EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY 新日本有限責任監査法人 ソフトウェアセクター
公認会計士 小林 祐
「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第12号、以下、ソフトウェア実務指針)では、自社利用のソフトウェアを以下のように分類しています。
利用目的 |
例 |
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社内業務を効率的又は効果的に行う目的 |
社内の業務処理に利用している以下のようなソフトウェア
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第三者への業務処理サービス等の提供目的 |
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上記のように自社利用のソフトウェアは、自社の管理業務等の内部業務に使用されるものだけでなく、得意先等の外部にサービスを提供するために利用するソフトウェアも含まれることになります。
自社利用のソフトウェアの取得形態には、以下の場合があります。
「ソフトウェア実務指針」では、将来の収益獲得又は費用削減が確実である自社利用のソフトウェアの取得費・制作費は、無形固定資産として計上することとされています。将来の収益獲得又は費用削減効果が見込まれる程度と会計処理との関係は以下の通りです。
将来の収益獲得又は費用削減 |
会計上の取扱い |
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確実であると認められる場合 |
資産計上 |
不明な場合(*) |
不明な場合(*) |
確実であると認められない場合 |
費用処理 |
(*)税務上、ソフトウェアの利用により将来の収益獲得又は費用削減が明らかと認められるかが不明な場合は資産計上となります。
将来の収益獲得又は費用削減効果が確実であると認められる場合について、「ソフトウェア実務指針」では、具体的な態様はさまざまであり、自社利用のソフトウェアの資産計上要件を包括的に掲げることは困難とされていますが、資産計上される場合として以下のような具体例が示されています。
例示 |
見込まれる効果 |
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(1) 通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェアを利用し、会社が契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得る場合 |
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(2) 自社で利用するためにソフトウェアを制作し、当初意図した使途に継続して利用することにより、会社の業務を効率的又は効果的に遂行することができると明確に認められる場合(ソフトウェア制作の意思決定段階からの制作の意図・効果が明確) |
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(3) 市場で販売されているソフトウェアを購入し、かつ、予定した使途に継続して利用することによって、会社の業務を効率化又は効果的に遂行することができると認められる場合 |
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実務上、将来の収益獲得又は費用削減効果の検討にあたっては、以下の項目について検討することが必要になるものと考えます。
a. ソフトウェアの目的適合性の検討
b. ソフトウェアに係る便益の発生可能性の検討
将来の収益獲得又は費用削減の効果の有無を判断するためには、第一にソフトウェアの仕様や機能が会社の意図する目的に適合しているかを検討する必要があります。ソフトウェアの仕様や機能が、会社の意図する目的にそぐわない場合や、目的を達成するのに不十分な場合には、将来の収益獲得又は費用削減を合理的に期待することができないことも考えられます。
制作又は購入するソフトウェアが、会社の収益獲得又は費用削減という目的を達成できるのかについて十分に吟味することが必要と考えます。
当該ソフトウェアに係る便益の発生可能性、すなわちソフトウェアを利用することで、具体的にどのような形でどの程度の便益が発生するかの検討が必要になると考えます。
自社利用のソフトウェアでは、制作を開始する時点や、外部からの購入を決定する時点で、社内稟議や取締役会決議等の承認手続きを経るのが通常と考えられます。その際、将来の収益獲得又は費用削減効果の内容と程度につき、客観的な資料に基づき、可能な限り定量的・具体的に明らかにした上で承認を得ることが必要と考えます。
「ソフトウェア実務指針」では、自社利用のソフトウェアに係る資産計上の開始時点は、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる状況になった時点であり、開始時点はそのことを立証できる証憑(しょうひょう)に基づいて決定することとなります。これは、無形の資産である自社利用のソフトウェアについては、資産計上の開始時点を恣意(しい)的に操作される可能性もあることから、客観的な証憑に基づき判断することを要請しているものと考えられます。
具体的な証憑としては、以下の例が挙げられています。
「ソフトウェア実務指針」では、資産計上の終了時点は、実質的にソフトウェアの制作作業が完了したと認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑に基づいて決定することとなります。終了時点も客観的な証憑に基づいて判断することが求められています。
具体的な証憑としては、以下の例があげられています。
自社利用のソフトウェアについては、制作開始時点では資産計上の要件を満たしているかの判断が困難な場合も考えられます。例えば、自社利用のソフトウェアを使用したサービスの提供契約や事業開始が確定し、将来の収益獲得が事後的に確実になる場合等、ソフトウェアの制作活動が開始された後に、資産計上の要件を満たしていることが判明する場合があります。
このような場合、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められた時点より以前の制作費は費用処理(過去に遡って資産計上はしない)し、それ以降の制作費は資産計上することが考えられます。
「ソフトウェア実務指針」では、自社利用のソフトウェアについては、各企業がその利用事態に応じた最も合理的と考えられる減価償却の方法を採用すべきものですが、市場販売目的のソフトウェアに比し収益との直接的な対応関係が希薄な場合が多く、また物理的な劣化を伴わない無形固定資産の償却であることから、一般的には定額法による償却が合理的であるとされています。
ただし、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」においては、自社利用のソフトウェアでもサービス提供に用いるソフトウェアで将来の獲得収益を見積もることができるものなど、見込販売収益に基づく減価償却を行うほうが費用・収益の対応の観点からより合理的な場合もあることが示されています。
「ソフトウェア実務指針」では、自社利用のソフトウェアの償却の基礎となる耐用年数は、当該ソフトウェアの利用可能期間によるべきですが、原則として5年以内の年数とし、5年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことを必要としています。
実務的には、以下のような減価償却方法が採用されることが一般的です。
ソフトウェアの利用目的 |
収益との対応 |
減価償却の方法 |
耐用年数 |
---|---|---|---|
第三者への業務処理サービスの提供目的 |
明確でない |
定額法 |
5年ないし市場販売目的のソフトウェアに準じて3年 |
明確 |
市場販売目的のソフトウェアと同様の方法(販売見込数量(収益)に応じて償却) |
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社内業務を効率的又は効果的に行う目的 |
明確でない |
定額法 |
5年 |
自社利用のソフトウェアの減価償却の方法については、重要な会計方針として以下の2項目を開示する必要があります。
「固定資産の減損に係る会計基準」(以下、固定資産減損会計基準)では、固定資産に関して、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失として計上します。ここでいう固定資産には、無形固定資産も含まれますが、他の会計基準に減損処理(減損処理に類似した会計処理を含む)に関する定めがある場合は対象資産から除かれます。
自社利用のソフトウェアに関しては、市場販売目的のソフトウェアと異なり、減損に類似した収益性の低下を反映する会計処理は規定されていないため、「固定資産減損会計基準」及び同適用指針の適用対象になるとされています。
近時、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速化なども背景として、多様なソフトウェアに関連する取引が生じています。こうした現況を受けて日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、2022年6月30日付で、会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~ DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」(以下、研究資料)を公表しました。この研究資料に関しては以下をご参照ください。
SaaSなどのソフトウェア制作費等の会計処理等に関する研究資料の公表(情報センサー2022年新年号 会計情報レポート)
ソフトウェア業