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公認会計士 中村 崇
第5回では支配が継続している場合の連結子会社一部売却の会計処理について解説します。
設例5 当初持分比率80%(連結子会社)→60%(連結子会社)→30%(持分法)のケース
子会社株式の一部売却
支配関係が継続している場合に連結子会社株式を一部売却した場合には、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分(改正前は少数株主持分)を増額します。
なお、売却による親会社の持分の減少額(以下「売却持分」という。)と売却価額との間に生じた差額は、平成25年改正前は子会社株式の売却損益の修正として処理し、売却に伴うのれんはのれんの未償却分のうち売却した株式に対応する部分を同様に売却損益の修正として処理していました。改正後、当該差額は資本剰余金として処理し、のれんの未償却分は減額しません(連結会計基準第29項、66-2項)。
平成25年改正前 |
平成25年改正後 |
---|---|
売却持分と売却価額の間に生じた差額は「売却損益の修正」 |
売却持分と売却価額の間に生じた差額は「資本剰余金」 |
のれん未償却分のうち売却した株式に対応する部分を「売却損益の修正」として処理 |
のれん未償却分は減額しない。 |
のれんの未償却分を減額しない理由は、支配獲得後は支配が継続している限り、償却や減損を除いてのれんを減額すべきではないという考え方や、支配獲得後における子会社株式の追加取得時にはのれんが追加計上されない(平成25年改正により資本剰余金として処理)一方、一部売却時にのれんを減額すると、追加取得時の会計処理と整合した取扱いにはならないという考え方によるものです。
つまり、支配が継続している間は、のれんの償却や減損を除いて、持分変動が生じた場合にものれんの金額は変動しないということになります。
なお、子会社株式の売却等により被投資会社が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合には、改正前と同様に、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価します。
支配が継続している限り、子会社株式の一部売却を行った場合にものれんの金額は増減しません。
ここで、当該のれんの償却額について、全額を親会社株主に帰属する当期純利益に計上するか、減少した持分に相当するのれん償却額は非支配株主に帰属する当期純利益(改正前の少数株主利益)に計上するかということが論点となります。
会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下、資本連結実務指針という。)第66-3項では、のれんが計上されるのは支配獲得時点であり、親会社と子会社の支配関係が継続している場合には、たとえ親会社の持分変動があったとしても、支配獲得時に計上したのれんの未償却額を減額しないこととされたため、一部売却により持分が減少したとしても、当初に支配を獲得した持分に対応するのれんの償却額は全額親会社株主に帰属する当期純利益に計上することとされています。
改正前は、追加取得が行われた場合、追加取得持分と追加投資額との差額は、のれん又は負ののれんとして処理され、一部売却の場合にはのれんの未償却分ののうち売却した株式に対応する部分を減額処理していました。
改正後は、支配が継続している限り、追加取得を行った場合にも一部売却を行った場合にものれんの金額は増減しません。
この違いから、支配獲得後に追加取得や一部売却等によって持分比率が増減した後に支配を喪失して関連会社になった場合、のれんの未償却分のどの部分を関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却分として算定するかが論点となります。
支配を喪失して関連会社になった場合におけるのれんの未償却額の算定に当たっては、以下の2つの方法等から、適切な方法に基づき、関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却額を算定することとされています。(資本連結実務指針第45-2項、第66-6項参照)。
①支配獲得後の持分比率の推移等を勘案し、のれんの未償却額のうち、支配獲得時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法
②支配喪失時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法
これらの方法を数値に当てはめると以下のような考え方になります。
例:追加取得後に支配を喪失した場合(60%→70%→30%と持分比率が推移した場合)
①の方法: のれんの未償却額のうち、60分の30を減額する
(分母:支配獲得時の親会社持分、分子:売却持分から追加取得持分を控除)
②の方法: のれんの未償却額のうち、70分の40を減額する
(分母:売却直前の親会社持分、分子:売却持分)
なお、平成25年改正前に生じたのれんの未償却額について、①の支配獲得時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法を用いる場合、支配獲得時の持分比率に代えて、改正連結会計基準適用時点における持分比率を基礎として、売却後の持分に対応するのれん残高を算定することになります。
