シングルファミリーオフィスは伝統と変革をどのように両立させているか

シングルファミリーオフィスは伝統と変革をどのように両立させているか


シングルファミリーオフィスの役割の進化に伴い、さまざまな対立する難題に対応し、将来を確かなものにする機能も進化します。


3つの質問

  • シングルファミリーオフィスの戦略的役割はどのように進化しているか?
  • 幅広い新たな対立する難題に直面する中、シングルファミリーオフィスはどのように適切なバランスを見いだしているか?
  • シングルファミリーオフィスは、ファミリーオフィスのステークホルダーを支援するために、どのような取り組みを行っているか?  


EY Japanの視点

日本では諸外国と比較し、ファミリーオフィスが普及しているとは言えない状況にありますが、確実にその存在感が増していると思われます。ファミリーの有形無形の資産などを守り、あるいはその価値を長期的に高め、後世に引き継いでいくため、ファミリーオフィスは非常に広範で重要な役割を担い、さまざまなサービスを提供することが求められます。そして、そのサービスのパフォーマンスの評価に当たっては、財務的指標か非財務的指標かを問わず、常に市場において求められる指標が用いられることになると考えます。

今般、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより世の中の常識が覆されるような事態となり、複合的な混乱が起こっている中、ファミリーオフィスは、そのような変化にタイムリーかつ的確に対応することが必要となっています。それは、EYの行った「シングルファミリーオフィス(SFO)調査」に表れています。

日本のファミリーオフィスにおける最大の関心事の1つとしては、やはり税務の問題が挙げられると思います。各国において、毎年の税制改正は言うまでもなく、税務当局における税収確保のための政策的増税案に加え、情報収集・分析や取組体制の整備・強化およびグローバルネットワークの強化の傾向が顕著であることから、これを念頭においた体制の見直しが必要と考えます。内製化が間に合わない場合には、積極的に外部の専門家を活用することにより、ファミリーオフィスの税務対応能力を向上させることができれば、それはファミリー全体の有形無形の資産などの保全および長期的価値の最大化につながる行為であると考えます。


EY Japanの窓口
西村 美智子
EY Private ファミリーエンタープライズリーダー EY税理士法人 プライベート・クライアント・サービス アソシエートパートナー

EYのチームはこのほど、250以上の世界の大手シングルファミリーオフィス(SFO)を対象に、圧力が大きく急速に変化する今日の環境におけるSFOの優先事項に関して、より深い知見を集め、共有することを狙いとした調査を実施しました。

EYのシングルファミリーオフィス調査は、SFOが自らの能力をどのように認識しているか、成長機会や市場の課題をどこに見いだしているか、そして、ベストプラクティスからどのように学んでいるかについての核心に迫ることを目的として、委託して行われました。今回の調査で得られた情報を活用し、ファミリーに以下の支援を行います。

  • 長期的価値の創造と保護
  • ファミリーオフィスの戦略と業務の最適化
  • 目的、優先事項およびレガシーを軸にしたイノベーション

経済・社会・地政学上の混乱が加速し、その多くが予測困難な時代において、SFOの戦略的役割は増⼤・拡⼤し続けています。

大手SFOに話を聞いたところ印象的だったのは、その所在地や業務内容に関係なく、多くの共通の重点領域が浮き彫りになったことでした。

主な調査結果はこれらの重点領域にわたって示されており、回答者が共有したインサイトを反映しています。

  • 富と規制
  • デジタルトランスフォーメーション
  • リスクとレピュテーション(評判)
  • 戦略とガバナンス

この4つの重点領域それぞれについて、変化する環境に対応し、ファミリーオフィスのステークホルダーに最高水準のサポートを提供するために大手SFOが取っている行動とともに、順番に紹介していきます。

1つ目の重点領域である富と規制(経済や、おそらく最も重要な税務政策や透明性イニシアチブなど)に関しては、変化のペースが非常に速いことが挙げられます。富と規制を巡る状況の変化は、ファミリーオフィスの戦略・計画・実行のあらゆる側面に影響を与えており、その発展の速さから、かつてないほどの敏しょう性が求められています。例えば、世界中の国・地域が、より広範な経済・社会政策上の問題に取り組むためのプラットフォームとして、税務政策や透明性イニシアチブを利用するようになってきています。ファミリーのステークホルダーを支援する戦略的焦点を維持しながら重要な義務を果たすためには、これまで以上に新鮮な視点が必要とされています。

