5年間にわたる税務・財務部門の変革が成果を上げている理由

5年間にわたる税務・財務部門の変革が成果を上げている理由


EYの調査によると、過去5年間の新しい税務運用モデルは企業に価値をもたらしました。今後5年間でその価値はさらに高まるでしょう。


要点

  • コソーシングは、過去5年間で税務・財務の運用モデルを変革する方法としてますます普及してきた。
  • 最初にコソーシングを採⽤し始めたのは世界最⼤規模の企業であったが、現在では売上⾼200億⽶ドル未満の企業の間で最も急速に成⻑している。
  • 人材、テクノロジー、法改正のペース、コストが変革を推進し続けている。新たな課題によって、より少ない労⼒でより多くのことをこなさなければならないというプレッシャーは増すばかりである。


EY Japanの視点

税務・財務におけるコソーシング、それは企業とサービスプロバイダーの間で役割分担を明確にし、漏れなく効果的、効率的に行うアウトソーシングです。これが日本および世界で税務・財務領域における主流になってきております。その理由は

  • 疲弊しがちな貴重な人材を戦略的業務に投入するため
  • 法規制および税務・財務のDXに対応できるデータ・システムの改善をコソーシングを通じて達成するため
  • 税務管理のゲームチェンジャーとなり得るBEPS2.0への対応のため
  • さらには、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関して税務・財務部門として会社に貢献するため

とさまざまです。今後、生成AIがビジネスおよび税務・財務部門にどのような影響を及ぼすのか不確かな中、地政学的リスクにも対処し、税務・財務のDX促進、それがビジネスにおけるDXと適切なアラインメントもされながら、各企業にとって長期的価値が実現していく必要があります。そのために今、税務・財務部門が実施すべきコソーシングに注目が集まっています。


EY Japanの窓口
上田 理恵子
EY Japan サステナビリティ・タックスリーダー/タックス・アンド・ファイナンス・オペレートリーダー EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー
福澤 保徳
EY Japan テレコムセクター・タックスリーダー EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー

2023年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査
2023年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査

日本における税務アウトソーシング調査結果


組織の税務・財務部⾨を、より広範にビジネスに貢献する知⾒を提供する最新のデータ活用型オペレーションに転換することは、この若い世紀における最も重要かつ必然的なビジネスストーリーの1つです。

EYは過去5年間、一連の調査を通じてこの傾向を記録してきました。この変⾰は、重なり合うプレッシャーに対処する、重要でありながらも資⾦難の税務・財務部⾨に対する現実的な解決策として始まりました。こうしたプレッシャーには、急速な法改正、際限なく加速するデータとテクノロジーの発展、継続的な会計・税務専⾨家不⾜などの⼈材環境の急激な変化が含まれます。

変化の実施
税務運用モデルを変革している回答者の割合

32の国・地域と18の業界にわたる税務・財務専⾨家1,600⼈を対象に実施された2023年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査では、この現象が重⼤な⽅向に進化していることが明らかになりました。とりわけ、こうした変革は単なる現実主義以上のものによって推進されていることが明らかになりました。 — こうした変革は、税務・財務部門を強化してビジネス全体の意思決定に情報を提供し、影響を与えるためのより戦略的な価値を提供することを目的としています。
 

税務部門は現状のプレッシャーに適応している

最新の調査によると、2018年に変革トレンドが巻き起こったのと同様に、企業は次のような多くのプレッシャーに直面しています。

  • 51%のリーダーは、⼈材のモチベーションを⾼め、燃え尽き症候群を回避するのに苦労していると回答。
  • 48%は、データとテクノロジーに関する持続可能な計画の⽋如が、現代の税務・財務部⾨のビジョンを達成する上で、最⼤の障壁であると回答。
  • 90%は、経済協⼒開発機構(OECD)/G20の包摂的枠組みによって策定されたグローバルミニマム課税ルールを各国政府が導⼊した結果、⾃社の事業運営に中程度から⼤幅な変化が⾒込まれると回答。
  • 75%は、今後2年間で税務・財務部門のコスト削減を計画していると回答。⼤まかに⾔えば、最新の調査を含む4回のEY調査それぞれにおいて、回答者は2年間の平均コスト削減率は4〜9%の範囲と回答。

