持続的経営と税(11)M&A、税金コストの考慮を

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2023年1月24日 PDF
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寄稿記事

掲載誌:2023年1月24日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 金谷 雅子
ゲスト編集者 金谷 雅子

EY Japan トランザクション・タックス・アドバイザリーリーダー EY税理士法人 パートナー

クライアントと伴走し、半歩先の視点からのアドバイスを提供する税務アドバイザーを心がけている。

税務は、M&A(合併・買収)のうえでも重要なポイントのひとつです。買収後に企業グループ全体の税金コストが変わってくる可能性があり、買収先企業の価値、すなわち買収金額に影響を与えます。M&Aで競合企業に競り勝つためにも、検討の初期段階から考慮しておく必要があります。

2021年のM&Aの取引総額は、世界で5兆ドルと過去最高を記録しました。デジタル化によるビジネスの変化、ESG(環境・社会・企業統治)、新型コロナウイルス感染症や地政学リスクを受けたサプライチェーン(供給網)見直しなど、経営課題への対応手段として、M&Aへの意欲は旺盛です。

税務はM&Aで考慮すべきポイントのひとつです。M&Aの検討段階では買収先企業のビジネス自体に目が行きがちですが、買収後に企業グループ全体に生じる税金コストの変化という形としてはね返ります。買収先企業の価値評価、すなわち買収金額は、その変化を見越して算定しておく必要があります。

買収後に税金コストという資金流出をセーブでき、キャッシュフロー(現金収支)が増加する見込みがあれば企業価値評価額を高くできます。つまり税金コストを削減できるという税務プランニングに基づいた企業価値の評価や入札価格の設定がM&Aを成立させる一因になることもあります。

例えば、「繰越欠損金」です。過去に計上した税務上の赤字を次年度以降に繰り越すことで将来の法人税負担を軽減できる制度です。

買収先企業に間もなく期限切れになる繰越欠損金があっても、買収後すぐに業績を上向かせ課税所得が生じる見込みがなければ利用はできません。しかし、買収先企業がもつ無形資産を買収後に日本に集約するなど、無形資産の譲渡を計画する場合には繰越欠損金を利用して無形資産の譲渡益課税を軽減できる可能性が出てきます。

さらに買収先企業の無形資産を日本企業側で減価償却することができれば、日本の課税所得や法人税が減ることになり、実質的に繰越欠損金を利用するのと同等のメリットを得ることができます。繰越欠損金に価値をつけて買収金額を増額できる可能性が生まれることになります。

買収先企業が低税率な国にある場合、日本のタックスヘイブン税制が適用され、買収先企業の所得が日本で課税される場合があります。このような場合には、現地の低い税率ではなく日本の親会社に課される法人税率(約30%)で見込んでおく必要があり、買収先企業の価値評価は下がります。

買収先企業がタックスヘイブン税制の適用対象にならずにすむよう税務プランニングができれば、現状の低い法人税率のまま税金コストや買収金額を算出できます。海外の買い手候補との競争に勝つためにはタックスヘイブン税制のプランニングは欠かせません。

買収金額の提示は、M&Aの初期段階から求められます。税務プランニングも初期段階から始めておく必要があるでしょう。

 

(出典:2023年1月24日 日経産業新聞)

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