2つ目に、SFOの重要な優先事項として、テクノロジーやデジタルトランスフォーメーションのトレンドは、SFO自体だけでなく、関連するビジネスやファミリー自身に関して、より多く取り上げられていることが分かりました。サイバーセキュリティであれ、効率向上とリスク管理のためのインテリジェントオートメーションであれ、多くのSFOが明確に「デジタルファースト」の考え方を推進しています。デジタルトランスフォーメーションは、ファミリーと事業運営の双方において、SFOに非常に大きな機会と重要な検討事項を提供します。これからは破壊的な技術(従来の技術や業界の価値基準を根底から覆す程の革新的な技術)の時代です。

SFOによって提起された3つ目の重点領域は、拡大するリスクとレピュテーションに関する検討事項を管理するための、より高度かつ厳密なモデルの必要性でした。リスク管理は、ほとんどのSFOにとって長い間戦略的焦点となってきましたが、多くのSFOは、その範囲、方法およびリーディングプラクティスを再検討する必要性を感じています。これを怠ると、ファミリーやファミリーオフィスのリーダーが予期せぬ事態に晒される恐れがあります。新しいリスクとレピュテーションに関する枠組みを推進する原動力の1つは、価値とリスクの定義を拡大し、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する新しい検討事項を含めることです。SFOは、ESG重視の傾向がより顕著になる中で、特に進化する多世代にわたるファミリーの優先事項やレガシーに関連し、この領域をより重視し、行動すべき領域であると位置付けました。

このような背景の中、何よりもSFOや著名なファミリー自身が、より高度で戦略的なガバナンス構成を設計および運用しようとしています。デュアルガバナンスは、ビジネスのガバナンスとファミリーのガバナンスとを区別して調整し、必要に応じて統合し、ファミリーオフィスの戦略的かつ重要な役割を考慮するもので、明確化や実行、ステークホルダーの連携を促進します。

富と規制
1

第1章

富と規制

変化のスピードに必要な新鮮な視点

政策の変更は、常にSFOの戦略、構造および業務に多大な影響を及ぼします。昨今、パンデミック、地政学的な不確実性、経済動向および社会的な検討事項などの外的要因によって、ファミリーの資産プロファイルへの注目度がさらに高まっています。現在、世界中の多くの国・地域では、競争力と公平性を維持しながらより高い税収を確保するために、税務政策とその執行をどのように発展させるかが、これまで以上に見直されています。そうした動向に積極的に関与し、適応するSFOは、ファミリー、企業および規制当局関係者の高まる期待を満たしながら、その義務を果たすのに有利な立場にあります。

SFOはまた、バーチャルによる新しい働き方が、ファミリーメンバー、ファミリーオフィスの従業員、そして自社のより広いビジネスエコシステムに対して、どのような新たな税務上の検討事項が増えるかについて懸念しています。ファミリーオフィスの経営者や受益者は国際的なライフスタイルを送っていることが多いため、バーチャルワークという新しい日常も相まって、本SFO調査のほぼ4分の3(72%)の回答者が、リモートワークによる税務上の影響を懸念事項として挙げているのも、驚くことではありません。



ファミリーオフィスの経営者や受益者は国際的なライフスタイルを送っていることが多いため、バーチャルワークという新しい日常も相まって、本SFO調査のほぼ4分の3(72%)の回答者が、リモートワークによる税務上の影響を懸念事項として挙げているのも、驚くことではありません。



調査に参加したあるSFOは、次のようにコメントしています。「企業は今、株主と税務当局の双方に対して、税務の透明性をこれまで以上に高める必要があります。ファミリーオフィスやファミリービジネスは、今後2~3年先だけでなく、50~100年先のことも心配しています。長期的に持続可能であり続けたいのであれば、国境を越える税務問題に巻き込まれるわけにはいきません」


透明性および追加的な報告義務に対する要求の高まりと、個人とファミリーのプライバシーを維持したいという従来からの願望との間には、微妙な相互作用があります。そのため、3分の2以上(67%)の回答者が、3つ以上の規制上の問題に対して重大な懸念を抱いていることは、驚くに当たらないでしょう。しかし、64%が⾃社の税務業務について、高いパフォーマンスを発揮しているとは確信できていないと回答していますが、これはコンプライアンス維持のために作業を行う必要があることを⽰しています。

