包括利益の表示に関する会計基準 第1回:包括利益の定義、目的

公認会計士 七海健太郎

1. はじめに

企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、会計基準)が平成22年6月30日に企業会計基準委員会から公表され、わが国の会計にも包括利益という概念が取り入れられることとなりました。第1~4回では、包括利益に関する基本的事項について概説します。

2. 包括利益の定義

包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます(会計基準4項)。包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分を、その他の包括利益といいます(会計基準5項)。

なお、当該企業の純資産に対する持分所有者として、以下の者が挙げられます。

  • 当該企業の株主

  • 当該企業の発行する新株予約権の所有者

  • 連結財務諸表においては、当該企業の子会社の少数株主

言い換えると、純資産の変動のうち資本取引に該当しないものが包括利益に該当しますが、どのようなものが包括利益に該当するのかについてのイメージは以下の図をご参照ください。

どのようなものが包括利益に該当するのか

(※)平成25年4月1日以後開始する連結会計年度より

3. 包括利益表示の目的

包括利益を表示する目的は、期中に認識された取引及び経済事象(資本取引を除く)により生じた純資産の変動を報告することです。また、以下のような効果も期待されています。

  • 財務諸表利用者が企業全体の事業活動を検討するのに資する

  • 財務諸表の理解可能性と比較可能性を高める

  • 国際的な会計基準とのコンバージェンス

つまり、包括利益の表示は、包括利益が企業活動に関する最も重要な指標として位置付けられたため行われるということではなく、その表示によって提供される情報を、当期純利益に関する情報と併せて利用することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めるために行われるものです(会計基準22項)。


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