米国、バイデン政権増税案「グリーンブック」公開

Japan tax alert 2021年5月31日号

米国財務省は、2021年5月28日、ホワイトハウス予算案ならびにバイデン政権増税案の詳細を説明した「グリーンブック」(General Explanation of the Administration's Revenue Proposals)を公表しました。グリーンブックは、「Made in America Tax Plan」(法人税)および「American Families Plan」(個人所得税)で大枠が提示されていた増税案に関して多くの詳細を初めて明らかにしています。ただし、予算案およびグリーンブックは行政府の希望を議会に提示しているに過ぎず、今後の議会の審議を通じて税制改正法案が最終的にどのような形となるかは不明です。

グリーンブックに記載されている増税案のうち、日本企業の関心が高いと思われる詳細は次の通りですが、グリーンブックの記載には不明確な部分が多く、一部は現時点での解釈に基づきます。

  • 法人税率の21%から28%への引き上げ
    • 2022年1月1日以降に開始する課税年度から適用
    • 暦年以外の課税年度を採択している法人の2021年に開始する課税年度には混合税率を適用(例:3月決算法人の場合、2022年3月期は22.73%(=21% × 275/365 + 28% × 90/365)
  • Global Intangible Low-Taxed Income(GILTI)改正
    • GILTI合算後に認められている想定控除率を50%から25%に引き下げ、外国税額控除前のGILTI実効税率を10.5%から 21%へ引き上げ(法人税率28%を想定)
    • GILTI税額控除を国別で計算
    • みなしルーティン所得に当たる有形償却資産簿価(QBAI)の10%を合算対象所得から除外する規定の撤廃
    • 旧来のCFC課税(サブパートF所得合算課税)およびGILTI課税に適用される高税率免除規定をいずれも廃止
    • 在米日本企業のような米国へのインバウンド企業に関して、米国外の親会社レベルでOECD BEPS2.0ピラー2のIncome Inclusion Rule(IIR)が適用され、米国法人傘下のCFCがトップアップ課税の対象となる場合、当該CFCに係わるGILTI外国税額控除に米国外の親会社の法人税を加味
  • 外国税額控除枠計算ルールの一部変更
    • 外国税額控除枠の算定目的で米国法人側の費用を各バスケットに配賦・按分する際、支払利息等の特定費用は各バスケットに属する所得を生み出す資産の税務簿価ベースで按分される。その目的で、CFC株式の簿価は、GILTI、サブパートF所得、100%控除の対象となる適格配当所得(245A条配当)を生み出す部分に分割する必要がある。245A条配当を生み出すCFC株式簿価に按分される支払利息等は、最終的に外国源泉所得比率の分母・分子双方から除外する旨を規定している904条(b)(4)を撤廃
  • GILTI想定控除や100%配当所得控除に関連する費用の損金不算入
    • GILTI想定控除や100%配当所得控除の対象となる所得を非課税所得として取り扱い、他の非課税所得と同様に、当該所得に配賦・按分される費用を損金不算入とする
  • BEAT撤廃とSHIELD導入
    • BEATの代わりにOECDのBEPS2.0 ピラー2で提案されているUndertaxed Payment Ruleに類似する「Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments (SHIELD)」を導入
    • SHIELD適用対象は、連結財務諸表上の全世界売上が$500M超のグループに属する米国法人およびパートナーシップ
    • 連結財務諸表に含まれる米国外関連者の実効税率が特定グローバル・ミニマム税率より低い場合、当該米国外関連者に対する支払いは損金不算入
    • 特定グローバル・ミニマム税率は、OECDのBEPS2.0 ピラー2で国際合意される税率。ピラー2合意前にSHIELDを導入する場合には、その間GILTI税率を代用
    • SHIELDに抵触する「支払い」については、支払い全額を損金不算入とする。すなわち、全額が費用処理される支払いがSHIELDに抵触する場合は同額を損金不算入とし、一部でも支払いが費用項目ではなく他の支払い(COGS等)と取り扱われている場合も、他の費用を調整して間接的にCOGS等の費用化を打ち消す方法が提案されているように見える。その場合、結果として損金不算入額が関連者への支払いに起因する費用の額を上回る可能性があり、その場合は実質的に非関連者に支払われた費用が損金不算入となるのと同じ効果が生じる。
    • BEAT同様、対象となる支払いには再保険料を含む
    • 米国外関連者の実効税率が全体で特定グローバル・ミニマム税率以上となっている場合も、部分的に実効税率がミニマム税率未満となっている国外支店等がある場合には、米国法人による支払いのうち対応する部分を損金不算入とする
    • 投資ファンド、年金ファンド、国際機関、非課税団体への支払いに関する免除規定、パートナーシップへの支払いの取り扱いに関する規定を定める規則を発行する権限を財務省に付与
  • Foreign-Derived Intangible Income(FDII)撤廃
  • 米国法人の国籍離脱(Inversion)対策強化
    • 米国法人が所有する実質全て(Substantially All)の資産を外国法人が直接・間接に取得し、当該米国法人の旧株主が当該米国法人株式を所有していたことを理由に当該外国法人の株式の60%以上を所有する場合、当該米国法人は国外離脱法人となり、10年間に亘り当該法人およびグループ法人に課税が強化されるという現状のInversion 対策制度の「60%規定」を撤廃