富と規制
3つ以上の規制上の問題に対して、重大な懸念を抱いている回答者の割合。

非常に多くの外的要因が作用していることや、著名なファミリーにとっては避けられないであろう税制や規制の変更を踏まえると、ほぼすべてのSFOにとって、変化する状況に適応するための最善の方法を慎重に検討し、新鮮な視点を持つことは有益でしょう。

「これらの問題はすべて、コンプライアンスを維持しようと努力するSFOに圧力を与えています」。Global EY Private Tax LeaderであるSteven Shultzは、こう述べています。「そして、税務当局がデータを収集・分析し、自動情報交換プロトコルを介してその情報を多国間で積極的に共有する時代になっています」

富と規制に対する取り組み

テクノロジーの変化の速さや⾼度化の程度を考えると、必要なテクノロジーやスキルを社内で調達することは、不可能ではないにしても、難しいことかもしれません。そのため、多くのSFOは、最も専門的なスキルを必要とする、あるいは最も急速に変化するテクノロジーと運用モデルを含むファミリーオフィス業務の一部を、提携することを検討しています。この点において、会計、税務、テクノロジーおよびリスク管理は、いずれも新たな重点領域となります。

EY Global Family Enterprise and Family Office LeaderであるHelena Robertssonは、次のように述べています。「規制環境に関する限り、より迅速に、より信頼性が高く、より高度化された、という方向性は非常に明確です。そしてもちろん、あらゆるデジタルトランスフォーメーションは、機会であるだけでなく、リスクやレピュテーションに関する検討を必要とすることも明らかです」

デジタルトランスフォーメーション
2

第2章

デジタルトランスフォーメーション

サイバーセキュリティへの対応を含めたトランスフォーメーションへの危機感の高まり

テクノロジーの状況は、SFOにとって大きな課題と機会を生み出しています。本調査の結果は、幅広い領域にわたって、デジタルトランスフォーメーションが急務であることを明確に示しています。このことは、81%の回答者が、今後2年間に3つ以上のデジタル技術やツールに対して多額の投資を行う計画があると回答していることにも表れています。

EY Asia-Pacific Family Enterprise LeaderであるDesmond Teoは、次のように述べています。「デジタルトランスフォーメーションは大きな機会をもたらす一方で、リスクも伴います。SFOと話す中で、サイバーセキュリティは、ファミリーオフィスだけでなくファミリー自身、そしてもちろん関連するビジネスを含むエコシステム全体にとって、最優先領域であることが明らかになりました」

こうした中、調査対象となったSFOのほぼ4分の3(74%)が、何らかの形でサイバーセキュリティへの攻撃やデータ侵害を経験したと回答しています。もちろん、SFOは、窃取、個人情報の盗難、プライバシーの喪失、レピュテーションへの脅威、場合によってはファミリーのセキュリティに関する物理的リスクなど、幅広い関連するリスクを懸念しています。したがって、SFOがサイバーセキュリティを重点領域として強調することが予想されます。

調査に参加したあるSFOは、次のように述べています。「私たちは、サイバーセキュリティを非常に真剣に受け止めています。第三者機関に24時間年中無休の監視を依頼し、定期的な侵入テストも実施しています。セキュリティ上の懸念があったため、クラウドへの移行を遅らせました。移行自体は実施しますが、データを完全に分離してホスティングするプロバイダーに移行する予定です」

しかし、こうした真摯な姿勢で取り組んでいるSFOは、あまり多くないようです。ほとんどのSFOは、深刻な懸念があるにもかかわらず、しっかりした対応策を講じていません。今回の調査では、72%のSFOがサイバー攻撃対応計画を策定しておらず、従業員やファミリーメンバー向けのサイバートレーニングを実施しているSFOは、3分の1にも満たないことが分かりました。

デジタルトランスフォーメーション
サイバー攻撃対応計画を策定していないSFOの割合。従業員やファミリーメンバー向けのサイバートレーニングを実施しているSFOは、3分の1未満。

