ファミリーエンタープライズはサステナビリティをどのように取り入れているのか

ファミリーエンタープライズはサステナビリティをどのように取り入れているのか


ファミリーエンタープライズは世界的なサステナビリティの取り組みに貢献しています。


要点

  • 世界の大手ファミリーエンタープライズの75%が、自社のサステナビリティの進捗を測定し、報告している。
  • サントリー社は200年先の穀物、樹木、水の供給を見据えており、またボッシュ社はサプライヤーが持続可能な方法を確立するよう奨励している。
  • 優れたファミリーエンタープライズは事業運営にサステナビリティを取り入れ、自社のレピュテーション(評判)やレガシーをサステナビリティの取り組みと結び付けている。

ファミリーエンタープライズは世界の経済や雇用に極めて大きく貢献しています。「2021年EY・ザンクトガレン大学によるファミリー・ビジネス・インデックス1によれば、大手ファミリーエンタープライズ上位500社の収益は総額7兆2,800億米ドル、従業員数は2,410万人に上ります。500社を合計すると、収益面での経済的貢献度の高さが米国と中国に次いで世界で3番目に高くなります1。こうした数十億ドル規模の企業は、毎年調達先としている、自社よりも規模が小さい数千の企業に行動変容を促す影響力も持っています。世界的なサステナビリティの取り組みを成功させるには、ファミリーエンタープライズの動向が大きなカギを握っています。

ファミリーエンタープライズは長期的な視点で事業を捉え、短期的な利益よりも自社事業の社会的な位置づけや評判、伝統、レガシーを守ることを重視することで知られています。そのため、サステナビリティへの取り組みはその行動原理に組み込まれていると言えます2。同族経営や同族出資の企業の中には、持続可能な考え方に基づく事業や、持続可能な運営体制への転換をすでに体現しているところも少なくありません。EYはこうした認識について最新の調査を行い、世界中の大手ファミリーエンタープライズ上位500社のサステナビリティへの取り組みを分析しました。

EY Global Vice Chair, SustainabilityのSteve Varleyは、「今日約600の環境・社会・ガバナンス(ESG)フレームワークがあり、略称で呼ばれるようなさまざまなアプローチが混乱を引き起こしています。そのような状況にもかかわらず、企業は率先してESGへの取り組みを独自に進めています」と述べています。

2021年グローバル・ファミリー・ビジネス・インデックス
調査対象500社のうち、サステナビリティの進捗の報告を始めている企業の割合

2021年ファミリー・ビジネス・インデックスの調査対象の500社のうち、78%がサステナビリティの進捗の報告をすでに始めています。そのうち約59%は、GRI(Global Reporting Initiative)、SBTi(Science Based Targets initiative)、WEF SCM(World Economic Forum Stakeholder Capitalism Metrics)などの確立された報告基準を使用しています。また19%は、独自のサステナビリティレポートを対外的に発表しています。複数の報告基準が入り乱れる中で、ファミリーエンタープライズはサステナビリティの報告を行っている状況です。

今日約600の環境・社会・ガバナンス(ESG)フレームワークがあり、略称で呼ばれるようなさまざまなアプローチが混乱を引き起こしています。そのような状況にもかかわらず、企業は率先してESGへの取り組みを独自に進めています。

例えば、日本の飲料業界のプライベートファミリーエンタープライズであるサントリー社は、GRI、SBTi、WEF SCMの基準にすでに自主的に対応しています。122年の歴史を持つ同社は、水、CO2、原料、容器・包装、健康、人権、生活文化というサステナビリティに関する7つのテーマにおいて、力強い取り組みを行っています。同社の製品における水の重要性を考えると、水資源の保全は最優先の課題です。サントリー社は、消費する水の2倍の量を供給できる森林開発プロジェクトを日本で実施しています3。「天然水の森」4プロジェクトが日本で成功したことで、このコンセプトは現在、米国などサントリー社の他の拠点でも導入されています。
 