新しい調査では、多くの企業がそれに応じて変革を起こし、コソーシングを行っていることが明らかになりました。

  • 96%は、⾃社で機能を構築する場合でも、主要な税務・財務部⾨をサードパーティーベンダーにアウトソーシングする場合でも、またはその2つを組み合わせる場合でも、変化していると回答。
  • 95%は、今後2年間で税務・財務業務をコソーシングする可能性が⾼いと回答しており、それぞれ2020年は73%、2022年は81%と増加している。
  • データ、テクノロジー、シェアードサービスセンターの提供モデルにおいて優れた能⼒を持つプロバイダーとのコソーシングは、変化を起こしている回答者にとっての最優先事項として挙げられた。

EY Global Vice Chair – TaxのMarna Rickerは、次のように述べています。「企業の状況は『どのように行うか』から『今すぐに実施すべき!』へと移行しました。税務・財務部門の変革を巡る話題は、わずか5年で『これはすべきことなのか?』から『コソーシング関係をどれだけ早く最大限に活用できるか?』へと変化しました」

企業の状況は『どのように行うか』から『今すぐに実施すべき!』へと移行しました。

5カ年計画の策定

税務・財務部門の変革トレンドは、過去5年間で進化しました。EYの最新の調査では、今後5年間の税務・財務部門の位置付けについて、重要な結論が導き出されています。調査回答者は、今後5年間で既存のプレッシャーが拡大し、新たなプレッシャーが出現すると予想していると回答しています。
 

例えば、回答者はOECD/G20の税源浸⾷と利益移転(BEPS)2.0プロジェクト第2の柱で策定された、グローバルミニマム課税に関する要件にどのように対処するかについて懸念があり、90%がBEPS2.0により「中程度の」または「重⼤な」影響を受けると予想している⼀⽅で、影響評価を完了させている回答者はわずか30%に過ぎません。調査回答者はまた、税務情報の⾃発的な⼀般公開など、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)およびサステナビリティの⽬的と、義務を果たすために必要なデータを提供することに対する税務・財務部⾨へのプレッシャーが⾼まっていると回答しています。多くの企業が、パンデミック後の従業員の勤務場所と勤務形態の変化に苦慮しています。また、⽣成AIツールが、税務コンプライアンスや管理にどのような影響を与えるかについての疑問も浮上しています。

重要なのは、このレポートでは、すでに変⾰に着⼿している企業が、これら今後の課題への対応にどの程度⾃信を持っているかを検証している点です。

EY Global Tax and Finance Operate LeaderであるDave Helmerは、次のように述べています。「私が長い間考えてきたよりも、はるかに多くの変化が起こっています。良いニュースとしては、コソーシングなどの変革に取り組んでいる企業は、今後の変革を促進するためのデータ収集、プラットフォーム、テクノロジーツール、および/またはプロセスの多くが整っているため、プレッシャーがわずかに軽減されているということです。それでもプレッシャーが完全になくなることは決してないため、将来の計画を立てることがこれまで以上に重要になります」

第1章  「どのように」から「今すぐ」に:企業はコソーシングを採用している
1

第1章

「どのように」から「今すぐ」に:企業はコソーシングを採用している

世界的な税務・財務部門を構築することは依然として一部の企業にとって魅力的ですが、中小企業が変革を遂げるに伴い、コソーシングの人気が高まっています。

2018年の最初の調査では、84%の企業が執拗なプレッシャーをより適切に管理するために、税務運⽤モデルを変⾰する⽅法を模索していると回答しました。企業は、ただ変⾰の⽅法が分からなかっただけでした。

適切な⼈材と将来を⾒据えたテクノロジーを備えた現代の税務・財務部⾨を社内に構築することは、⼀部の企業にとっては依然として実⾏可能な道です。しかし最新の調査では、多くの企業にとって好ましい選択肢として、現代の税務・財務部⾨の複雑さとプレッシャーを管理するために、必要な専任の⼈材、データ機能、テクノロジーに投資する、サードパーティーベンダーとのコソーシングが浮上していることが明らかになりました。

