域の税関)の総合業務科と深セン税務局第四税務分局総合業務科

資料請求

  • 「関連輸入貨物の移転価格協同管理申請表」
  • 「税関事前教示申請書(価格)」
  • 「税務の事前確認協議(APA)予備会談申請書」
  • 関連資料

期限

受理:企業が申請した日より10日以内に申請要件を満たしているか否かを確認
開始:受理された日から15日以内に共同評価を開始
備忘録による継続締結:期限満了の日までの90日内に、継続締結を申請

実施措置

  • 三者が「協同管理備忘録」を締結
  • 深セン税関は価格の事前教示を行う
  • 深セン税務局は企業と事前確認を達成
  • 企業は備忘録に従い価格調整を行い、税関及び税務局は規定に従い手続きを履行

事後管理

年度報告:企業は年度終了から6カ月以内に年度報告を作成し、企業の経営及び実施状況を報告;
監督評価:税関及び税務機関は規定に従い、企業が提出した年度報告書を分析・評価し、事後監督管理及び対応措置を取る

EYの観察

今回公布された協同管理措置は、税関と税務機関といった2つの異なる政府部門がそれぞれの現行の税関価格事前教示制度と税務機関の事前確認制度に基づいて、共同で移転価格を管理する制度となります。現在、当該政策の適用範囲は深センに限定されていますが、政策面での影響は大きいと考えられます。

政策の意義

今回の協同管理措置の発表は、従来の政策で、いくつかの突破口を切り開いたと言えます。特に、移転価格の領域で、以下2つの“初”となる事項を実現しており、今後の中国税関と税務局による移転価格の領域での制度改善とメカニズムの最適化にかかる重要な意義を持っています。

  • 移転価格における税関、初の制度化された規範
    現在、税関による移転価格に対する管理は、依然として、現行の「輸入貨物価格の評価に関する管理弁法」に依拠しており、単独で明確化された移転価格管理に関する規定や制度などは存在していません。当該通達は、税関が初めて単独の文書形式により、企業に対する移転価格の審査要求を明確したものです。また、当該通達は移転価格調整メカニズムにも触れており、税関が移転価格の領域に一層注目していることを示しています。
  • 移転価格の領域における税関と税務局の初の正式な管理上の協同
    審査の観点が異なることにより、税関と税務機関では、企業の移転価格に対する管理の視点に違いがあります。当該通達の公布は、税関と税務機関が移転価格の領域において積極的に協同管理を模索していること表しており、監督管理における垣根を越え、納税者のコンプライアンスコストの低減、コンプライアンス確保の確実性と管理効率の向上に有益な試みと言えます。
企業への影響
  • 企業の移転価格コンプライアンス強化
    従来の税務機関に対する事前確認と比べて、当該通達は、協同管理の概念を導入し、企業に対して、初めて税関と税務機関が移転価格メカニズムを協同管理するという要求を明らかに しました。この変化は、多国籍企業の移転価格コンプライアンスに対する一層高い要求となります。すなわち、企業は、従来の「税関」、「税務機関」という個別の視点から、同一の視点に切り替え、双方のコンプライアンスを考慮して、関連者間取引の価格設定メカニズムを構築しなければならなくなりました。
  • 企業の税務コンプライアンスの予見可能性の向上
    協同管理制度が打ち出されたことにより、2つの政府部門による共同での多国籍企業への移転価格評価が促進されます。企業は、価格設定メカニズム、製品価格などの各要素に対し、一度事前登録を行えば、税関と税務機関の双方の評価と確認を得ることができます。また、これにより、企業の移転価格コンプライアンスが向上し、税関と税務機関のコンプライアンスリスクが低減されることになります。さらに、企業のコストの予見可能性が高められ、企業経営の安定性確保という効果がもたされることも考えらえます。
  • 企業の移転価格にかかる事後調整を規範化
    協同管理制度により、多国籍企業の移転価格の確定、実施及び事後調整について、より明確なコンプライアンスの方法が提示されました。当該通達により、企業は事前に移転価格について、税関及び税務機関と備忘録による契約を締結することができることが明確となりました。事後において、備忘録に従い、貨物の仕入価格を調整する場合、税関及び税務機関は規定に従い、関連する手続きを行うことが明確になりました。

