オーストラリアJBS‐資産の一括損金算入制度(Instant Asset Write Off)および非適用選択

オーストラリアJBS‐資産の一括損金算入制度(Instant Asset Write Off)および非適用選択

20/21年度の連邦予算で発表された資産の一括損金算入制度(Instant Asset Write Off以下「IAWO」または「制度」)について、自身が適用対象者であるか、その対象資産は何か、および適用をうける場合の影響について検討することをおすすめいたします。また、この措置は一部の納税者にとって不利な結果をもたらす可能性があることから、適用対象となる資産の一部またはすべてについて、この適用をうけない選択肢を検討しておく必要もあります。

一括損金算入に関する時限措置IAWOについて

一括損金算入に関する時限措置であるIAWOは、2020年10月6日午後7時30分(オーストラリア東部夏時間)から2023年6月30日までの間に、事業目的で使用が開始される、または使用可能な状態で設置される対象資産に適用されます。一定の要件を満たす納税者は、対象資産の取得費用の全額について損金算入することが認められます。また同期間中、これらの対象資産および一部の既存資産の改良費の全額についても損金算入の対象とされます。IAWOは、2020年10月14日に勅許を受け、Treasury Laws Amendment (A Tax Plan for the COVID-19 Economic Recovery) Act 2020 (Cth))により制定されました。

IAWOの適用要件

総売上高基準または代替所得基準のいずれかを満たすことでIAWOが適用されます。

  • 総売上高基準

    該当課税年度または前課税年度のいずれかにおいて、納税法人、その関連事業体および関連会社の全世界における合計所得が50億豪ドル未満の場合、総売上高基準を満たします。関連事業体および関連会社の所得を含めると、一部の納税者はこの基準を満たすことが難しい場合があります。
  • 代替所得基準

    代替所得基準を満たすには以下のすべてに該当している必要があります。

    o   課税年度中に法人税の対象となる事業体である(ほとんどのトラストおよびパートナーシップは除外される)
    o   その事業体の一部の所得を除く所得の合計額が、18/19年度または19/20年度のいずれかにおいて50億豪ドル未満である
    o   16/17課税年度、17/18課税年度、および18/19課税年度(合計)に、取得、初めて保有および使用、または使用可能な状態で設置された一部の減価償却資産の総費用額(税務簿価)が、1億豪ドルを超えている

連結納税グループの場合、これらの基準は連結納税グループ単位で判断されます。

減価償却資産基準となる1億豪ドルは、IAWOの対象となる法人がすでにオーストラリアに多額の投資を行った実績があることを前提として定められた政策措置です。

1億豪ドルの総額は、以下のように判断されます。

o   当該資産を保有し、最初に使用した、または最初に使用可能な状態で設置された課税年度の減価償却資産それぞれの費用Tax cost of assets itselfを合算する
o   下記の金額は除外する:

▪ 無形資産にかかる費用額、および
▪ オーストラリア国外で最初に使用、または使用可能な状態で設置された減価償却資産の費用、または主たる事業を行う目的で使用される減価償却資産のうち、オーストラリア国内で使用されない費用額

総売上高基準の適用要件を満たす事業体は、代替所得基準であるこの1億豪ドルの資産基準を満たす必要はありません。

また、代替所得基準によってIAWOの要件を満たす事業体は、無形資産(ソフトウェアなど)、過去に関連事業体が保有していた資産、または当該課税年度において関連事業体、または外国人居住者のいずれかが使用できる状態にある資産について、IAWOの控除を受けることはできません。

クローバック

IAWOの適用を受けた資産が、一定の適用条件を満たさなくなった場合には、過去の損金算入額について推定市場価値をベースとした課税調整が発生する可能性があります。


一括損金算入制度の非適用選択(IAWOによる一括損金算入および資産の加速償却制度)

時限措置であるIAWO制度や資産の加速償却制度の適用を受けない選択をすることが可能です。ただし、一度選択すると取り消すことが出来ません。(注:加速償却制度下で、合計売上高が合計5億豪ドル未満の納税者は、1年目に50%の控除を受けることが可能となります。)これらの制度では、資産ごとに適用・不適用の選択をおこなうことが認められています。これからの制度の適用を受けない選択をする場合、当該資産は一般減価償却規定の下で償却されることになります。

合計売上高が5億豪ドル未満の納税者については、制度の2020年3月12日から2020年12月31日までの期間に取得し、2021年6月30日までに設置された資産でその費用(Tax cost)が15万豪ドル以下となる資産については、別に存在するIAWOが適用されます。そして、これらの資産については不適用の選択ができません。

IAWO制度と加速償却制度では、対象資産への適用・不適用を資産ごとに選択する必要があります。基準を満たすと自動的に適用を受けることになります。不適用を選択する場合は、納税者は課税年度の法人所得税申告書を提出期日(または税務長官が認める期日)までに、特定の書式に従い税務長官に連絡する必要があります。

上記の通り、適用・不適用の判断は資産ごとに行われるため、納税者は、IAWOと加速償却制度の適用状況を資産レベルで管理することが必要となります。

なお、納税者が制度を利用しない理由として以下の状況が考えられます。

  • 納税者の適格配当を行う能力に影響を及ぼす可能性がある場合
  • 繰越出来ない可能性のある欠損金を発生または増加させる可能性がある場合(例:主要株主の変更)
  • 外国税額控除など、その他の税額控除要件に影響を与える可能性がある場合
  • 連結納税グループへの加入により資産の税務コスト再調整への影響が想定される場合(後述)
  • 管理上またはその他の理由


連結納税による潜在的な不利益

一括損金算入IAWO、資産の加速償却制度、または別に存在するIAWOの適用を受けた事業体が連結納税グループに加入する場合、適用を受けた資産は、税務未償却残高を超えて税務簿価を設定することができなくなります。例えば、新たに連結納税グループに加入するメンバーの保有する資産等、他の資産の税務簿価を、IAWO一括償却対象となった資産の税務基準額(一括損金算入IAWO資産については0豪ドル、加速償却資産については50%以下)に振り分けることは認められません。これらの連結納税グループにおける影響は、企業買収において複雑な問題を引き起こすことが予想されることから、M&Aを行う前に検討しておくことをおすすめいたします。

影響範囲

大幅な控除が可能であることから、納税者は税軽減余地の可否について慎重に検討を行い、必要に応じて十分に活用できる状態にしておく必要があります。また、不利が生じないように資産ごとに判断を行い、必要に応じてこれらの規定の適用・不適用の選択をする必要があります。
 

※この記事の見解は、Ernst&Youngではなく、著者の見解です。この記事は一般的な情報を提供するものであり、専門的な助言として解釈すべきではありません。利用者は、決定を下す前に、自らの特定の事実関係を理解する専門アドバイザーに相談し、助言を求める必要があります。責任は専門基準法の下で承認されたスキームによって制限されます。

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