コソーシングの魅力
今後2年間に一部の税務・財務活動をコソーシングする可能性が高い回答者の割合

新しい調査では、回答者の95%が今後2年間で一部の税務・財務活動をコソーシングする可能性が高いと回答しており、2020年から22ポイント増加しています。

さらに回答者は、税務会計、直接税、間接税、環境税、移転価格など、幅広い税務領域にわたりコソーシングを行っていると回答しています。91%は、法定報告コンプライアンス、法務サービス、給与計算、人事およびその他の人材関連サービス、顧客レポーティング、ESGレポーティングなど、その他の財務部門の活動をコソーシングしていると回答しています。

さらに、企業がサービスプロバイダーを統合しているケースも見られます。回答者は、4⼤プロバイダーのうち、平均1.5社を利⽤していると回答しており、回答者の52%は、税務コソーシングサービスにビッグ4のうち1社のみを利⽤していると回答しました。
 

優れたチーム管理方法

コソーシングは、従業員が⽇常的かつ反復的なコンプライアンス活動に費やす時間を減らし、戦略やその他の付加価値のある業務により多くの時間を費やす⽅法として広く受け⽌められています。回答者によると、現在、税務担当者が勤務時間の72%を日常的なコンプライアンス業務(データ収集・クレンジング、納税申告書のコンプライアンス、関連する調整を含む)に費やし、28%をデータ分析、タックスプランニング、税務論争の管理、一般的な戦略、コミュニケーション、リスク管理などのより価値の高い業務に費やしていると回答しています。回答者は、これらの数字がそれぞれ62%と38%となることが望ましいと回答しています。ほぼ全ての回答者が、日常的な活動から戦略的な業務により多くのリソースを再配分することを計画していると回答しています。

税務・財務部門の変革は、こうした利益を達成する1つの方法です。59%は、効果的な⼈材管理を推進する能⼒が、多国間の税務コンプライアンスや法定報告活動をコソーシングするプロバイダーと提携することの最も⼤きなメリットであると回答しています。コスト削減が最大のメリットであると回答した回答者は、わずか18%でした。

企業はまた、コソーシングは、特別なプロジェクトや新型コロナウイルス感染症のパンデミックのような予期せぬ事象など、ビジネス内で変動する業務負荷に、知識豊富な人材とテクノロジーリソースをマッチングさせるための効率的かつ便利な方法であると捉えています。

ワーナー・ブラザースのDiscovery Executive Vice President – Senior Tax CounselであるTodd Davis氏は、次のように述べています。「クラウドのようなコンセプトでは、コソーシングを利⽤することにより、必要に応じ⼈材とテクノロジーを強化したり削減したりすることができます。これにより、中核となるコンプライアンス義務を効率的に果たしていることを確認すると同時に、⾃社の⼈材を解放して、サプライチェーンの変更、買収や売却、研究資⾦の投資先など、税務が幅広いビジネス上の意思決定にどのように影響するかをより適切に分析および理解できるようになります。これにより、あらゆる事態に備えることができます」

この見解にはフォンテラのGlobal Head of TaxであるGrant Duncan氏も、次のように同意しています。「コソーシングにより、当社のコンプライアンスが各国で適切かつ正確に管理されているという⾼い⾃信を得ることができました。チームの時間とリソースが解放され、より戦略的なタスクや価値提供に振り向けられることになりました。取締役会に対しても、全ての税務リスクをグローバルに管理しているという確信を与えることができます。簡単に⾔えば、コソーシングは、社内で再現するには多額のコストがかかる⾼品質のサービスを提供してくれます」

