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2016.05.13
(2020.01.30更新)
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 浦田 千賀子
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 村田 貴広
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔
繰延税金資産の回収可能性は、将来の企業の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて判断することになります。例えば、業績が悪化し、将来の課税所得の発生を見込むことができないような企業においては、軽減可能な将来の税金負担がないことから、一定の場合を除き、繰延税金資産の計上は認められません。
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、回収可能性適用指針)では、繰延税金資産の回収可能性を判断する際、企業の過去の課税所得の発生状況や将来の業績予測等の要件に基づき、企業を五つに分類し、当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することとしています(回収可能性適用指針15項)。以下、当該5分類について解説します。
過去(3年)及び当期の全ての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じており、かつ、当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない企業(以下、「(分類1)に該当する企業」)は、通常、将来においても一定水準の課税所得が生じると予測できるため、原則として※1、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとされます(回収可能性適用指針17項、18項)。
次の要件をいずれも満たす企業(以下、「(分類2)に該当する企業」)は、通常、将来においても安定的に同水準の課税所得が生じると予測できるため、一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます(回収可能性適用指針19項、20項)。
① 過去(3年)及び当期の全ての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている
② 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない
③ 過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない
一方で、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産については、回収可能性がないものとされます。ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産であっても、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが、将来のいずれの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、回収可能性があるものとされます(回収可能性適用指針21項)。
次の要件をいずれも満たす企業※2(以下、「(分類3)に該当する企業」)は、通常、長期にわたり安定的な課税所得の発生を予測することができないため、将来の合理的な見積期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます(回収可能性適用指針22項、23項)。
① 過去(3年)および当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している(負の値となる場合を含む)
② 過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない
しかし、一時差異等が5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた場合であっても、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案した結果、回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます(回収可能性適用指針24項)。
また、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、スケジューリングの結果、その解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異(以下、「長期性の一時差異」という。)については、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)を超えた期間であっても、当期末における当該将来減算一時差異の最終解消見込年度までに解消されると見込まれるものについて、回収可能性があると判断できるものとされます(回収可能性適用指針35項(2))。
次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は、通常、当該翌期を除いて将来の課税所得の発生を合理的に見積もることは困難と判断されるため、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます(回収可能性適用指針26項、27項)。
① 過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている
② 過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある
③ 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる
また、長期性の一時差異についても、上記と同様に、翌期に解消される将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性があると判断できるものとされます(回収可能性適用指針35項(3))。
ただし、上記(分類4)の要件を満たした場合であっても、重要な税務上の欠損金が生じた要因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類2)に該当する企業として取り扱い、また、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、(分類3)に該当する企業として取り扱われます(回収可能性適用指針28項、29項)。
過去(3年)及び当期の全ての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じており、かつ、翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれている企業(以下、「(分類5)に該当する企業」)は、通常、将来の課税所得の発生を合理的に見積もることができないと判断されるため、原則として※3、繰延税金資産(長期性の一時差異に係るものを含む)の回収可能性はないものとして取り扱います(回収可能性適用指針30項、31項)。
※1(分類1)に該当する企業であっても、例外的に繰延税金資産の回収可能性はないと判断される場合を考慮し、回収可能性適用指針では、「原則として」という表現が用いられています。例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合が想定されています(回収可能性適用指針67-4項)。
※3(分類5)に該当する企業であっても、稀に繰延税金資産の回収可能性があると判断される場合を考慮し、回収可能性適用指針では「原則として」との表現が用いられています。たとえば、設立間もない企業等において、実際の税務上の欠損金の額が設立当初の合理的な中長期計画において予測されていた額で推移し、かつ、当該計画に従うと翌期より後の事業年度における一時差異等加減算前課税所得が見込まれるようなケースが想定されています(回収可能性適用指針95項)
上記(分類1)から(分類5)までの要件をいずれも満たさない場合には、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいものと判断される分類へと区分することとなります(回収可能性適用指針16項)。
企業の分類ごとの計上可能な繰延税金資産の範囲のイメージは下図の通りです。
<図表>
税効果会計(平成27年度更新)
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