英国のESG関連情報開示の動向

情報センサー2023年7月号 JBS

英国のESG関連情報開示の動向


関連トピック

英国ではESGに関連した開示要求として、主に6つの事項があります。その設定の背景や要件について、概括的な理解を得るとともに、どのような対応が必要となるのか検討の第一歩を提供します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 ロンドン駐在員 公認会計士 児島 惇彦

2010年入社後、総合電機・自動車企業の監査に従事。総合商社へ財務アドバイザリーを提供。22年からEYロンドン事務所に赴任し、会計監査を中心に、日系企業の現地サポートを実施している。



要点

  • 英国におけるESG関連情報開示の直近の動向を確認。
  • 直近の動向に対してどのような対応が求められるか。


Ⅰ はじめに

昨今、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)に関連した情報開示への期待の高まり、規制の強化、枠組みの設定が世界中で広まっています。英国でもさまざまな動きが見られ、英国でビジネスを展開する上で、ESG関連基準の動向把握は重要と考えられます。

 

Ⅱ 英国におけるESG関連規制の概要

英国は、政府がTCFD提言に対しいち早く賛同するとともに基準の設定、タスクフォースの設立が行われた国の1つとなります。ここで紹介する次の6つの略称は、<表1>の通り、開示基準、タスクフォース、設立主体を意味しますが、いずれも1つの開示要求事項としてご参照ください。また、当該6つの開示要求事項についての比較表は<表2>をご参照ください。


表1 英国企業に関連する気候関連の報告および開示要求事項 名称一覧

表2 英国企業に関連する気候関連の報告および開示要求事項

1. SECRの概要

エネルギー消費量および二酸化炭素排出量に関する情報開示(SECR)のフレームワークは2013年に施行され、上場企業に対して、Strategic Report(戦略報告書)での年間排出量の報告が求められました。18年の改正では大規模非上場企業および一定基準を満たすLLPs(有限責任パートナーシップ)に対し※1、英国でのエネルギー使用と関連する年間温室効果ガス排出量、エネルギー効率化活動等について、アニュアルレポートでの報告を義務付けました。


2. TCFDの概要

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークはガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つのテーマ領域をカバーし、17年に公表されました。プレミアム上場企業は21年4月6日以降の会計期間、一定基準を満たすその他の企業は22年4月6日以降の会計期間から適用されます※2


3. TPTの概要

英国金融行為規制機構(FCA)は22年1月に上場企業およびアセットマネージャー等を対象にTCFDに沿った開示の一環として、その移行計画を開示するための規則を導入しました。英国の財務省(HM Treasury)は22年4月に移行計画タスクフォース(TPT)を立ち上げ、企業に対して「ゴールドスタンダード」な移行計画のガイダンスを提供しました。今後2年間でFCAはTPTの成果を利用し、上場企業と金融会社の将来の開示規則を強化する予定です。


4. SDRの概要

サステナビリティ開示要件(SDR)は21年7月に発表され、初めて既存のサステナビリティ関連の開示要件を1つのフレームワークに統合する予定となっています。気候変動だけではなく、他のサステナビリティ関連の財務情報をカバーし、英国グリーンタクソノミー※3に関連する要件も統合予定です。ISSB基準がSDRフレームワークの主要な構成要素となります。22年10月に公表されたSDRの提案書には顧客が投資商品を容易に理解できるように投資を区分する新たなサステナビリティ投資ラベリング制度の概念も含まれています。背景としては透明性のある情報を開示することでグリーンウォッシュ※4を防ぐことが目的となります。現状、FCA規制業種およびサステナビリティ関連金融商品を扱う機関が対象とされています。


5. ISSBの概要

国際的に非財務情報開示基準が乱立する中、IFRS財団によって、21年11月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が設立されました。ISSBを各国が採用することで、サステナビリティ報告の開示要請の統一が図られることが期待されます。今後、ISSBは、サステナビリティに関連するリスクと機会が企業価値に与える影響の評価が可能となるように、広範な開示基準を開発する予定です。ISSB基準は、グローバルベースで軸となることを目的としており、各法域で追加の要件を加えることで、各法域の利害関係者のニーズに応えることが期待されています。


6. TNFDの概要

21年6月に、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が立ち上がりました。TNFDは財務およびビジネス上の意思決定において自然を考慮に入れる必要性の認知度が高まったことを受け、自然資本および生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する目的で設立された国際的な組織です。23年9月に予定されているフレームワークのリリースを前にした最終ドラフトが23年3月に発表されています。

 

Ⅲ 英国での企業運営として要求される事項

前述の英国における6つの開示要求事項では、それぞれルールが異なるため、正確な理解とその対応が求められます。日系企業の親会社においては、日本で検討済みの情報を共有することも一案となります。ただし、前述のSDRにおける投資ラベリング制度やマテリアリティの違い等、現在日本では導入されていない概念も存在することから、そのような項目については別途検討が必要になる点について留意が必要です。

全体的な動きとしては乱立する開示要求事項の統一に舵取りがされているように見受けられますが、すでに設定されたルールが多岐にわたっていることから、その統一は容易ではないことも想定されます。当面は各開示の要求事項を正確に把握し、適用の要否を理解し、対応することが求められます。しかし、一在英国企業のみで検討を行うことは難しい場合もあり、英国に限らず、一企業グループとしてどのように対応すべきかを検討することも一案です。

 

Ⅳ おわりに

ESGに関連した法令遵(じゅん)守は、企業にとって1つの懸念材料となるケースが増加しています。前述した開示要求事項はサステナビリティに関連した開示を求めていますが、その目的は各企業に気候変動の緩和等の社会的なサステナビリティ課題への対応を促すことであり、開示にとどまらず、企業グループとして戦略を持って対応を検討する分野と考えられます。本稿が日系企業の企業活動の一助となれば幸いです。

 

※1 英国で法人化され、次の基準のうち、2つ以上を満たす企業が対象となる。

  • 売上高3,600万ポンド以上
  • 総資産1,800万ポンド以上
  • 従業員数250人以上

※2 次の基準を満たす企業が対象となる。詳細は<表2>を参照。

  • スタンダード上場企業
  • 非財務情報報告書の作成が義務付けられている英国企業
  • 従業員500名以上のAIM上場企業、LLPs
  • 前述以外の英国の登録企業で、従業員が500名以上、売上高が5億ポンド以上の企業

※3 環境に重大な悪影響を与えない経済活動や投資を分類する枠組み

※4 環境に配慮しているかのように取り繕うものの、実態が伴っていない行為


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サマリー

英国ではESGに関連した開示要求として、主に6つの事項があります。その設定の背景や要件について、概括的な理解を得るとともに、どのような対応が必要となるのか検討の第一歩を提供します。


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