EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
メディア・エンターテイメントセクター/Blockchain center共同リーダー
公認会計士 田中 計士
近年、多数の企業がブロックチェーン技術や暗号資産を用いたビジネスを展開しており、これらのビジネスはweb3.0という言葉を用いて表されることがあります。web3.0に明確な定義はありませんが、例えば経済産業省のウェブサイト*では、web3.0を『ブロックチェーン上で、暗号資産等のトークンを媒体として「価値の共創・保有・交換」を行う経済(トークン経済)』として定義しています。
* www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/Web3/index.html(2025年3月22日アクセス)
メディア・エンターテイメントセクター/Blockchain centerでは、今後不定期でweb3.0に関連した様々なトピックスを掲載していく予定です。第1回となる今回は、我が国におけるweb3.0ビジネスの状況、政策上の取り組み、それを踏まえた日本公認会計士協会としての取り組み等を踏まえた上で、会計及び監査目線での最新のトピックスについてご紹介します。
我が国においても近年多数の上場企業グループがweb3.0ビジネスを展開しており、例えば以下のような事例が見られます。
web3.0ビジネスの種類
このような状況において、自由民主党では、我が国を世界でも有数のweb3.0事業環境の整った国とすべく「デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム」を立ち上げ「web3ホワイトペーパー」において我が国のweb3.0推進に向けて対処すべき課題を整理した上で、各種提言を毎年行っています。背景として、web3.0ビジネスの種類は多岐に亘り、法務、税務、会計等様々な面での整備が追いついていないことから、事業者側の思い描いているビジネス展開がピード感をもって進めることが出来ないことがあります。
2024年4月に公表された「web3ホワイトペーパー2024」において列挙されている課題は複数項目ありますが、例えば監査法人による会計監査に直結する論点として、投資事業有限責任組合(Limited Partnership、以下LPS)及び会計監査機会に関する事項があります。
テーマ |
問題の所在 |
提言 |
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① ブロック チェーン関連事業への投資ビークル・スキームの多様化 |
LPS型ファンドによる暗号資産の取得・保有について、LPS法の改正案は提出された。他方、ス タートアップ等の暗号資産発行体がLPSに対して暗号資産を売却する場合における暗号資産交換 業該当性が明らかでない。 |
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② 監査機会の確保 |
web3ビジネス監査の事例は存在するものの、依然としてweb3企業の会計・監査の体制整備が遅 れ、監査を受けられないとの不満がある。 |
企業会計基準委員会において会計基準の整備、ガイドラインの策定などを急ぐべき。会計監査の機会確保に向けて日本公認会計士協会と業界が各々策定したガイドラインが実務に浸透するよう、日本公認会計士協会等の取り組みを後押しすべ きである。 |
出展:自由民主党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム「web3ホワイトペーパー2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~(要旨)*」に基づき筆者が図表作成
* www.taira-m.jp/web3ホワイトペーパー2024要旨.pdf(2025年3月22日アクセス)
まず上記①についてですが、2024年4月の「web3ホワイトペーパー2024」公表後、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(LPS法)の改正によりLPSによる暗号資産等への投資が可能となる形の法改正が実現しました(2025年4月1日施行)。LPSはLPS法に基づく会計監査義務があるため、今後増加が見込まれるLPSによる暗号資産等への投資に、会計監査人側も対応をしていく必要があります。
一方、上記②の通り、web3.0ビジネスを展開する事業者の増加に対して、会計監査人側がそのニーズを十分に果たしきれていないという指摘もあります。これに対しては②の「提言」に記載の通り、公認会計士協会等による様々な取り組みが継続的に行われていますが、今後もLPS法改正による監査対象ビジネスのさらなる拡大が見込まれるため、より②の「監査機会の確保」が重要になってきます。
LPSによる暗号資産投資も含め、企業によるweb3.0ビジネス展開が日々多様化する中、日本公認会計士協会ではここ数年、会計監査の機会確保に向けて事業者との相互理解や公認会計士の知見向上を目的とし、以下のとおり様々な取り組みを進めています。
取り組み |
主な目的 |
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2023年1~3月:事業者との勉強会 |