子会社株式の追加取得及び一部売却等によって生じた資本剰余金は、その後子会社に対する支配が喪失した場合においても、損益や利益剰余金に振り替えることなく、引き続き連結財務諸表上資本剰余金として計上します。
資本剰余金が負の値となり、当該資本剰余金がゼロになるまで利益剰余金で調整する処理を行っていた場合、子会社が連結範囲から除外された場合にも、連結財務諸表上引き継がれることとされています。(資本連結実務指針第49-2項)
子会社株式の一部売却において、関連する法人税等(子会社の投資に対する税効果の調整を含む)は、資本剰余金として処理します(連結会計基準29項及び注9(2))。
個別財務諸表上、売却益に対応する法人税、住民税及び事業税が計上されますが、連結財務諸表上、資本剰余金として計上される部分(連結上簿価と売却額との差額)については、連結財務諸表上、法人税、住民税及び事業税を相手勘定として、資本剰余金へ振り替えます。
この振替処理は個別財務諸表上で実際に税額が発生しているかどうかにかかわらず法定実効税率を用いることが原則とされています。なお、実際に発生した税金費用を上限とする方法等、他の合理的な算定方法によることも可能です(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下、連結税効果実務指針という。)第39項)。
また、支配が継続している場合に子会社株式を追加取得した際の増加持分と取得対価との差額や、子会社株式を一部売却した際の減少持分と売却価額との差額は一時差異となります。当該一時差異に関連する繰延税金資産及び繰延税金負債を計上する場合には、法人税等調整額ではなく、資本剰余金を相手勘定として計上されます(連結税効果実務指針第39項、第40項、第40-2項)。
支配が継続している場合、子会社株式を追加取得した場合のキャッシュ・アウト・フロー、及び子会社株式を一部売却した場合のキャッシュ・イン・フローは、いずれも非支配株主との取引として「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に表示します。
(会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」第9-2項)
設例5 当初持分比率80%(連結子会社)→60%(連結子会社)→30%(持分法)のケース
平成25年改正前後で変更のある箇所については、改正前後の会計処理を併記しています。
P社がS社の株式を一部売却
取得日 |
持分比率 |
株式数 |
取得原価又は |
取得・売却時点の時価 |
---|---|---|---|---|
X1年3月31日 |
80% |
8,000 |
240,000 |
30 |
X2年3月31日 |
△20% |
△2,000 |
(原価)60,000 |
(売価)36 |
X3年3月31日 |
△30% |
△3,000 |
(原価)90,000 |
(売価)33 |
30% |
3,000 |
90,000 |
発行済み株式数:10,000株
① 前提条件
X1年3月31日のP社及びS社の貸借対照表
支配獲得時(X1年3月31日)の土地の時価評価額は260,000千円
② 連結仕訳(単位:千円)
(ア) 土地に係る評価差額の計上
計算式:土地の時価-土地の帳簿価額=260,000-160,000=100,000
(イ) 修正後のS社貸借対照表
(ウ) 投資と資本の相殺消去
<平成25年改正後の会計処理>
*1(資本金100,000+利益剰余金80,000+評価差額100,000)×非支配株主持分比率20%=56,000
*2 S社株式240,000-(資本金100,000+利益剰余金80,000+評価差額100,000)×P社持分比率80%=16,000
<平成25年改正前の会計処理>
① 前提条件
X2年3月31日のP社及びS社の貸借対照表
S社株式の売却価額は72,000千円、売却簿価は60,000千円であるため、P社の個別財務諸表上、12,000千円の売却益が計上されます。
② 連結仕訳(単位:千円)
(ア) 土地に係る評価差額の計上
計算式:支配獲得時における土地の時価-土地の帳簿価額=260,000-160,000=100,000
(イ) 修正後のS社貸借対照表
(ウ) 開始仕訳(新規取得年度②(ウ)と同様)
<平成25年改正後の会計処理>
<平成25年改正前の会計処理>
(エ) のれんの償却
X2年3月期から10年間で定額法により償却するものとする。
※ のれん16,000×1/10=1,600
(オ) 非支配株主に帰属する当期純利益(少数株主損益)の計上
<平成25年改正後の会計処理>
* S社当期純利益30,000×非支配株主持分比率20%=6,000
<平成25年改正前の会計処理>
(カ) 一部売却仕訳
<平成25年改正後の会計処理>
*1(資本金100,000+利益剰余金110,000+評価差額100,000)×増加する非支配株主持分比率(=売却持分比率)20%=62,000
*2 非支配株主持分62,000 - S社株式60,000 =2,000
平成25年改正後では、のれんの未償却部分についての調整が行われません。
<平成25年改正前の会計処理>
*2(のれん16,000-のれん償却1,600)÷売却前P社持分比率80%×売却持分比率20%=3,600
