情報センサー

その他資本剰余金の配当に係る法務・会計・税務

情報センサー2017年5月号 押さえておきたい会計・税務・法律

公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ  はじめに

資本金または資本準備金を減少した結果、その他資本剰余金が計上されます。この、その他資本剰余金は、利益剰余金の額がマイナスであるときのそのマイナスに充当(欠損てん補)することもできますが、剰余金の配当の財源にもなります。会社法上の剰余金の分配規制の下では、利益剰余金と同様に剰余金の分配可能額の算定のベースとなる剰余金として、利益剰余金と区別されるものではありません。その他資本剰余金の配当については、会社法の取扱い、会計処理および税務処理を横断的に理解・整理する必要があります。また、平成27年度税制改正による法人住民税均等割および外形標準課税の資本割に係る改正との関係についても、十分な整理が求められます。
本稿では、最新の法令に基づいて、その他資本剰余金の配当に係る法務・会計および税務について解説します。なお、本稿の意見に渡る部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。

Ⅱ  その他資本剰余金を原資とした剰余金の配当の法律

会社法上、資本金の減少と、株主に対する払戻しは区別されています。資本金の減少は会社法447条に基づき、資本金を減少しその他資本剰余金を計上する行為です。仮に株主に対して資本の払戻しを行う場合は、そこで発生したその他資本剰余金を原資として会社法454条の剰余金の配当の決議をとって払い戻すことになります。

資本金の減少によって発生したその他資本剰余金を原資として剰余金の配当を行う場合

資本金の減少+余剰金の配当

資本金の減少に係る決議は原則として株主総会の特別決議事項であり、剰余金の配当に係る決議は原則として株主総会の普通決議事項です。二つの決議を同じ株主総会において、「第1号議案 資本金の減少の件」および「第2号議案 剰余金の配当の件」と付議して行うことも可能です。その場合は、それぞれについて効力発生日が決議事項に含まれますが、効力発生日を同じ日と定めて決議することにより、資本金の減少の効力発生日と同じ日を効力発生日として剰余金の配当を行うことが可能です。
もちろん、資本金の減少によって発生したその他資本剰余金をそのまま計上しておくことも可能です。また、利益剰余金の額がマイナスであるときのそのマイナスに充当することもできますが、その場合は会社法452条の剰余金の処分に係る株主総会決議をとって行うことになります。会社法452条の剰余金の処分は、剰余金の項目間の計数の変更を想定しているものであり、別途積立金の積立て・取崩のように、利益剰余金の中での振替だけでなく、その他資本剰余金からその他利益剰余金のマイナスへの充当(欠損てん補)も、この規定が根拠になります。その場合も、同じ株主総会に「第1号議案 資本金の減少の件」および「第2号議案 剰余金の処分の件」と付議して行うことも可能です。その場合は、それぞれについて効力発生日が決議事項に含まれますが、効力発生日を同じ日と定めて決議することにより、資本金の減少の効力発生日に発生したその他資本剰余金をそのまま欠損てん補に充てることが可能です。

資本金の減少によって発生したその他資本剰余金により欠損てん補を行う場合

資本金の減少+余剰金の処分

Ⅲ その他資本剰余金を原資とした剰余金の配当の会計処理

1. その他剰余金の配当を行う法人の会計処理

会計上も、会社法の取扱いに合わせて、資本金の減少と剰余金の配当を区別して取り扱うことが考えられます。
資本金の減少については、次のとおり資本金を減少し、その他資本剰余金が計上される認識をします。

資本金  XXX / その他資本剰余金  XXX

その他資本剰余金を原資として剰余金の配当を行う場合は、会計上、その他資本剰余金の減少を認識します。Ⅳ 1.で説明しますとおり、税務上はみなし配当が生じる場合があり、その場合はみなし配当に係る源泉所得税等の徴収が必要になりますが、その点は捨象しています。

その他資本剰余金  XXX / 現預金  XXX

剰余金の配当の原資がその他利益剰余金であるときは、借方は「その他利益剰余金(繰越利益剰余金)」になります。

2. その他資本剰余金を原資とした剰余金の配当を受ける法人の処理

株主が資本剰余金の区分におけるその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合、配当の対象となる有価証券が売買目的有価証券である場合を除き、原則として配当受領額を配当の対象である有価証券の帳簿価額から減額します(企業会計基準適用指針第3号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」(以下、適用指針)3項)。

現預金   XXX / 投資有価証券   XXX

配当の対象となる有価証券が売買目的有価証券である場合は、配当受領額を受取配当金(売買目的有価証券運用損益)として計上します(適用指針4項)。

現預金   XXX  /  受取配当金  XXX

前記の売買目的有価証券に係る定め以外の場合でも、以下の例のように配当受領額を収益として計上することが明らかに合理的である場合は、受取配当金に計上できるとされています(適用指針5項)。

