BEPS2.0最新情報と実務対応(後編)

情報センサー2023年5月号 Tax update

BEPS2.0最新情報と実務対応(後編)


関連トピック

令和5年度税制改正におけるグローバルミニマム課税の令和6年4月1日以降開始事業年度からの適用に対応するための、日本企業に求められるロードマップとシステム導入について解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 ビジネスタックスサービス部 大堀 秀樹
EY税理士法人にて、日本企業のグローバル税務ポジションに関する分析を提供し、サステナビリティの観点からの税情報の開示についてもアドバイスを実施している。

EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション部 甲斐荘 芳生
EY税理士法人にて、税務業務へのシステム導入アドバイザリーや最新技術活用研究に取り組んでいる。



要点

  • 日本企業のGloBEルールへの対応準備に関して、幾つかの課題が明らかになっています。
  • これらの課題に対応するためには、税務にとどまらない抜本的な業務プロセスの見直しが必要とされます。また、新たなシステム導入の検討も必要です。


Ⅰ はじめに

前編(本誌2023年4月号)では、日本におけるIIR(所得合算ルール)法制化とGloBEセーフハーバールールについて解説しました。後編となる本稿では、GloBEルール対応ロードマップとGloBE情報申告のためのシステム導入について解説します。


Ⅱ GloBEルール対応ロードマップ

日本企業のGloBEルールへの対応準備に際して、次のような課題が明らかになっています。

  • 連結決算において集約されたグローバル勘定科目を収集しているため、本社から勘定科目明細について直接確認できない。
  • 個別取引、収支や費用明細レベルでの把握を求められる持分の受取配当、税金及びキャピタルゲイン、年金支出、移転価格調整並びに固定資産譲渡などについて既存のデータベースでは把握が難しい。
  • サブ連結内のデータが把握できていない。
  • 税金関係の附表が十分ではない。例えば繰延税金資産の回収可能性が低い場合、評価性の引当金や未認識によりネット表示されるが、グロスの計上額を把握する必要がある。


これらの課題に対応するためには、連結決算、サブ連結決算、それぞれの税会計並びに税務申告を網羅するデータベースの構築が求められますが、日本企業の現状では、税務にとどまらない抜本的な業務プロセスとデータベースの見直しを行わなければその実現が難しいと考えられます。

そこで、2022年12月に経済開発協力機構(OECD)から発表されたセーフハーバーとペナルティの救済に基づいて、段階的にセーフハーバーに必要なデータを収集してテストを実施することにより、実効税率及び追加税額の詳細な計算を必要とする国・地域を絞り込むプロセスを整備することが考えられます(<図1>参照)。

図1 セーフハーバールールを踏まえたGloBE情報申告までの想定ステップ

第一段階のCbCRに基づいた移行期セーフハーバーについては、次の論点について検討することが求められます。

  • 適格財務諸表に基づいた適格CbCRの作成。
  • CbCRに基づいた移行期セーフハーバーのためにCbCRの作成時期を前倒しすることが望ましい。
  • 優遇税制、繰延税金資産の評価性引当金、もしくは外国子会社合算課税を要因として、簡易実効税率(ETR)テストを満たさないことが想定される。


事前に影響度を分析し、移行期セーフハーバーの各テストを満たさない、もしくはそのリスクを完全に払拭(ふっしょく)できない国・地域については、恒久的なセーフハーバーにおいて求められるデータ収集と簡易計算のプロセスについても検討を要します。また移行期セーフハーバーの適用は当初3年間のみであり、一度テストを満たせなかった国・地域について次年度は適用できないことからも、恒久的セーフハーバーも見据えて、ロードマップを描くことが求められます。

適用初年度の情報申告及び申告納税には適用初年度の会計期間終了後18カ月の猶予がありますが、適用初年度の決算や開示においても税会計上の対応が求められることから、各会計基準の動向を注視し、ロードマップに織り込む必要があります。


Ⅲ GloBE情報申告のためのシステム導入

22年12月にOECDからGloBEルールに関する情報申告書案が公表されました。最終的な様式は同時に実施されたパブリック・コンサルテーションの結果を踏まえて改訂が見込まれますが、GloBEルール申告実務で求められるアウトプット形式が明らかになったことで、各企業にとっても帳票定義等の実務準備に資する情報が得られました。

今回明らかにされた情報申告書案の構成は次のとおりです。

  • 一般情報
  • 企業構造
  • 実効税率の算出とトップアップ税の算出
  • トップアップ税の割り当てと帰属


このうち、実効税率の算出とトップアップ税の算出に関する箇所に詳しいデータ項目が数多く組み込まれており、必要となるであろう情報の膨大さと計算の複雑性がうかがえます。

EYのグローバルメンバーファーム間では、協働してGloBEルールの情報収集項目の定義化及び計算ロジックの構築を進めており、日本でもこの内容を踏まえたシステム開発を進めています。その上で、SharePointなどのファイル共有・情報共有システムを利用したGloBE情報収集機能の実装、管理会計・予算管理目的等で利用されるEPM(Enterprise Performance Management)のGloBEルール対応機能の拡張、税務データマネジメントツール上の標準機能としてGloBEルール機能開発など、企業のソフトウェア利用状況・目的に応じて選択可能な複数のオプション提供をスコープにしています。

システム選定に当たっては、上記情報申告書の様式に合ったデータ出力機能の有無などの個別機能に目が行きがちですが、実際にはEYを含む税理士法人、また幾つかのソフトウェアベンダーも一定のツールオプションを提供することが予想されます。その意味で、申告実務への波及効果を見据えると、システム選定に向けた調査・計画・評価の段階では、より現状の自社のケイパビリティ―把握に注力することが重要です。具体的には、調査フェーズ(現状のシステムで取得可能な情報の把握など)の結果に基づき、GloBEルール対応に向けてシンプルに新規システム導入で済むのか、もしくは法令で定められた情報を効率的に抽出するために既存システム機能の一定の見直し・データ連携を視野に入れるのかなど、税務以外の他部署にも協力やシステム上の連携を依頼すべき事項を把握することとなります。

導入フェーズでは、選定したGloBEルール対応システムの構築・実務運用に向けた細かい判断が求められます。特にGloBEルールはそれだけでも幅広いデータの収集が求められることから、GloBEルール対応に閉じたシステム導入に選択肢を狭めると、ツールは導入したものの工数低減効果が得られない可能性があります。その意味で、グループ全体の税務情報管理業務や隣接する国際税務業務のシステム化と併せて(その場合、必然的に税務データウェアハウスなどの構築が課題となります)GloBE情報申告書に対応していくことが望ましいと考えられます。

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サマリー

令和5年度税制改正におけるグローバルミニマム課税の令和6年4月1日以降開始事業年度からの適用に対応するための、日本企業に求められるロードマップとシステム導入について解説します。


情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計・税務・アドバイザリーなどの企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。


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