情報センサー2024年1月

パーシャルスピンオフ税制に対応して改正される自己株式等会計適用指針案等の解説

2024年1月17日
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2024年1月 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 宮﨑 徹

品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、主に製造業の監査業務に従事。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第17版)』(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配(<図1>参照)のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が新たに設けられました。

これを受けて、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)において、事業を分離・独立させる手段であるスピンオフのうち、スピンオフ実施会社に一部の持分を残すスピンオフの会計処理の検討がなされました。そして、検討の結果、2023年10月6日にASBJから、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下、現行の当該適用指針を「自己株式等会計適用指針」)等を改正する公開草案が公表されました。また、併せて、同日に日本公認会計士協会(以下、JICPA)から、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」を改正する公開草案が公表されました(<表1>参照)。

本稿では、これらの公開草案について解説します。なお、パーシャルスピンオフ税制の詳細は「令和5年度税制改正により創設されたスピンオフ税制に係る特例措置(パーシャルスピンオフ税制)の概要」をご参照ください。また、文中意見に係る部分は筆者の私見である旨、あらかじめ申し添えます。

図1 完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配

図1 完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配

出所:経済産業省 産業組織課「『スピンオフ』の活用に関する手引」、www.meti.go.jp/press/2023/06/20230626003/20230626003-a.pdf (2023年11月9日アクセス)より作成

表1 ASBJ及びJICPAから公表された公開草案

公表団体 公開草案番号 公開草案名 略称
ASBJ 企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案) 「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」 自己株式等会計適用指針案
企業会計基準適用指針公開草案第81号(企業会計基準適用指針第28号の改正案) 「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」 税効果適用指針案
JICPA 会計制度委員会報告第7号の改正案 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の公開草案 資本連結実務指針案

出所:筆者作成

Ⅱ 基準開発の範囲

基準開発の範囲としては、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり早期に基準開発を完了すべきことから、まずは発生する可能性が高いと考えられる、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合に基準開発の範囲を限定して、<表2>に記載の取引に係る会計処理を対象とすることが提案されています(自己株式等会計適用指針案第28-4項)。

表2 基準開発の範囲

  配当後において子会社株式に該当するか
子会社株式に該当しない 引き続き子会社株式に該当する
配当対象となる子会社株式が完全子会社株式であるか 完全子会社株式 対象 対象外
上記以外の子会社株式 対象外 対象外

※ いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制適格となるかどうかにはかかわらない。また、支配を喪失して関連会社になった場合も含まれる。

出所:自己株式等会計適用指針案を基に筆者作成

なお、今後の子会社株式の配当に関する取引の進展や会計実務の状況により、基準開発の範囲を拡大するかどうかはASBJが判断することが提案されています。

Ⅲ 改正内容

1. 現物配当実施会社の個別財務諸表の会計処理

現行の自己株式等会計適用指針では、現物配当を行う場合、原則として配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として計上し、配当財産の時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することとされています。ただし、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合、適正な帳簿価額をもって会計処理することとされています(自己株式等会計適用指針第10項)。

自己株式等会計適用指針案では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合についても、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合と同様の取扱いを行うことが適切と考えられるとされています(自己株式等会計適用指針案第38-2項)。このため、現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する取扱いが提案されています(自己株式等会計適用指針案第10項(2-2))。


2. 現物配当実施会社の連結財務諸表の会計処理

保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合について、以下のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行うことが提案されています。

(1) 配当前の投資の修正額(付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金を除く。)とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額

連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する(資本連結実務指針案第46-3項)。

(2) 個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額

連結財務諸表上、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額については、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正する。また、子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額を修正する(資本連結実務指針案第46-3項)。

(3) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社になった場合)

連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額に対して、投資の修正額のうち配当後持分額を加減することで、持分法による投資評価額に修正する(資本連結実務指針案第46-3項また書き)。

(4) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合)

連結貸借対照表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するため、完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残る場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する(資本連結実務指針案第46-4項また書き)。


3. 現物配当実施会社の税効果会計

上記のとおり、自己株式等会計適用指針案及び資本連結実務指針案では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合について、現物配当実施会社の個別財務諸表及び連結財務諸表のいずれにおいても、当該現物配当に係る損益を計上しないことが提案されています。

このため、現行の企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)第4項の定義に従って検討した場合、現物配当実施会社の連結財務諸表上、連結財務諸表固有の一時差異は生じているものの、当該一時差異が解消する時に連結財務諸表における利益が減額又は増額されないことから、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられます。しかしながら、当該一時差異についても税効果適用指針が定める連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に係る定めを適用するのが適切と考えられるとされています。

したがって、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加することによって、税効果会計の適用対象とすることが提案されています(税効果適用指針案第4項(5))。

Ⅳ 適用時期及び経過措置

1. 適用時期

いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限措置であることを踏まえて、できるだけ早く適用可能な状態となるように、適用時期としては、公表日以後ただちに適用することが提案されています(自己株式等会計適用指針案第23-3項、税効果適用指針案第65-3項)。なお、資本連結実務指針案において適用時期は明記されていませんが、自己株式等会計適用指針案等における適用日(公表日以後ただちに適用)と同日に適用されるものと考えられます(資本連結実務指針案第52-14項参照)。


2. 経過措置

保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなる場合に該当する取引を行う企業は、会計上の取扱いを十分に検討した上でスキームを構築していると考えられるため、スキーム実行時に想定していなかった会計処理を過去に遡って求めることはしない、すなわち、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案第10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことが提案されています(自己株式等会計適用指針案第23-3項なお書き、資本連結実務指針案第52-14項なお書き)。

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