2022年3月期 有報収益認識開示分析 第3回:収益認識注記①(収益を理解するための基礎となる情報)

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中澤 範之

Question

2022年3月期決算に係る有価証券報告書の「重要な会計方針の注記」や「収益認識に関する注記」における「収益を理解するための基礎となる情報」に関する注記の記載状況を知りたい。

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:2022年8月
  • 調査対象期間:2022年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2022年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する198社

① 3月31日決算
② 2022年6月30日までに有価証券報告書を提出している。
③ 日本基準を採用している。

なお、連結財務諸表を分析の対象としており、連結財務諸表を作成していない会社は個別財務諸表を分析対象としている。

    【調査結果】

    (1) 収益を理解するための基礎となる情報の分析

    調査対象会社198社を対象として、収益を理解するための基礎となる情報の注記の記載状況を調査した。

    <図表1>のとおり、収益を理解するための基礎となる情報を収益認識に関する注記に記載した会社は50社、重要な会計方針の注記に記載した会社は133社であった。なお、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)が適用となる収益自体がない、又はその重要性がないことから注記の記載がない会社は、主に銀行業、保険業、その他金融業の会社であった。

    <図表1>収益を理解するための基礎となる情報を注記した会社数

    収益を理解するための基礎となる情報の注記箇所

    会社数

    比率

    収益認識に関する注記

    50

    25.3%

    重要な会計方針の注記

    133

    67.2%

    小計

    183

    92.4%

    重要性が乏しいことから注記を省略している

    3

    1.5%

    注記の記載なし・該当がない

    12

    6.1%

    合計

    198

    100.0%

    (2) 契約及び履行義務に関する情報

    調査対象会社198社を対象として、契約及び履行義務に関する情報について、代理人取引に言及している会社を調査した。

    <図表2>のとおり、代理人取引について純額で収益を認識している旨を注記し、会計処理まで言及している会社が50社、代理人取引を行っている旨のみを注記している会社が7社、代理人取引を行っていない旨を注記している会社が1社であった。直送の多いと考えられる化学や卸売業において、代理人取引の注記が多かった。

    分類

    業種

    会社数

    調査対象会社数

    比率

    代理人取引を純額で認識している旨化学
    卸売業
    小売業
    陸運業
    食品業
    情報・通信業
    サービス業
    パルプ・紙
    その他
    11
    6
    5
    4
    4
    4
    2
    2
    12
    17
    10
    10
    8
    9
    14
    16
    3
    111
    64.7%
    60.0%
    50.0%
    50.0%
    44.4%
    28.6%
    12.5%
    66.7%
    10.8%

    小計

    50

    代理人取引を行っている旨(※)

    7

    代理人取引を行っていない旨

    1

    合計

    58

    (※) 代理人取引として判断している旨の記載を含む。

    (3) 取引価格の算定に関する情報

    取引価格の算定に関する情報について、重要な金融要素に言及している会社を調査した結果は<図表3>のとおりであった。

    重要な金融要素に言及した111社のうち、110社は重要な金融要素は含まれていない、又は重要な金融要素の調整は行っていない等の重要な金融要素を区分して処理していない旨を注記しており、重要な金融要素の調整を行っている旨の注記は建設業1社であった。なお、重要な金融要素に関する記載において、例えば「取引の対価は履行義務を充足してから1年以内に受領しており、重要な金融要素は含まれておりません」のように、重要な金融要素にあわせて支払条件にも言及する事例が見られた。

    <図表3>重要な金融要素及び支払条件分析

     

    業種

    重要な金融要素に言及した会社数

    支払条件に言及した会社数(※)

    サービス業

    11

    10

    化学

    11

    11

    建設業

    11

    8

    電気機器

    10

    10

    情報・通信業

    8

    8

    卸売業

    6

    8

    機械

    5

    5

    食料品

    5

    7

    小売業

    5

    6

    その他

    5

    35

    合計

    111

    108

    (※) 「取引の対価は履行義務を充足してから1年以内に受領」のように取引対価の受領期間を記載した会社を含む。

    (4) 履行義務の充足時点に関する情報

    各業種の対象会社の半数以上が一定期間による履行義務の充足の注記をしている業種から、サービス業、情報・通信業、海運業、陸運業の40社を一定期間による記載が多い業種として調査した。

    <図表4>のとおり、時の経過とともに一定期間に履行義務を充足している記載が23社、サービス提供の進捗とともに一定期間に履行義務を充足している記載が10社であった。例えば、サービス提供の一定期間は「広告サービスの契約期間」「派遣期間の稼働実績」「実質作業期間に基づく進捗率」「配送の進捗度」などが記載されていた。

    また、一定期間による履行義務の充足が少ない業種から、化学、金属製品、非鉄金属、食料品、水産・農林業、パルプ・紙、石油・石炭製品、医薬品、ガラス・土石製品、輸送用機器、繊維製品の49社を、一時点による記載が多い業種として調査した。

    <図表5>のとおり、商品等の引渡時点・サービス提供時点が最も多く42社であり、あわせて企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」98項に定める代替的な取扱いを適用して、物品の出荷時点から顧客が当該物品に対する支配を獲得するまでの期間が通常の期間である場合は出荷時点によって収益を認識する旨が注記されていた。輸出取引については、インコタームズ等で定められた貿易条件に基づき危険負担が顧客に移転した時点に収益を認識する旨が注記されていた。

    <図表4>一定期間による記載が多い業種分析(※1)

    分類

    内容

    会社数

    一定期間

    サービス提供の経過期間


    サービス提供の進捗度


    工事契約のインプット法等(※2)


    原価回収基準

    23


    10


    12


    4

    (※1) 対象はサービス業、情報・通信業、海運業、陸運業の40社。
    (※2) ソフトウエア開発に関する見積総原価に対する発生原価の割合で進捗度を測定する方法を含む。

     

    <図表5>一時点による記載が多い業種分析(※1)

    分類

    内容

    会社数

    一時点

    引渡時点、サービス提供完了時


     

    出荷時点、船積時点


     

    据付完了時点


     

    検収時点


     

    貿易条件に基づく(※2)


     
    完全に履行義務が充足(収益認識適用指針95項)

    42


     

    32


     

    1


     

    8


     

    6


     
    6

    (※1) 対象は化学、金属製品、非鉄金属、食料品、水産・農林業、パルプ・紙、石油・石炭製品、医薬品、ガラス・土石製品、輸送用機器、繊維製品の49社。
    (※2) インコタームズ等で定められた貿易条件に基づき危険負担が顧客に移転した時点を含む。
    (旬刊経理情報(中央経済社)2022年10月10日号 No.1657「2022年3月期有報における収益認識の開示分析」を一部修正)


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