わかりやすい解説シリーズ「企業結合」(平成25年改正会計基準) 第1回:共通支配下の取引等の会計処理(吸収合併)

公認会計士 内川 裕介
公認会計士 高野 昭二


1.はじめに

本解説シリーズでは組織再編行為の会計上の分類のうち、共通支配下の取引等について設例を用いて解説します。

回数

組織再編行為

設例

第1回

吸収合併

(1)親会社が子会社を吸収合併(子会社が100%子会社の場合)

(2)親会社が子会社を吸収合併(非支配株主が存在する場合)

第2回

事業譲渡及び
会社分割

(1)事業譲渡により親会社が子会社に事業を移転(対価が現金等の財産のみの場合)

(2)会社分割により親会社が子会社に事業を移転(対価が子会社株式のみの場合

第3回

株式交換

(1)株式交換により子会社を完全子会社化

第4回

株式移転

(1)株式移転により完全親会社(ホールディングス会社)を設立

第5回

子会社同士の吸収合併

(1)子会社同士の吸収合併(対価が現金等の財産のみの場合)

(2)子会社同士の吸収合併(対価が子会社株式のみの場合)

 

平成25年9月13日改正「企業結合に関する会計基準(企業会計基準第21号)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(企業会計基準適用指針第10号)に基づいています。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

2.組織再編行為の会計上の分類

組織再編行為の会計上の分類は、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等の3つに分類されます。このうち本解説シリーズでは共通支配下の取引等を取り上げて解説します。

共通支配下の取引等とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつその支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます。つまり、親会社と子会社、子会社同士など、連結グループ内で組織再編行為が行われた場合の企業結合が該当します。

この共通支配下の取引等には(1)共通支配下の取引と(2)非支配株主との取引があり、基本的な考え方は以下のとおりです。

(1)共通支配下の取引

連結グループ内での内部取引となるため、各社の帳簿価額での処理が前提となります。

(2)非支配株主との取引

連結グループ外の外部取引となるため、各社の帳簿価額ではなく、時価または取得の対価での処理が前提となります。

 

3.親会社が子会社を吸収合併(100%子会社の場合)

【設例】

  • A社はB社発行済株式総数の100%保有している。

  • A社はB社を吸収合併した(吸収合併存続会社はA社)。

  • B社はA社が新規設立した会社である。

  • B社は設立後に当期純利益100を計上している。
図1 親会社が子会社を吸収合併(100%子会社の場合)

 

  • 合併期日前日の貸借対照表は以下のとおりである。
図2 合併期日前日の貸借対照表

 

(1)吸収合併存続会社である親会社A社の仕訳

  • 親会社A社が子会社B社から受け入れる資産及び負債は、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上します。

  • 親会社A社が合併直前に保有していた子会社株式の適正な帳簿価額とB社から受け入れる資産及び負債との差額は、特別損益(抱合せ株式消滅差益)に計上します。
吸収合併存続会社である親会社A社の仕訳

 

(2)合併後のA社貸借対照表

  • 合併後のA社貸借対照表は次のようになります。
図3 合併後のA社貸借対照表

 

4.親会社が子会社を吸収合併(非支配株主が存在している場合)



【設例】

  • A社はB社発行済株式総数の80%保有している。

  • A社はB社を吸収合併した(吸収合併存続会社はA社)。

  • A社はB社の非支配株主に新株300を発行した。
図4 親会社が子会社を吸収合併(非支配株主が存在している場合)
  • 合併期日前日の貸借対照表は以下のとおりである。
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(1)吸収合併存続会社である親会社A社の仕訳

  • 親会社A社が子会社B社から受け入れる資産及び負債は、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上することになります。

  • 親会社A社は、子会社B社の株主資本を合併期日直前の持株比率に基づき、①親会社持分相当額と②非支配株主持分相当額に按分し、次のように処理します。

① 親会社持分相当額

親会社A社が合併直前に保有していた子会社株式の適正な帳簿価額と、B社から受け入れる資産及び負債との差額は、特別損益(抱合せ株式消滅差益)に計上します。

② 非支配株主持分相当額

取得の対価と非支配株主持分相当額との差額は、その他資本剰余金として計上します。

① 親会社持分相当額(80%)

① 親会社持分相当額(80%)

※1 B社諸資産 1,000×80%

※2 B社諸負債 200×80%

 

② 非支配株主持分相当額(20%)

② 非支配株主持分相当額(20%)

 

※3 取得の対価と非支配持分相当額との差額 300-160
※4 新株発行による増加資本300については、払込資本の増加(資本金または資本剰余金)として処理します。資本金、資本準備金、その他資本剰余金のいずれを増加するかは会社法の規定に基づき決定することになります。ここでは資本剰余金(その他資本剰余金)の増加としています。

 

(2)合併後のA社貸借対照表

  • 合併後のA社貸借対照表は次のようになります。
図6 合併後のA社貸借対照表



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