会計監査に関する企業側の理解の促進、Web3.0関連事業に関する監査人の知見の蓄積 |
2023年10月:JICPA会員・準会員向け研修会 |
研究資料の概要周知、会員・準会員の知見の向上 |
2023年11月:研究資料の公表 |
監査上の課題の明確化、事業者と監査人とのコミュニケーション、相互理解の促進等 |
2024年1月、11月:事業者との共同フォーラム |
最新トピックスの共有、事業者と監査人とのコミュニケーション、相互理解の促進等 |
2024年7月~:経済産業省web3.0デジタル公共財等構築実証事業への協力 |
アドバイザリーボード等への人材提供を通じたweb3.0会計・監査知見の提供 |
2025年3月:JICPA会員・準会員向け研修会 |
最新のweb3.0関連トピックスの共有、会員・準会員の知見の向上 |
出展:公表情報に基づき筆者が図表作成。
例えば、本稿執筆時点である2025年3月22日以前の直近3年間で提出された有価証券報告書の監査報告書における監査上の主要な検討事項(KAM)を「暗号資産」で検索してみると、以下のような事例が見られます。
事例No. |
KAMの概要 |
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事例1 |
保有暗号資産の実在性及び分別管理義務に関連するリスクに係る負債の発生可能性 |
事例2~6 |
保有暗号資産の実在性 |
事例7 |
活発な市場が存在しない暗号資産の評価 |
事例8 |
自社発行暗号資産に関する会計方針の妥当性 |
事例1から6はいずれも傘下に資金決済法上の暗号資産交換業者を抱える企業のKAMであり、前提となる会計基準は日本基準の場合もIFRSの場合もありますが、いずれも顧客から預託される暗号資産の実在性が論点となっています。監査上の対応としてはいずれも秘密鍵管理体制等の内部統制の検証及び監査人によるブロックチェーン上の残高の検証が中心となります。なお、我が国では暗号資産交換業者が顧客から預託される暗号資産がハッキングにより流出する事案が複数回発生しており、仮にそのような状況に陥った場合は暗号資産交換業者が自らの財産で顧客に対して補償する義務が生じる可能性があります。このため、事例1のように、負債視点まで含めたKAMの事例も見受けられます。
次に事例7についてです。実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告第38号)では、保有する暗号資産に活発な市場が存在するか否かで、以下の通り会計処理の取り扱いを区別しています(実務対応報告第38号第5項、第6項)。
活発な市場が存在する場合 |
市場価格に基づく価額をもって当該暗号資産の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。 |
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活発な市場が存在しない場合 |
取得原価をもって貸借対照表価額とする。期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する。 |
全世界の暗号資産の種類は2万を超えるとも言われており、また我が国の資金決済法上の暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産の種類も、日々増加傾向にあります。一方、当初は活発な売買が行われており「活発な市場が存在する」と言えていた暗号資産でも、数年後には取引量が極端に低下していくケースなども最近は多く見受けられます。また、将来的な暗号資産交換業者での取り扱いを目指して開始されたトークンプロジェクトへの出資のように、当初段階においては「活発な市場が存在しない」に該当する暗号資産もあります。
このように暗号資産の種類が多様化する中で、活発な市場の有無についても様々なケースが考えられるため、監査対象会社の財務諸表における重要性等にもよりますが、KAMとして取り扱われる事例も出てきたと考えられます。
最後に事例8についてですが、実務対応報告第38号では自らが発行する暗号資産に関する会計処理は対象外とされています。一方、企業会計基準委員会では2022年3月に「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当する ICO トークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」を公表し将来的な会計基準開発に向けた検討を進めていますが、現時点ではその後の具体的な公表物は無い状況です。このような状況の下、事例8では暗号資産発行について「個別性が強く、当該会計方針の決定については、経営者による経済実態と会計方針の整合に関する重要な判断を伴う」こと等を理由として、自社発行暗号資産に関する会計方針の妥当性がKAMとして選定されています。
今後も企業によるweb3.0ビジネス展開は種類、規模とも拡大傾向にあり、会計及び監査上もより多様な対応が求められます。
今後の連載においては、最新のトピックスについて皆様にご紹介させていただきます。
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