  1. 配当の対象となる時価のある有価証券を時価まで減損処理した期における配当
  2. 投資先企業を結合当事企業とした企業再編が行われた場合において、結合後企業からの配当に相当する留保利益が当該企業再編直前に投資先企業において存在し、当該留保利益を原資とするものと認められる配当(ただし、配当を受領(じゅりょう)した株主が、当該企業再編に関して投資先企業の株式の交換損益を認識していない場合に限る)
  3. 配当の対象となる有価証券が優先株式であって、払込額による償還が約定されており、一定の時期に償還されることが確実に見込まれる場合の当該優先株式に係る配当

配当金の認識は、「金融商品会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号)94項と同様です(適用指針6項)。
なお、配当金を計上する際に、その他利益剰余金の処分によるものか、その他資本剰余金の処分によるものかが不明な場合は、受取配当金に計上できます。その後、その他資本剰余金の処分によるものであることが判明した場合には、その金額に重要性が乏しい場合を除き、その時点で修正する会計処理を行います(適用指針6項なお書き)。

Ⅳ その他資本剰余金を原資とした剰余金の配当の税務

1. 法人税の取扱い

(1) その他剰余金の配当を行う法人の会計処理

その他資本剰余金を原資とする剰余金の配当をした場合は、税務上、自己株式の取得と同様に「資本の払戻し」として取り扱われます。従って、みなし配当事由となります。
みなし配当事由を定めた法人税法24条1項では、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る))」と規定されており、資本剰余金の減少に伴う剰余金の配当はこの規定の適用を受けることになります。
自己株式の取得の場合と同様に、①資本金等の額の減少と、②交付金銭の額(払戻額)を比較し、②が①の額を上回る場合はその超過額について利益積立金額の減少として処理します。
資本金等の額の減少額と利益積立金額の減少額を、<表1>のように区分計算します(法令8条1項16号、9条1項11号)。

表1 資本金等の額の減少額

<表1>中の一つ目の算式の分数のことを「払戻割合」といいます。この払戻割合の分子の「資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額」とは、会計上のその他資本剰余金の減少額を意味しています。
二つ目の算式がプラスとなる場合は、株主に対する配当とみなされること(みなし配当)になりますが、みなし配当については所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要になります。
株主ごとに源泉徴収しますので、支払通知書を作成します。株主が複数である場合は、株式数に基づいて株主ごとの額を按分(あんぶん)計算します。

(2) その他資本剰余金を原資とした剰余金の配当を受ける法人の処理

その他資本剰余金を原資とした剰余金の配当を受ける法人においては、資本金等の額の減少部分に対応する金額が株式の譲渡対価の額とされ、利益積立金額の減少部分に対応する金額(みなし配当の額)が受取配当金とされます。
ただし、株主側の税務処理は、支払通知書に基づいて、次の内容に従い行うことができます。

受取配当の額

株主においては、<図1>のように、株式の譲渡損が生じる場合と株式の譲渡益が生じる場合の2通りとなります。

図1 株主側の税務処理

2. 地方税の取扱い

平成27年度税制改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額が、資本金に資本準備金を加えた額を下回る場合、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額を資本金に資本準備金を加えた額とする改正が行われました(地法52条4項)。

法人住民税等割の税率区分の税率区分の基準である資本金等の額

資本金または資本準備金を減少し、その結果発生したその他資本剰余金を原資として剰余金の配当をした場合、この取扱いとの関係がどのようになるかを整理しておく必要があります。
資本金を減少し、その他資本剰余金が発生する点を捉えれば、左辺は変わらず右辺のみが減少することになります。次に、その他資本剰余金を原資として剰余金の配当をする点を捉えれば、左辺のみが減少し右辺は変わりません。左辺の減少額は右辺の減少額を上回ることは、先の計算式の内容からあり得ません。

左辺の減少額 ≦ 右辺の減少額

従って、トータルでみると、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、その他資本剰余金を原資とする剰余金の配当による左辺の減少額だけ減少することになります。その結果、均等割が下がることもあり得ます。

(注)文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
   法令:法人税法施行令
   地法:地方税法

設例 その他資本余剰金を原資とした剰余金の配当

※1払戻割合は、配当をした法人から株主に対する通知事項とされている(法令119条の9第2項)。

※2法人住民税均等割の税率区分の基準となる額が1,000万円以下になるため、1,000万円超の場合に比べて均等割が減少する。

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