クラウドのようなコンセプトでは、コソーシングを利用することにより、必要に応じ人材とテクノロジーを、強化および削減することができます。

実際、調査では、回答者は潜在的に税務・財務業務の機能向上に貢献できる可能性のある優先事項の候補リストを⽤意していることが分かりました。このうち、キャッシュフローの増加を促進する方法として、49%がタックスプランニングを検討することが「非常に重要」であると回答し、次いで47%が、プロジェクトや資本的支出を見直していると回答しています。さらに、47%が、フロントオフィスの活動関連のデジタルトランスフォーメーションに取り組むことが「⾮常に重要な優先事項」であると、回答しています。

キャッシュフローの促進
キャッシュフローを促進する方法としてタックスプランニングが「非常に重要」とした回答者の割合

より広範な企業も変革とコソーシングを進めている

税務・財務部門の変革トレンドと、それに伴うソリューションとしてのコソーシングの人気は、当初は世界最大規模の企業、特に売上高が200億米ドル以上の企業から始まりました。

EYの最新の調査では、売り上げ規模が小さい企業による取り組みが急増しており、コソーシングの人気も高まっています。例えば、売上高200億米ドル以上の企業のうち、コソーシングする「可能性が高い」と回答した企業の割合は、2023年においても95%と高い割合となっており、売上高が200億米ドル未満の企業では、その割合は2022年の79%から2023年は94%に増加しています。

EY Global Growth Markets LeaderであるRyan Burkeは、次のように述べています。「あらゆる企業において、コソーシングには非常に多くの関心が寄せられています。多くの企業は、先行者が享受したメリットを目の当たりにしたことで、変革に取り組むことを決定しました」

非上場企業も変⾰を進めていますが、その理由は上場企業とは多少異なります。特に調査では、⾮上場企業は最新の税務・財務部⾨を持つことが競争上、優位であると考えていることが分かりました。取締役会や経営幹部もまた、税務部⾨を企業の戦略的パートナーとして捉える傾向が⾼くなっています。

この傾向は、最近税務部⾨の⼤幅な変⾰に着⼿した同族経営企業のベーリンガーインゲルハイムにも当てはまります。この決断は、創意⼯夫と先⾏者精神を持って⾏動するという⻑年の伝統に沿ったものでした。同社は、過去、現在、未来に関して、ローカルおよびグローバルのさまざまな次元で税務運⽤モデルの⾰新を推進することに重点を置いています。

ベーリンガーインゲルハイムのGlobal Head of Tax & Trade GovernanceであるMalte Fidler⽒は、次のように述べています。「私たちは迅速に⾏動し、⼀般的な税務コンプライアンス慣⾏の現状に挑戦したいと考えていました。品質を向上させ、効率を⾼め、新しい調達⽅法とテクノロジーを活⽤してグローバルな税務コンプライアンスを確保する、という私たちの⽬標は明確でした。私たちは、最⾼の品質を提供し、システム全体を毎⽇機能させるサービスプロバイダーを信頼しています。結局のところ、これは⼈々が信頼関係を持って対話し、複雑で差し迫った問題を共に解決していくという課題なのです」

第2章  新しい運用モデルは継続するプレッシャーにどう対処しているか
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第2章

新しい運用モデルは継続するプレッシャーにどう対処しているか

変⾰を遂げた税務・財務部⾨は、重要なタスクを実⾏し、戦略的⽅向性について企業に助⾔を与えることができます。

熟練した⼈材の採⽤と維持、急速なペースで進む法規制の変更、テクノロジーの進歩に対応する必要性は、過去5年間における税務・財務の運⽤モデル変⾰の主な原動⼒となってきました。予算の圧迫もその一因となっています。

新しい調査では、これらの要因が依然として最大の懸念事項であることが確認されました。例えば、回答者の48%は、データとテクノロジーに関する持続可能な計画の欠如が、税務・財務部門の目的とビジョンを達成するための最大の障壁であると認識しており、これは3年連続調査で明らかとなっている事実です。28%は、必要な人材を雇用・維持することができないことに責任を感じています。残りの24%は、予算不足が最大の障壁であると回答しています。実際、最新の調査では、回答者の4分の3が過去数年と同様に、今後2年間で税務・財務部門のコスト削減を計画していると回答しています。調査回答者が計画していた削減率は、2018年は9%、2020年は8%、2022年は6%、2023年は4%でした。従業員数も減少しており、91%が今後2年間で従業員数を維持または平均4.4%削減する予定であると回答しています。