Beam Suntory(ビームサントリー)社のGlobal Environmental Stewardship担当DirectorであるRick Price氏は、「私たちは1年や2年先ではなく100年や200年先を見据えて事業を行っています。目指しているのは、穀物、樹木、水の持続可能な供給を確かなものにすることです」と話しています。
 

同社の温室効果ガス削減への全体的な取り組みは、地球温暖化を1.5℃に抑えるという目標に合致しているとして、2021年9月にSBTiによって認定されました5。米国の子会社であるビームサントリー社は、2021年7月に、サステナビリティに関する役職を新たに2つ設けました。Vice President, Global Environmental Sustainabilityと、Global Vice President, Consumer & Society Sustainabilityです。環境、顧客、社会に関わるこうした各種のアプローチは、EYが十分納得できると考えるサステナビリティの定義に非常に近いものです。

私たちは1年や2年先ではなく100年や200年先を見据えて事業を行っています。目指しているのは、穀物、樹木、水の持続可能な供給を確かなものにすることです。

EY Future Consumer Index(2021年7月)6では、世界のさまざまな消費者にとって、サステナビリティが異なる意味を持つことが分かりました。ある人にとってはサステナビリティとは気候のことを意味しますが、他の人にとっては健康やウェルビーイング、あるいは水資源やクリーンエネルギーを意味することもあります。

他のさまざまな業界のプライベートファミリーエンタープライズでも、サステナビリティに関する情報開示や行動が進んでいます。125年の歴史を持ち、先進的な製造およびモビリティ事業を行う大企業のボッシュ社は、ドイツを本拠地として世界400カ所に拠点を持っていますが、現在、GRI報告基準に準拠しています。同社は2020年第1四半期からカーボンニュートラルを達成しています7。また最近では、サプライチェーン全体でのサステナビリティへの取り組みの一環として、ボッシュ・サプライヤー・アワードの重要なカテゴリーにサステナビリティを加えました。サプライヤーがこの賞を受けるには、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)で上位の評価を得る必要があります。また、ボッシュ社は自主的にSBTi目標を掲げ、再生可能エネルギーの利用を2018年の14%から2030年には100%にすることや、地球温暖化を1.5℃に抑えるために温室効果ガス(GHG)の排出量を削減することを目指しています。

こうしたファミリーエンタープライズをサステナビリティへと向かわせるものは何なのでしょうか。

1. ファミリーの評判とレガシー

ファミリーエンタープライズは、特に非上場企業の場合、サステナビリティへの取り組みを求める規制当局の圧力はあまり強くありません。しかし、サステナビリティが評判を左右する大きな要素になる中で、自社の評判とレガシーを守るために率先して取り組んでいます。

2. 同種の企業からの刺激

ファミリエンタープライズは、地域、業界、世代を超えて、長期的な視点でサステナビリティを取り入れています。他のファミリーはそこから刺激を受け、サステナビリティという枠組みの採用に目を向けるようになります。

3. 「意図のギャップ」の縮小

以前は、顧客はサステナビリティに関心を持ちながらも、持続可能な製品やサービスに多くのお金を支払いたいとは考えていませんでした。これを「意図のギャップ」と呼んでいます8。徐々にではありますが、持続可能な製品やサービスに多くのお金を支払うつもりがあるという顧客の割合は増えてきています。EY Future Consumer Index(2021年7月)によれば、「世界の消費者の43%は、製品やサービスのコストが高くなっても、社会に貢献している企業から購入したいと考えています。また64%が、社会の利益につながるのなら行動を変えてもよいと答えています」

本記事の執筆にご協力いただいたAshish Gambhir氏、Dom Kelleher氏、Marko Nikolic氏、Joanne Warrin氏に感謝の意を表します。



サマリー

世界の大手ファミリーエンタープライズの78%がサステナビリティに注目していれば、他の企業も目を向け、その理由について考えるようになります。サステナビリティが自社の事業にもたらす価値を問いかけるうちに、自身で調査をしたり、より優れた方法を取り入れたりするようになるかもしれません。ファミリーエンタープライズがサステナビリティの取り組み全体に与える影響は広範囲であり、決して侮れません。


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