連結(平成25年改正) 第2回:親子会社間の会計処理の統一

公認会計士 中村 崇

1. 親子会社間の会計処理の統一

(1) 親子会社間の会計処理の統一の意義

連結財務諸表は、子会社などを含めた企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を報告するものです。
親会社と各子会社は、それぞれの置かれた環境の下で経営活動を行っているため、親会社と各子会社の会計処理を画一的に統一することは、かえって連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に表示しなくなるということも考えられます。しかし、同一環境下の同一の性質の取引等について連結会社間で会計処理が異なっている場合、その個別財務諸表を基礎とした連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の適切な表示を損なうことになります。

したがって、連結財務諸表作成にあたっては、「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計処理の原則及び手続は、原則として統一する」こととされています(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、連結会計基準という。)第17項)。

企業集団の会計方針を統一した上で、連結グループの会計方針として定め、連結グループ内の各子会社等に周知する必要があります。実務上、連結グループ各社の決算の精度を均質化するために、勘定科目体系を制定し、周知することも非常に重要となります。

(2) 在外子会社の取扱い

在外子会社に関しては、当該子会社の財務諸表が国際財務報告基準又は米国会計基準に準拠して作成されている場合には、当面の間、以下の項目を修正することにより、連結決算手続上利用できることとされています(実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」)。

項目

修正の概要

のれんの償却

その計上後20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却し、当該金額を当期の費用とするよう修正する。

退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理

数理計算上の差異をその他の包括利益で認識し、その後費用処理を行わない場合には、日本基準に従った当該金額を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理する方法により当期の損益となるよう修正する。

研究開発費の支出時費用処理

日本基準で費用処理すべき研究開発費を資産計上している場合には、支出時の費用となるように修正する。

投資不動産の時価評価および固定資産の再評価

投資不動産を時価評価している場合、または、固定資産を再評価している場合には、取得原価を基礎として、正規の減価償却によって算定された減価償却費(減損処理を行う必要がある場合には、減損損失を含む)を計上するよう修正する。

(3) 会計処理の統一を要しない場合

同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親子会社間の会計処理は「原則として」統一するものとされています。
この「原則として」とは、統一しないことに合理的な理由がある場合、または重要性がない場合を除いて統一を要することを意味しています。 合理的な理由及び重要性の取扱いは以下のとおりですが、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に表示するように、総合的な判断を行う必要があると考えられます(「親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い」に関するQ&A)。

統一しない理由

取扱い

合理的な理由がある

子会社自身が上場会社であり、独自の会計方針を採用している場合等。ただし、会計基準の趣旨を考慮し、会社と監査人の間で個別に協議が必要。

重要性がない

それぞれの個別財務諸表上の数値ではなく、連結財務諸表上の数値に基づいて判断するが、具体的な数値基準は定められていない。
重要性の判断基準として、一般的には連結上の親会社株式に帰属する当期純利益が考えられるが、表示方法を検討する際には、売上高、資産総額等、それぞれに適合した数値を使用する。


2. 会計処理の統一方法

親子会社間の会計処理の統一は、以下のような手順によって行われます(監査・保証実務委員会実務指針第56号「親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い」4)。

会計処理の統一方法

(1) 同一環境下で行われた同一の性質の取引等の識別

「同一環境下で行われた同一の性質の取引等」について、明確な定義付けは行われておらず、その識別は経営者の判断に委ねられています。
識別方法の代表的な例として、取引の種類に応じて以下のような例が示されています。

取引の種類

識別方法

営業目的に直接関連する取引

  • 事業セグメントの単位で判断

または、

  • 同一の事業セグメント内でも、製造・販売等の機能別単位その他の適当なグループごとに判断

例えば、売上高の計上基準については、上記の単位ごとに識別を行う。

営業目的に直接関連しない取引

それぞれの取引目的等ごとに判断

引当金の計上基準

各連結会社の状況を踏まえて、企業集団全体として判断

また、いったん適用した「同一環境下で行われた同一の性質の取引等」の範囲を変更することにより、会計処理の原則及び手続を変更する場合には、通常の会計方針の変更として取り扱います。

(2) 企業集団としての会計処理の選択と統一

会計処理の統一にあたっては、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をより適切に表示する会計処理の原則及び手続を選択する必要があります。 したがって、より合理的な会計処理の原則及び手続の選択として、

① 子会社の会計処理を親会社の会計処理に合わせる場合 のみならず、
② 親会社の会計処理を子会社の会計処理に合わせる場合 も考えられます。

(3) 個別財務諸表段階での会計処理の統一

連結財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成することとされています。したがって、親子会社間の会計処理の統一は、各個別財務諸表の作成段階で行うのが原則とされています。
なお、親会社又は子会社の固有の事情により個別財務諸表上では会計処理の統一が図られていない場合は、連結決算手続上で修正を行わなければなりません。

(4) 会計方針の変更

親子会社間の会計処理の統一を目的として会計処理の原則及び手続を変更する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表上、これを「正当な理由」による会計方針の変更として認めるものとされています。
ただし、会計処理の原則及び手続を変更する際には、企業集団の財政状態及び経営成績の適正な開示という観点から判断すべきであり、財政状態及び経営成績の適正開示を後退させるような変更は認められない点に留意する必要があります。

3. 個別の会計処理の取扱い

原則として統一すべき会計処理と、必ずしも統一を必要としない会計処理があります(監査・保証実務委員会実務指針第56号「親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い」5)。

(1) 原則として統一すべき会計処理

以下の項目については、統一しないことに合理的な理由がある場合、または重要性がない場合を除いて、原則として統一する必要があります。

項目

留意点

資産の評価基準

事業セグメント単位等ごとに統一

同一の種類の繰延資産の処理方法

同一種類の繰延資産ごとに統一

引当金の計上基準

各連結会社の状況を踏まえて、企業集団全体として判断し統一

営業収益の計上基準

事業セグメント単位等ごとに、企業集団内の親会社又は子会社が採用している計上基準の中で、企業集団の財政状態及び経営成績をより適切に表示すると判断される計上基準に統一

(2) 必ずしも統一を必要としない会計処理

以下の項目については、統一することが望ましいが、事務処理の経済性等を考慮して、必ずしも統一を要しないものとされています。

項目

留意点

資産の評価方法

  • 棚卸資産の評価方法(先入先出法、平均法等)
  • 有価証券の評価方法(移動平均法等)

これらについては事業セグメント単位等ごとに統一することが望ましいが、必ずしも統一を要しない。

固定資産の減価償却の方法

  • 有形固定資産及び無形固定資産の減価償却の方法(定額法、定率法等)

事業セグメント単位等に属する資産の種類ごとに統一することが望ましいが、事業場単位での償却方法の選択も認められる。


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