一方でこうしたプレッシャーの多くは、税務・財務部門が直面する課題を、激化させる新たな層を形成しています。例えば、労働条件の変化は、人材に関する難題に影響を与えています。また、BEPS2.0に起因する税制改革の実施は、新たなコンプライアンス義務の迷宮を生み出し、その多くは⾃社で調達できないであろう技術的ソリューションにさらに⼤きく依存することを企業に求めることになります。経済状況の変化と景気後退の予兆が大きく迫っています。企業はまた、特に移転価格において多⼤な税務上の影響を及ぼすサプライチェーンの移⾏に取り組んでいます。
 

より複雑な人材像

従業員の削減に加えて、回答者の63%は、従業員は今後3年間で新しいデータ、プロセス、テクノロジーのスキルを活⽤して、税務の専門的スキルを強化する必要があると回答しています。また、29%は、世界中の税法や規制の変更を監視、評価、導入できる高度なスキルを持つ専門家が十分にいないと回答しています。

さらに、回答者の3分の2は、従業員の昇進やキャリアパスに関して、少なくとも中程度の困難を抱えていると回答しています。半数以上が、⼈材のモチベーションを⾼めて燃え尽き症候群を回避するために、少なくとも中程度の労⼒を費やしていると回答しています。ほぼ半数(48%)が、従業員に市場水準の報酬を支払うことに、少なくとも中程度の困難を抱えています。特に業務負荷の25%以下をコソーシングしている回答者は、それ以上の割合をコソーシングしている回答者に⽐べてこうした問題に苦慮している、と回答する傾向がはるかに⾼くなっています。

人材に費やす労力
人材のモチベーションを高め、燃え尽き症候群を回避するのに苦慮している回答者の割合

国際的なエンジニアリングサービス企業であるJohn Wood PLCのPresident Tax and TreasuryであるAndy McLean⽒は、次のように述べています。「税務知識とデータリテラシーの適切な組み合わせを⾒つけることは、これまで以上に困難になっています。多くの場合、より信頼できる⽅法は、専任の専⾨家チームと最先端のテクノロジーソリューションを備えたパートナーと協⼒することです」
 

複雑化する法規制環境

税務運用モデルに関する変革トレンドの最初のきっかけの1つである法規制の見通しは、不透明な人材像よりもさらに困難です。

各国政府がBEPS2.0のグローバルミニマム課税を導⼊する中、税務部⾨は、世界各地で展開されている抜本的な改⾰に備えながらも、現在進⾏中の膨⼤な税法や規制の複雑さに対処しています。これらには、⽶国の法⼈代替ミニマム税、環境税・サステナビリティ税、税務当局からの公式・⾮公式の情報要求の急増、リアルタイムの取引情報を含むデジタル申告に対する需要の増加などが含まれます。その他の課題には、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)への準拠や、複数の国・地域への国別報告書(CbCR)の提出などが含まれます。

税務・財務部門も、特にサプライチェーン領域において、業務上の意思決定の変化に対応しています。回答者の79%は、サプライチェーンリスクを軽減するため、組織を他の場所に移転するなど、すでに中程度か⼤幅な変更を⾏っていると回答しています。88%は今後2年間でサプライチェーンに対し、さらに中程度から大幅な変更を加えると予想しています。

マイクロソフトのVice President, Worldwide Tax and CustomsであるDaniel Goff氏は「世界中の税法や、金融規制の複雑な経過を把握することは常に課題でしたが、昨年以降、そのタスクはより高いギアへとシフトしています」と話します。
 

ガバナンスと透明性の向上

その結果、企業は、特に今後数年間で⼤幅に増加すると予想される税務論争に対処したい場合は、より堅固な税務ガバナンスポリシーを採用する必要性に迫られています。一般的には、こうした動向により、企業の透明性は10年前には考えられなかったほどに高まっています。全ての回答者は、政府が義務付ける範囲を超えて、少なくともある程度の⾃発的な開⽰を⾏うと回答しています。その最も⼀般的な例は、回答者の49%が⾏う予定であると回答した企業の税務ガバナンスの枠組み公開です。92%は、少なくとも3つの新しい税務データを⼀般開⽰すると回答しており、固定資産税と雇⽤主が負担する給与税に関する情報は、税務ガバナンスの枠組みに次いで2位と3位にランクされています。

透明性を高めることは、ステークホルダー、報道機関、公衆によって開示が正確かつ公正に解釈されることが重要であるため、さらなるリスクをもたらします。変革を遂げた税務部門は、情報開示を適切な状況で行うことができるようになるでしょう。そのためには、適切なデータと適切なデータスキルを持つ適切な人材へのアクセスの両方が必要となります。

透明性の向上
政府が義務付ける範囲を超えて、少なくとも3つの新しい税務データを一般に開示する意向がある回答者の割合

成熟したデータ、テクノロジーモデルの模索

適切なデータを活用できることは、目まぐるしく変化する税務行政の世界で成功するためには絶対不可欠です。これは、企業内でのより適切かつ迅速な、より多くの情報に基づいた意思決定を支援するだけでなく、より税の透明性が高まっている時代における税務当局と規制当局への対応にも役立ちます。

過去5年間の調査では、データとテクノロジーに関する持続可能な計画の欠如が、税務・財務部門の目的とビジョンを達成する上で最大の障壁であることが一貫して挙げられており、コソーシングの人気を説明する一助にもなっています。これは、将来を見据えたシステムを社内で構築するためのリソースを持ち合わせている可能性が低い、売上高が200億米ドル未満の企業に特に当てはまります。

実際、調査回答者の61%は、税務データの統合をサービスプロバイダーに頼っていると回答していますが、独自のデータレイクまたはウェアハウスを持っていると回答したのは、わずか34%でした。72%は、⾃社のエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)と関連する税務情報を取得するために設定されたソースシステムとの間にギャップがあると回答しており、税務・財務部⾨のデータ管理機能が最も成熟していると回答したのはわずか5分の1でした。より高い水準の活動をコソーシングしている企業は、コソーシング活動が25%以下の企業よりも、データ管理の成熟度が高いと報告する傾向がはるかに高くなりました。

マイクロソフトのVP TransformationであるLyn Bird氏は、次のように述べています。「生成AIの世界とテクノロジーが、未来を再形成するスピードを考えると、正しく対処すべき最も基本的なことは、組織のデータ基盤です。今日のビジネス環境で成功を収めるには、適切なデータ戦略の策定が間違いなく重要です。適切なデータを収集・整理し、適切な質問をする必要があります。つまり、データの内容よりも、組織全体でより優れた価値、知見、コンプライアンスを推進するために、どのような質問をする必要があるかということが重要です」

データの統合
税務データの統合をサードパーティープロバイダーに頼っている回答者の割合

調査によると、プロバイダーを選定する際の最も重要なプロセスとテクノロジー機能の上位3つには、ダッシュボードとワークフローからのドキュメントへのアクセスを提供する統合されたドキュメント管理、標準レポートと分析、⾃動化とデータ再利⽤の促進を実現する共通データモデルが含まれます。

こうした調査結果は、このコソーシング現象を説明するのにも役立ちます。サードパーティープロバイダーは、こうした機能(およびそれらを補完する人材)に特化した投資を行ってきました。そして、調査のスポンサーは回答者には知られていませんが、EYは4年連続でコソーシングと、データおよびテクノロジー税務サービスのグローバルマーケットリーダーとして認識されています。

第3章  グローバルな税制改革とESGへの対応
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第3章

グローバルな税制改革とESGへの対応

BEPS2.0は、効果的に伝達できる正確なデータの必要性を高めています。ESG義務の履行についても同様です。

BEPS2.0への準拠に加え、ESGコンプライアンスや報告要件の増加は、税務・財務部門のリソースに対する新たな要求が生じる可能性があります。各国政府がBEPS2.0勧告を実施する中で、世界中で劇的な改革が繰り広げられています。これらは、企業に対する新たな報告要件を設け、グローバルミニマム課税の対象となる可能性のある企業に追加計算を強制し、半世紀以上にわたり国際課税規範を導いてきた基本原則を根本的に変えるものです。

