2020年7月9日、財務省はGlobal Intangible Low-Taxed Income (「GILTI」)控除およびForeign Derived Intangible Income (「FDII」)控除の双方を規定する内国歳入法第250条(以下、「250条」)に係わる財務省最終規則を公表しました。295ページに上る最終規則は、基本的には2019年3月に公表された規則草案を踏襲する内容となっていますが、250条控除額に課税所得上限の制限を適用する際の他の控除項目との関係や米国外顧客・米国外使用の証明方法に関して規定を緩和しています。規則草案公表時のアラートに関しては「米国、「FDII・GILTI控除」財務省規則草案公表」をご参照下さい。
GILTIに関しては、2019年6月14日に「合算」に係わる規則が最終化されており、今回のGILTI「控除」に係わる最終規則の公表をもって合算と控除の双方の規定に関する規則が最終化されたことになります。GILTI合算最終規則公表時のアラートに関しては「米財務省、GILTIに関する最終財務省規則ならびに新財務省規則草案を公表」をご参照下さい。また2020年7月20日には、米国外で18.9%超の法人税対象となっている所得をGILTI合算から免除することができる「高税率免除」を規定する最終規則も公表されました。
250条は、米国法人に対して認められる所得控除規定で、GILTI合算額(外国税額控除目的でGILTIにグロスアップされる外国法人税含む)の50%(2026年からは37.5%)控除および米国外顧客への販売・ライセンス・役務提供から生じるFDII所得の37.5%(2026年からは21.875%)控除の2つの規定から構成されています。
当アラートは規則草案からの主な変更点を中心に最終規則の内容を取りまとめたものです。
FDII控除の算定・一般規定
課税所得制限
250条控除額は課税所得を上限とし、250条控除額が課税所得を超過する場合、当該超過額はGILTI控除とFDII控除に按分され、各々の控除額を減額させる。上限となる課税所得は、支払利息の損金算入制限を規定する163条(j)や繰越欠損金に関する規定を全て加味する必要がある一方、163条(j)や繰越欠損金控除算定時にも各々独自の課税所得に基づく制限が適用される。
- 規則草案では課税所得制限適用時の各条文の優先順位が規定されていたが、最終規則ではこの優先順位は撤廃され、納税者が選択する合理的な方法に基づく課税所得制限の適用が認められる。
- 合理的な方法には規則草案に規定されていた優先順位の適用や、連立方程式に基づく算定が含まれる。
- 一旦納税者側が選択した方法は、毎期継続して適用する必要がある。
- 財務省は課税所得制限の適用方法を今後更に検討し、新たなガイダンスを公表する可能性がある。
ヘッジ取引
金融商品は一般資産にも無形資産にも属さないとされることから、原則として、デリバティブ等の金融取引はFDII控除対象取引とならない。
- 最終規則では、FDII控除の対象取引の価格変動リスクを管理するためのヘッジは取引価格に織り込んでFDIIを算定すると規定。
米国外支店所得
米国税務上、米国外支店が認識している所得はFDIIから除外される。米国外支店に属する所得の認定は、外貨取引に係わる取り扱いを規定する適格事業単位(Qualified Business Unit、「QBU」)の概念を適用し、外国税額控除計算上の米国外支店バスケットの所得認定方法と同様に行われる。
- 規則草案では、当該認定方法に加え、FDII算定目的で支店として取り扱われるDisregarded Entityやパートナーシップ持分を含む支店所得を生み出す資産の譲渡益も支店所得に該当すると規定していたが、最終規則は当該規定を撤廃。
パートナーシップ持分譲渡
- パートナーシップ持分の譲渡は、パートナーシップ持分そのものの譲渡として取り扱い、FDII目的でパートナーシップが所有する資産のみなし譲渡とはしないことを確認。
費用配賦
FDIIおよび米国外派生所得等の算定目的で、各区分に属する収入項目に対応する費用の配賦を行う必要がある。費用配賦は、原則として、外国税額控除枠の算定時等に適用される一般的配賦法をそのまま適用する。
- 一般的配賦法には、50%超の研究開発を行っている国に研究開発費用の50%を優先的に配賦し、研究開発費用の残りの50%は粗利益ベースで配賦する方法が規定されている(「Exclusive Apportionment法」)。このExclusive Apportionment法は、FDIIの算定目的では適用不可としていた規則草案の規定を撤回し、最終規則ではFDIIの算定目的でもExclusive Apportionmentの適用が認められている。
米国外顧客・米国外使用・米国外所在顧客
FDIIの恩典は、米国外顧客に対する「販売・ライセンス」または「役務提供」から得られる所得に認められる。具体的には「販売・ライセンス」に関しては、顧客が「外国人顧客」でかつ資産が「米国外使用」である必要があり、「役務提供」に関しては「米国外所在の顧客」に対して、または「米国外に所在する資産」に関して提供される役務でなければならない。
これらの判定においては、資産が「一般資産」もしくは「無形資産」のいずれかを区別する必要がある。一般資産は、無形資産、債券、現物取引対象以外のコモディティを除く全ての資産を意味する。
米国外顧客