「テクノロジー要件の進化とリモートワークやコラボレーションの増加により、データセキュリティの観点から、より大きなリスクが生じています」。EY Americas Family Enterprise and Family Office LeaderであるBobby Stoverはこう述べています。「新しいテクノロジーを活用することで得られるメリットは大きく、その変化の多くは避けられません。優れたファミリーは、一方で機会を捉えると同時に、他方で関連するリスクの管理をより厳密化かつ高度化しています」

デジタルトランスフォーメーションに対する取り組み

「レガシーシステムが時代遅れであったり、必要な洞察や利益を提供できていないために、多くのクライアントが、根本的な見直しやデジタルトランスフォーメーションを必要としているのを目の当たりにしています」と言うのは、Americas EY Private Family Office Advisory Services Managing DirectorであるPaul McKibbin です。

レガシーシステムが時代遅れであったり、必要な洞察や利益を提供できていないために、多くのクライアントが、根本的な見直しやデジタルトランスフォーメーションを必要としているのを目の当たりにしています。

SFOにとって、テクノロジーソリューションを選択または構築する前に、進化するファミリーのステークホルダーのニーズ、多世代・次世代の期待、戦略的優先事項、SFOの中核事業機能を慎重に定義することは非常に重要です。これらのニーズを満たすテクノロジーは、単一の既製製品から統合されたソリューションの高度なエコシステムまで、多岐にわたります。絶え間なく変化する状況下では、成功は必ずしも結果で測られるものではなく、むしろそのプロセスが重要です。運用モデルに関しても、SFOは、特殊なプラットフォームとリソースの必要性を考慮し、外部プロバイダーを活用して、特定の機能をサポートまたは運用する新しい方法を検討しています。

一部のSFOは、この機会を巧みに利用して、次世代のファミリーリーダーを積極的かつ正式に関与させ、将来のテクノロジーソリューションの定義と設計において重要な役割を担わせています。多くの場合、次世代のファミリーリーダーはデジタルトレンドに精通しており、彼らの参加によってイノベーションが促進され、将来への期待や目標との整合性を保つことができます。 

リスクとレピュテーション(評判)
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第3章

リスクとレピュテーション(評判)

構造とモデルの進化

多くのSFOが、リスク管理を果たすべき重要な機能として挙げていますが、今回の調査では、リスク管理の枠組みをより強固なものにする余地があると感じているSFOもありました。実際、リスクを特定するための体系的なプロセスが整っていると確信しているSFOは、半数未満(49%)でした。31%は、リスク管理に関する意思決定が、組織の最高レベルでは行われていないと回答しています。


また、SFOは、ファミリーメンバーに対するリスク管理プロセスの計画および実施が困難であると報告しています。ある回答者は、次のようにコメントしています。「ファミリーオフィスとしてリスク管理を行うことは、複雑になる可能性があります。私は、リスクを軽減するために何をすべきかを従業員に伝えることはできても、ファミリーメンバーに伝えることはできません」


「組織レベルの正式なリスク管理が行われていないと、ファミリーオフィスやファミリー自身にとって、予期せぬ事態や期待ギャップが生じる恐れがあります。SFOが消極的な姿勢に陥ったり、貴重な時間をその消火活動に費やすことになりかねません」。EY Americas Family Enterprise and Family Office LeaderのBobby Stoverは、こう述べます。「財務リスクやビジネス上のリスクだけでなく、ファミリーの知名度を考えると、レピュテーションリスクも起こり得ます」


しかし、堅固なリスク管理を行うことで、組織により大きな利益をもたらすことができます。これは、組織内およびステークホルダーとの信頼関係と自信を強化する、真の利点となる可能性があります。うまくいけば、こうしたプロセスを経ることによって、新たな機会やイノベーションの領域を見いだすこともできます。



堅固なリスク管理を行うことで、組織により大きな利益をもたらすことができます。これは、組織内およびステークホルダーとの信頼関係と自信を強化する、真の利点となる可能性があります。うまくいけば、こうしたプロセスを経ることによって、新たな機会やイノベーションの領域を見いだすこともできます。



リスクとレピュテーションに対する取り組み

「私たちは多くのファミリーから、新鮮かつ十分な情報に基づいた目線で彼らと直接話し合い、ガバナンスの枠組みを見直し、他ファミリーと比較した場合の機会を見い出すよう依頼を受けています」。こう語るのはErnst & Young LLPのパートナーであるDavid Bowenです。「他ファミリーから何を学ぶことができるのか、自社の最大のギャップと機会はどこにあるのかということを尋ねられます」

それらはすべて、共通に合意されたオーナーシップ戦略にかかっています。適切に設計されたリスクプログラムは、ファミリーがハイレベルのリスクとして認識しているものと、ファミリーのリスク選好度によって構成されます。重点領域の上位には、投資、ファミリーのレピュテーション、サイバー、データセキュリティ、誠実性などが挙げられますが、すべてのファミリーがこれらに同じ順位を付けたり、まったく同じ捉え方をしているわけではありません。

リスク戦略やリスクプログラムは、適切に設計(または更新)するだけでなく、強化されたリスク管理モデルを実装し、意図したとおりに運用することができて、初めてその効果が実現します。

効果を確実に実現させ、持続させるためには、SFOは、継続的にプロセスを検証し、常に適応させるためのプログラムを確立する必要があります。SFOは、⾃社のリスク選好度、リソースおよび強みに合わせた包括的なアプローチを採⽤することで、より確実性と強靭性を備えたサービスの提供を実現できます。

多くのSFOは、リスクに関する課題に対応するために、社外のパートナーと協力しています。今回の調査では、90%以上のSFOが、リスク管理に関連する業務の提携を実施中、または検討中であることが分かりました。

リスクとレピュテーション(評判)
リスク管理に関連する業務の提携を実施中、または検討中のSFOの割合。
戦略とガバナンス
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第4章

戦略とガバナンス

長期的価値への視野の広がり

SFOは通常、世代を超えてファミリーのレガシーと優先事項を支援しています。規制の変化や新しいテクノロジーによる混乱が⽣じる環境では、ファミリーオフィスの戦略的計画とガバナンス体制を持ち、定期的に検証・更新することが、これまで以上に重要になっています。ほとんどのSFOは、何らかの形で戦略的計画とガバナンスの仕組みを構築していると回答しています。とはいえ、⾮常に多くのSFOにとって、それらは⽐較的緩やかなものであり、しばしば期待とのずれや、実⾏またはエスカレーションの際に溝が⽣じる可能性があります。 

戦略とガバナンスに対する取り組み

大手SFOの動向として、より厳密な戦略的計画とガバナンス体制づくりへの意欲と取り組みが高まっています。この傾向は、パンデミックによってさらに強まりました。ファミリーとその資産が複雑かつ多様であればあるほど、ガバナンスはより重要になります。正式なガバナンス構造は、SFOが明確な境界を設定し、要求を調整して優先順位を付け、ファミリーやビジネスのステークホルダー、リスク領域、戦略的焦点領域における役割と責任を区別することを支援します。


多くのファミリーとそのSFOの間で注目されているトピックは、従来の業績指標をはるかに超えた価値と目的を定義することへの意欲の高まりです。特に顕著なのはESG分野や、人的資本、社会的価値・コミュニティ的価値、顧客やステークホルダーへの影響など、エコシステムにおける他の形態の価値です。 



多くのファミリーとそのSFOの間で注目されているトピックは、従来の業績指標をはるかに超えた価値と目的を定義することへの意欲の高まりです。特に顕著なのはESG分野や、人的資本、社会的価値・コミュニティ的価値、顧客やステークホルダーへの影響など、そのエコシステムにおける他の形態の価値です。



「この変化には、多くの理由があります」。EY EMEIA Family Enterprise Leader兼EY Global NextGen LeaderのLauri Oinaalaは、こう説明します。「ファミリーオフィスは私たちに、消費者や社会全体からの期待の高まり、そして重要なこととして、次世代のファミリーメンバーの影響力の大きさについて語ってくれました。これらの検討事項には、従来の財務業績指標も含まれますが、それだけにとどまらず拡大しています。多くのファミリーが、この課題を戦略的計画とガバナンスの構成に正式に組み込む方法を新たに導入しています」

大手SFOは、すでにさまざまな行動を起こしています。本調査によると、44%の回答者が、ファミリーの倫理観や価値観に合致しない投資を排除する予定です。これは、ESGに関連している場合もあれば、ファミリーの他の価値観を反映している場合もあります。このようなプロトコルは、ファミリーのレピュテーションにも影響を与えることが多くなってきています。

しかし本調査では、潜在的な実行力のギャップも明らかになりました。83%のSFOが非財務的パフォーマンスの測定と最適化が重要であると回答していますが、現状では、それを相当程度まで行っているSFOは、30%にすぎません。パフォーマンスの測定に関しては、世界のあらゆる地域において、SFOが最も広く採用している指標は、価値よりもコストであることが明らかになりました。ファミリーの目標や展望が拡大するにつれ、SFOは、特にESGに関連する広範な規制を考慮した次世代のパフォーマンス基準を持つこと、そしてその設計・展開を主導することが重要になるでしょう。

新しい測定基準を採り入れるためにパフォーマンスを革新・進化させることには、具体的な利益があることが証明されています。本調査によると、非財務指標を多く盛り込んでいるSFOの58%が、期待以上の業績を上げていることが明らかになっています。

非財務指標
非財務指標を多く盛り込んでいるSFOのうち、期待以上の業績を上げている割合。

EY Global Family Enterprise and Family Office LeaderであるHelena Robertssonは、次のように述べています。「ファミリーオフィスは、ESGやその他の新しい指標を初めて導入するファミリーもいるという点で、やりがいのある立場にあります。SFOの幹部にとっては、社長と共に新しいパフォーマンス基準に影響を与えたり積極的に形成したりする他、重要なこととして、SFOの業務・インフラ・戦略・ガバナンスが、高まる期待に応えるために適切なリソースを確保する、一世代に一度のまたとない機会です」

結論

世界中のSFOにとって、やりがいのある、挑戦に満ちた時代が訪れています。世界中の国・地域がさまざまな社会的・地政学的課題に対処しようとする中で、税務・規制・経済政策、そして混乱が加速しています。さらに、世界中のファミリーとそのステークホルダーに大きな機会と新たなリスクを生み出す、新興テクノロジーによる驚異的なイノベーションが行われています。その一方で、優れたSFOは、その目的、すなわち世代を超えてファミリーのレガシーを成長・向上させ、保護するという責務に対し、揺るぎない誇りと自信を持ち続けています。

今回の調査で明らかになった4つの主要テーマは、EYのチームが世界中の大手ファミリーオフィスと日々やりとりしている内容と非常によく整合していました。SFOは、彼らの富とそれに関連する規制や報告要件に関わる新たな圧力を乗り越えようとしています。その一方で、新しいテクノロジーを活用し、データを積極的に活用することで、これまでにない洞察と英知を提供するやりがいのある機会も見いだしています。

Global EY Private LeaderであるRyan Burkeは、次のように述べています。「ファミリーオフィスが現在保有する資本の額と、今日のマクロ経済やテクノロジーのリスクと機会を前にして、多くのファミリーオフィスは、それらを効果的に両立させることに苦労しています。その結果、多くのSFOが、特にテクノロジー、会計、税務、リスクなどの主要機能のサポートを強化するために、新しい運用モデルやエコシステムの関係を検討しています」

SFOは、EYが連携する組織の中でも最もダイナミックかつ複雑で、多方面からの非常に大きな速い変化に直面しています。その要因は、社内で構築・維持するには心もとない、拡張したテクノロジーとリソースへのアクセスの必要性です。この変化の激しい環境下で、SFOの幹部にとって、戦略的計画・ガバナンス・リスク管理の構築に関連する外部の視点を採り入れ、見直すことがかつてないほど重要になっています。これらのトピックは長年にわたって慎重に検討されてきたので、「何が新しいのか」という疑問を感じるかもしれません。今回の調査で明らかになったのは、SFOがこれらのシステムを一新し、適応させ、専門化し、明確かつ正式にファミリーの目的や優先順位と整合させることに対する新たな期待です。SFOは、ファミリーオフィスのこれらの重要な基盤を管理および維持するために、かつてないほど次世代の仕組みの確立と次世代の人材を求めています。


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    サマリー

    規制、テクノロジー、リスクおよびガバナンスの変化の早さに対応するため、シングルファミリーオフィスには、その義務とファミリーのステークホルダーを支援する戦略的重点を維持する必要性とのバランスを取るための敏しょう性が求められています。