EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2021年12月1日の欧州連合(EU)官報において、国別報告書(CbCR)の開示に関するEU指令(以下、「本指令」)が公表されました。条文によると本指令の発効日は2021年12月21日であり、またEU加盟国は2023年6月22日までに本指令を国内法に導入しなければなりません。
本指令は、2021年9月28日にEU理事会(すなわち、EU加盟国)により正式に採択1された後、2021年11月11日に欧州議会により承認2されたことを受け、今回の公表に至りました。
本指令のルールは、EUに本拠を置く多国籍企業と、EU域外に本拠を置き支店又は子会社を通じてEUで事業を営む多国籍企業の両方を対象としています。これらの企業の連結合計売上高が直近の2事業年度連続で7億5,000万ユーロを上回った場合、法人所得税の納付額及びその他の税務関連情報(国別の利益、売上高、従業員数の内訳等)を開示することが義務付けられます。かかる情報の開示は、EU加盟国全27カ国と、税務面で非協力的な国・地域のEUリストに関するEU理事会の結論の付属書I(いわゆるEUブラックリスト)及び付属書II(いわゆるEUグレーリスト)に掲載されたすべての国・地域ごとに行う必要があります。その他のすべての国・地域についての開示は、集計されたデータのみで足りるとされます。
本指令の内容や適用される状況の詳細については、最近実施されたEYのウェブキャスト「Public Tax Transparency – from voluntary to mandatory」のオンデマンドをご視聴ください。
2016年4月12日、欧州委員会は会計指令(指令2013/34/EU)の改正を提案しました。同提案は、税源浸食及び利益移転(BEPS)をめぐる経済協力開発機構(OECD)及びG20の作業、特に国別報告書(CbCR)に関する行動13に基づくものでした。しかしその内容はOECD/G20によるBEPSの基準の域を超え、EUで事業を営む大規模な多国籍企業、及びEUで設立された単体の事業者に対して、法人所得税の情報(国別の利益、売上高、納税額、従業員数の内訳を含む)を作成し、公簿(public register)及び自社ウェブサイトにおいて開示するよう求めるものとなりました。
この欧州委員会の提案は、欧州連合の機能に関する条約(TFEU)第50条1項に基づくものでした。同項は設立権について定めており、会社法、会計、企業の財務報告の分野における取組みの一般的な法的根拠を成します。当該条項に基づいて提出される提案のEU理事会における採決は、直接税制の調和に関する法案に求められる全会一致(TFEU第115条に基づく特別立法手続き)ではなく、特定多数決(TFEU第114条に基づく通常立法手続き)により行われます。さらに、直接税の法案における欧州議会の役割は助言に留まりますが、TFEU第50条1項に基づく提案においては欧州議会がEU理事会と共に共同立法権を有します。
しかし、2019年のEU競争力理事会(COMPET)会合において、国別報告書(CbCR)の開示に関する提案はEU加盟国の特定多数の賛成を得られませんでした3。また、この会合に先立ちEU加盟国10カ国から同提案に反対する共同声明が発表され、かかる法案は税制案とみなされるべきものであって、その採択にはEU加盟国の全会一致の賛成が必要であるとの主張が展開されました。
状況を打開すべく、2021年上半期のEU理事会議長国を務めたポルトガルは新たな妥協案を発表し、2021年2月25日のCOMPET会合で同提案を審議に付しました4。この会合において、2019年に同提案に反対したオーストリアとスロベニアは立場を翻して賛成を表明し、EU加盟国の特定多数が同提案に賛成する結果に至りました。
2021年3月、欧州委員会、欧州議会、EU理事会による三者協議が開始され、2021年6月1日の最終交渉において同提案に関する暫定的な妥協点に達しました。
この合意を受け、EU理事会と欧州議会は同提案の正式な採択に向けた手続きに入りました。2021年9月28日、EU理事会は、2021年6月1日に暫定合意された妥協案とおおむね一致する立場を正式に採択しました。なお、主として次の2点の修正が加えられました5。
2021年11月11日、欧州議会は、EU理事会による採択のとおり、国別報告書(CbCR)の開示に関するEU指令を正式に承認しました6。
正式な承認の完了を受け、本指令は2021年12月1日のEU官報に掲載されました。この掲載は、本指令の発効日及び国内法への導入期限を確定するための起点となる重要なステップです。
具体的な今後のスケジュールは次のとおりです。
国別報告書(CbCR)の開示に関するEU指令の主要な要素の概要は以下のとおりです。
対象者 |
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開示すべき内容 |
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開示すべき場所 |
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開示すべき時期 |
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任意の延期 |
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罰則 |
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監査要件 |
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国別報告書(CbCR)の開示に関するEU指令は、EUに本拠を置く多国籍企業と、EU域外に本拠を置きEUで事業を営む多国籍企業の両方に重大な影響を及ぼします。さらに本指令は、自主的な非財務報告基準(グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)など)、投資家、及び一般社会の視点から、企業による税務報告の開示の強化が求められつつある現在の傾向に拍車をかけるものであるといえます。
日本企業においては、EU内に中規模法人もしくは大規模法人がある場合、EUにおけるCbCRの開示義務を負い、EU加盟国、EUブラックリスト及びグレーリスト国について国別に開示することになります。EUブラックリスト及びグレーリストに含まれない日本を含むEU外の国については一括した表示となります。日本の親会社は直接CbCRの開示義務を負いませんが、欧州子会社の監査人は監査報告書にCbCRの開示を確認した旨を記載するため、CbCRを開示していない場合、監査報告書が発行されないリスクが考えられます。一方、企業グループの税情報について、ESGの観点からはEU企業より相対的に低い評価を受けることを防ぐため、日本を含むCbCRを自主的に開示する日本企業が増えることが想定されます。
国別報告書(CbCR)から得られる指標は、BEPS 2.0プロジェクトの第2の柱GloBEルールにおいて重要な役割を果たします。BEPS2.0の第2の柱GloBEルールの導入により、日本企業においては国別(CbCR)の実効税率管理が重要となると考えられますが、CbCRを開示する際には、ステークホルダーは国別の実効税率が15%を下回らないことを検証することが想定され、日本企業はGloBEルールに基づいたグローバル申告に加えて、開示情報に関するより一層の説明責任が求められることになります。
企業は、個々のEU加盟国において本指令が国内法に導入されるプロセスの進捗を注意深く見守らなければなりません。特に、EU加盟国が2024年6月22日に先立ってこのルールを発効させることを認められている点は注意を要します。本指令が自社の事業に及ぼす影響、とりわけ幅広い税務情報の開示戦略に及ぼす影響を見極めることが必要です。
巻末注
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター