2023年6月30日
研究開発税制 令和5年度税制改正の解説(後編)
情報センサー2023年7月号 Tax update

研究開発税制 令和5年度税制改正の解説(後編)

執筆者 EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

2023年6月30日
関連トピック 税務

令和5年度の研究開発税制に関する税制改正は前号で取り上げたサービス開発の見直しの他、高度研究人材の活用を促す措置の創設、控除率や控除上限の見直しなどがあります。本稿では、これらの残りの改正について解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 税理士 中野 真純

法人向けコンプライアンス業務の他、税務調査サポート、アドバイザリー業務に従事。EY税理士法人内の研究開発税制チームメンバー。EY税理士法人 シニアマネージャー。

要点
  • 博士号取得者や外部研究者を雇用した場合の一定の人件費を、オープンイノベーション型の一類型として一般型よりも高い控除率で税額控除できる仕組みが創設されました。
  • 分割等の組織再編成が行われた場合の調整計算の手続きが見直されました。
  • 一般型の控除率カーブの傾きを大きくし、試験研究費の増減に応じたインセンティブがより効果的に働くような仕組みとなりました。

Ⅰ はじめに

令和5年度の税制改正においては、「成長と分配の好循環」を実現させるため、研究開発税制分野で多岐にわたる改正が行われています。

後編となる本稿では、高度研究人材の活用を促す措置の創設など、前編で触れていない項目を取り上げます。

Ⅱ 高度研究人材の活用を促す措置の創設

1. 措置創設の背景

研究開発の質を高める観点からは、研究開発を担う「人」への投資を促すことが不可欠ですが、博士号取得者などの高度研究人材の活用は欧米に比して十分に進んでいないと考えられています。そのため、オープンイノベーション型税額控除の中で一般型よりも高い控除率で控除できる仕組みが創設されました。


2. 制度の内容

「博士号取得者」および「外部研究者」を雇用した場合で、次の要件を満たす場合、これらの人件費の20%相当額を税額控除の対象とすることができます。

表

Ⅲ スタートアップの定義の見直し

1. 改正前の取扱い

オープンイノベーション型税額控除における、共同研究、委託研究の対象となる研究開発型ベンチャー企業は、産業競争力強化法により経済産業大臣が認定したベンチャーファンドから出資を受けたベンチャー企業や研究開発法人・大学発ベンチャー企業で一定の要件を満たすものとされていました。


2. 令和5年度の改正点

研究開発型ベンチャー企業の定義の見直しが行われ、スタートアップに出資を行うベンチャーファンドに対する経済産業大臣の認定が不要となり、より幅広いスタートアップ企業(特定新事業開拓事業者)が対象となりました。

具体的には、産業競争力強化法に規定する新事業開拓事業者のうち、次の要件の全てを満たすものとされます。

① 設立15年未満で一定の要件を満たす者
② 未上場の株式会社
③ 特定の企業グループに属さない者
④ 要件を満たしたベンチャーファンドまたは研究開発法人の出資先
⑤ 売上高研究開発費率10%以上

なお、特定新事業開拓事業者は経済産業省から証明書の交付を受け、適用法人はその証明書の写しを確定申告書に添付することとされます。

Ⅳ 分割等があった場合の調整計算の手続きに関する見直し

1. 分割また現物出資に係る比較試験研究費の額および平均売上金額の調整計算方法

比較試験研究費の額および平均売上金額(以下、比較試験研究費の額等)の計算において、組織再編成前の事業年度に係る分割法人または現物出資法人(以下、分割法人等)の試験研究費の額および売上金額(以下、試験研究費の額等)の全額を分割承継法人または被現物出資法人(以下、分割承継法人等)の試験研究費の額等に加算することが原則です。この場合、分割法人等は何ら調整(控除)を行いません。

一方、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、移転事業に係る試験研究費の額等を合理的に計算し、その金額を分割法人等および分割承継法人等の比較試験研究費の額等の金額に加減算する特例計算の適用ができます。


2. 改正前の取り扱い

前述1.の承認を受ける場合には、再編後2カ月以内に移転事業に係る合理的な区分方法について納税地の所轄税務署長に認定を申請し、再編に係る全ての法人が特例計算の適用を受ける旨の届出をする必要がありました。


3. 令和5年度の改正点

前述2.の認定申請・届出を廃止し、それぞれの分割法人等が確定申告書等、修正申告書または更正の請求書に必要事項を記載した書類を添付することで特例計算の適用を受けることができることになりました。

なお、この特例の適用を受ける場合には、2年目以降も確定申告書等への書類の添付が必要となります。

また、改正前に認定・届出の添付を行った場合には、改正後の事業年度における書類の添付は不要とされます。逆に、改正前に認定・届出を行わなかった場合でも、改正後の事業年度における確定申告書等に当該書類の添付をすることで特例の適用を受けることが可能となります。

Ⅴ 一般試験研究費の額に係る税額控除の見直し

1. 控除上限の見直し

試験研究費の増減率※1に応じて、税額控除の上限が20~30%で変動する仕組みが導入されました。

具体的な税額控除限度額の計算方法は<図1>の通りです。なお、この制度は令和5年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用され、売上高試験研究費割合が10%超の場合の控除上限の特例とのうち控除上限が多くなる方を適用することとされます。

図1 控除上限のインセンティブ強化

2. 控除率の見直し

研究開発費の増加インセンティブをさらに強化するため、試験研究費の増減に応じた税額控除率のカーブが見直されました。また控除率の下限が2%から1%に引き下げられました(<図2>を参照)。

図2 控除率のインセンティブ強化

Ⅵ おわりに

企業の積極的な研究開発投資に対するインセンティブ強化となる改正がある一方で、税額控除率の下限が引き下げられることにより、控除される税額の幅が大きくなります。今まで以上に試験研究費の詳細な把握が求められるとともに、最も有利となるパターンの組み合わせを検討することが重要となります。

※1 増減率の計算方法は次の通り。(当期の試験研究費の額-比較試験研究費の額※2)÷比較試験研究費の額

※2 比較試験研究費の額とは、直近3事業年度の試験研究費の額を平均した額をいう。

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サマリー

令和5年度の研究開発税制に関する税制改正は前号で取り上げたサービス開発の見直しの他、高度研究人材の活用を促す措置の創設、控除率や控除上限の見直しなどがあります。本稿では、これらの残りの改正について解説します。

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