投資信託 第6回:資本の計理処理

投資信託研究会
白取 洋

日々元本の増減が生じる投資信託の資本会計は、受益者公平の観点から特殊な計理処理が行われています。以下、追加型投資信託における追加設定・一部解約の計理処理及びそれと密接に関連する収益分配の仕組みについて解説することとします。

(1) 追加設定・一部解約の計理処理

① 追加設定の計理処理

追加設定ではファンドの純資産が増加しますが、収益分配の観点から、新規受益者の参入によって既存受益者が不利とならないよう、追加信託金総額を元本部分とそのプレミアム部分(期首剰余金に相当する部分と追加設定時点までの当期損益に相当する部分)である収益調整金とに区分して計上する計理処理が行われます。

例えば、当初元本1口10,000円で設定されたファンドが1年後に2,000円の運用益を計上した結果、基準価額が12,000円となった場合、分配可能額は2,000円となります。そこに新規受益者が当該ファンドを1口購入するものとすると、この時点の基準価額である12,000円で追加設定がなされます。このとき、仮に12,000円全額が元本に組み入れられると、ファンド全体での分配可能額2,000円を2口で分け合うこととなるので、1口当たりの分配可能額は1,000円となり、既存受益者にとっては半減(希薄化)してしまうことになります。そこで、追加信託金を元本10,000円と収益調整金2,000円とに区分して計上のうえ、後者を分配可能額に算入することにより、1口当たりの分配可能額を2,000円に維持することが可能となるのです。

このように追加設定では、追加信託金を元本と収益調整金とに区分して計上する点が大きなポイントとなります。この収益調整金は、追加設定時点でのファンドの損益状況によりプラスとなる場合もあればマイナスとなる場合もあります。

図表3 追加設定の計理処理のイメージ

図表3 追加設定の計理処理のイメージ

② 一部解約の計理処理

一部解約の場合はファンドの純資産が減少することとなりますが、ここでも解約金総額を元本部分とプレミアム部分(期首剰余金に相当する部分と解約時点までの当期損益に相当する部分)とに区分して引落す計理処理が行われます。このプレミアム部分についてどの科目からどのような割合で引落すかによって残存受益者の収益分配可能額が影響を受けることとなります(分配可能額の計算については後述します)。そこで、決算時に分配原資の計算を適切に行うために、各科目からの引落し額の計算について詳細なルールが定められています。ここではその説明は割愛しますが、基本的には既存口数に対する解約口数の割合に応じて、受取配当金や有価証券売買等損益などの各損益項目から直接引落す計理処理が行われる点がポイントです。

なお、一部解約の場合には通常、解約代金の支払いは基準価額適用日から起算して4~5営業日目となるので、その間、未払解約金を計上します。

このような特殊な処理は、一般の企業会計とは異なる会計処理であるため、後述のとおり最終的な財務諸表の表示においては調整が施されることとなります。

図表4 一部解約の計理処理のイメージ


(2) 収益分配の仕組み

分配可能額の計算ルールは、投資信託協会の「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」で規定されています。分配可能額の計算ルールは大きく単位型と追加型とで異なりますが、ここでは最も一般的な追加型株式投資信託について見ていくこととします。

追加型株式投資信託における分配原資は大きく、①経費控除後の配当等収益、②経費控除後の有価証券売買等損益、③収益調整金及び④分配準備積立金の4つから成り立っています。このうち、①経費控除後の配当等収益は、受取配当金、受取利息などのいわゆるインカムゲインから経費を控除したものであり、その性質上金額が確定しているため全額を分配原資に充てることが可能です。②経費控除後の有価証券売買等損益は、有価証券売買(評価)損益や先物取引等取引(評価)損益などのいわゆるキャピタルゲインから経費を控除したものであります。ただし、有価証券売買等損益には評価損益も含まれており、相場動向に左右される未確定のものであるため、金額がプラスの場合であっても繰越欠損金(過去からの累積ベースでの有価証券売買等損益がマイナスの状態)が存在する場合には、当該欠損金を填補してなおプラスである場合にのみ分配原資に充てることが可能です。③収益調整金は前述のとおり追加設定代金のうち元本超過額であり、原則として全額分配原資に充てることが可能です。④分配準備積立金は過年度に発生した利益のうち分配せずに内部留保した金額であり、全額分配原資に充てることが可能です。以上の①~④の合計額が分配可能額となります。

一般にファンドがトータルで損失を計上している場合や欠損金を抱えている状態であっても分配金が支払われることがありますが、これは、上記のような分配可能額の計算ルールにおいて、キャピタルロスの発生状況にかかわらず経費控除後の配当等収益を全額分配可能としていることや、収益調整金の仕組みがあるからこそ可能であるということができます。

この仕組みは相場に左右されずに安定的に分配金を支払うことを可能にしていますが、とくに収益調整金からの分配金は、実質的には投資元本の一部払戻しとしての性格を有しているものと考えられ、税務上も「特別分配金」として非課税扱いとされています。
 

(週刊 経営財務 平成22年11月15日 No.2991 掲載)



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