株式売却益の資本剰余金への振替え
* P社個別財務諸表における株式売却益12,000-連結上の売却益の修正2,000=10,000
X2年の連結仕訳を集計し、連結財務諸表への影響をまとめると、下記のとおりになります。
一部売却時にのれんが減額されないことにより、改正後は改正前に比べて純資産が3,600大きくなります。
また、P社投資(S社株式)とS社資本の関連性をまとめたものが以下の図1になります。
<図1:P社投資(S社株式)とS社資本の関連図>
① 前提条件
X3年3月31日のP社及びS社の貸借対照表
S社株式の売却価額は100,000千円、売却簿価は90,000千円で、P社個別財務諸表上、10,000千円の売却益が計上されます。
② 連結仕訳(単位:千円)
(ア) 土地に係る評価差額の計上
計算式:支配獲得時における土地の時価-土地の帳簿価額=260,000-160,000=100,000
(イ) 修正後のS社貸借対照表
(ウ) 開始仕訳
<平成25年改正後の会計処理>
*1 X1年開始仕訳利益剰余金80,000+×2年損益取引仕訳(のれん償却1,600+非支配株主に帰属する当期純利益6,000+株式売却益修正12,000)=99,600
<平成25年改正前の会計処理>
*1 X1年開始仕訳利益剰余金80,000+×2年損益取引仕訳(のれん償却1,600+少数株主損益6,000+株式売却益修正5,600)=93,200
(エ) のれんの償却
<平成25年改正後の会計処理>
※ のれん14,400×1/9(残り9年)=1,600
または支配獲得時におけるのれん16,000×1/10 =1,600
<平成25年改正前の会計処理>
※ のれん10,800×1/9(残り9年)=1,200
(オ) 非支配株主に帰属する当期純利益(少数株主損益)の計上
<平成25年改正後の会計処理>
* S社当期純利益20,000×非支配株主持分比率40%=8,000
<平成25年改正前の会計処理>
(カ) 一部売却に伴う開始仕訳の振り戻し
S社株式の一部売却に伴いS社は持分法適用会社となるため、開始仕訳を振り戻す。
<平成25年改正後の会計処理>
<平成25年改正前の会計処理>
(キ) 一部売却に伴うS社貸借対照表の除外仕訳
(ク) 持分法による評価及び非支配持分の振戻し
連結除外年度までに計上されたS社の当期純利益等を計上し、S社株式に加算
<平成25年改正後の会計処理>
*1 X1期当期純利益30,000×P社持分比率(X1期)80%-のれん償却額1,600+X2期当期純利益20,000×P社持分比率(X2期)60%-のれん償却額1,600-株式売却益調整額2,000=30,800
*2 X2期当期純利益20,000×少数株主持分比率40%=8,000
*3 X1期当期純利益30,000×P社持分比率(X1期)80%-のれん償却1,600-株式売却益調整額2,000=20,400
<平成25年改正前の会計処理>
*1 X1期当期純利益30,000×P社持分比率(X1期)80%-のれん償却1,600+X2期当期純利益20,000×P社持分比率(X2期)60%-のれん償却1,200-株式売却益調整額5,600=27,600
*2 X2期当期純利益20,000×少数株主持分比率40%=8,000
*3 X2期償却のれん部分1,200
*4 支配喪失前期までの取込額:X1期当期純利益30,000×P社持分比率(X1期)80%-のれん償却1,600-株式売却益調整額5,600=16,800
(ケ) 株式売却損益の修正
<平成25年改正後の会計処理>
*1
<平成25年改正前の会計処理>
*1
X3年の連結仕訳を集計し、連結財務諸表への影響をまとめると、下記のとおりになります。
X2年にはのれんが減額されないことにより、改正前に比べて改正後の純資産が3,600大きくなっていました。
X3年には、のれん償却額が改正前に比べて改正後の方が400大きく、支配喪失時には改正前に比べてのれんの減額が3,200大きくなっているため、計3,600の費用が増加した結果、改正前と改正後の純資産額は同額となります。なお、改正後は10,000が資本剰余金に振り替えられているため、改正後に比べて利益剰余金が10,000少なく、資本剰余金が10,000多くなります。
改正後のP社投資(S社株式)とS社資本の関連性をまとめたものが以下の図2になります。
<図2:改正後のP社投資(S社株式)とS社資本の関連図>
図2内の黄色塗部分が改正後の連結上の売却持分になります。X1年の一部売却時にのれんを減少させていなかった部分は支配喪失時に売却持分に含まれることになります。 連結仕訳としては、個別上の売却簿価90,000と連結上の売却持分簿価107,000の差額17,000を株式売却益にて調整することになります。
また、改正前のP社投資(S社株式)とS社資本の関連性をまとめたものが以下の図3になります。
<図3:改正前のP社投資(S社株式)とS社資本の関連図>
図3内の黄色部分が売却持分となります、緑色塗部分の、のれんの売却持分相当額(3,600)はX1年に株式売却益として調整済であるため、売却持分には含まれません。
したがって、連結上の売却持分簿価は黄色塗部分103,800となり、個別上の売却簿価90,000と連結上の売却持分簿価103,800の差額13,800を株式売却益にて調整することになります。