こうした変化に伴い、重要かつ新たなデータ要件が発生することになります。税務会計チームは、すでに記録管理や構造化データ要件を改善し、さまざまな財務業務に関するより精緻な情報の収集に奔⾛しています。「トップアップ」税がいつどこで適用されるか、についての複雑な分析には、税務に関する高度な能力が求められますが、それは多くの社内業務には存在しないかもしれません。

調査回答者の90%は、BEPS2.0が自社のビジネスに中程度または重大な影響を与えると回答する一方、影響分析を完了している回答者はわずか30%に過ぎません。恐らく、この遅れの理由の1つは、税務・財務部⾨がこれまで以上に少ないリソースで、すでに直⾯しているその他全てのプレッシャーへの対処に多くの時間を費やさなければならないことです。

EY Global International Tax and Transaction Services LeaderであるJeffrey Michalakは「BEPS2.0の変更に対応するだけでも膨大な作業になります。多くの企業が支援を必要とするでしょう」と述べています。

税務・財務部門もまた、組織のサステナビリティ戦略における重要な推進力です。継続的なコンプライアンスや報告要件に対処するだけでなく、ESGのインセンティブ、クレジット、助成金などのグリーンファイナンスのオプションを確保する上で、重要な役割を果たすことができます。これらは、組織にサステナビリティインフラストラクチャー、テクノロジー、イノベーションのための資金を提供します。

BEPS2.0の変更に対応するだけでも膨大な作業になります。多くの企業が支援を必要とするでしょう。

サステナビリティへの取り組みにおける税務・財務部門の関与の増加は、2018年には現在のような強度では存在しませんでした。税務戦略とサステナビリティ戦略は、より密接に関連しており、ESGアプローチと報告の定義と形成において、税務・財務部門は今後も役割を果たし続けるでしょう。自社のESGへの取り組みが「進んでいる」と回答した回答者は、わずか28%に過ぎません。これは、組織がビジネスイノベーション、サプライチェーンのサステナビリティ、ESG目標に対する公開報告を推進できることを意味します。回答者の半数は、自社は途中段階にあると回答し、21%は初期段階にあると回答しています。明らかにやるべきことはまだ多く残されており、現代の税務・財務部門が中心的な役割を果たすことになるでしょう。

ESGの進捗
自社のESGへの取り組みが「進んでいる」段階にある回答者の割合

第4章  企業が次にすべきこと
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第4章

企業が次にすべきこと

企業は、5年間の変革の経験から得られた教訓を生かして、次の5年間の計画を立てる必要があります。

過去5年間における税務・財務部門の再考ストーリーは、次の5年間の計画を立てようとしている企業にとって有益です。そして、全ての税務・財務部門は、変革を完了した、または変革中の企業も含め、5カ年計画を策定する必要があります。
 

基本的に、企業には2018年と同じ選択肢があります。1つ⽬は、適切な⼈材、データ機能、テクノロジーに投資することで、現在の税務・財務部⾨を社内に構築することです。そうすることを選択した企業もあります。2つ⽬は、税務・財務コンプライアンス活動の⼤部分をアウトソーシングすることです。そして3つ⽬は、ハイブリッドアプローチを採⽤し、⼀部の活動については外部プロバイダーにコソーシングし、その他の活動は社内に残すことです。5年の期間を経て、ハイブリッドアプローチの⼈気が⾼まっていることが明らかになりました。