    • 現状のInversion対策制度では、上述の持分が60%ではなく80%以上の場合、外国法人を米国税務上は米国法人として取り扱うという「80%規定」があるが、この「80%以上」を「50%超」とする「50%規定」に変更
    • 米国法人の旧株主の外国法人持分比率に拘わらず、外国法人よりターゲットである米国法人の方が買収前の時価が高く、買収後のグループの主な管理支配の場所が米国にあり、買収後のグループの事業の25%以上が外国法人の設立国で営まれていない場合には、当該外国法人を米国税務上は米国法人として取り扱う「管理支配地基準」を追加
    • Inversion対策ルールの適用対象を米国法人および米国パートナーシップに加え、外国パートナーシップの米国事業にも拡大
    • 米国法人が所有する実質全ての資産が外国法人株式である場合、外国法人株式のスピンオフにもInversion対策ルールの適用を拡大
  • オンショアリング関連適格支出の10%税額控除
    • 「オンショアリング」は、従来米国外で行っていた事業を縮小または撤収し、当該事業を米国で行い米国内の雇用を創出する取引
  • オフショアリング関連費用の損金不算入
    • 「オフショアリング」は、従来米国で行っていた事業を縮小または撤収し、当該事業を米国外で行い米国内の雇用を減少させる取引
    • 米国法人側の費用ばかりでなく、オフショアリング関連費用をCFCが負担する場合には、GILTIのTested IncomeおよびサブパートF所得算定時に損金不算入とする
  • 連結財務諸表上の税引前利益に対する15%の代替ミニマム税
    • 税引前利益が20億ドル超のグループに適用
    • グローバル税引前利益から「財務諸表ミニマム税繰越欠損金」を差し引いたネット利益に15%を乗じ、一般事業税額控除および外国税額控除を差し引いて暫定ミニマム税を算定
    • 暫定ミニマム税が通常の法人税を上回る場合、超過額をミニマム税として課税
    • ミニマム税は繰り越され、将来の課税年度に通常の法人税が暫定ミニマム税を超過する範囲において税額控除可
  • 化石燃料に係わる優遇税制の撤廃
    • 石油・ガス採掘に係わる米国外所得のGILTI免除廃止。石油・ガスの定義にシェールオイル、タールサンドを追加
    • 産油国等に支払う法人税に関する外国税額控除ルールの厳格化
  • クリーン・エネルギー優遇税制
    • 特定のクリーン・エネルギーに関するProduction Tax Credit(PTC)を2026年12月31日以前に着工する設備に延長適用。その後は5年間でフェードアウト
    • 適格送電資産に関する30%のInvestment Tax Credit(ITC)を新設
    • 既存の原子力発電所を対象に入札ベースの税額控除制度を新設
    • 適格再生エネルギー設備・機器の製造に関する税額控除制度を拡充
    • 電気・水素自動車等のゼロ・エミッション自動車に適用される税額控除を中型・大型トラックにも適用拡大
    • 一定要件を満たす代替飛行機燃料、その他のクリーン・エネルギー、電気自動車充電設備に関するPTCその他の税額控除制度を新設
  • 低所得者用住宅の拡充を目的とした税額控除制度の新設および新マーケット税額控除制度の恒久化
  • ハイブリッド主体の持分譲渡に係わる外国税額控除ルールの改正
    • 米国税務上は資産譲渡として取り扱われるハイブリッド主体の持分譲渡(または同様の効果を持つ取引)は、外国税額控除算定目的では株式譲渡として取り扱い、所得の源泉地およびキャラクター(キャピタル・ゲイン・ロスか通常損益か)を決定
  • 連結財務諸表に基づく超過支払利息の損金算入制限ルール導入
    • 連結財務諸表上の米国法人の支払利息が、連結グループ全体の支払利息をEBITDAベースで米国法人に按分した金額を超える場合、超過比率に基づき米国税務上の支払利息損金算入額を逓減
    • 163条(j)も併せて適用し、双方の制限に抵触しない額に関して損金算入が認められる
    • 適用対象は米国税務上、ネット支払利息が5百万ドル以上の納税者(米国事業主体が複数ある場合には合算ベース)
    • 金融機関は適用除外
  • 個人所得税増税
    • 最高税率を37%から39.6%に引き上げ
    • 調整後総所得(AGI)が100万ドル(夫婦合算申告の場合)を超える納税者の長期キャピタル・ゲインおよび適格配当のうちAGIが100万ドルを超過する額を上限に通常所得として37%(オバマケア付加税3.8%を上乗せして合計40.8%)で課税。例えば、勤労所得90万ドル、キャピタル・ゲイン20万ドルの納税者の場合、キャピタル・ゲインのうち10万ドルを通常所得として課税。100万ドル基準は毎年インフレ調整あり。
    • キャピタルゲイン増税は American Families Planが公表された2021年4月28日に過去遡及して適用
    • 資産の相続・生前贈与をみなし譲渡として取り扱い、被相続人および被贈与人に個人所得税課税
    • ファンド・スポンサーが成功報酬として稼得するキャピタル・ゲインの分配(キャリード・イントレスト)を通常所得として課税
    • 50万ドルを超える不動産譲渡益について買替課税繰り延べ(Like-Kind Exchange)規定適用廃止
  • 事業主・法人に対する税務調査強化
    • IRSの法執行部門予算増額
    • 個人の金融取引詳細報告を金融機関に義務づけ
    • 暗号資産取引報告義務強化
    • 申告書作成業者の監督強化
    • 電子申告義務の拡張
    • IRSが指定する脱法的取引に関する申告書の税務調査時効を3年から6年に延長
    • パートナーシップ税務調査(BBA)で税額が減少する場合に還付を可能に