- 最終規則では、次の取引に関して、証憑等の入手を必要とせず、顧客が外国に所在するという推定事実認定を規定。ただし、納税者が顧客は実は米国人であるという認識がある、またはそう様な認識をするべき立場にある場合には、当該推定事実認定は認められない。
・ 米国外での小売り
・ 一般資産の販売で仕向け地が米国外
・ 一般資産の販売で請求先が米国外
・ 無形資産の譲渡・ライセンスで請求先が米国外
販売・ライセンスと米国外使用
一般資産に関する米国外使用は、最終消費者が米国外に所在している場合、または米国外で製造、組立、その他の加工が行われている場合のいずれかの際に認められる。
- 一般資産の販売に関して次のケースは最終消費者が米国外に所在と認定。
・ 運送会社を使用して最終消費者に商品を引き渡し、仕向地が米国外の場合。
・ 小売りを含む、運送会社を介さない販売で商品が米国外に存在する場合。
・ 卸販売で仕向地が米国外にあり、仲介者によるその後の販売が米国外最終消費者の場合。
・ 最終消費者が米国外に所在する機器にダウンロード、インストール、受信、アクセスするデジタル配信コンテンツ。
・ 国際運輸に使用される資産は、規則草案の3年間50%基準は撤廃され、商用船舶・航空機等の買い手が米国外で機体等を登記する場合には米国外使用。 商用以外の船舶・航空機は登記に加え、外国外で格納されている場合。
- 最終規則では、著作権で保護されている作品(著作物)は無形資産に当たらず、一般資産に区分されることを確認。
- 著作物を含むコンテンツでデジタル配信の対象となるものは一般資産に区分されるものの、有形資産の販売とは性格が異なることから、外国使用の認定に関して独自の規定を追加。
- 武器輸出管理法(Arms Export Control Act、「AECA」)に基づく販売や役務提供に関して、規則草案ではFDII控除適格となるための追加要件が規定されていたが、最終規則では追加要件を撤廃し、AECA準拠をもってFDII控除適格と規定。
無形資産が米国外使用と認められるためには、原則、米国外で活用(Exploitation)される必要がある。活用場所は無形資産を使用して製造される製品の最終消費者の所在地等、無形資産の使用地ではなく最終消費者ベースでの判断となる。
- 最終規則では製造ノウハウを非関連者に譲渡する場合、製造される商品の販売先を見る代わりに製造ノウハウが使用されている製造拠点で活用されていると取り扱う特例を規定。
役務提供
役務提供が「米国外に所在する者」に対して、または「米国外に所在する資産」に関して提供されているかどうかの判断には、規則草案の規定通り、「一般役務」「近距離役務」「有形資産役務」「運輸役務」のタイプ別に行う。
- 一般役務のひとつとなるデジタル広告サービスは、消費者がデジタル広告を閲覧する場所に基づき米国外に所在する者に提供されているかどうかを判断。
- 規則草案の4タイプに追加で「(広告以外の)デジタルサービス」を別タイプとして追加。アクセスポイントの場所を基に米国外に所在する者に提供されているかどうかを判断。
- 有形資産役務に関して、資産の所在地を基に判断という原則は規則草案の通りだが、資産が「一時的」に米国に所在する場合でも、恒久的には資産が米国外に所在する場合には、「米国外に所在する資産」に関して提供されていると認める例外を規定。
米国外顧客・米国外使用にかかわる証明法
- 顧客が外国所在であること、または資産が米国外使用であること等の事実認定は納税者側に立証責任がある。規則草案は当該認定に係わる立証目的で使用が認められる証憑書類リストを規定していたが、最終規則では一般資産の販売、一般サービスの提供に関してリストを撤廃し、納税者が選択する合理的な証憑で立証することを容認。
- 立証に使用される証憑はFDII控除を計上する申告書の提出までに入手していなければならないという要件以外の特定のタイミング要件を撤廃。税務調査の際には、IRSによる資料請求から30日以内、またはIRSと納税者で合意する他の期間内に提出しなければならない。
関連者取引
一般資産販売に関しては、米国外関連者が当該一般資産または当該一般資産を使用して製造した資産を実際に米国外非関連者に販売し、当該販売が通常の米国外使用基準を充足する必要がある。
- 規則草案では、米国外関連者に販売された後、米国外非関連者に米国外使用目的で再販されるまでFDII控除対象とはならないと規定され、さらにFDII申告日以降に再販が行われ、当該再販実績を基にFDII控除を計上する場合には、再販が実際に行われた時点以降、通常の時効成立前に修正申告書を提出する必要があるとされていた。当該規定は納税者の負荷が高いことから、最終規則では、米国外関連者が通常業務の一環として資産を米国外で販売している場合には、関連者に販売した時点でFDII控除対象とする規定に緩和。
- 米国外関連者が取得する一般資産が他の資産の製造目的や役務提供目的で使用される場合、規則草案では、FDII申告時点で当該一般資産の使用に基づく取引から発生する将来の所得の80%超がFDII控除適格になると合理的に推測される場合に、米国外関連者に対する一般資産販売がFDII適格となると規定していた。最終規則では80%基準を撤廃し、代わりにFDII申告時点でFDII控除適格となる比率を合理的に推測し、FDII控除適格額を決定する方法に変更。
適用開始日
最終規則は原則として2021年1月1日以降に開始する課税年度から適用。ただし、納税者の選択により早期適用も可能。早期適用する場合には、最終規則の全ての規定を適用すること。