当初から、税務・財務部門の最新化を推進した全てのプレッシャーは、今後5年間においても存在し続けるでしょう。それらがさらに進展すれば、状況はさらに悪化するでしょう。そして、さらに多くの法律が制定されるでしょう。労働力の人口統計は、根本的に、そして恐らく恒久的に変化しました。地政学的情勢は非常に予測が困難です。そして、テクノロジーは今後も進化し続けるでしょう。(調査では、回答者の85%が、生成AIツールは今後3年間で、税務部門の有効性と効率性の向上を促進するとは思わないと回答しています。私たちはビジネスにおいて長年AIを利用しており、革新的な生成AIの利用事例は日々増え続けているため、これに関してはそれほど確信が持てません)

新しい税務・財務部門の5カ年計画を作成する企業は、次のことを行う必要があります。

  • 人材に関する戦略的視点を採用します。最善の準備を整えた企業は、税⾦だけでなく法律を順守し、企業全体に知⾒を提供するのに役⽴つ⽅法で、データを分析するためのテクノロジーの利⽤⽅法にも精通した⼈材を引き付け、育成し維持できる必要があります。今後5年間の人材モデルの開発は、全ての企業にとって大きな課題ですが、売り上げ規模が小さい企業にとっては、極めて重要な問題です。
  • また、今後の新たな進歩、特に⽣成AIと統合できるような包括的テクノロジー戦略において、他の部⾨と連携する戦略を⾒直します。健全なデータとテクノロジー戦略によって効率的な再利⽤が可能になり、⼗分な訓練を受けた⼈材による予測分析の開発を⽀援することで効率化を促進します。同時に自動化をさらに進めることで、人材にかかるプレッシャーも軽減されます。
  • 法規制や透明性への取り組み、特に今後数年間におけるBEPS2.0の導⼊に関する取り組みをどのように特定、評価、実装するかを決定します。適切な⼈材やシステムが不⾜している企業は、特に今後起こるであろうあらゆる法規制の変更に対して苦戦を強いられることになるでしょう。今後5年間は、これらの変化が大企業にとって何を意味するのかを経営幹部や取締役会に迅速かつ明確に伝えることが、これまで以上に重要になるでしょう。
  • 税務・財務部門は、ビジネス全体の変化と結びついた、より優れた業務を提供する必要があります。この変革により、税務担当役員はソートリーダーとしての資質を高め、高度な分析ツールを用いて導き出されるものを含め、税務に関する知見を長期的なビジネス戦略や意思決定に生かすことができるようになります。しかし、彼らはそれらの決定が下される場に参加する必要があります。
  • 税務・財務部門が組織のサステナビリティ戦略において、主要な役割を果たすためのスペースを確保します。これにより、税務・財務部門はESGメッセージの管理、税務上の影響に関するリーダーシップの教育、潜在的なリスクの評価を支援することができます。
  • 最後は、これらのあらゆる課題を解決するために、社内およびコソーシングの取り決めの適切なバランスを見つけることです。効果的なコソーシングの取り決めは、基本的な税務・財務コンプライアンス義務に対応すると同時に部門の人材を最大限に活用するため、社内で必要とされるアジリティを提供する必要があります。

Helmerは、次のように述べています。「これら全ての要素をどのようにまとめるかについて、企業としての見解が必要です。この計画は、正確なコンプライアンスを確保し、組織の価値を高めるために必要であり、効率的な方法でそれを実行する必要があります。税務・財務部門を重要かつ信頼できるビジネスアドバイザーに変えることは、投資するに値します」


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世界的な製薬企業、ベーリンガーインゲルハイムは品質と効率の向上のため、税務業務モデルを再考しています。詳しくはこちらのケーススタディをご覧ください。


    サマリー

    企業は、自社の事業により多くの価値をもたらすために、5年前に税務・財務部門の変革を開始しました。こうした変化は、急速なペースで進む法規制の変更、進化するテクノロジーとより優れたデータ能⼒の必要性、その両⽅を管理できる適切なスキルを持つ適切な⼈材の確保などのプレッシャーにより引き起こされました。コスト圧力も高まっています。EYの最新調査では、より多くの企業が変⾰を完了させるためにコソーシングを⾏っていることが明らかになりました。企業は今後5年間の計画を策定する必要があります。過去5年間の教訓を振り返ることは、今後の計画の策定に役立つでしょう。