EYの考察

当該通達は、深セン税関及び深セン市税務局の協同管理制度について、フレームワークのみが規定されており、具体的なオペレーションにかかる細則については、追加の規定による明確化が必要となります。具体的な実施細則の公布や、深センの試みが全国に拡大することになるかについては、今後の展開を待つことになります。

  • 税関と税務局の政策上の差異と整合性
    税関と税務機関では、移転価格に対する審査原則、審査の角度及び審査プロセスなどの複数の面で違いがあります。また、現行の事前教示と事前確認は、その実施プロセス、有効期間などの面でも異なっています。当該通達の下では、企業が深セン税関と深セン税務局に対し同時に協同管理を申請することとされており、さらに税関と税務局のそれぞれが現行の税関事前教示と税務事前確認の規定に基づいて審査及び裁定を行い、かつ、それぞれの現行の制度に基づき実施することとなります。そのため、協同管理制度の下で税関と税務局が実際のオペレーションにおいて、どのように政策上の差異を整合させバランスを取るのか、今後注目していく必要があります。
  • 他の地域への連鎖的な影響
    深センで今回実施される協同管理制度は、移転価格の問題に対して、税関及び税務局が共同で監督管理を行う初めての試みとなります。監督管理の垣根を超え、企業のコンプライアンスコストの低減を模索することに意義があると考えられます。政策の実施が、他の都市の現行の取り扱いにどのような影響を及ぼすか、また、他の地域まで範囲が広げられるかについては、今後の展開を待つことになります。
関連するアドバイス

昨今の地政学的動向及び世界的なCOVID‐19の影響による経済環境の変化は、企業の安定した輸出入貨物の移転価格メカニズムの構築の障壁ともなっています。税関と税務局の協同管理政策の公布は、総じて言えば、多国籍企業にとってメリットがあると考えられます。企業は、備忘録による契約締結により、移転価格コンプライアンスを向上させることができます。ただし、同時に、税関と税務局による移転価格の領域における関心の高まりは、企業の移転価格コンプライアンスに対するさらなる挑戦ともなりえます。各企業においては引き続き今後の政策の動向に注目し、必要となる対応準備をされることが必要となります。

  • 自社の状況を整理し、税関管理に対応
    政策の公布は、税関と税務局が移転価格の領域において、監督管理を一層強化することを表しています。企業は、移転価格の設定に際して、税関及び税務機関のそれぞれの要求を満たすほか、コンプライアンスコストを抑え、コンプライアンスの確実性を向上させるため、2つの政府部門の管理要求を満たさなければなりません。税関の角度からも、自社の移転価格の合理性を整理・評価し、今後、生じうる税関の審査及び管理への準備も図ることが重要です。
  • 協同管理を活用した企業のコンプライアンス向上
    協同管理メカニズムには、備忘録の締結という形式を通じた事前登録と事後調整の実行により、移転価格コンプライアンスと確実性の向上を期待することができます。深センにおいては、自社の移転価格の現状と必要となる事項を分析、整理し、協同管理の具体的な要求とプロセスを理解し、協同管理によりもたらされるであろう潜在的な利益と実行可能性を評価されることも一案となります。
  • 政策の動向への注目と積極的な計画・準備
    今回の深センの協同管理政策は、今後の移転価格における税関と税務局の管理に深い影響を及ぼすと考えられます。現時点において、この試みがその他の都市まで広く普及するか否かは不明ですが、引き続き、各地での政策の動向に注目し、関連者間取引の基本的な状況、制度の適用可能性及び潜在的な影響などを予め把握、評価し、国境を跨ぐ関連者間取引のコンプライアンスと確実性の向上といった当該政策によるメリットを十分に活用するチャンスを逃すことがないよう、各企業において積極的な対応計画の策定等の準備を行うことが望まれます。

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