EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 内川 裕介
公認会計士 武澤 玲子
会社法では、株主に対する金銭等の分配および自己株式の有償取得を合わせて剰余金の配当等とし、統一的に財源規制をかけるものとされています(会461条)。これに伴い、剰余金の分配可能額の算定方法も明確にされています。
分配可能額の算定は、以下の3ステップを踏むことになります。
分配可能額の算定の流れ |
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(1) 決算日における剰余金の額の算定 (2) 決算日以降分配時点までの剰余金の増減を反映させ、分配時点の剰余金の額を算定(分配時点における剰余金の算定) (3) 分配時点の剰余金の額から自己株式の帳簿価額等を差し引いて分配可能額を算定(分配可能額の算定) |
図でのイメージは以下のとおりとなります。
以下、上記(1)~(3)について、それぞれ解説します。
決算日における剰余金の額の算定については、会社法446条第1号において次のとおりとされています。
決算日における剰余金の額=(イ)資産の額+(ロ)自己株式の帳簿価額の合計額-(ハ)負債の額-(二)資本金・準備金-(ホ)法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
決算日における剰余金の額は、資産の額に自己株式の帳簿価額を加え、負債の額と資本金および準備金の額、その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額を控除することにより算定されます。
その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は会社計算規則149条で規定されています。その内容は下図の吹き出しに記載のとおりです。
これらを計算すると結果的にその他資本剰余金の額およびその他利益剰余金の額の合計額が剰余金の額として残ることとなります。
∴結局、残るのは剰余金の額(その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額)のみ
次に、分配時点の剰余金の額を算定します(会446 条2~7号)。算定式は以下のとおりとなります。
分配時点における剰余金の額=①決算日における剰余金の額+②最終事業年度末日後の自己株式処分損益+③最終事業年度末日後の減資差益+④最終事業年度末日後の準備金減少差益-⑤最終事業年度末日後の自己株式消却額-⑥最終事業年度末日後の剰余金の配当額-⑦法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
会社法では期中の剰余金の変動を随時反映させるために、期中の変動要因として、最終事業年度の末日後の自己株式の処分損益、資本金・準備金の減少、自己株式の消却額、剰余金の配当、その他法務省令で定める額が加減されます。
その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、会社計算規則150条で規定されています。その内容は下記の※に記載のとおりです。
※計規150条に定める事項
以下の項目に該当があれば調整します。
最後に分配可能額を計算します。算定式は以下のとおりとなります(会461条第2項)。
分配可能額=①分配時点における剰余金の額-②分配時点の自己株式の帳簿価額-③事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分対価-④その他法務省令で定める額
分配時点での自己株式の保有状況等を反映させるため、分配時点の剰余金の額から分配時点における自己株式の帳簿価額と、最終事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分価額その他法務省令で定める額を減じて分配可能額を算定します。
その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、会社計算規則158条で規定されています。その内容は下記の※に記載のとおりです。
※計規158条に定める事項
以下の項目に該当があれば調整します。
分配時点の剰余金の額の算定においては、いったん自己株式の処分差損益を反映させました((2)参照)が、分配可能額の算定においては、剰余金の額から自己株式の帳簿価額および自己株式の処分価額を差し引くことにより、分配可能額の算定には自己株式の処分差損益を反映させないことに留意が必要です。
また、分配時における剰余金には、最終事業年度の末日から分配時点までの期間損益は含まれません。しかし、臨時計算書類(会441 Ⅰ)を作成し、株主総会等で承認を受けた場合は、臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間における利益とその期間における自己株式の処分対価を分配可能額に加算することができます(会461条 第2項 2号)。
資産の部にのれんが計上されている場合には、のれんに2分の1を乗じた額と繰延資産の合計額(以下、「のれん等調整額」)と、資本金、準備金およびその他資本剰余金との大小関係によりそれぞれのケースに応じて控除額が算定されます(計規158 1号)。
のれんを計上している会社は、毎期上記金額を算定し、配当規制への該当の有無に留意する必要があります。
前提:
のれん等調整額=のれん(資産の部)×1/2+繰延資産
資本等金額=資本金の額+準備金の額
ケース |
処理 |
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のれん等調整額 ≦資本等金額の場合(計規158条1号イ) |
控除額はゼロ |
資本等の金額 <のれん等調整額 ≦(資本等金額+その他資本剰余金)の場合(計規158条1号ロ) |
(のれん等調整額-資本等金額) を控除 |
(資本等金額+その他資本剰余金) <のれん等調整額の場合 |
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(のれんの金額×1/2) ≦(資本等金額+その他資本剰余金)の場合(計規158条1号ハ(1)) |
(のれん等調整額-資本等金額) を控除 |
(のれんの金額×1/2) >(資本等金額+その他資本剰余金)の場合(計規158条1号ハ(2)) |
(その他資本剰余金+繰延資産) を控除 |
その他有価証券評価差額金および土地再評価差額金は、プラス残高(評価差益)である場合には分配可能額に含まれませんが、マイナス残高(評価差損)である場合には分配可能額から控除します(計規158条2号、3号)。これらの評価差額金は損益に計上されておらず、剰余金を構成するものではありませんが、マイナス残高については会社の財産の減少を示すものであるため、分配可能額から控除すべきものと定められていると考えられます。
会社法(平成26年改正)